レビュー : メディーバル2:トータルウォー 日本語版

圧倒的なクオリティアップとともに帰ってきたトータルウォーシリーズ最新作

メディーバル2:トータルウォー 日本語版

Text by Sluta
2007年5月30日

 

»  歴史ストラテジー「トータルウォー」シリーズ最新作となる,「メディーバル2:トータルウォー 日本語版」。これまで着実に進歩を遂げてきたトータルウォーシリーズだが,本作ではディテールにこだわったグラフィックス面での向上に加え,宗教や都市建設の概念を取り入れるなど,システム面での新たな試みも見られる。ストラテジーゲームを得意とし,4GamerでもRTSのレビューを中心に手がけてきたSluta氏のレビューをお届けする。

 

兵士一人一人のディテールにこだわったグラフィックス

 

第4作を迎えたトータルウォー。基本的なシステムはそのままに,正統的な進化を繰り返してきたシリーズだ

 2007年4月5日にセガから発売された「メディーバル2:トータルウォー 日本語版」(以下,M2TW)は,リアルタイムストラテジーの人気シリーズ「トータルウォー」の最新作だ。「ショーグン トータル ウォー」「メディーバル:トータルウォー」「ローマ:トータルウォー」に続く第4作に当たるわけだが,本作の舞台は第2作と同じ中世ヨーロッパとなった。これについて開発元のCreative Assemblyは,「最もバラエティに富んだ兵種と戦いが楽しめるため」とコメントしているが,まさにその通り。弓が大弓,クロスボウへと発展し,やがて火薬が登場する過程や,投石器からカノン砲に至る攻城/遠隔兵器のバラエティ,チェインメイルからフルプレートまで存在する鎧,そしてヨーロッパ全体と西アジア,アメリカ大陸までが含まれる本作の時代設定は,トータルウォーシリーズにとって最も魅力ある舞台の一つであることは間違いないだろう。

 シリーズ当初から,フル3Dで大迫力の戦闘描写が特徴であったトータルウォーだが,それはM2TWでも存分に味わえる。グラフィックスについては一目見ただけで,クオリティがアップしたことが実感できる。光や影,自然環境の描写にも力が入っており,シリーズ従来作でやや物足りなかった臨場感が大幅に増している。
 そんなグラフィックス面でもとくに目を引くのが,兵士一人一人の装備が異なって描写されていることだ。騎兵であればそれぞれ違った色の馬に乗っているし,歩兵なら鎧や盾の模様にバリエーションがある。例えば農民兵であれば,腕・身体・足・頭・顔・ヘルメットがそれぞれ5種類ずつ用意されており,それに加えて武器と防具にも複数の種類があるという具合だ。これによってM2TWでは,グラフィックスのリアリティが前作までと比べて格段に増した。アニメーションやAI,兵士が発する声などについても改良されており,視点を近づけてずっと眺めていても違和感のない戦場描写になっている。

 

近づいて眺めると,一人一人の兵士が異なって描かれているのが確認できる。こうした工夫が戦場のリアリティをぐっと高めているのだ イベントがキャンペーンを盛り上げる。東から突如やってくるモンゴル軍の襲来は非常に厄介だ。正面からぶつかっても撃退するのは難しい 円状に展開しているのが,弓騎兵の特技である周回射撃。敵からの飛び道具によるダメージを大幅に削減できる隊形だ

 

城壁のない町は防衛戦には不利。立てこもっていても飛び道具による攻撃を受け,時間とともに弱体化は避けられない 大規模な城壁を持った城塞になると,攻略するには複数の攻城兵器が必須となる。何重にも壁が張り巡らされているため,攻略は容易ではない 拠点の中央には広場がある。攻撃側は,この広場を自軍勢が優勢な状態で3分間維持し続ければ勝利だ

 

 

350年にもわたる,時間も地域も壮大な
グランドキャンペーンモード

 

攻城塔から城壁に攻め入る場面。敵の防備が手薄な地点に攻城塔を設置できれば,一気に壁際を制圧可能だ

 本作には,5種類のゲームモードが用意されている。下記のゲームモードのうち,シングルプレイは5種類すべて,マルチプレイでは「カスタムバトル」「クイックバトル」「歴史上のバトル(シナリオ)」の3種類を選択できる。

 

●チュートリアル

「ヘイスティングスの戦い」と「ノルマンコンクエスト」の二つのシナリオを通して,戦闘パートとキャンペーンパートの基本について学べる。

 

●グランドキャンペーン

1180年から1530年まで,キャンペーンパートと戦闘パートを両方プレイしながら,マップ上の全勢力の征服を目指すモード。

 

●カスタムバトル

任意の勢力,戦場,軍隊編成で,プレイヤーの好みの設定で戦闘パートのみをプレイするモード。

 

●クイックバトル

ランダムに生成された一つの戦闘パートをプレイするモード。

 

●歴史上のバトル(シナリオ)

シングルプレイで選択できる歴史上のバトルにおいては,実際に行われた有名な会戦を追体験できる。マルチプレイで選択できるシナリオとしては,史実に近い設定のユニークな会戦が9種類収録されている。

 

 プレイマニュアルにもある通り,本作の中心はグランドキャンペーンだ。これは戦略部分に当たるターン制のキャンペーンパートと,戦術部分に当たるリアルタイム制の戦闘パートを並行してプレイしていくゲームモード。15(または20)地域の征服が目標である「ショート」と,45の地域を支配下におくのが目的の「ロング」の2種類の勝利条件があるが,どちらも基本的な方向性は同じで,内政や外交/工作を駆使しながら自勢力を増強し,主に戦争によって他勢力を征服していく。
 グランドキャンペーンで最初に選択できる勢力は,「イングランド」「フランス」「神聖ローマ帝国」「スペイン」「ヴェネチア」の5種類だが,キャンペーンをクリアするとプレイできる勢力が増え,最終的には17勢力の中から選択可能となる。このほか,CPU専用の勢力として4勢力があり(カスタムバトルモードではこれらをプレイ可能),合計21勢力が登場する。

 グランドキャンペーンにおいては,宗教も非常に大きなウェイトを占めている。まず,個々の領地において,自勢力の宗教が優勢でないと住民が不満を持つので,聖職者を用いて布教を進めなければならない。また,カトリックの勢力でプレイしている場合には,教皇との関係にも注意する必要がある。教皇はカトリック国同士の戦争に介入してくるし,教皇との仲が悪化すると教皇庁から破門を宣告され,全カトリック国を敵に回してしまったりもする。ただし,教皇は神父(聖職者)の一部である枢機卿の中から選ばれるので,プレイヤーが教皇庁に対して積極的に行動を仕掛けられるのがポイントだ。つまり,自らが神父を育成し,枢機卿へと格上げし,外交努力に励むことで自勢力から教皇を選出させることもできるのである。
 また,十字軍の要素も見逃せない。ある時期になると教皇から召集がかかるので,それに呼応すれば特別な軍隊を編成して中東地域へと攻め入ることができる。条件が整えばプレイヤー自らが十字軍を召集することもできる。
 イスラム教国にはジハードの要素がある。これは十字軍とは異なり,ランクの高いイマーム(聖職者)を持っている場合に召集できる。参加するのはもちろんイスラム教国だ。十字軍に比べれば規模は小さいが,それでもかなり大きなイベントの一つであるといえるだろう。
 このほか,モンゴル軍やティムール軍の襲来,アメリカ大陸の発見,火薬の発明などの歴史上のイベントも用意されている。全勢力の征服を目指すグランドキャンペーンのプレイ時間は,トータルで見るとかなりの長時間に及ぶが,これらのイベントのおかげで最後までだれることなくプレイできる。

 

グランドキャンペーンは非常に長いが,やりがいもある。全勢力をアンロックするには,ロングキャンペーンを一度クリアすればよい 戦闘パートだけでなく,本作ではキャンペーンパートもしっかりと作り込まれている。まずは都市と城の数のバランスがポイントになる 時代とともに発展する兵器も本作の魅力の一つ。中盤から使えるようになるクロスボウ射手は,使いやすい飛び道具ユニットだ

 

イングランドの特徴はなんといってもロングボウ。前面に杭を設置すれば敵の騎兵の突撃も防げる。矢弾切れにさえ気をつければかなり強力 エジプトはマムルークをはじめとした重騎兵が魅力的な勢力。十字軍の標的となることが多いため,戦闘に明け暮れることになるだろう マップ東端に広大な領地を持つのがロシア。拠点間の距離が遠いため,移動には苦労する。モンゴル軍の襲来を受けた場合には大変なことに

 

 

歴史を積み重ねてきた
トータルウォーシリーズならではの完成度

 

1クリックで敵味方の部隊が色分け表示される。全軍入り乱れるとどれがどれだか分からなくなるだけに,こうした機能はありがたい

 では,本作のゲームプレイにおける中心的な要素である,キャンペーンパートと戦闘パートについて,じっくりと見ていきたい。

 キャンペーンパートではいくつもの新要素が取り入れられているが,プレイに大きな影響を及ぼす点としては,拠点の種類が都市と城の2種類に大別されたことが挙げられる。ものすごく大雑把にいうと,都市は内政拠点であり,城は軍事拠点となる。マップ上のすべての拠点はこの2種類のどちらかに属していて,それぞれの系統に沿った形で発展していく。
 城では上級の歩兵や騎兵を育成でき,防御力も高いため,紛争地域の前線に欲しいところだ。一方,都市は商業や貿易の点で有利だが,防御力の点ではやや心もとない。都市は城と比べると,育成できる兵士の種類が基本的なものに限られるが,民兵を育成できるため,軍の維持費の観点からいうと都市で兵士を育成するのも悪くない。
 領土を拡大していくにつれて前線は移動していくので,どこに城を配置するかはキャンペーンをプレイしていくうえでの悩みどころの一つだ。都市から城へ,城から都市へといった転換は可能なのだが,転換を行うとその拠点の規模が落ちてしまうため,転換は慎重に行いたい。

 キャンペーンパート中に敵味方の軍団同士が衝突するか,都市や城が包囲されて強襲されるかすると戦闘パートへと移行する。戦闘パートが始まると,キャンペーンパートのマップ上で戦闘が起こった場所を忠実に再現した戦場が現れ,そこであらかじめ編成した軍隊同士でリアルタイムの戦闘を行う。軍隊の管理は部隊単位で,20部隊までを一度に指揮できる。
 戦闘は大きく分けて「野戦」と「攻城戦」の2種類。どちらも敵を退却させて自勢力が生き残れば勝利だが,攻城戦の攻撃側は,領地の中央広場を一定時間占拠することでも勝利できる。また,設定次第で一回の戦闘に制限時間を設けることも可能だ。
 戦闘パートのプレイ感覚は一般的なRTSのそれに近いが,ルールに関しては現実の戦闘にある要素がふんだんに取り入れられている。士気の要素,武器や装甲の効果,天候や地形の影響,挟撃や伏兵,火薬兵器の運用などである。

 ここでは一点,分かりづらいが重要な要素である兵士の防御力について解説しておこう。各兵士の詳細情報を見ると,防御力の項目は「装甲」「守備」「盾」の3項目に分かれていることに気付く。これらはそれぞれ,以下のような意味を持っている。

 

  • 装甲――体にまとっている鎧そのもの。全方向からの攻撃に対して効果がある。「鎧に対して効果的」の特性を持つ兵士から攻撃されると,防御効果は通常の2分の1に低下してしまう。
  • 守備――右手に持っている武器で,敵の攻撃を防ぐ防御。正面と右からの攻撃に対して効果があるが,飛び道具に対しては無効。
  • ――左手に持っている盾で,敵の攻撃を防ぐ防御。正面と左からの攻撃に対して効果がある。

 

 これらを細かく見ていくと,どの兵士に対してどの方向から,どの種類の攻撃が有効かが分かってきて,より深い戦術を立てられるだろう。大きな盾を持っている敵に対しては右側面からの攻撃がより効果的であるし,総防御力が高くても「守備」の割合が高い兵種であれば,飛び道具で大きなダメージを与えられる,などである。
 戦闘パートにおいては,これらのほかに数字で捉えられる要素はあまり多くない。最終的には経験と戦術がものをいうので,戦場全体を把握したうえでのトータルな指揮能力が勝敗の鍵を握ることになる。

 本作はシングルプレイモードが中心のゲームであるため,AIの出来は重要だが,これについてはどうだろうか。
 AIはおおむね満足できるレベルにあるが,前作から最も変わり映えしなかった部分でもある。これはキャンペーンパートにおいても戦闘パートにおいても同様だ。外交はやや単調であるし,AIが挟撃や奇襲を効果的に行ってくるともいえない。ただ,例えば戦闘パートであれば散兵モードや周回射撃など,ただでさえ一筋縄ではいかない敵の動きもあり,プレイ自体に物足りなさを感じることはないだろう。また,5月初頭に日本語版においても導入されたVer1.2パッチにより,バグや不自然なAIの挙動はあらかた修正されていることも付け加えておこう。

 広い領土運営の難しさと,後半に用意されているイベントのおかげで,長期間のプレイにも緊張感が途切れることがない。その一方で,自動戦闘,内政の委任など,操作をスキップする要素がしっかり用意されているのも好印象で,これまでに歴史を積み重ねてきたトータルウォーシリーズならではの完成度である。グラフィックス・サウンド・操作性・ゲーム性どれをとっても,現状のストラテジーゲーム分野において最高峰に位置するといっていいだろう。ポテンシャルを十分に味わうには必要動作環境+αのハイスペックマシンが必要ではあるが,ゲーマーのPCスペック更新意欲を刺激するのもまた,こうした作品なのである。クオリティの高いゲームを求めるすべての人にプレイしてもらいたい。

 

保有する領地が多くなってくると管理だけでも大変だ。内政は方針を指定してAIに委任できるので,うまく利用したい 象兵はティムール軍のユニークユニット。近づくだけで敵兵士の士気を大幅に下げる威力がある。相手にするときは,ベテランの兵士に対応させよう 火縄銃は,敵を殺傷するというよりは敵の士気を下げるために利用する兵器だ。一列ずつ整列してから射撃するため,攻撃回数はほかの飛び道具に比べて少なめ

 

ゲーム後半には大砲による撃ちあいが多くなる。城壁も大砲だけで壊せるようになるため,攻城戦のあり方は自ずと変化してくる アメリカ大陸の勢力として唯一,アステカ文明が登場する。ジャガー戦士やコヨーテ神官など,他勢力とは全く異なったユニットが使える カスタムバトルは,決められた資金の範囲内で自由に軍隊を編成して戦うゲームモード。登場する全21勢力でプレイ可能だ

 

■■Sluta(ライター)■■
数々の歴史ストラテジーに関するレビュー,週刊連載記事などを担当してきた。RTSを得意としており,「コサックス」シリーズは日本でかなり有名なベテランプレイヤーでもある。“徹底した調査”が趣味らしく,ゲームプレイにも記事にも,その傾向が見られる。代表的な記事はRTSのレビュー多数のほか,週刊連載「コサックスII 大陸軍の軌跡」「Age of Empires III 新大陸漂流記」「Dungeons & Dragons Online ダンジョン道中しょんぼり記」「Second Lifeの匠を訪ねて」など。
タイトル メディーバル2:トータルウォー 日本語版
開発元 Creative Assembly 発売元 セガ
発売日 2007/04/05 価格 7800円
 
動作環境 OS:Windows XP/Vista(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.50GHz以上,メインメモリ:512MB以上,グラフィックスチップ:ピクセルシェーダ1.0対応以上,グラフィックスメモリ:128MB以上,HDD空き容量:11GB以上

(C)2006 The Creative Assembly Limited

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/medieval2tw/medieval2tw.shtml