― レビュー ―
根強いファンを持つファンタジーストラテジーシリーズが復活!
Heroes of Might & Magic V
日本語マニュアル付英語版
Text by K.サワノフ
2006年8月3日

 

新しい世界観で「Heroes」が蘇った

 

3DOの倒産により,継続が危ぶまれていたターン制ストラテジーゲーム「Heroes of Might & Magic」シリーズが,Ubisoftから復活した。全世界の熱烈なファンもひと安心だ

 「Heroes of Might & Magic」(以下,HoMM)シリーズは,RPG界のビッグネーム「Might & Magic」(以下,M&M)シリーズから派生した,ターン制のファンタジーストラテジーゲームだ。そして,その3年半ぶりの新作が,「Heroes of Might & Magic V」(以下,HoMM V)である。

 M&MおよびHoMMシリーズは,これまで3DO社から発売されていたが,残念なことに同社は2003年に倒産してしまい,全世界のファンを心配させていた。幸い,その後UbisoftがM&Mシリーズの版権を買い取り,シリーズの続編も作られることになった。なお,HoMM Vの開発を担当したのは,「Etherlords」(邦題 イーサーロード)や「Blitzkrieg」(邦題 ブリッツクリーグ)などの開発元として知られる,ロシアのNival Interactiveである。

 これまでのHoMMシリーズは,本家M&Mシリーズと世界観を共有し,ストーリー的にも相互に補完するような形になっていた。しかしHoMM Vでは,「Ashen」という世界が舞台になっている。これは,FPSとして開発されているM&Mシリーズ最新作,「Dark Messiah of Might & Magic」と共通の世界である。
 この世界には,「Haven」「Sylvan」「Academy」「Inferno」「Necropolis」「Dungeon」という6種族が存在し,覇権をかけて激しくしのぎを削っている。プレイヤーは,いずれかの種族に属するヒーローを操り,敵対種族と戦っていくわけだ。

 HoMM Vでは,1マップ完結型のカスタムゲームのほか,6シナリオ30ミッションから構成されるキャンペーンが楽しめる。また,1台のPCを交互に使うホットシート式,またはLANやインターネット経由のマルチプレイも可能である。

 システムの基本線は,これまでのシリーズ作品とほぼ同じ。詳しくは後述するが,ゲームシステムの奥深さや長くプレイしても飽きないバランスのよさなど,シリーズ独自の魅力は本作でも健在だ。開発元が変わっても,HoMMの魂がしっかり受け継がれているのは,さすがといったところだ。

 一番大きい変化と思われるのは,フル3Dになったグラフィックスだろう。地味な画面のゲームというイメージが染み付いたHoMMシリーズだが,本作ではそんなイメージをすっかり覆すほどの,魅力的な画面作りがなされている。もっとも,美麗さや細かさでは,最新のゲームに比べると一段見劣りはするのだが,その代わりHoMMっぽい「味」がちゃんと残っているため,シリーズファンとしては文句はないだろう。ムービーや戦闘シーンなどでの,ヒーローやクリーチャーのモーションは一見の価値がある。

 ただ,フル3D化については,ちょっと不満もある。HoMM Vでは,カメラのズームイン/アウトや回転をある程度自由にできるのだが,これが逆にマップを見づらくしているのだ。マップのどこに何があるのか一見して分かりにくく,前作までと比べ,ユニットの移動時にストレスを感じることが多い。
 またフル3D化に伴い,PCの要求スペックが上がってしまったことも,不満な点の一つだ。最新の3Dゲームをバリバリ遊んでいる人なら問題はないスペックだろうが,HoMMシリーズのファンにはそうでない人も多いと思われるだけに,ちょっと残念ではある。

 

HoMM Vのオープニングムービー。若き王NicolaiとIsabelの結婚式に,Demonが出現するところから物語が始まる。やがてこれが6種族を巻き込んだ,壮大な話に発展していくというわけである キャンペーンでは,Nicolai王の花嫁になるはずだったIsabelという女性を中心にした,壮大な物語が綴られる

 

HoMM Vの世界には,六つの種族が存在し,お互いが覇権をかけて激しい争いを繰り広げているのだ 一番の特徴は,大きく進化したグラフィックス。地形,建物,ヒーロー達など,すべてが3Dで描かれている マウス操作により,マップの拡大/縮小や,視点の回転が可能。移動するヒーローにもグッと近づける

 

 

さらに奥が深くなった独特のゲームシステム

 

HoMM Vは,今ではずいぶんと珍しくなったターン制のストラテジーゲーム。じっくり考えてプレイしていこう

 それでは,あらためてシステムについて説明していこう。HoMMシリーズは,「ターン制ストラテジー」と分類されてはいるものの,実際にはRPGライクな成長要素や,冒険要素がほどよくミックスされた,独特なシステムを持つ作品なのだ。

 ゲームの目的は,ミッションごとに設定された目標(敵都市の占領,敵ヒーローの撃退など)を達成すること。マップ上には,それはそれは多くの建物やオブジェクトなどが巧みに配置されている。また,プレイヤーは,ヒーローを何人も雇って別個に行動させられるので,複数のルート探索や目的達成のための行動を同時に進めていける。
 基本的には,スタート地点からヒーロー達を出撃させ,少しずつマップを踏破しながら落ちてる資源や財宝を回収したり,敵と戦ったり,都市を攻め落としたりして,自勢力を拡大していくというゲーム進行になる。マップ上をヒーロー達に冒険させていく感覚がRPG的で面白く,ここにストラテジー要素も加わり,実に豊かなゲーム性を醸し出している。

 ヒーローは,「Knight」「Ranger」「Wizard」「Demon Lord」「Necromancer」「Warlock」の6クラスに分けられる。これは,前述の6種族に1対1で対応している。それぞれ,優れている能力値や所有技能(skill)が違っているのだ。
 ヒーローは,戦闘などで経験値を得てレベルアップし,能力が上がっていく。また,そのとき新しい技能や特殊能力(ability)を獲得できる。どういった技能,特殊能力を得るかは,プレイヤーがある程度選択可能だ。ちなみにHoMM Vでは,技能は200種類,特殊能力は170種類用意されている。
 ヒーローは,配下として,1〜7グループまでのクリーチャーを引き連れて行動する。戦闘シーンでは主にクリーチャーが戦い,ヒーローはどちらかというとサポート役となる。配下のクリーチャーが全滅すると,ヒーローは戦闘に敗北したことになってしまう。
 ヒーローをどう育てていくか,複数のヒーローをどのように動かしていくかを考えることは,HoMM Vの根本的なエッセンスだ。たくさんのヒーローを使い,物量作戦を展開するもよし,1人のヒーローをじっくり育て,戦力を集中させて戦っていくもよし。採れる戦略の幅は広く,自由度は高い。

 都市は,ヒーローをサポートする役目を持つ。都市は,自軍のために毎ターンお金を生み出したり,週ごとにクリーチャーを生み出したり,ヒーローに魔法を習得させたりなどなど,さまざまな機能を持っている。ただし,それらの機能を活用するためには,それぞれに該当する建物を建てなくてはならない。
 建物は1ターンに一つしか建てられないし,建設にはお金や資源などを必要とするため,際限なく建てられるわけではない。また,条件が整わないと建てられない建物もある。つまり,都市にどういう機能を持たせるか,どの建物を優先的に建てていくかという点でも,高い戦略性が必要になるのだ。
 なお,都市も,種族に対応した6タイプがある。都市に建てられる建物の種類もタイプごとに異なっており,生み出されるクリーチャーの種類もまるで違ってくる。

 HoMM Vでは全体的に,「Inferno」(デーモン系)や「Necropolis」(アンデッド系)などなど,種族ごとの特質が,前作までよりもハッキリと表現されている。ヒーローが持つ種族ごとの独自技能は非常に特徴的で,それをベースに戦略,戦術を組み立てていかないと,プレイが効率的に進まない。また,クリーチャーにも,独特の能力を持つものが増えている。前作までを相当やりこんだプレイヤーにとっても,かなり歯ごたえのある作品になっているといえるだろう。

 システムについて触れたところで,マルチプレイヤーゲームにも言及しておこう。そもそもターン制のストラテジーゲームという基本システムは,本来あまりマルチプレイ向けではない。そのため,今までのシリーズ作品では,マルチプレイはどちらかというとオマケ程度の扱いだった。しかしHoMM Vでは,ちょっと事情が変わった。
 本作には,ネットワークマルチプレイ用として,「Duelモード」と「ゴースト・モード」の,2種類の特別モードが用意されている。まず,「Duelモード」は,短期決戦の3本勝負。通常のプレイに比べ,非常に短い時間で勝負が決まる戦いとなる。「ゴースト・モード」は,相手のターン中に「ゴースト」を操り,マップを探索したり,資源を手に入れたりなど,有利な行動ができるというもの。つまり,自分のターンに長い時間を費やすほど,相手を利してしまうことになる。
 いずれも,ターン制という基本を維持したまま,対人対戦の緊迫感を味わえるわけだ。対戦用のサーバーも用意されていることだし,今までシングルプレイ一本だった人も,一度試してみるといいだろう。

 

ヒーローを動かし,マップ上を探索していく。ヒーローの軌跡は,光る点線で表示されていく マップ上には,敵や中立のクリーチャーも存在している。これらと接触すると,戦闘シーンに突入するのだ これまでのシリーズ作品はヘックスだったが,HoMM Vの戦闘フィールドはスクウェアで区切られている

 

戦闘中には,フル3Dグラフィックスのモーションがカットインされ,臨場感を高めてくれるのだ 開発元がNival Interactiveということもあり,戦闘シーンでは「イーサーロード」を思い出す人もいるかも? 経験値が溜まると,ヒーローはレベルアップする。能力値が上がるほか,新たな技能や特殊能力も入手できるのだ

 

冒険の拠点となる都市。建物を増やしていくことで,都市のグラフィックスもどんどん立派になっていく Magic Guildを建設した都市を訪れさせると,魔法を習得できる。魔法は40種類と,前作より絞り込まれている ネットワークでのマルチプレイ用に,二つの特別モードが追加された。緊迫した対戦が楽しめる

 

 

英語という壁を乗り越えてでも堪能してほしいが……

 

奥は深いのに,気楽にプレイできるのが本作のいいところだ。気負わずに,とりあえず遊んでみよう

 本作についてつらつら書いていくと,かなり複雑なゲームのように思えるが,実際にはそんなことはない。ただ,ゲームを構成している要素が多いため,プレイしているといろんなところで楽しさを感じられる。戦闘に勝利すると楽しいし,ヒーローを成長させるのも楽しい。都市を育てていくのも楽しいし,秘宝を集めるのも楽しい。効率よく勝利を目指すのもいいが,なんとなく探索し,なんとなくヒーローを育てていくだけでも十分楽しめるのだ。
 抽象的な表現で恐縮だが,プレイヤーの「ゲーム心」を優しく虜にしてくれる,そんなゲームだ。ディープなゲーマーからライトゲーマーまで,「ゲーム」が好きな人なら,必ずフックするはず。とにかく一度遊んでみてほしい作品である。

 と,ここで終わると綺麗なのだが,最後に一つだけ注意をしておきたい。本作は「日本語マニュアル付英語版」であり,つまりはゲーム中の文章は全部英語のままなのだ。
 実はHoMMシリーズは,昔からかなり文章を読ませるゲームなのである。各ミッション,キャンペーンなどでのストーリーはもちろんのこと,ゲーム中の技能や特殊能力,魔法の説明などでも,英文がバリバリ出てくる。そして,これを理解できないと,おそらくゲームの楽しさを十分には味わえないだろう。付属のマニュアルにも,このへんは掲載されていない。
 もちろん,テキストは多少英語力があればなんとかなるレベルだし,前作までをプレイしている人なら,なんとなく感覚もつかめるだろう。ただ,英語が全然ダメで,過去のシリーズ作品を一度も遊んだことがないという人は,ちょっとした覚悟が必要だ。前作までのように日本語版が発売されれば問題はなくなるのだが,今のところそのような動きはないようで,そのあたりがちょっと残念である。

 

探索中に手に入る秘宝は,ヒーローのパラメータや攻撃方法などにボーナスを与える力を持っている 英語の文章が多く出てくるので,英語力がないとツラい。攻略サイトなどを参照しながらのプレイをおすすめする シリーズのファンなら,このグラフィックスの充実はかなり嬉しいはず。かっこよくなったHoMMの世界を堪能しよう

 

タイトル Heroes of Might & Magic V 日本語マニュアル付英語版
開発元 Nival Interactive 発売元 フロンティアグルーヴ
発売日 2006/08/04 価格 7140円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.50GHz以上[Pentium 4/3GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce4 Ti 4200/Radeon 8500以上[GeForce 6600以上推奨],グラフィックスメモリ:128MB以上[256MB以上推奨]

Heroes of Might & Magic V(C)2005 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Heroes, Might and Magic, Heroes of Might and Magic, Ubisoft and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries. Developed by Nival Interactive

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http://www.4gamer.net/review/hommv/hommv.shtml