■モスクワからベルリンまで,東部戦線の一部始終を収録
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第二次世界大戦中の東部戦線を描いた本作は,スターリングラード攻防戦,ツィタデレ作戦,バクラチオン作戦,春の目覚め作戦,ベルリンの戦いといった激戦を余すことなく再現している。迫力ある戦車部隊同士の戦いを味わいながらベルリンを目指せ! |
第二次世界大戦を描いたリアルタイムストラテジーゲーム(RTS)は多いが,ズーから発売されているMonteCristoのミリタリーシリーズは,筆者のような一般ゲーマー(ヘビーRTSゲーマーではない普通のゲーム好き)には,とくにお勧めのシリーズだ。4本のタイトルで第二次世界大戦の歴史(ヨーロッパ方面)を追っている。北アフリカ戦線を描いた「デザートラッツ〜砂漠の鼠 vs アフリカ軍団〜」,西部戦線を描いた「D-Day 〜ノルマンディー上陸作戦〜」「1944 〜バルジの戦い〜」に続くシリーズ第4弾が,東部戦線を描いた「モスクワ トゥー ベルリン〜ドイツ軍最後の戦い〜」である。
本作は1941年のドイツ軍によるソ連領侵攻(バルバロッサ作戦)を皮切りに,スターリングラード攻防戦,ツィタデレ作戦,バクラチオン作戦といった数々の激戦を経て,ベルリンの帝国議会記事堂にソ連軍が赤軍旗を揚げた1945年のベルリン陥落までの独ソ戦,いわゆる東部戦線が史実に基づいて再現されている。
ゲームエンジンは共通で,基本的なゲームシステムやインタフェースはシリーズで同じ。過去に一つでもプレイしていれば,マニュアルを読まずに(ちゃんと読もう!)プレイできてしまう。もちろん本作を最初にプレイしてから,ほかの作品をプレイしてもまったく問題ない。
操作は一般的なRTSと同様で,操作したいユニットを選択し(もちろんグループ化も可能),移動先や攻撃したい敵を指示していく。移動や攻撃など基本的な命令は11種類の命令ボタンで行い,キャタピラ攻撃,砲を攻撃,牽引,治療といった特殊攻撃/特殊能力は命令ボタンの中の特殊命令ボタンにまとめられている。
ほかに,使用するユニットを完全な指揮下で動かすか,移動や攻撃を状況に合わせてAIに任せるかを切り替える移動スイッチ,攻撃スイッチが用意されている。もちろんスマートカーソル機能により,敵歩兵/戦車をクリックすれば攻撃指令になるし,地雷撤去も工兵を選んで地雷をクリックすればいいので,マウスさえあれば命令ボタンなんて使わずにプレイできてしまう。当然すべての命令にはキーボードショートカットが割り当てられているので,熟練者はキーボードを併用することで格段に効率が増すだろう。
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本作では市街地より,村や集落が多い。そのため戦車部隊の行動が制限されることも少なく,行動しやすい | 港,駅,空港の補充拠点を奪取するミッションも多い。セヴァストポリ港(画像)を奪ったドイツ軍はスターリングラードへ | 時間制限のあるミッションでは,地雷を一つずつ取り除いていたら時間の無駄。ある程度の損害を覚悟して攻める |
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油断していると,建物に潜んだ敵から火炎放射を浴びせられる。戦車へのダメージは少ないが中の兵士が焼け死ぬ | 偵察機や爆撃機のフライトで敵の配置を把握しておきたい。爆撃機が敵戦車を破壊してくれれば進軍しやすくなる | ミッション完了後に,目標達成状況,自軍/敵軍の損失などが分かる。見落とした目標があればリトライしよう |
■3本のキャンペーン,20本のミッションが楽しめる
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ドイツ軍から奪い取った鹵獲(ろかく)兵器も含めて,大軍で移動するソ連軍戦車部隊。障害物をなぎ倒しながら進軍する様子は大迫力。加速するときに排気ガスを吹き上げるなど,細かい描写までなされており,実際の戦場を上空から眺めている気分になる |
メインとなるのが「キャンペーンモード」だ。シリーズの例に漏れず,本作も三つのキャンペーンに分けられており,合計20のミッションが用意されている。どのキャンペーンからプレイしても構わないが,最初のキャンペーンからプレイしていくのがスジというものだろう。難度は初級,中級,上級,最上級から選択でき,キャンペーンの途中で変更はできない。
東部戦線が舞台ということでドイツ軍とソ連軍の戦いとなるわけだが,ドイツ軍を操作するかソ連軍を操作するかはミッションごとに決められており,両軍の立場でキャンペーンを戦い抜いていくところが面白い。キャンペーンゲームで一度クリアしたミッションは,「シナリオゲーム」で何度でも再挑戦できるので,好きなミッションを難度を変えて楽しめる。なお日本語マニュアルには,各ミッションで戦いのあった時期,天候,場所,ミッション目標が掲載されており,大まかであるが移動ルートまで記されたミッション攻略も掲載されているので,進軍の参考にするといいだろう。初心者にもありがたい心遣いだ。
また14種類のマップで最大4人での対戦を楽しめる「マルチプレイ」では,敵の全滅を狙う「デスマッチ」,敵の司令部を確保する「征服」,敵の司令部から旗を持ち帰る「フラグ奪取」の三つのモードが用意されている。
☆シナリオ一覧(括弧内はプレイヤーが操作する自軍)
・第一章 バルバロッサ作戦
- ブレスト - リトフスク(ドイツ軍)
- ミンクス - T34(ドイツ軍)
- ロヒビィッサ - キエフポケット(ドイツ軍)
- レニングラード(ソ連軍)
- モスクワ - タイフーン作戦(ドイツ軍)
- モスクワ- ソ連軍反攻(ソ連軍)
・第二章 ソ連での戦争
- セヴァストポリ包囲(ドイツ軍)
- スターリングラード - ドイツ軍攻撃(ドイツ軍)
- コーカサス - カルムイク草原への疾走(ドイツ軍)
- ウラノス作戦 - ピトムニク(ソ連軍)
- プロホロフカ - ツィタデレ作戦(ドイツ軍)
- クルスクとオリョール - ソ連軍反攻(ソ連軍)
- チェルカッスイ・ポケット(ドイツ軍)
- ミンスク - バグラチオン作戦(ソ連軍)
- クールランド・ポケット(ソ連軍)
・第三章 最終戦闘
- 東プロシア - マズリア湖地区(ソ連軍)
- ハンガリー - 春の目覚め作戦(ドイツ軍)
- ハルベ・ポケット(ソ連軍)
- ベルリン帝国議会堂(ソ連軍)
登場するユニットを見ていくと,将校,ライフル兵,機関銃兵,狙撃兵,バズーカ兵,火炎放射兵,偵察兵,工兵,衛生兵といった基本歩兵ユニットは変わりはないが,対戦車ライフル兵が一部のミッションで登場する。兵器ユニットでは本シリーズで初登場となるソ連軍の兵器が目新しい。いくつか列挙していくと,BA64装甲車,BM-7M戦車,KV1重戦車,IS2重戦車,T60/T70軽戦車,SU76/85/100/122自走砲,「スターリンのオルガン」と呼ばれたBM13 カチューシャ(自走式ロケットランチャー),そして空爆部隊としてIL2 シュトルモビク,IL4 爆撃機が登場する。ソ連軍マニアな人もニンマリだ。
また,ドイツ軍側もヤークトパンター,ヤークトティーガー,シュトルムティーガーといった重量級戦車やIV号戦車,突撃砲などといった主力兵器のほか,駆逐戦車ヘッツアー,Sd.Kfz.184エレファント,対空自走砲メーベルヴァーゲン,ラウペンシュレッパー・オストRSO 無限軌道車といった,東部戦線に投入された兵器が追加されている。
「兵器事典」には,登場するユニットの詳しい解説,ゲーム内のパラメータ設定などが載っているので,兵器マニアでなくても一度は目を通しておくといい。本作に登場するユニットだけでなく,シリーズをとおして全ユニットが掲載されているのも見逃せないところだ。
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戦車の装甲をも撃ち抜く対戦車ライフル兵。本作の歩兵達は任務を遂行すると結集地へ戻るなど,柔軟に動く | 渓谷など,移動が制限される場所での戦闘は,撃っては後退というセコい戦法で。無理して破壊されるよりマシだ | ミッション開始時にミッション概要がムービーと共に表示されるが,ミッション遂行中の「ログ」のほうが読みやすい |
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兵器事典は,本作を含め全シリーズに登場するユニット詳細が見られる。とくに,戦車などの特性を知っておくと戦闘時に役に立つ。どの作品にどのユニットが登場するのかまでは書かれていないのが惜しいところだ |
■同じゲームエンジンだが地味にパワーアップ
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本作では爆撃要請が多く使えるようになり,しかも数機で飛来してマップ内を旋回し,脅威となるユニットに対して集中爆撃を行う。かなり派手に爆発するので,思わず爆撃機の動向を追いかけて,炎に包まれる敵を見てニンマリしてしまう |
本作も前作「1944 〜バルジの戦い〜」と同様,戦車戦がメインだ。戦場の舞台がソ連領土ということもあり,平原のようなところを戦車部隊が突進していくマップが多い。そのため,市街戦のように身動きが制限された中で戦いを強いられるというシーンは少なく,移動という面では比較的ラクに展開していける。小さな村,駅,港,湖畔など,前作とは違った風景が広がり,バリエーションもさまざまでプレイしていて面白い。
移動中に敵と遭遇すると敵に位置を把握され,遠方からロケットランチャーなどで砲撃を受けるが(これが結構痛い),こちらもピンポイントで狙える長距離砲による「大砲支援」が,多く使えるのが嬉しいところだ。また,航空機による支援を要請すれば,戦車などの脅威になりそうな敵ユニットを優先的に攻撃してくれるし,敵の配置状況も分かるので一石二鳥だ。
本作では,兵士や兵器ユニットのAIが強化されており,一段とリアリティのある行動を取るように強化されている。とくに大きく強化されたのが,歩兵ユニットのAIだ。今までの歩兵は不意に敵と遭遇したり,プレイヤーが攻撃命令を出した場合は,絶対にかなわない状況でも果敢(無謀?)に攻撃し続けて戦死していったのだが,本作では不利な状況と判断すると,敵の射程外に逃れるようになった。ユニットが移動中の場合には攻撃ヒット率が下がるため,プレイヤーが対応できなくても必死に生き残ろうとしてくれるわけだ。
また,戦闘中に両手を挙げて降伏するという要素も追加された。降伏すると,それ以上は攻撃されず,戦線を離れてマップ外にトボトボと歩いて消えていく(捕虜になったという意味だろう)。このアイデアは面白いのだが,プレイヤーにとっては敵兵からそれ以上攻撃を受けないという,ささやかな利点しかない。例えば敵を降伏させて捕虜にすれば,敵の戦闘配置状況の一部が判明するなど,自軍に有利に働くなんらかの要素があれば面白かったと思う。
ソ連軍に詳しい人ならご存じだと思うが,ソ連軍には装甲車などの車両がなく,防御力が無に等しいトラックがあるだけ。そのせいか,戦車や自走砲の後部に歩兵を乗せて移動することが常態化しており,これを跨乗歩兵(こじょうほへい)という。本作では跨乗歩兵が再現されており,戦車に歩兵を乗せられるのだ。車両が攻撃を受けると一斉に飛び降りて,敵に向かって攻撃を開始するのだが,これが非常に便利で気に入った。
他軍では歩兵を装甲車に乗せて移動させるわけだが,戦闘になると戦車部隊に攻撃指示を出し,装甲車に乗った歩兵に降車命令と攻撃命令を出すといった手間がかかる。しかし跨乗歩兵なら,戦車部隊には敵戦車を攻撃させ,装甲車から飛び出してきた敵歩兵を即座に味方の歩兵が一掃するといった連携も取りやすい。ちなみに勝手に飛び降りてはくれるが,さすがに勝手に乗ってはくれない。
地上攻撃にも利用できる対空砲(88mm砲など)は,前作までは対空/地上モードの切り替えをプレイヤーが行わなければならず,射程内に敵戦車が現れても対空砲モードのまま空を狙っている……なんてことが多く,いとも簡単に破壊されていた。しかし本作では,切り替えが自動で行われるようになり,後方支援で放置状態にあっても突然現れた敵に対して自動で攻撃してくれるという,非常に使える兵器になったのも嬉しい。
こんなふうに,前作までと同じゲームエンジンではあるが,ユニットAIの強化により,単にキャンペーン内容を変えただけにとどまっていないのが嬉しいところだ。今までとは違った戦術が使える部分も多く,歩兵も人間くさい動きを見せるようになり,マイナーながらもしっかり前作よりパワーアップしているのだ。
難度初級では,戦術も何も気にすることなく戦車部隊のごり押しでもなんとかクリアできるので,ミリタリーRTS入門としてお勧めできる。個人的にお勧めしたいのが難度最上級だ。初級でプレイしたときの立場が逆転し,大量に戦車を導入しても真っ向勝負を挑めば簡単に自軍の戦車が破壊されてしまう。敵戦車の側面を狙うなどの戦術的要素が格段に高くなるため,ミリタリーRTS上級者でも楽しめるだろう。激しい戦車戦となった東部戦線の一部始終を,多くの人に味わってもらいたい。本作と合わせて全シリーズをプレイし,第二次世界大戦中に起きた多くの戦いを体験してみてはいかがだろうか。
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歩兵は,勝てない相手と判断すると退避行動をとり,中にはあきらめて投降するものも現れるなど,より現実的に | 歩兵の逃走,投降要素の採用により,大勢の歩兵で攻めて敵兵器を奪うのがやりやすくなった。自軍戦力に加えよう | ソ連軍の特徴である跨乗歩兵も再現。攻撃を受けると飛び降りて応戦するので,歩兵と戦車の連携が執りやすい |
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砂漠地域(カスピ海そばのカルムイク)での戦いもある。ミッションごとに風景が移り変わるのも本作の面白いところ | 対空砲で,敵の爆撃機に攻撃を加えて撃墜も可能。ただし自軍の頭上に墜落した場合,爆発で損害を被ることも | 油断していると海上から攻めてくる敵戦車もいるので注意。ちなみにゆらゆらと揺れる水面の動きが素晴らしい |