高級スポーツカーが集うFIA GT選手権を再現した
レースシムの第2弾
![]() |
|
スタート地点にずらりと並んだFIA GT選手権出場マシン達。車好きならよく知る車も多く,エアロパーツの追加と派手なカラーリングで一段と格好いい。マシンごとのエアロパーツの違い,フロントガラスやライトの反射処理などにも注目してほしい |
最近のドライブシムのリリースの少なさは,悲しい限りである。とくにレーシングカーの挙動をリアルに再現した“レースシミュレータ”系となると,片手で数えるくらいしかない。とはいえ,良作揃いのジャンルなため,出たものは一通りプレイしているという人も多いだろう。中でもひときわバーチャルレーサー達の心を射止めている作品が,SimBin Development Teamの「GTR‐Official FIA GT Racing Game」だ。その最新作「GTR 2 - FIA GT Racing Game」が登場した。
本作はFIA(国際自動車連盟)が運営する「FIA GT選手権」(FIA GT Championship)を,忠実に再現したレースシミュレーションゲームだ。FIA GT選手権とは欧州のサーキットで行われるスポーツカー耐久レースのことで,ル・マン24時間耐久レースと同様のレギュレーションに則って行われる。
使用されるのはGTカー(Grand Touring Car),つまり市販車ベースの改造車で,ポルシェ,フェラーリ,メルセデス,クライスラー,ロータスといった高級スポーツカーが使われる。使用する車により,GT(GT1,GT2),NGT,G2,G3とクラス分けされ,ワークスチーム(自動車メーカー)とプライベートチームが混在してレースを行うため,同時出走台数が非常に多い。しかも耐久レースということで,スプリントレースとは違ったノウハウや戦略が必要となるのだ。
本作は前作同様にFIA公認となっており,2003年,2004年のデータを元にマシン,ドライバー,サーキットが実名で登場する。登場する144台のマシンはカーモデリング,カラーリング,エンジン音,コクピット周りまで忠実に再現されており,登場するサーキットもスパ・フランコルシャン(ベルギー),モンツァ(イタリア),ドニントン・パーク(イギリス),ホッケンハイム(ドイツ)など,実在する計34サーキットのレイアウト,起伏,コース周囲の施設などまでしっかり再現されており,抜かりはない。
パッと見は前作とあまり変わっていない本作であるが,一見さんお断りの“硬派”仕様だった前作と比べて,本作がどんな味付けになっているのか見ていこう。
![]() |
![]() |
![]() |
スーパーカーに混じり,NGTクラスに参戦しているNISSAN 350Z。さすがFIA公認,マシンの再現度は素晴らしい | 耐久レースではピットインの回数も多くなる。ピットクルー達の働きを眺めつつ,ひとときの休息が味わえる | 同クラスのマシン同士は,性能の格差が少ない。自然と接近戦も増える。ブレーキング勝負で前に出たい |
![]() |
![]() |
![]() |
HUD(ヘッドアップディスプレイ)により,四隅にドライビングに必要な情報が表示される。タコメーターが見やすい | コクピットビューではステアリング操作,ギアチェンジだけでなく,ペダルに足を載せ替える動きも再現されている | カメラアングルを自由に変えられるリプレイ機能。自分だけでなく,他車それぞれの視点で眺められるのが嬉しい |
タイヤのグリップ感を感じ取れるドライブモデルが素晴らしい
![]() |
天候の変化も再現されており,レインコンディションでのレースは,前車が跳ね上げる水しぶきで前が見えにくいうえに,タイヤは滑りやすいため,微妙なステアリング操作とアクセル操作が必要。すでに差を広げられていて自分の腕のなさに嘆く |
前作をプレイした人はおそらく,そのピーキーな挙動特性(ドライブモデル)にド肝を抜かれたことと思う。アクセルを踏み込んだ際の挙動変化が唐突すぎて,あっという間にスピンしてしまう。ストレートでの加速時ですら,優しいアクセル操作を心がけないと簡単に挙動を乱してしまうほどである。本物のFIA GT参戦マシンがそんな挙動なのかはさすがに定かではないが,レースシムに長けている人でさえ,凶悪ともいえる挙動特性に四苦八苦したはずだ。
それに比べて,本作では多少ラフなアクセル操作をしてもスピンしにくく,半ベソでプレイしていた前作よりも断然走らせやすい,ソフトで扱いやすい挙動に変貌している。こう書いてしまうと「アーケード寄りになったのか」と誤解されそうだが,そんなことはまったくない。本作では,より現実的な挙動が再現されており,本作をプレイした後では前作の挙動が非現実的とさえ思える。
何よりコーナーリング時に,タイヤのグリップ感を頼りにマシンをコントロールできるようになったのが嬉しい。本作でもタイヤグリップの限界を超えれば,スピンもするし,大きく挙動を乱す。しかし,そこに至るまでの挙動変化が,画面中のマシンの動き,タイヤのスキール音,フォース・フィード・バック機能で伝わる反力や振動が見事にシンクロすることで,手に取るように伝わってくる。そのため,リアが流れ出すギリギリのところでコーナーを攻められるし,ほんの少し限界を超えたところを使い,マシンの向きを変えるなんてことも可能なのだ。
また,ピーキーさが和らいだため,挙動を乱してからカウンターを当てて体勢を立て直すといった余裕もでき,プレイしていて非常に楽しい挙動特性である。とはいえ,前作のようなピーキーなマシン(Ferrari 575 GTCなど)も登場するし,天候の変化も再現されており,レインコンディションでは滑りやすい路面と格闘するハメになることも覚えておいてほしい。
速さ重視,安定性重視など自分なりの挙動を求めるならば,マシンセッティングに手を出したい。「GARAGE」では,「SETUP ONE」で使用するタイヤ,前後のブレーキバランス,ギア比,デフギア,レブリミット設定,ピット戦略(ピットストップ回数と搭載燃料量)のマシンのベース部分の調整ができ,「SETUP TWO」でタイヤの空気圧,サスペンション関係,ダウンフォース量などをマニアックなほど細かく調整可能だ。1か所調整しては数周走り,挙動変化を確認しながらセッティングを詰めていく。これも楽しさの一つである。また,いうまでもないと思うが,フォース・フィード・バック機能の付いたステアリングデバイスは必須だ。個人的にはリアルな挙動を再現するSIMULATIONモードで,オート・クラッチ以外のアシスト機能(※)をオフにし,マニュアル・ギアでプレイするのがお勧めだ。
(※)ブレーキヘルプ,ステアリングヘルプ,スピンリカバリー,トラクションコントロール,アンチロックブレーキなどの補助機能
![]() |
![]() |
![]() |
ピーキーさが消えた本作ではスピンしにくくなったため,リアが流れ出してからのコントロールも比較的容易だ | タイヤのグリップ感が伝わってくるので,コーナーリング中も限界ギリギリのところを使って他車と競り合えるのが嬉しい | 小ダメージからパーツが吹き飛ぶような大ダメージまで緻密に再現。左フロントのパンクで車が傾いているのが分かる |
![]() |
![]() |
![]() |
難度により使えるアシスト機能は異なるが,できればオートクラッチ程度にして,ほかのアシスト機能はオフにしたい | セッティング「SETUP ONE」で重要なのがギア比の設定だ。設定次第で足回りなどのセッティングもガラッと変わる | マニアックな領域となるセッティング「SETUP TWO」。各所を微調整して自分好みの挙動を作り出せれば万々歳 |
レースシムを避けていた人や初心者にも挑戦してほしい
腕を磨いて熱いマルチプレイに挑戦しよう
![]() |
「DRIVING SCHOOL」で,テクニックやコースの走り方を学べる。走行ラインの色を参考にすれば走り方が習得できる |
レースモードは,単独走行でレースセッティングを詰められる「OPEN PRACTICE」,選択したコースでフリー走行や予選を行いレースに挑戦できる「RACE WEEKEND」,レースを転戦してチャンピオンシップを戦う「CHAMPIONSHIPS」といった,前作にもあったシングルプレイを楽しめるモードは健在だ。
さらに,マニア受けしそうなラップタイム(コース一周のタイム)を刻むことが目的の「TIME TRIALS」,実際にAmerican Muscle 24H SC,Italian 24Hなど六つの24時間耐久レースに挑戦できる「24 HOUR RACES」が用意されている。とくに24 HOUR RACESでは,昼間→夕方→夜間→夜明けと,徐々に変化していく時間の流れも再現されており,オートドライブ機能を使ってパートナー(AIドライバー)に任せたりしつつ,24時間耐久レースに挑戦する価値は大いにアリだ。24時間ともなると気軽に……とはいかないが,レース時間は24分,1時間,3時間,6時間,12時間も設定できるのでご安心を。
前作を含めて,「レースシム」というと初心者お断り的な感があり,興味があっても手を出しにくいゲームジャンルである。とはいえ,本作には,初めてレースシムをプレイするような初心者のために,アクセル&ブレーキ操作,コーナーリング,オーバーテイクといった基本ドライビングテクニックや,各コースのレコードラインと走り方を習得できる「DRIVING SCHOOL」が用意されている。
それぞれ課目ごとに分かれており,課目には複数の課題が用意されている。レコードラインとブレーキングポイントを示すラインを基準に走行し,最終ステップはライン表示なしで走る流れで,模範車(ゴーストカー)も同時に走行するため,走りの参考になる。使用するマシンが決められており,挙動特性の違うマシンを乗りこなす腕も磨いていける。とくにコースレクチャーは,コースをセクター単位(区間)に区切って課題が用意されるので,初心者やコースの走り方が分からない人の強い味方になるはずだ。
このモード,「初心者向けのゲームモードか?」というと,そうでもない。課題には制限タイム内で設定されたフィニッシュポイントを通過する「PASS」,同時走行の模範車よりも0.5秒速くフィニッシュポイント通過するといったワンステップ上の走りが必要な「GOLD GEAR」という二つの課題が用意されており,課題のクリアによってほかのゲームモードで使用するレースがアンロックされていく。GOLD GEARは上級者とてかなり手こずる難度なので,嘗めてかからないほうがいい。
ちなみにほかのゲームモードで使えるコースは,最初からすべてが使えるわけでない。DRIVING SCHOOLでアンロックしたレースに挑戦して,例えば13レースに出場,チャンピオンシップポイントを108ポイント以上獲得,優勝トロフィを三つ獲得という条件を満たすとDoningtonPark GP,2003のコースがアンロックされる。レースごとに難度が異なっており,簡単に上位入賞を果たせないものも用意されているため,そうやすやすと全コース,レースを遊ばせてくれない,なかなか“嫌らしい仕様”だ。上級者の人は自分の腕試しをしつつ,初心者はコツコツと腕を磨きつつクリアしていくのがいいだろう。
DRIVING SCHOOLやシングルプレイで自信がついたら,ぜひ,マルチプレイにも挑戦してもらいたい。本作はLANを使った「LOCAL NETWORK」,ロビーサーバーを経由する「INTERNET」が用意されている。INTERNETでのマルチプレイは非常に人気が高く,ロビーサーバーには日夜,多くのサーバーが立てられており,対戦者探しに困ることはない。パスワードが必要なサーバーも多いが,日本人有志が立てているサーバーは,大型掲示板(※2ちゃんねる)やファンサイトでゲーム設定,パスワードを公開していることが多いので,探してみるといいだろう。コース上を走るライバルカーは,明らかにAIカーとは違った動きでブレーキング競争を仕掛けてきたり,テール・トゥ・ノーズやサイド・バイ・サイドのバトルを挑んでくる。ヒートアップして無理をしてしまうことも多く,このへんの感情をどう抑えるかがコツでもある。やっぱり多人数のマルチプレイは熱い!
レースシムというと,一部のマニアにしかお勧めできない傾向にあったが,本作はコテコテのレースシムながらも初心者から上級者まで幅広い層にレースシムの面白さを味わってもらえる逸作である。レースカーの挙動を存分に楽しめるので,前作を遊び倒した人はもちろんのこと,今までリアル系レースシムを避けてきた人や,レースシム初心者に挑戦してもらいたい。ステアリングを持っていない人は,ステアリングとセットで購入しても損はしないはずだ。まずは体験版で,タイヤのグリップを感じながらレースカーを走らせる楽しさを味わってみてはいかがだろうか?。
最後に本作の入手について触れておくと,現在,国内代理店がないため購入は輸入ショップに頼るしかない。ショップによって取り扱いは異なるが,US版,UK版が販売されており,US版には「GT Legends」がボーナスディスクとして同梱されている。本作と同様のゲームエンジンを使用しており,こちらもプレイしてもらいたい作品なので,GT Legendsを持っていない人はUS版の購入をお勧めする。ちなみにGT LegendsのCDキーが添付されておらずプレイできないという問題があったが,現在では販売元であるVIVA-MEDIAがサイト上でCDキーを公開しているので心配ない。
![]() |
![]() |
![]() |
「TIME TRAIAL」は,世界のプレイヤーが叩き出した最速ラップデータをダウンロードしてゴーストカーとして使える | 「24 HOUR RACES」では,AIが運転を代わってくれるオートドライブ機能を併用すれば,24時間レースも可能かも? | 「DRIVING SCHOOL」の課目も相当多い。全課題をクリアするとチェックマークが付く。気合いを入れて挑戦しよう |
![]() |
![]() |
![]() |
ゲームモードにより項目に違いはあるが,どのモードでも細かくゲーム設定を調節できるのが嬉しいところだ | 多くのコースがロックされており,すべてのコースをアンロックするには相当時間がかかる。ちょっと意地悪な仕様だ | ロビーサーバーへアクセスすると,たくさんのゲームサーバーが動いていることが分かる。赤色はパスワードが必要 |
![]() |
![]() |
![]() |
耐久レースらしい時間の流れの再現は一見の価値あり。日が暮れて暗闇に包まれていき,夜が明けていく様子がリアルに再現されている。ちなみに中央の夜間の画像はホームストレートなので比較的明るいが,インフィールド上ではヘッドライトの明かりはあるものの,暗くてコースが非常に見えにくくミスも起こしやすい |