レビュー : マイクロソフト フライト シミュレータ X

10作めを迎えたMFSシリーズはどこへ向かうのか?

マイクロソフト フライト シミュレータ X

Text by Murayama
2007年1月26日

 

シリーズ10作めの期待作!

 

シリーズ10作めとなる今作。圧倒的なデータ量,高度なグラフィックス,Vistaに最適化されているなど見どころも多い

 「マイクロソフト フライト シミュレータ」シリーズといえば,本格派フライトシムの定番として知られるタイトルである。初代は1979年にSub LOGIC社がAppleII/TRS-80 向けにリリースした「Flight Simulator Version 1.0」で,これをマイクロソフトがライセンスし,以後同社の看板タイトルとして「Version 2.0」「Version 3.0」「Version 4.0」「Version 5.0」「Version 5.1」「95」「98」「2000」「2002」「2004」といった調子で続編がリリースされた。
 2007年1月26日には,シリーズ10作めとなる「マイクロソフト フライト シミュレータ X」がいよいよ登場。10作めともなると一つの節目であり,大きな期待が持たれていた。それに違わず,今回も最高峰/定番のフライトシムの名に恥じない内容となっている。ハードなベンチマークソフトを思わせる迫力のCGはもちろんのこと,今回はゲーム性を追求した51のミッション,30人以上もの声優を起用したATCなど見どころも多い。また,DirectX 10やWindows Vistaに最適化されているところも要注目で,最新の3D技術を体験したいという人にとっても押さえておきたいタイトルだろう。
 ちなみにこれは余談だが,実のところ今作は,初代から数えると12作品めに当たる。しかし,途中でVersion 5シリーズが二つあったり,内部的には「95」がVersion 6.0で,「98」はVersion 6.1に該当したりで,メジャーバージョンでカウントして「X」でちょうど10作めとなるそうだ。では,さっそく最新作の見どころに注目していこう。

 

グラフィックスの細かな調整も可能。最低/非常に低い/低い/中/高い/非常に高い/最高の7段階で画質が選べるほか,さまざまなカスタム化もできる。ちなみに写真は左から最低,中,最高となっている

 

タブで最高を選んだからといって,フルオプションになるかというと,そうではなかったりする。オブジェクトの密度を上げたり,アンチエイリアシングをオンにするのは手動で設定しなければならない。左は設定画面,中央がタブで最高を選択時,右がカスタムでフルオプションにした画面である。差が分かるだろうか?

 

 まずはフライトシムだけに,主役たる収録機体の話から。今回は24機種/99バリエーションの機体が選択可能となっており,ボリュームもなかなかのものだ。ちなみに収録機体は下記のとおり。機体名の後ろにカッコ付きで書かれている数字は,塗装などのバリエーションの数だ。

 

「マイクロソフト フライト シミュレータ X」収録機体一覧
  • Airbus A321(4)
  • AirCreatlon Trike Ultralight(4)
  • Beechcraft Baron 58(4)
  • Beechcraft Baron 58 G1000(1)
  • Beechcraft King Air 350(4)
  • Bell 206B JetRanger(13)
  • Boeing 737-800(6)
  • Boeing 747-400(7)
  • Bombardier CRJ700(4)
  • Bombardier Learjet 45(2)
  • Cessna C172SP Skyhawk(5)
  • Cessna C172SP Skyhawk G1000(1)
  • Cessna C208B Grand Caravan(3)
  • de Havilland Beaver DHC2(3)
  • DG Flugzeugbau DG-808S(4)
  • Douglas DC-3(6)
  • Extra 300S(5)
  • Grumman Goose G21A(7)
  • Maule Orion(6)
  • Maule Orion on skis(2)
  • Mooney Bravo(1)
  • Mooney Bravo G1000(1)
  • Piper J-3 Cub(3)
  • Robinson R22 Beta II(3)

 シリーズを通して機体は増え続けているが,本作でカットされてしまった機体もある。目立つところでは大型旅客機のBoeing 777-300がないのが残念だが,最もショックだったのは前作「2004」で大きなウリだった歴史的名機達だろう。人類初の動力飛行に成功した「1903ライト フライヤー」や,初めて大西洋無着陸横断を成し遂げた「ライアン NYP スピリット オブ セントルイス」といった往年の名機9種のうち,ダグラス DC-3以外は全機退場となってしまった。ダグラス DC-3だけを残すくらいなら,いっそ全部カットするか,全部残してほしい(できれば後者であることは当然だが)と思ったのは筆者だけではないだろう。
 新規に追加された機体として注目したいのは,AirCreatlon Trike Ultralightで,これはハンググライダーのような翼を持つ超軽量飛行機の一種であり,のんびり景色を楽しむにはうってつけだ。ヘリなら景色がのんびり見られるに違いないと思ったものの,実際にはヘリの操縦は難しく,景色どころの騒ぎではなかったというプレイヤーも多いと思うが,この機体ならのんびりした空の散歩が楽しめることだろう。
 またBoeing 777-300がオミットされた代わりといってはなんだが,今回の新機体であるAirbus A321も興味深い。本機は,世界で初めて油圧ではなく電気信号によって舵を動かすデジタルFBW(フライ・バイ・ワイヤー)を採用し,サイドスティックによる操縦を可能にしたハイテク旅客機である(余談だがBoeing 777-300はアナログFBWを採用して話題になった)。またボーイング社とエアバス社はライバル関係にあり,さらにそれぞれのファン同士が旅客機について熱く語りあうことが多い。前作では残念ながらエアバス社の機体は一機もなかったので,今回のAirbus A321の登場に喜んでいる人も多いかもしれない。

 

機体は24機種/99バリエーションから選択可能。グライダー,ヘリコプター,商用旅客機,ジェット機,ターボプロップ機,プロペラ機など,さまざまなタイプが用意されている 機体選択時に諸元表をチェックしたり,機体の登録番号などを設定したり,機体を拡大/縮小/回転させて好きなアングルで眺めたりできる

 

本格的なフライトを楽しむならコックピットビューがオススメ。こちらのほうがシムっぽくて落ち着くという人もいるのでは? コックピットや計器類のリアリティにも定評がある。仮想コックピットを選択すればぐるりと機内を見回すことも可能だ 仮想コックピットでは,マウスカーソルでレバーやボタンを直接操作できる。全スイッチが利用可能ではないが,臨場感のあるフライトが楽しめる

 

 

 

ゲーム性を強く押し出した“ミッション”

 

ゲームを快適に遊ぶにはゲームデバイスが欲しいが,価格/汎用性/省スペースを考えると,なかなか手が出しにくいもの。そこで「Microsoft Xbox 360 Controller for Windows」をオススメしたい。これでも十分にフライトは楽しめるし,快適な操作が期待できる

 ゲームモードにはフリーフライト,ミッション,マルチプレイヤーの3種類がある。それぞれのゲームモードを解説していこう。フリーフライトはこれまでにもあったお馴染みのゲームモードだ。航空機の種類(24機種/95バリエーション),位置(2万4491空港/223地域/1万5773都市),気象(寒冷前線/空を覆う雲と雨/激しい雷雨/豪雪/晴天/冬景色/発達中の嵐/暴風雨/霧),日時(季節/時刻など)を自由に設定してフライトを楽しむものとなっており,飛行機の挙動や景色を堪能できる。
 また,インターネットと連動し,現実と同じ気象条件を作り出せる。前作までと同様,凱旋門,自由の女神,エッフェル塔,神宮球場など,多数のランドマークが登場するので,そうした場所を探してフライトをするのもかなり楽しめるだろう。
 ストイックに飛びがちであるため,一般ゲーマーがエントリーしにくい独特の雰囲気を醸し出しているフライトシミュレーターだが,今回これを打開するべく導入されたのが,「ミッション」と呼ばれるモードである。これは,チュートリアルを含めた51のさまざまなミッションに挑戦できるもので,離着陸の練習や飛行機の操縦が学べるのはもちろんのこと,空中に浮かぶチェックポイントをできるだけ多く通過して着陸したり,物資を輸送したり,行方不明の仔ゾウを探したり,レースに出場したりする。ユニークなところでは制限時間内にできるだけ多くの小麦粉爆弾をターゲットに命中させるという具合に,どのミッションにも明確な目的が用意されているのだ。
 プレイ時間は短いもので5分程度,長いもので1時間以上かかるミッションもあり,どのミッションでも行くべき方向や場所にマーカーが表示され,音声による指示も臨場感たっぷりだ。全体に,かなり丁寧に作られている印象を受けた。
 またミッションの見どころ(?)の一つに豪華声優陣の起用もある。これまでの記事でも何度か報じているが,今回は堀内賢雄/磯部勉/池田秀一/小森創介/山本健翔など31名の声優を起用しており,ミッションの要所要所で彼らの声を聞けるようになっている。声優でミッションを選択するのもまた一興といえそうだ。
 マルチプレイヤーはGameSpyやLANを介して行うもので,同じ空を複数機で飛んだり,操縦士,副操縦士,管制官となってフライトを体験できたりする。一つの世界を最大32人で共有できるため,工夫次第でさまざまなプレイが楽しめそうだ。ロールプレイにいそしんでもいいし,手軽なところでは仲間で集まってレースなどに興じるのもいいだろう。

 

夕方のラスベガス。吹き上げる噴水や炎など,現実そのままのオブジェクト類も見事に再現する凝りよう エッフェル塔。近くには凱旋門もあるので,ぜひとも探してもらいたい。写真の機体はBombardier Learjet 45 深夜のエジプト。ライトアップされたピラミッドやスフィンクスは,非常に美しく幻想的だ

 

小麦粉爆弾を的に命中させるユニークなミッション。ゲーム感覚で遊べるため,コテコテのフライトシムファンじゃなくても楽しめる サバンナでは動物なども登場する。同社の「マイクロソフト ズー タイクーン」からの友情出演(?)。このミッションでは仔ゾウを探して飛ぶ ミッションをクリアすると,ちょっとしたごほうびも。こうした要素は攻略心をくすぐるので,非常によいと思う

 

 

やはりVista&DirectX10環境が必要!?

 

 一通りプレイしてみての感想は,「前作に比べて何が劇的にすごくなったのかが,分かりづらいこと」というもの。光源の処理,高精度の地形データ,水面のきらめきなど,細かい部分が前作よりもパワーアップしていることは分かるし,ミッションの導入でゲーム性が向上したことも好感触。だが,「これは!」と驚愕するような追加要素が見られないのも事実。といっても,よくよく考えると,これは仕方がないことなのかもしれない。
 「2000」の段階で収録空港数は2万を超え,「2002」で音声によるATCやバーチャルコックピットが導入され,「2004」で雲の表現の大幅な強化やミッションの原型ともいえるモードが導入されている。ある意味,同シリーズはフライトシムとして,すでに一つの完成型を見出してしまったといっても過言ではない。
 フライトシムとしてこの先,望む要素があるとするならば,より軽いプログラム,より高精度のグラフィックスくらい。それから無理を承知で言わせてもらえば,オフィシャルで使いやすい機体やシーナリーのエディタ類だろう。エディタに関しては贅沢というものだろうか? そういう意味では,今回受けた印象は,当然といえば当然といえる。衝撃的な何かはなくとも,すべてがパワーアップしているのだから……。
 さらに言えば,現段階ですべてを評価するのは時期尚早かもしれない。というのも,本作はDirectX 10の機能をふんだんに使用しており,その真価を発揮させるにはWindows Vista&DirectX 10の環境が必要になるからだ。Windows Vistaの発売まであと数日だが,この二つの組み合わせが,本作をどのように変貌させるのか大いに期待したいところでもある。
 これについては,機会があれば,Vista環境下におけるグラフィックスの違いなどをレポートしたいと思っている。

 最後にちょっとプレイ内容以外の部分で要望を。同シリーズを長く遊んできたプレイヤーとしては,タイトルを重ねるたびにパッケージが小さくなったり,マニュアルが薄くなっていったりするのを少々寂しく感じている。オンラインで情報が見られるのもよいが,やはりフライトシミュレータシリーズといえば,ずっしりとしたパッケージだろう。同梱される読み応え抜群のハンドブック/マニュアルを開けば,PCの前でなくともフライトシムの世界に浸れた,それもフライトシムのファンにとっては大切な「らしさ」だったはずなのだ。フライトシムは大人のホビーである。大人が十分に満足できるためには,少しくらい割高でもかまわないからと思うのだが,いかがだろうか。

 

フルオプションにすれば,道路を走る車などもバッチリ表現される。だが,こうした演出のおかげで,ゲームはかなり重めとなっている 凱旋門付近。Vistaの導入でランドマークのグラフィックスもパワーアップするのだろうか? 気になるところである 夜のラスベガス上空。街全体が明るいのはさすがラスベガスといったところだ。現実同様,有名ホテルもずらりと登場する

 

目の前にフジテレビ,奥には東京タワーや新宿のビル群が。オペラシティやパークハイアットなど,有名なビルは形状も見事に再現 高々度飛行中,地表のテクスチャはまるで空撮したような雰囲気。写真の機体は運動性能に優れたExtra 300S 本作で数少ない軍用機。爆撃などはできないが,これはこれで味があってよい。個人的には,もっと軍用機が欲しかったところだ

 

タイトル マイクロソフト フライト シミュレータ X
開発元 Aces Studio 発売元 マイクロソフト
発売日 2007/01/26 価格 9870円(税込)
 
動作環境 N/A

(C)2006 Microsoft Corporation. All rights reserved.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/fsx/fsx.shtml