― レビュー ―
映画マトリックス三部作を味わえるアクションアドベンチャー
マトリックス:パス・オブ・ネオ 日本語版
Text by UHAUHA
2006年5月1日

 

赤の薬と青の薬……あなたなら,どっちを飲む?

 

映画「マトリックス」三部作を題材にした,「マトリックス:パス・オブ・ネオ」。ネオを操り,マトリックスならではのイカした超人的アクションを駆使して,救世主として使命を果たしていく。一度プレイすれば「カッコ良い!」の連発になることを約束しよう

 1999年から2003年にかけて公開され,世界的に大ヒットしたキアヌ・リーブス主演映画「マトリックス」三部作。読者の中にも「マトリックス」「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューションズ」を観たという人は多いだろう。今回,メディアカイトから発売された「マトリックス:パス・オブ・ネオ 日本語版」は,映画三部作のストーリーを追いつつ,マトリックスの中で一暴れできるという壮大なアクションゲームだ。

 マトリックスを題材にしたゲームとしては,前作にあたる「Enter the Matrix 日本語版」が発売されているが,こちらは映画「マトリックス リローデッド」の公開に合わせて作られたせいか,内容的にはリローデッドのアナザーストーリー的だった。しかも,使用キャラは地味な脇役のゴーストとナイオビで,「なんで映画の主人公であるネオは使えないの?」と不満を感じたファンもいたことだろう。
 その点,本作で使用するキャラは,ミスター・アンダーソンことネオのみ。そう,ネオを自由自在に操り,救世主へと成長していく過程を映画と同様のストーリー(実はかなり違うのだが……)で味わえるゲームが,ようやく登場したのだ。

 ゲーム冒頭で赤と青の薬を選ぶシーンが登場し,実際に選択することになるが,青の薬を選んでしまうような人はいませんように……。

 

青い薬なら元の世界へ戻り,赤の薬なら本当の現実を見られる。一度くらいは青の薬を選んでみるのもいいかも? 三部作の中でも,筆者の印象にとくに残るロビーでの銃撃戦。一緒に侵入したトリニティの体力も気にしつつ敵を壊滅させる モーフィアス救出のためヘリからチェーンガンを使い,屋上や屋内にいる敵を撃ちまくる。オーバーヒートには注意

 

敵の攻撃をウォール・ラン(例の壁走り)で交わし,ジャンプして攻撃に移る。ウォール・ランからの攻撃も多彩だ トレーニングでは,日本をモチーフにしたステージが多数登場する。モノクロなのは,リンク曰くシステムバグのため マトリックスを真の姿で見通せるコードビジョンも使用できる。壁などを透過して見通せるが,使いどころは少ない

 

 

華麗で爽快なマトリックスアクションを楽しもう

 

複数のキーを組み合わせることで多彩なコンビネーション(コンボ)を使い分けられる。すべてのコンボを使いこなすのは非常に難しいが,一部のコンボは画面下部に次のコマンドが表示されるので初心者にも安心だ

 本作のベースは三人称視点アクションゲーム。基本的な操作はW/S/A/Dキーで移動,マウスで視点操作,マウス左右クリックで通常攻撃(含む防御)と特殊攻撃(スペシャルアタック),Spaceバーでジャンプ,左Ctrlで回避となっている。

 マトリックスといえば,派手なカンフーアクションが大きな見せ場だが,ゲーム内で操作キーの組み合わせによって繰り出されるマーシャルアーツ(技)は,実に600種類以上にもなる。通常攻撃はパンチとキックだが,プレイヤーが使い分けるのではなく,攻撃のタイミング,敵との位置関係などで半自動的にアクションが変わる。敵の攻撃タイミングに合わせて通常攻撃をすると防御となるのは,あの超人的なカンフーアクションを再現するうえで,手軽で面白いアイデアだ。

 マトリックスではパンチ,キックを単発で繰り出すことはほとんどなく,連続して攻撃を繰り出すコンビネーション(コンボ)がメインとなる。映画でもボディに連続で高速パンチを繰り出したり,華麗な動きでパンチやキックを敵に叩き込むシーンが描かれているが,それがそのままゲームとして再現されているのだ。とはいえ,無闇に攻撃を繰り出してもガードされて当たないため,投げ,つかみ,ガード崩しを出せる特殊攻撃を織り交ぜて戦っていく。とくに,ガード崩しからコンボの連携は終盤まで使う攻撃方法となるだろう。

 素手での攻撃だけでなく,武器を使った攻撃も用意されている。ピストル,サブマシンガン,アサルトライフル,グレネードランチャーといった銃器のほか,接近戦用の武器として刀,長剣,棒なども登場する。これらの武器は,最初から所持しているものもあれば,ステージ内に用意されていたり,敵を倒すと入手できたりもする。武器は複数携帯できるので,状況に応じて切り替えて戦える。もちろん武器を使わずに素手で戦うことも可能だが,武器を使った場合のコンボも用意されており,素手とは一味違う戦いを楽しめる。

 映画を彷彿とさせるド派手なマトリックスアクションが演出されるため,適当に攻撃を繰り出していても楽しくて仕方ないのだが,そこに爽快感をプラスする要素となっているのが,いろいろなオブジェクトを破壊できるという点だ。映画では壁に投げつけられて壁が崩れ落ちたり,銃撃で壁や柱が激しく砕け散るシーンがバンバン出てきたが,当然,そのあたりも再現されている。
 とにかく敵に当たろうが当たるまいが,素手だろうが武器だろうが,攻撃を繰り出しているとさまざまな物が砕け散る。フィニッシュの蹴りで敵を壁に叩きつけ,派手に破片が飛び散るシーンが,スローモーションで流れるのだからたまらない。

 さらにアクション性を高めているのが,左Shiftキーを押すと発動する「フォーカス」という機能だ。フォーカスを使うと,ネオの移動速度や攻撃速度が上がり,物理法則すらねじ曲げてしまう。重力を無視して壁を走れたり(ウォール・ラン),放たれた銃弾をブリッジでかわしたり(バレット・ドッジ),弾丸を空中で止めて弾き返したりといった,劇中でお馴染みの能力が使えるわけだ。フォーカスを使った強力なコンボも数十種類用意されており,エージェントなど手強い相手と戦うときには必須となる。

 フォーカスは無制限に使えるわけでなく,フォーカスゲージ分だけ使用できる。フォーカス使用中はゲージが減っていき,ゼロになると使用できなくなるが,敵に攻撃を与えるとゲージが回復していく。そのため,ゲージはそれほど気にしなくても大丈夫。また,ネオには体力ゲージがあり,ゼロになれば当然ゲームオーバーとなる。体力ゲージは一定時間が経過すると回復するので,戦闘中にヤバいと思ったらどこかに隠れて体力が回復するのを待つという戦法も取れる。しかし,それが通用するのもザコキャラのみ。エージェントなどは銃を撃ちながら迫ってくるので,悠長に隠れているわけにもいかない。もちろん回復アイテムもあるのでヤバいと思ったら拾っておくのがベストだ。

 ちなみにフォーカスゲージと体力ゲージはネオの成長と共に徐々に上がっていくので,後半になるほど少しばかり余裕が出てくるはずだ。コンボやフォーカスを併用したアクションなどは最初から全てを使えるわけでなく,ステージをクリアしていくと自然に身に付くものもあれば,フォースゲージの増加と共に獲得できるものやアップグレードできるものもある。こんな感じで貧弱なネオを救世主へと進化させていくのだ。

 

「敵を投げる」or「蹴り上げ」から銃弾を叩き込むのがお気に入り。フォーカスを併用すれば確実に銃弾を浴びせられる 一人でも手強いエージェントにはコンボを活用するのがキモ。防御,回避をうまく使って確実に攻撃を当てていくべし バレット・ストップを使えば銃弾や物体を空中で止められる。そのままキーを押し続け,チャージして撃ち返してやろう

 

敵の体をつかんで飛び上がり地面に叩きつけたり,ジャイアントスイングのように足を持って回転させたりといった大技も ネオの負の姿であるエージェント・スミスとの空中戦。力を溜めて強まった攻撃を放つ,キリング・ブロウが有効だ ステージをクリアすると悟りの道が開き,新たなマーシャルアーツが習得できる。実際にどんな技なのか確認しよう

 

 

ザイオンを救え! あなたは救世主になれますか?

 

「マトリックス リローデッド」の増殖したエージェント・スミスと戦う,通称「100人スミス」もきっちり再現。鉄の棒を振り回し,スミスを建物に投げつけると豪快に崩れる。それほど処理落ちもしないのには感心

 本作は,劇場版三部作のストーリーを再現する形で展開していく。といっても,映画のストーリーをそのままゲームで再現しているわけでなく,アレンジが加えられているシーンや,本作のために書き起こされたオリジナルエピソードなども用意されている。アレンジ部分やオリジナルエピソード部分は,映画を観た人ならば「お,展開が違うぞ」と感じるだろう。ゲームの制作にも映画の監督,脚本を担当したウォシャウスキー兄弟が携わっているということで,映画のストーリーに違和感なく溶け込んでいる。

 なお,合計すると約1時間にもおよぶ映画のムービーシーンが各ステージの間に盛り込まれているが,三部作の関連シーンがごちゃ混ぜで再編集されたダイジェスト的な作りなので,映画を観た人でも少々混乱するかもしれない。映画のストーリーを忘れてしまっている人は,まずDVDなどで復習してからゲームに挑戦するといいだろう。

 物語は,大手ソフトウェア会社に勤めるプログラマーという表の顔のほか,あらゆるコンピュータ犯罪に手を染めるハッカー「ネオ」という,もう一つの顔を持つトーマス・アンダーソンが,謎の男モーフィアスと接触するところから始まる。わけも分からずエージェントに追われることになったネオが,社内から逃走を図るという劇中にもあったシーンは,スニークアクション風ステージとして仕立て上げられているというわけだ。映画では追っ手から逃げられずエージェントに捕まってしまうが,ゲームではビルの外で待機しているトリニティと合流して逃走……という具合に,映画とは若干異なる。

 ほかにもモーフィアスとのカンフートレーニング,エージェントに捕まったモーフィアス救助のために,ネオとトリニティがエージェント達のビルに乗り込んでの銃撃戦,エージェント・スミスとの地下鉄駅での戦い,増殖したエージェント・スミスとの組手(100人スミス),メロビンジアンの屋敷からの脱出などなど,映画の名物シーンがゲーム内ステージとして再現されている。

 オリジナルエピソードとしては,ヒーラーや司祭を守るステージ,ローランド船長,ナイオビ船長,バラード船長をそれぞれ手助けするステージなど,映画以上に救世主として活躍するネオが描かれている。ゲーム冒頭にはトレーニングミッションとして日本の時代劇をイメージしたステージのほか,背筋がゾクッとするような不気味な雰囲気のステージも登場し,不思議なマトリックスワールドを味わえる。
 そして本作のエンディングは,映画とはまったく異なるものが用意されている。ここで多くを語ることは避けるが,ラスボスといい,BGMといい,まぁマトリックスファンにとってはかなり驚きのエンディングだ。記事の一番最後にラストバトルのスクリーンショットを掲載するが,ネタバレなので知りたくない人は決して見ないように。

 ただ残念なことに,本作では“絶対にゲーム化してほしかったシーン”のいくつかが,入っていないのだ。個人的には,劇場版第2作にあった高速道路上でのカーチェイスやザ・ツインズとの戦い,第3作のザイオンに大軍で侵入してくるセンティネルズvs.APU,センティネルズに追われながら狭い通気口の中を猛スピードでホバークラフトを操ったり……書いていくとキリがないほど,ゲームで再現してほしかったのに……と思うシーンが多かった。

 何はともあれ,本作はマトリックスファンであれば,絶対にプレイしてほしい作品だ。熱狂的なファンでなくても,映画三部作を観た人であればプレイしておいて損はないだろう。
 ハッキリ言ってしまうが,コンシューマ版と同時開発だったためか,確かに本作は見た目が必ずしも良いわけではなく,そんなに面白くなさそうに見える。また,“映画の名シーンの数々をアクションゲームとして楽しめる”という発想も,どちらかというと不安にさせられる類のものだろう。しかし本作のアクションステージは実際なかなか面白く,しかも“マトリックスならではの面白さ”に仕上がっている。良くできているのである。

 カッコよく戦うには,いくつものマーシャルアーツを使いこなす必要があり,キー操作を覚えるだけでも大変! なんて思う人もいるかも知れないが,コンボなどは画面下部に次の入力が表示されるものもあるし,意外と適当に操作していてもスカッとするようなコンボが繰り出される。どうやってもクリアできず頭を抱えるほど難しいステージというのもないので,アクションゲームが苦手な人でも躊躇することはない。

 用意された難度は「修行者」(イージー),「達人」(ノーマル),「救世主」(ハード)の三つ。やはりマトリックスファンであれば,救世主レベルでプレイしたいところ。忘れるところだったが,救世主レベルは“認められた者”でないと選択できないので,果たして自分が救世主になれるのか,心を解き放って本作にチャレンジしてほしい。

 

「これ,マトリックスなの?」と思ってしまうオリジナルエピソード。この女の武器が,ネオもビックリの凄さなのだ アリのようなモンスターに灯籠を振り回すネオ。いくらプログラムで生み出されるマトリックスとはいえ,これは…… メロビンジアンの屋敷は前作にも登場したが,彫刻などの作り込みがレベルアップしている。もちろん破壊可能だ

 

セラフとネオが戦うシーンが流れるスクリーンの前で,モップ片手に二人が戦う。好き嫌いはさておき,お笑い要素があるのも本作の特徴だ 救世主になると使えるスペシャルコンボ。スパッと入力できないのは救世主の資格がないということか…… 本作のために作られたオリジナルCGムービー。この後,本編とは異なるエンディングバトルが待っている

 

【ネタバレ注意!】劇場版とは異なる,ゲーム版だけのオリジナルラストバトル。遊び心というかなんというか……

 

タイトル マトリックス:パス・オブ・ネオ 日本語版
開発元 Shiny Entertainment 発売元 メディアカイト
発売日 2006/04/14 価格 7980円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium4/1.8GHz以上(2.8GHz以上推奨),メインメモリ:512MB以上(1GB以上推奨),グラフィックスメモリ:64MB(128MB以上推奨),HDD空き容量:6GB以上,オンボードグラフィックス搭載PCは動作対象外

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http://www.4gamer.net/review/matrix_pon/matrix_pon.shtml