■原作小説のライセンスによって存在感も大幅アップ
スチームライン化されたインタフェースなど,前作でもかなり出来の良い作品だったが,本作では原作小説の版権も獲得したことで,氷雪地帯など,さらにバラエティに富んだトールキンの世界が楽しめるようになった |
「ライセンスものはおしなべて駄作」などと言われたのは一昔前の話。版権料が高すぎて,ゲーム制作費にまでお金が回らなくなってしまったのでは? といった例は今でも珍しくないが,Electronic Artsの各スポーツシリーズや期待作「The Godfather: The Game」,Activisionの「Ultimate Spider-Man」,Ubisoft Entertainmentの「Peter Jackson's King Kong」そしてBuena Vista Gamesの「The Chronicle of Narnia: The Lion, the Witch, and the Wardrobe」など,最近リリースされた“ライセンスものゲーム”には,評価が高いものも多い。
「Lord of the Rings: The Battle for Middle-Earth」も,J.R.R.トールキンの有名小説「指輪物語」を映画化したあの三部作のライセンスゲームとして,決して悪いデキではなかった。だが,幅広いファン層へのアピールを狙ったためか“リアルタイムストラテジー”としての深みがなく,多くのオンラインゲーマーには敬遠されていたきらいがある。
そのような点を考慮してか,新作「Lord of the Rings: The Battle for Middle-Earth II」(以下,BfME2)では,とくにオンラインモードに関して,注意深く制作が進められているようだ。すでにプロやアマのゲーマー達に対戦プレイを繰り返してもらうなど,前作では行われなかった規模でのβテストが始まっている。
さらに,映画だけでなく原作小説そのものの版権も獲得したことで,映画には登場しなかったストーリーやアートワークにも,開発陣はクリエイティビティを発揮している。原作を知る人にとっては,文章の中だけの世界がビジュアル化された情景を満喫できるだろうし,最近指輪物語の世界を知った人にとっても,映画鑑賞では得られなかった経験を楽しめる。そういう意味では,コア向けにすることで,逆説的により多くの人々にアピールできるようになったわけだ。
ストーリーは有名な「指輪戦争」(War of the Ring)に絞られているが,選択できる種族は前作でもプレイできた「Rohan」,「Gondor」,「Mordor」,「Isengard」に加え,「Elf」,「Dwarf」,そして「Goblin」という三つのサブヒューマン種族が追加されている。ただし,RohanとGondorは「西方の人間族」(Men of the West)として統合され,善と悪の比率が3対3に整えられている。
グラフィックスエンジンは前作を継承したものが採用されているが,海岸での波しぶきや大地に投影される木漏れ日,数々の魔法や爆発などのパーティクル効果は新しく作り直されており,ノーマルマッピングやシェーディングシステムといったさまざまな部分がアップデートされている。
ElfやDwarfの登場でもわかるように,BfME2では「Fornost」など,北方の積雪地帯での戦闘にもスポットライトが当てられている。ほかにも,人気キャラクター「Legolas the greenleaf」の故郷である「闇の森」(Mirkwood)や「Lorien」,「はなれ山」(Erebor),「谷間の国」(Dale)など,50か所以上のマップが用意されている。当然のことながら,映画にも登場した「ヘルム峡谷」(Helm's Deep)や「ミナス・ティリス」(Minas Tirith)での激戦もフィーチャーされており,後述するようにプレイヤーが思い思いの形で指輪戦争を遊び尽くせるのだ。
妙に暗いマップなのは,闇の森だからなのか? OrcやTrollの攻撃に,エルフのアーチャーたちが防戦している | フォルノストの積雪地帯と思われるシーン。前作よりも使用できるユニット数が増えているのがわかる | 中央で縛られているMountain Trollは,原作のみに登場するクリーチャー。原作の版権を取得した成果といえるだろう |
太鼓を叩きながら行進するTrollやGiant Spiderなどの一団。こんなのがプレイヤーの砦にやってくるのは相当怖い | Elfのロングボウアーチャーに,Mordorのブラックライダーが突撃。ブラックライダーは,一度は使ってみたいユニット | 海戦用のユニットは光と闇の勢力に2種類ずつ。輸送船にユニットを押し込んで,敵の背後から上陸させることも可能 |
■プレイヤーだけのヒーローを作成できる
砦の位置や大きさに自由度が与えられたのは,BfME2に登場する個々のマップが大きなものになったからだろう。建設シムの要素が加わったが,前作同様スピーディなゲーム展開は損なわれていない |
BfME2のキャンペーンモードでは,まず善悪6勢力の中から好みのものを選択。その後,中つ国の全体像が表示されていて戦況をひと目で把握できる「リビング・ワールド・マップ」から,リアルタイムでゲームが進む「バトル・マップ」へと進んでいくのは前作と同じだ。
大きく異なるのは,本作ではリーダーユニットとして活躍するヒーローを,プレイヤー自身が作成できること。種族や髪形,服装といった外見はもちろんのこと,武器やスキル/魔法の種類も選択できる。作成したヒーローは戦闘によって経験値が上がり,やがては新しいスキルを習得していく。
ほかのユニットも前作同様に戦闘を通してレベルが上がり,次のマップでも成長した状態で使用可能。フォーメーションなどの要素も加わり,突進ではなく迂回したほうが経験値は増えやすいなど,戦略的にゲームを進めたほうが軍団の強化につながりやすいようになった。また,思考ルーチンにも機能が追加されており,攻撃や防衛などのコマンドをユニットに課すことができるようになった。
前作で好評だった個々のユニットの感情表現は,本作でも継承されるている。戦闘に勝つと歓声を上げたり,敵の強力な特殊攻撃に震え上がったりという行動で,見た目にも戦場の様子が伝わってくるのが面白い。
また,BfME2では施設の設置方法も大きく変わっている。前作では決められた場所に城や壁を築くだけだったが,本作ではプレイヤーが好きな場所に砦を建設し,壁を何層にも広げていくことが可能になった。ただし,時間が経つにつれて自動的に建物の強度が上がったり,レベルの高いユニットが生産できたりした前作の「ベテランシー・システム」は再考されたようで,施設の強化は資源投入によってのみ行えるという,ストラテジーとして一般的な手法に変わっている。
前作では画面での表示面積が大きく批判が多かった城壁では,今回からユニットが通路を往来できるようになった点も見逃せない。プレイヤーが防御能力を向上させれば,ここに人間族の場合なら弓兵を配置できるウォッチタワーを拡充したり,煮え油を投下する歩兵を配置したりといったことができる。城門や砲座など,さまざまな拡張施設が用意されており,どの組み合わせが最強なのかを追究するという,建設シミュレーションのような楽しみも加わっている。
そういった意味で,前作以上に領土の拡張に重点が置かれているといっていいだろう。例えば,畑や鉱物などの資源施設には,収穫範囲の概念が与えられ,同じタイプのものを近くに建設すると,生産力が下がってしまうといった仕様も追加された。このために,さらに新しい土地を求めて視界を広げていくことが,ゲームプレイの中に組み込まれている。そうこうしているうちに敵の領土と近付いていき,ついには戦闘が始まることになるのである。
映画シリーズ第一作にも登場したタコお化け「ザ・ウォッチャー」は、Dwarfのユニットとして利用可能 | Glorfindel,Gloin,Thranduil,Dunedainのレンジャー隊なども,映画には登場していないキャラクターだ | Dwarfが製作した砦はこのようになる。城壁の上をユニットが歩けるのはもちろん,投石器を設置することも可能 |
映画ではリブ・タイラーが演じたArwen。本編ではプレイアブルユニットとして登場するようだ | Corsair(海賊)のコンセプトアート。原書訳本では南寇という結構センスの良い翻訳がされていた | 原作では重要キャラクターだが,映画では存在さえ消されているTom Bombadil。世俗を捨てた,中つ国の最長老だ |
■新しいマルチプレイヤーモード「One Ringモード」とは!?
戦闘において,Trollやmumakのような巨大ユニットが,ザコユニットをなぎ倒すのは,Battle for Middle-Earthシリーズならではの爽快感。今回はGiantなど,映画には登場しなかったものも描かれている |
BfME2でキャンペーンモードをプレイし終えると,存在する全マップがアンロックされる。すると,プレイヤーは好きなマップと好きな対戦相手を選んで1回だけのゲームを楽しんだり,ストーリーとは離れて自分の好きな順序で「中つ国統一」を果たす「War of the Ringキャンペーン」を楽しんだりできる。
War of the Ringキャンペーンは,ボードゲームのマップのようにリビング・ワールド・マップを活用し,スタート地点となる都市で初期の生産活動を行い,軍団を複数に分けて各方面に進軍していくというもの。戦闘はリアルタイムで一つ一つこなすことも,ユニットの経験値や数でコンピュータに自動的に決定させることもできる。また,クリアまでには相当な時間を要するものの,ほかのプレイヤーとのオンラインプレイにも対応している。
原作小説の活用で面白味も増したBfME2だが,マルチプレイヤーモードでとくに気になるのが,「One Ring」と呼ばれる新モードだ。これは,対戦ごとに自動的に不特定の場所に「ゴラム」が隠され,進軍や探索によって最初にゴラムを発見したプレイヤーが指輪を奪い取り,指輪の力を活用できるようになるというルールのモードだ。
この指輪の力は尋常なものではなく,悪の勢力の場合なら「Sauron」,善の場合なら「Galadriel」を召喚して暴れまわってもらうことになる。これらは,“タイタンユニット”と名付けられており,たった1ユニットでも大軍を瞬時に壊滅させるような破壊力を備えている。
タイタンユニットの召喚には,一定の時間と大量の資源を要するため,ほかのプレイヤーは団結して早期のうちに潰してしまうか,マップのどこかでリスポーンするゴラムを捕まえに行くことになる。指輪を奪われたゴラムは,指輪を掌握したプレイヤーの陣地に忍び込み,指輪を盗み出すステルス・ユニットとして利用できるのである。
このように,One Ringモードはプレイヤーが攻守のタイミングをコントロールしにくくなっており,うまく行けばかなり白熱したゲームとなりそうである。
迅速で組織的な攻撃力のあるElf,遅いがパワフルで防御が得意なDwarf,ユニット生産コストが安く城壁を這い登るGoblinなど,新しい種族も個性的だ。前作からの三つの陣営もすべてのユニットが再登場するだけでなく,Mordorのブラック・ライダーのように新たなユニットも加わり,総計では80種類程度になるようだ。一画面に表示できるユニットも増えるようで,それこそ映画並みのバトルを満喫できるだろう。
ライセンスゲームとしての魅力ばかりか,さまざまな面で工夫が凝らされている本作は,アメリカでは3月中のリリースが見込まれている。現在のところ,日本語版のリリース予定は明かされていないが,指輪物語ファンだけでなく,RTSファンも英語版で遊ぶ価値は十分にある。前作ではマッチメイキングなど対戦システムも充実していたので,長らくβテストが行われている期待のOne Ringモードも,かなり楽しめるものになるのではないだろうか。
Hobbitの故郷Shire(庄)が攻撃されている様子。前線で果敢にMountain Giantを攻撃している4人組の姿も | Elfのポートらしいマップ。このような要塞もプレイヤーが全て建設できるのだろうか? 水面の表現も見事 | 左と同じシーンと思われる。コーセイアーの船団が侵攻し,かなり激しいバトルが展開されている様子だ |
紅葉と白い建物が美しく,一目で「裂け谷」(Rivendell)と分かる。各ユニットは,戦況に応じた感情表現をする | 数千人規模でのマルチプレイヤーβテストが行われるなど,オンラインモードの改善も入念に行われている | EALAの開発チーム70人あまりを動員して制作を率いているのはマイク・バードゥ(Mike Verdu)氏だ |