― レビュー ―
スイッチでオーバークロック設定が可能なFatal1ty印のRadeon X800 XL
Fatal1ty X800 XL 512MB
Text by 石井英男
2005年10月12日

 

 

■ブラケット部分のスイッチでクロックを変更可能

 

 グラフィックスチップは,CPUなどと同様に,ある程度の動作マージンを持っている。この動作マージンを利用して,定格よりも高いクロックで動作させるのが,オーバークロックである。一般的なグラフィックスカードでも,ドライバ付属ユーティリティなどを利用すればオーバークロック動作が可能だが,これは完全に保証外のため,あまりPCの知識がないタイプのゲーマーにとってはリスクが高い。

 

Fatal1ty X800 XL 512MB
Johnathan Wendel氏のハンドルネーム「Fatal1ty」を冠するだけに,同氏プロデュースという位置づけだ
問居合わせ先:恵安 info@keian.co.jp

 今回紹介するABIT Computer製Radeon X800 XL搭載グラフィックスカード「Fatal1ty X800 XL 512MB」(以下Fatal1ty X800 XL)は,クロック切替スイッチを装備している。標準でノーマルモード(定格動作)とターボモード(オーバークロック動作)の切り替えがサポートされているのが特徴だ。
 切り替えはブラケット部のスイッチで行う。つまり,ケースに取り付けた後でも,内部にアクセスせずに行えるわけだ。スイッチを押し込むとターボモードに切り替わり,もう一度押せばロックが解除されてノーマルモードに戻る。
 ノーマルモードでのコアクロックは400MHz(付属ツールによる実測では398MHz),メモリクロックは1GHz相当(500MHz DDR,実測では986MHz)だが,ターボモードにすることで,同420MHz(実測419MHz),メモリクロックは1.1GHz(550MHz DDR,実測1.094GHz)に上昇する。クロック切り替えは,BIOS ROMの切り替えによって実現しているため,PCの電源を落とした状態で行う必要がある点には注意が必要だ。

 

出力インタフェースはD-Sub,DVI-I,S/コンポジットビデオ。グラフィックスメモリ512MB版Radeon X800 XLのリファレンスカードとは異なり,デュアルDVI-I仕様ではない

 

グラフィックスメモリ512MB版Radeon X800 XLのリファレンスカード(いずれも右)と比較してみた。出力インタフェースだけでなく,Rage Theaterを搭載していないという違いもあるので,コンポーネント出力は行えない。一方,メモリチップなどにヒートシンクを搭載しているのが確認できる

 

 どのモードで動作しているかは,スイッチの近くにある2個のLEDをのぞき込めば分かるのだが,それ以上に,基板上に配置されている複数のLEDによって,誰の目にも明らかになっている。詳細は下のリンクから再生できるムービーで確認してほしいが,ターボモードではLEDが高速に点滅する。
 このあたりはFatal1tyブランドらしい仕様といえるだろう。派手好きで,側板にクリアパネルが埋め込まれているケースを好む,欧米のゲーマーへの配慮といえそうだ。もちろん,日本のゲーマーであっても,ゲーマー向けとして販売されているPCやケースの一部,ケース内部をのぞき込めるようになっている製品なら,派手な点滅をいつでも堪能できる。

 

左がノーマルモード,右がターボモードにおけるLED点滅の様子。それぞれ5秒ずつMPEG-1形式のムービーにし,まとめてzipファイルにしておいたので,チェックしてみてほしい

 

 

■ターボモードでは,リファレンスと比べて3〜4%高い性能を発揮

 

クーラーを外すと,R430コアのRadeon X800 XLチップを確認できた。ただし,刻印はなぜかRadeon X800 Proになっている

 それでは,その実力を検証してみよう。テスト環境はに示したとおり。比較対照用として,グラフィックスメモリを512MB搭載するRadeon X800 XLリファレンスカードを用意した。以下,垂直同期と解像度以外の設定を変更しない状態を「標準設定」,6倍(6x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「6x AA&16x Anisotropic」と呼ぶことにする。
 リファレンスカードのコアクロックは400MHz(実測398MHz),メモリクロックは1GHz相当(500MHz DDR,実測986MHz)。つまり,ターボモードに設定しない限り,Fatal1ty X800 XLのノーマルモードとリファレンスカードのスペックはまったく同じである。なお,テスト時期の都合で,ドライバがCatalyst 5.7となっている点はご容赦いただきたい。

 

 

 まず,「3DMark05 Bulid1.2.0」(以下3DMark05)の総合スコア(グラフ1,2)から見てみよう。Fatal1ty X800 XLのノーマルモードは,リファレンスカードに比べてスコアが3〜4%低いのが気になる。同じスペックでありながらFatal1ty X800 XLのノーマルモードが明らかに低いスコアである理由は不明だが,オーバークロックを前提に,メモリアクセスのレイテンシを大きく取っている可能性はある

 

 ターボモードを有効にすると,今度はリファレンスカードに比べて2〜3%程度スコアが高くなった。ただし,ターボモードではコアクロックで約5%,メモリクロックは約10%上がっているので,クロック上昇分に見合ったスコア向上は実現できていない。

 

 

 

 次に「DOOM 3」のTimedemoを利用し,平均フレームレートを計測してみた(グラフ3,4)。
 結果は3DMark05と同様だ。ノーマルモードではリファレンスカードに遅れを取るFatal1ty X800 XLだがターボモードでは一転,リファレンスカードによりも3〜4%ほど高いスコアを記録している。

 

 

 

 最後に,「TrackMania Sunrise」を利用したベンチマーク結果をグラフ5,6に示す。TrackMania Sunriseにおいては,53秒程度で1周する「Paradise Island」というマップのリプレイを3周繰り返し,その間の平均フレームレートを「Fraps 2.60」を利用して計測している。
 いささかイレギュラルなスコアが出ているので,先に説明しておくと,リファレンスカード使用時における1024×768ドット,標準設定のスコアが異常に高い。だが,ほかの解像度や,フィルタ適用時には3DMark05やDOOM 3と同じ傾向を見せているので,このスコアは今回のテスト環境でのみ生じた特異な例と判断していただければと思う。
 この例外を除くと,やはりFatal1ty X800 XLは,リファレンスカードと比べて,ノーマルモード時は3〜4%性能が低い。一方,ターボモード時は3〜4%高い性能を発揮する。この傾向は変わらない。

 

 

 

 

■消費電力は気にならないレベル。冷却性能にも不安はない

 

 消費電力とチップの温度もチェックしておこう。いずれの場合も,PCを起動してから30分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark05を30分間連続実行させた直後を「高負荷時」とした。計測時の室温は27℃で,テスト用システムはケースに入れず,バラックのまま検証している。
 まず消費電力は,ワットチェッカーでチェックした。その結果がグラフ7だ。ここで計測しているのはあくまでシステム全体の消費電力だが,グラフィックスカード以外のパーツ構成は同じなので,その差はグラフィックスカードの消費電力の差と等しくなる。ターボモードの高負荷時は,リファレンスカードに比べて消費電力が3Wほど大きくなっているが,大した差ではないといえる。ターボモードを常用するとしても,そのために電源を用意する,といった必要はない。

 

 

 次に,リファレンスカードとは異なる形状のクーラーが持つ冷却能力をチェックしてみよう。Fatal1ty X800 XLでは,付属の専用ユーティリティ「vGuru」によって,グラフィックスチップの温度を計測できるので,これを利用することにした。
 なお,Catalyst 5.7にはグラフィックスチップの温度を読み取る機構がないほか,vGuruも利用できなかった。このため,温度計測はFatal1ty X800 XLでのみ行っている。

 

 さて結果だが,グラフ8にまとめたとおりである。アイドル時はいずれも44℃で,高負荷時にはノーマルモードで61℃,ターボモードで70℃まで上昇した。ターボモード時が少々高めというだけで,シングルグラフィックスカードとしては問題のないレベルだ。

 

 

 

■実は安定指向の人に向くFatal1ty X800 XL

 

 ターボモードに切り替えても,リファレンスカードに比べて3〜4%という差をどう捉えるかだが,この差はまず体感できない。一方,グラフィックスメモリを512MB搭載するだけあって,Radeon X1000シリーズが発表された10月上旬現在も,実勢価格は5万円を超える。性能とコストを考えると,かなり厳しい評価をせざるを得ない。

 

 ただ,ノーマルモードとターボモードをBIOSの切り替えで実現しているということは,要するにBIOSの二重化が行われているということでもある。万一どちらかのBIOSが破損した場合でも,カード自体はもう片方で使い続けられるという意味では,一度システムを組んだら長く使うタイプのゲーマーに勧められそうだ。
 少なくとも向こう1年の間に,パフォーマンス面で大きな不満を感じることはないと思われる。グラフィックスカードの取り付けや換装に伴うトラブルの対処にまだ自信のないゲーマーなら,購入を検討する価値があるだろう。

 

タイトル ATI Radeon X800
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2004/05/11 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.