― レビュー ―
ゲーマーをターゲットにしたワイヤレスマウスは"使える"のか
G7 Laser Cordless Mouse
Text by Crize
2005年10月26日

 

■ワイヤレスマウスは,ゲーマーの要求に応えられるのか

 

 ワイヤレスマウスに,いい思い出のないゲーマーは多いと思う。実際,ワイヤレスマウスには,マウスカーソルの追従性でワイヤードマウスに劣り,激しいゲームプレイに着いてこられないという,致命的な問題があった。すっきりしたイメージから,ゲーマー以外の支持は集めたものの,ゲームプレイには向かなかったのである。

 そんな状況にあって,先に「ゲーミング・グレード」を発表したLogitech,そしてその日本法人であるロジクールは,"ゲーマー向け"のワイヤレスマウス「G7 Laser Cordless Mouse」(以下G7)を発表した。すでに並行輸入版が店頭に並んでいるが,今回は国内製品版パッケージを入手できたので,それを使って,果たしてG7がゲーマーの要求に応えられる製品かどうかを,見ていくことにしたい。

 

 

■基本スペックはG5と同等

 

G5(左),「MX510 Optical Mouse」(右)と,形状を比較してみた。まさに「G5のワイヤレス版」といっていい形なのが分かる

 マウスの精度を示し,高いほど細かな動きも精密に反映されることになる解像度は最大2000dpiで,センサーが1秒当たりに読み取れる回数を示し,マウスの追従性の高さと言い換えてもいいフレームレートは7080fps。これは,2005年9月9日にレビューを行った同社製のワイヤードレーザーマウス「G5 Laser Mouse」(以下G5)とまったく同じだ。USB 1.1のFull Speedモードを採用しているという,USB周りの仕様も変わりない。
 その意味で,ワイヤレスレーザーマウスの代名詞ともなったロジクールの従来製品「MX1000 Laser Cordless Mouse」(以下MX1000)と,まったく異なる製品であることは理解しておく必要がありそうだ。少なくともスペックにおいては,MX1000の印象を引きずったままG7を語るべきではない。

 

 ワイヤレス化に当たっては,2.4GHz帯のデジタル無線を採用しているが,これは誤解を恐れずにいえば,受信部から最大10m離れてもマウスを使えるようにするためだ。そんなにPCから離れてゲームをプレイする人はいないだろうから,あまり気にしなくてもいい。
 ちなみに2.4GHz帯だと,無線LANと干渉するのではと思うかもしれない。しかし,2.4GHz前後の周波数を頻繁に切り替えることで,ほかの機器との干渉を避ける「Frequency Hopping」方式が採用されているので,まず問題はないといっていいだろう。さすがに,マンションなどの集合住宅で,各住宅ごとに5台も6台も無線LANアクセスポイントがあるというのなら,話は別かもしれないが。

 

 

■マウスパッドとの相性はあるが,完成度はG5並み

 

 さて,最も気になるのは,ワイヤードマウスと同等以上の操作感なのかどうかだ。ゲーマーにとっては,そこに問題があったら,それ以上の議論を重ねても無意味である。
 では,G7はどうだろう? 今回は以下の表に示す環境でテストを行ってみた。ドライバは製品パッケージに付属するSetPoint 2.42,そして,2005年10月26日付けでロジクールのWebサイトにアップロードされたSetPoint 2.46を利用しているが,結論からいうと,G7の操作感に関する完成度はかなり高いレベルにある。「ワイヤードマウスとは違う」というマイナスの印象は受けなかった

 

 

付属する信号受信アダプタ。後述する「充電ステーション」に取り付けることが想定されているが,標準タイプAのUSB接続なので,PCのUSBポートにそのまま接続しても利用できる

 ワイヤレスマウスはバッテリーや乾電池で動作するという仕様上,マウスを一定時間動かさないと待機状態に入り,バッテリーや乾電池の消耗を抑えるようになっている。ただ,この待機状態がゲームプレイ時にはちょっとしたクセモノになる。例えば「Counter-Strike」などで,照準を合わせて敵が来るのをじっと待っていると,マウスが勝手に待機状態に入ってしまう。そして,いざマウスを動かそうとしたときに「待機状態からの復帰」という遅延時間が生じ,その隙にやられてしまうということがよく生じていたのだ。ゲーム以外でも,ワイヤレスマウス使用時に,こういった煩わしさを感じた人は少なくないと思う。
 この点,G7では「待機状態からの復帰に要する遅延時間」を感じない。G5と二つ並べて繰り返しテストしてみたが,操作感自体はG5とまったく変わらない印象だった。従来のワイヤレスマウスにおいて,待機状態からの復帰時間は避けて通れなかったわけだが,G7ではついに克服したわけで,これは素直に評価していい。

 

レーザーセンサーは,光沢やペイント,木目などといったさまざまな表面における読み取りが可能で,光学センサー搭載機よりも汎用性が高くなる……はずなのだが,マウスパッドとの相性が出てしまった

 ただ,色々とテストを行っているうちに,問題点が一つ明らかになった。それは,マウスの高速移動時に生じる,読み取りの不良だ。
 今回筆者はテストにおいて,マウスの解像度を低めにした状態で,「マウスをゆっくり,約20cm移動させると,デスクトップの右端から左端までポインタが移動する」ように設定した。その後,この約20cmの距離を一瞬で移動させたのだが,このとき,G7では,デスクトップの中央くらいまでしかマウスポインタが移動しないのだ。この問題は,SetPoint 2.40/2.42/2.46のすべてで確認できた。

 これはフレームレート(=スキャン回数)の低いマウスでよく見られる現象で,G7ほどのスペックがあれば,普通は発生しない現象である。
 この原因は,どうやら特定のマウスパッドとの相性問題にあるようだ。筆者が主に利用している「Fatal1ty Pad」(FatPad)は,布製の大型パッドなのだが,G7のレーザーセンサーとは合わない。一方,机の木目や,プラスチック製マウスパッド「sUrface 1030」でテストするとこの問題は生じなかった。

 筆者が確認した限り,この問題は,解像度を低く設定した状態で,相当な速さでマウスを移動させた場合に,特定のマウスパッドとの組み合わせでのみ生じるもののようだ。したがって,解像度を高く設定してプレイするなら,それほど気にする必要はない。だが,発生する可能性が低いとはいえ,問題があるのもまた事実。購入を検討している人は,記憶に留めておいたほうがいいだろう。
 なお,今回のテストに当たって,G5で同様のテストを再度行ってみたところ,G5でも同じ問題が再現されたことは付記しておきたい。以上の問題については,別記事でロジクールの公式見解を掲載しているので,合わせて参照いただければ幸いだ。

 

 

■バッテリーパック採用で「重くない」ワイヤレスマウスに

 

パッケージに同梱のハードウェア一式

 ワイヤレスマウスというと,必ず問題になってくるのが重量の問題だ。充電用の電池を必要とするため,どうしても重量がかさんでしまい,激しい操作を行うゲーマーからすると,重くて疲れるワイヤレスマウスは敬遠されがちだった。
 さまざまなマウスを触ってきた筆者の感覚だと,150gを超えるマウスは"重い"。実際,MX1000の重量は171gで,ゲーム用途に向いているとは思えなかった。
 しかしG7では,バッテリーパックを採用しているので,乾電池の重さから解放されている。本体重量はG5と同じ115gで,18gのバッテリーパックを搭載しても133g。ワイヤレスであることも手伝って,実際の操作感覚はG5とほとんど変わらない印象を受ける。

 バッテリーパックに関して一つ問題があるとすれば,マウスの使用時間が短いという点になろう。MX1000だと,フル充電時にカタログスペックで,一般的なWindowsオペレーションをしていれば約21日持つのに対し,G7ではカタログスペックの段階で約4.5日と,4分の1以下である。
 この問題を解決するため,G7では標準でバッテリーパックが2個付属している。
 しかも,バッテリーパックはフタを開けたり閉めたりする煩わしい操作なしに,マウス底面のカートリッジに挿入するだけで認識され,取り出すにもボタンを押すだけでいい。片方のバッテリーパックを利用しているうちに,もう片方をUSB接続のバッテリーチャージャー「充電ステーション」にセットしておけば,自動的に充電されるという仕組みもよくできている。

 

左上:付属するバッテリーパック
右上:マウス底面にあるカートリッジ「BATTERY CARTRIDGE」にバッテリーパックを挿入すると,G7が利用できる。バッテリーを交換するには,カートリッジの近くにあるボタンを押せばいい
左下:こちらが充電ステーション。基本的には充電ステーションに用意されているUSBポートに,信号受信部を取り付けて利用する。写真は充電ステーションの右手前(指の下)にあるボタンを押して,充電済みのバッテリーパックを取り出そうとしているところ
右下:充電ステーションの底面。「BOOST MODE」と「NORMAL MODE」のスイッチがある。これは充電速度を切り替えるもので,ACアダプタ給電タイプのUSBハブを介して接続している場合,前者に設定しておくと,約2時間で急速充電が可能だ。PCと直接接続しているような場合は,後者に設定することになり,この場合は充電に約10時間かかる

 

G5だとマウス解像度を表示するだけだが,G7では,緑色のLEDでバッテリー残量,オレンジ色のLEDでマウス解像度を3段階で示すようになっており,それぞれ一定時間ごとに切り替えて表示される

 敢えて重箱の隅をつついておくと,ゲームのように,マウスをずっと動かし続けるような局面(=連続使用時)では,バッテリーが公称7時間しか持たない点には注意が必要だ。手元のLEDでバッテリーの残量はだいたい分かるうえ,実際問題として,7時間もひたすらマウスを動かし続けるということはないだろう。しかし,例えば1試合に2時間かかるようなゲームをプレイする場合,3戦めが終わったときに意識してバッテリーパックを換えておかないと,4戦めで悲劇が起こるわけで,ワイヤードマウスと比べて少々面倒なのは確かである。

 

 

■右利きなら満足できる形状が魅力

 

 肝心要の部分について触れたところで,ここからは細かなところを見ていくことにしよう。
 G7を握って筆者が最初に感じたのは,指の位置などが自然にフィットするという点だ。何気なくマウスを握って「持ちやすい」と感じるマウスはそれほど多くないだけに,この点は非常に重要だと思う。
 G5とまったく同じ外観をしているのに,なぜG5よりもいい印象を持つのか。まず,ワイヤレスなので,ワイヤーが邪魔にならないのが理由の一つだ。そしてもう一つは,マウス表面の素材の違いである。
 G5では,赤サビのような独特の加工が行われており,結果としてマウスの表面部分の肌触りがさらさらしている。これはおそらく,手に汗をかいたとき,ベタベタしないようにという配慮なのだろう。ただ,逆にいうと,手にくっつかない分だけ,マウスを動かすときによけいな力が必要で,G5本来の重量よりも若干重い印象を受ける。その点,G7の表面は「G3 Optical Mouse」(=MX518 Gaming-Grade Optical Mouse)と同じようにツルツルしており,手に馴染みやすいと感じた。
 ただ,こればかりは感じ方に個人差があるだろう。G5のほうがよりよいと思う人もいると思う。ここは,MX500シリーズを愛用していたならオススメ,といった程度に理解していただければ幸いだ。

 

 

■ボタン配置,ドライバはG5と同じ

 

 続いてボタン配置についても見てみよう。もっとも,G7のボタン配置はG5とまったく同じ。ホイールの素材や,チルトを含めた使い勝手にも違いはない。このため,ボタンについてはG5のレビューを参考にしてほしいと思うが,チルトは筆者のように,人差し指でホイールを使う人にとっては非常に使いやすい。逆に,中指派だと,慣れるのに少々苦労するかもしれない。また,サイドボタンは1個なので押しやすい半面,これまでサイドボタンが2個あるマウスを使っていた人にとっては,これまた慣れが必要である。
 このあたりについては,使っているうちに慣れていくか,無理にチルトやサイドボタンに機能を割り当てたりせず,各自で使いやすいように調整してみることを勧めたい。

 

G5と同様,G7でもSetPointを利用すると,マウスの解像度を5段階で設定して,任意のタイミングで切り替えられる。解像度はX/Y軸別にできるうえ,50dpi単位で設定できるから,好みに合わせて設定を追い込んでみるといい

 ドライバは,前述したようにG5と同じSetPointだ。バージョンは細かく上がっているが,G5のレビューで用いたSetPoint 2.40と比べて,劇的に何かが変わったわけではない。
 よって,ここもざっと紹介するに留めるが,SetPointでは,アプリケーションごとにボタンのバインド(=割り当て)を設定できる。最初は,設定したいアプリケーションごとにいちいち全部設定しなければならないので面倒だが,一度設定してしまえば,アプリケーションの起動ごとに自動的に切り替わってくれるので,とても便利だ。キーボードのキーをシンプルにバインドするのはもちろん,「Ctrl+C」などの同時押しや,ダブルクリック,ウィンドウを閉じるといった特殊な操作もバインドできるので,ゲーム以外でもかなり有用だ。

 G7ならではの機能としては,バッテリー残量チェックがある。SetPointから乾電池マークのタブをクリックすると,バッテリー残量の詳細が表示される。
 また,このタブからは「バッテリー残量が何%を割ったら警告を発するか」を,5〜30%の範囲で5%ごとに6段階で指定できる。万全を期して,早め早めの交換をするのであれば,高いパーセンテージを指定しておくといい。

 

SetPoint 2.40シリーズには,バッテリーに関する設定項目がある。警告はWindowsのデスクトップに対してポップアップ表示される仕様だ。なぜかこの表示だけ"Cordless Laser"と,語順が逆になっているのはご愛敬

 

 

■性能は申し分ないが,コストパフォーマンスに難あり

 

 正直にいうと,また「反応速度が……」と苦言を呈すことになると思っていた。それだけに,G7の完成度の高さには,素直に驚くほかない。マウスパッドの相性についても,筆者が使い慣れたセッティングに追い込んでみた状態では発生していない。
 そういう意味で,G7は,ゲームでまともに使える初のワイヤレスマウスといえるだろう。ワイヤレスマウスを愛用していて,最近3Dゲームを始めてみたような人には,とくにお勧めできる製品だ。

 ただ,G5と同じく,完全に右手用に設計されているため,左利きの人には使いづらいはずだ。また,マウス自体の大きさがかなりあるので,手が小さめの人も注意が必要といえる。万人向けのマウスではないという点は予め指摘しておきたい。
 そして,一番の問題はマウスの価格である。ロジクールの直販価格は1万1800円になると発表されているが,1万円を超えるというのは,マウスの価格としてはかなり高い。同等のスペックを持つG5が約7000円で購入できるのを考えると,わざわざG7を選択する必要性は感じない。ゲーマー的な考え方では,差額でG5に最適なマウスパッドを購入したほうがよさそうだ。

 「自分専用のフルオーダーメイドマウス」を100点と仮定した場合,G7には,本来ならG5と同じ80点を与えたいところだが,コストパフォーマンスを考えると,75点になる。
 ただし,価格さえ気にならなければ,ワイヤレスマウスの概念を変えるほど,製品自体のデキはいい。ゲーム用途のマウス選びの選択の幅が広がったという点で,心から歓迎できる製品だ。今ワイヤードタイプのマウスを使用している人も,ワイヤレスが気になっているなら,G7を試してみてはどうだろうか。

 

タイトル Gシリーズ
開発元 Logitech 発売元 ロジクール
発売日 2005/10/28 価格 製品による
 
動作環境 N/A

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