― レビュー ―
魅力的な要素がギュッと詰まった,上質な絵本のようなRPG
マイクロソフト フェイブル:ロスト チャプター
Text by 星原昭典
2005年11月10日

 

■自分で生き方を決めるRPG:善人となるか悪人となるか

 

善人となるか悪人となるか。展開する物語の中で,その判断がプレイヤーに委ねられる場面は少なくない

 シングルプレイ専用のRPG「Fable」は,2004年にXbox専用タイトルとしてリリースされた作品だ。日本語へのローカライズも行われ,こちらは2005年3月にリリースされている。
 今回紹介する「フェイブル:ロスト チャプター」は,このXbox版の,PCへの移植作。単なるベタ移植ではなく,インタフェースの改良やマップ/シナリオの拡張といった各種の要素追加が施されているのも特徴だ。

 

 発売前から話題になっていたのが,その内容もさることながら,本作がLionhead Studiosの作品であり,同スタジオのボスであるピーター・モリニュー氏も開発に関わっているということ。このモリニュー氏の実績については,ちょっと前からPCゲームを遊んでいる読者なら,十分に知っていることだろう。「ポピュラス」「ダンジョンキーパー」「ブラック&ホワイト」といった個性的な作品を生み出してきた,世界的に有名なゲーム開発者である。

 

  フェイブルでプレイヤーが操作し,成長させていくのは,複数の人物からなるパーティではなく,一人のプレイヤーキャラクターである。ストーリーは,彼(主人公は男性で,性別の変更はできない)の少年時代から始まる。盗賊によって村を滅ぼされ,天涯孤独になった主人公が,英雄ギルドでの修行を経て,年齢を重ねながら冒険を続けていく。
 この年齢の移り変わりに合わせて,プレイヤーキャラクターの風貌も変化する。段階的に身体が大きくなるのに加えて,ゲーム内でとった行動によって外見に変化が現れるところが,本作の見どころの一つだ。人々に喜ばれる良い行いを続ければ,主人公はまなざし優しく,頭上には光輪をいただいた外見を持つキャラクターになっていく。逆に悪い行いを続けると目つきが悪くなり,顔色は青白く,さらに額からは角さえも生えるといった具合である。モリニュー氏の「ブラック&ホワイト」でも使われていた,あのシステムだ。

 

上の3枚は善人としてのプレイ時,下の3枚は悪人としてのプレイ時のもの。キャラクターの外見がどのように変わっていくのかが分かると思う。髪型やひげの形,それにタトゥーは理容師や彫り物師のところで変更可能だ。これらは外見だけでなく,好感度やモラルの値にも影響を与える。中には,思わず笑ってしまうような形のひげや髪型もある

 

 また,その世界でどのように振る舞っているかによって,自分に対する街の人の反応も変わっていく。人々は,良い英雄に対しては「あなたって素晴らしい人ね」「いつかあなたみたいな英雄になりたいな」などと,悪漢に対しては「ブーブー!」「もういいかげんにして!」などと話しかけてくる。
 この“話しかけてくる”というのは,会話ウィンドウなどが勝手に開くのではない。文字ではなく,サウンド(日本語音声)とビジュアル(身振り)で,人々の自分に対する評価が直感的に把握できるところがとても面白い。

 

 こういった,風貌の変化や町の人の反応に影響するのは,「名声」と「モラル」というパラメータである。「名声」は善悪とは無関係に,主人公がどれだけ有名かを表すものだ。要するに,この世界で活躍すればするほど名声は高まっていく。
 一方の「モラル」は,善悪の度合いを表すもの。こちらは,成した行いの内容/質によって変わっていく。
 「モラル」を高めるには,人々に施しをしたり,悪いモンスターを倒したり,人々を助けるクエストをクリアしたりすればよい。逆に「モラル」を下げたい場合は,街道を歩いている旅人を殺したり,人々を困らせるようなクエストをクリアしたりすればよい。とくにクエストによる上下動の幅は大きく,その節目節目でどのような選択をするかが,主人公の善悪を強く方向付けることになる。

 

 例えばゲーム序盤のクエストに,「果樹園の警備」あるいは「果樹園の襲撃」というものがある。前者は盗賊の襲撃から果樹園を守るクエストで,後者は逆に盗賊側に手を貸すクエストだ。この二つは当然,どちらか一方しか選べない。プレイヤーがどちらのクエストに手を伸ばすかによって,主人公のモラルが変化していくというわけだ。
 また,山賊の頭領と決闘するクエストでは,打ち倒した頭領の命を奪うか,それとも情けをかけて見逃してやるかを選ぶことになる。ここでもプレイヤーの選択が,主人公の「モラル」に大きな変化を与えることになる。

 

街の中で人を攻撃したり,盗みを働いたりすると罰金が課せられる。ただしこの世界では,お金さえ払えば殺人も許してもらえる モンスターや山賊を倒していると,モラルは自然と上がっていく。悪を演じたいのであれば,一般人を積極的に殺す必要も……? セリフ/メッセージは,音声データに至るまで完全に日本語化されている。翻訳センスはなかなか良く,個人的にはかなりの高評価

 

 

■街の人々の行動に要注目!

 

人気が高まるにつれて,主人公に好感を持つ人は増えていく。街に行けば,頭上にハートマークを浮かべてこちらを見ている人を頻繁に見かけるようになる。ときには,こちらを熱い眼差しで見つめる男性に出会うことも

 フェイブルに登場する街の人々は,みなイキイキとしている。この作品の作り手達のこだわりと遊び心が最も多く注ぎ込まれているのは,まさにここであるように思えるほどだ。
 街の人々にはそれぞれ生活パターンがあり,それに沿って行動している。ゲーム内時間の昼間には,多くの人が通りに出て,思い思いの行動をする。道ばたでおしゃべりに花を咲かせる女性達もいれば,ベンチに腰掛けて休憩している男性の姿も見られる。すべての店は営業中で,通りには衛兵の姿が多く見かけられる,といった具合だ。
 夕方になると「店じまいの時間だー」と声が聞こえ,商店の店主達はカウンターから歩きだし,店の扉に鍵をかける。この時間に最も活気づくのは酒場だ。仕事を終えた多くの町人は酒場に集まり,夜の時間を楽しむ。夜が更ければ人々の数は減っていき,通りには衛兵の姿以外あまり見られなくなる。

 

 そして単なる見かけだけではなく,セリフのパターンがとても豊富で,かつそれぞれが適切であることは特筆したい部分である。彼らのセリフは,基本的にテキスト表示ではなく音声で表現される。驚いたのは,その日の授業が終わって学校の扉を閉めようとしている先生に声をかけたとき,「今日はもう終わりだから,また明日来てください」と返ってきたことだ。おそらくすべてのキャラクターが,豊富に用意されたセリフの中から,適切なタイミングで適切なセリフを発するようになっているのだろう。
 あまりにも違和感がないので,実際にプレイしているときはなかなか気がつかないのだが,一歩引いて考えてみると,この違和感の少なさこそが,実は多くの開発努力によって作り上げられたものだと分かる。
 さらに名声などが高まると,好きな町の人に声をかけて,自分の後をついてこさせることが可能になる。また,その状態でモンスターが攻撃してきたときには,応戦してくれるものもいるのだ。実際には,彼らは戦力としてあまり役に立たないことが多いのだが,ともかく“そういうことができるようになっている”ことにこだわりが感じられる。

 

 プレイヤーは,街の中で売りに出されている家屋を購入することで,それを自分のものにできる。さらにお金を払えば改装することもできるし,その家を貸して,家賃収入を得ることも可能だ。
 家を持つことには,もう一つ重要な意味がある。ゲーム内で結婚をするために必要な条件の一つが,「自分の家を持っていること」なのだ。
 ゲームを進めてプレイヤーキャラクターの評判が高まってくると,街の中で,頭上にハートマークを浮かべた女性が増えていく。彼女達に話しかけると,「私のすべてはあなたのものよ」などという反応が返ってくるのである。そんな女性達にプレゼントをしたり,「口説く」「セクシーポーズ」といったジェスチャーを使ったりしてアピールを繰り返すと,頭上のハートマークがどんどん大きくなっていく。
 十分に好感を与え,条件を整えたあと,結婚指輪を使ってプロポーズすれば,晴れてゴールインだ。結婚後は奥さんと自宅でイチャイチャすることで,ベッドインも可能である。
 ちなみに,街ではハートマークを浮かべた“男性”を見かけることもある。彼らはこちらを見て,「なんて素敵なんだ」みたいなことをつぶやいている。筆者自身はなかなか試せないでいるのだが,彼らと結婚することもできるのだろうか……。

 

強敵から奪い取った戦利品「トロフィー」を人々に見せびらかすと「名声」が上がる。これは,時間内に何人に見せられるかに挑戦するミニゲームのようになっているので,人が多く集まっているところを見つけたら試してみよう 奥さんに,「一緒に休まな〜い?」と誘われた。肝心の(?)ベッドシーンは,プレイした人のお楽しみということで

 

街の酒場では,トランプなどを使ったミニゲームを楽しめる。遊べるゲームは酒場ごとに異なっており,その種類は多い。まさにドラクエのカジノのようなもので,ストーリー進行には関係ないものがほとんどだが,見つけたら自分から積極的に遊んでみよう。このようなお遊び要素がふんだんに用意されているところが,フェイブルの魅力の一つである

 

 

■戦闘,クエスト,マップ。各要素はスリムにまとまっている

 

自身に魔法をかけて,ハンマーを構えて突き進む魔法戦士。このようなハイブリッドな成長のさせ方が一般的だとは思うが,弓や魔法だけに経験値を注ぎ込むことも可能だ

 コンピュータRPGでは,戦闘はとくに重要な要素だ。本作のそれは,非常にアクション性の高いものになっている。攻撃方法は「剣や斧による攻撃」「弓による攻撃」「魔法による攻撃」の3種類だ。
 主人公キャラクターには,クラスのようなものはとくに設定されていない。また,キャラクターレベルのようなものもない。ゲーム中で剣や斧を使って攻撃すると「強さ」の経験値が,弓を使って攻撃をすると「スキル」の経験値が,魔法を使って戦うと「ウィル」の経験値が蓄積されていく。この経験値を消費して,それぞれのカテゴリに属する“能力を買う”ような形で,キャラクターは強くなっていく。
 また経験値には,上記のもの以外に,倒した敵が落とす「XPオーブ」を拾うことによって得られるものもある。この経験値はオールマイティなもので,どの系統の能力でも買うことができる。つまり,戦闘で弓や魔法をまったく使わずにいても,この経験値を使えば,それらの技能を伸ばせるということだ。
 実際には,剣,弓,魔法のどれか一つに特化して育てていくのではなく,一応得意分野を決めつつ,それ以外も少しずつ上げていくというプレイヤーが多くなるのではないだろうか。そのほうが,効率良くキャラクターの総合的な戦闘能力を高めていけるからだ。

 

 ちなみに主人公は,ゲーム内で「ギルド」という団体に所属している。「ギルド」にはアルビオン(フェイブルの舞台となっている世界の名前)の各地からクエストの情報が集まってきており,プレイヤーはその中から任意のものを選べるというわけだ。
 クエストには,メインストーリーを進行させるためのクエスト(いわゆるメインクエスト)と,それ以外のクエスト(いわゆるサブクエスト)がある。数の比率としては,「メインクエストの数よりも,それ以外のクエストの数が若干少ないかな」という印象だ。
 実際のプレイは,「基本的にはメインクエストでストーリーを進めつつ,プラスαで横道も楽しむ」といった感じになる。このバランスは,“労せずしてストーリーの流れを堪能できる”という利点を持っている。どれがメインクエストで,どれがそうでないかはジャーナルで確認可能なので,必須のクエストのみをたどってまっすぐにエンディングへ向かうことも可能だ。

 

 冒険の舞台となるマップは,数多くのエリアをつなぎ合わせたような構造になっている。一つ一つのエリアは比較的小さく,世界全体を見渡してもそれほど「広い」「でかい」という印象は受けない。しかしそのぶん,各エリアは細かく作り込まれている。適度にデフォルメされたオブジェクトが綺麗に配置されたマップは,見ていて,また歩いていて楽しいものに仕上がっている。

 

多数の敵と渡り合うときには,位置の取り方なども重要。アクションゲームの腕前が問われるところだ エリア魔法で多くの敵をまとめて攻撃。音や光のエフェクトが派手なので,大型の魔法は使っていて気持ちがいい クエストは普通に遂行するだけでなく,自身にペナルティを課してクリア報酬のアップを狙うことも可能

 

Spaceバーを押すことでターゲットをロックすれば,常にその敵を正面に捉えられる。弓やファイヤーボールの魔法など,射出型の攻撃手段で戦うときには重宝する。ただし,剣やハンマーなど直接攻撃系武器を使っての乱戦時にはロックしないほうが戦いやすいこともあるので,状況に合わせて使い分けよう

 

 

■「大人も楽しめる絵本」のような作品

 

プレイヤーは,さまざまな形でゲーム世界に干渉できる。これは「友達の作り方」という本を街の学校に寄付したところだ。このような,ちりばめられた遊び心を楽しめるかどうかで,本作への評価は変わってくるだろう

 海外産であることや,「自分がとった行動によって世界が変化する」といったフィーチャーから,本作について,Elder Scrollsシリーズのような,とても広い世界を体験できるゲームであると考えている人もいると思う。だが本作は,海外産シングルプレイ専用RPGによくある,だだっ広い世界にポーンと投げ出されて,そこを好き勝手に散策できるタイプのRPGではない。むしろ世界は手頃なサイズにまとまっており,メインストーリーは一本の道をたどるような感じで味わえる。要所要所で選択した行動は,主人公の外見と街の人々の反応に大きな変化を与えるものの,それによってメインの物語が大きく変化したり,分岐したりといったことはないようだ。

 

 難度はさほど高くなく,「レベル上げ」のような作業もあまり必要としない。おそらくほとんどのプレイヤーは,それほど迷ったり悩んだりしなくてもエンディングまでたどり着けるだろう。PCゲーマーが海外産RPGに対してしばしば抱く印象(=難しい,不親切など)とは裏腹に,戦闘とストーリーに関しては,RPG初心者でも楽しめる内容になっている。遊びやすさ,という意味では家庭用ゲーム機に近いのかもしれない。

 

 シングルプレイRPGには,「広大な世界」とか「壮大なストーリー」とかいうウリ文句が付くことが多いが,フェイブルは別に広大でも壮大でもない。しかし本作は,決してチープでもない。この理由を読み解くキーワードは,本作のタイトルでもある「Fable」(寓話)という言葉だろう。
 多くの寓話や童話は,こと細かな世界設定や長大なストーリーを持っているわけではないが,コンパクトな物語の中に印象的なエピソードや興味深いエッセンスが凝縮されているものだ。この作品もそれと似ており,広大ではないが作り込まれた美しいマップと,壮大ではないがテンポが良くて変化に富んだストーリーが,グッとまとめられている。大作系のシングルプレイ専用RPGを,長編,連作のファンタジー小説とするならば,フェイブルは,上質の絵本のような作品といえるかもしれない。

 

 本作で注目すべきポイントは,街の人々の自然な行動と,それに対してさまざまな働きかけを行えるインタラクティビティの高さだろう。
 自分の振る舞いが人々に影響を与える。そこに住む人々が変われば,プレイヤーの目に映る世界も変化する。そして世界と自分の関係が変わり,そこからそのプレイヤーだけの物語が発生していく……。作り手が初めに目指していたこのゲームの新しさは,そういったものだったのではないかと想像する。しかしそれを実現するのは,あまりにも難しかったのだろう。結果的には,エンディングへと続く一連のストーリーが用意され,自分が変わったり,人々が変わったりといった要素は,本筋にはあまり影響を与えないお楽しみ要素として残った。
 とはいえ,これらの要素が興味深いものであることには変わりない。クエストだけを追いかけていると,この部分の面白さを見逃してしまうことになるので,プレイするときは,人々との交流という寄り道を積極的に楽しんでほしい。「RPGとはこうあるべきだ」といった固定観念に囚われず,柔軟な発想やユーモアに触れることに喜びを感じるような熟練ゲーマーにとっては,この部分はかなり興味深いはずだ。

 

リアルさの中にファンシーなテイストをまぶした,独特なセンスで描かれる世界。エリアの一つ一つはそれほど広くないのだが,窮屈な感じはしない。エリアが細かく分かれているので,旅の道程では風景が次々と切り替わり,見ているものを飽きさせない。それがPC版ならではの精細な画面で楽しめるのも嬉しい

 

英雄としての腕試しのために,アリーナでの戦いに参加。ここでは,次々と現れる敵を連続で撃破しなければならない。多くの敵が現れた場合は,トラップを有効に活用することで,その数を減らすことが可能だ 各地で見かける顔のついた扉は,その要求に応えることで開く。中では高性能なアイテムが見つかることも

 

タイトル マイクロソフト フェイブル:ロスト チャプター
開発元 Lionhead Studios 発売元 マイクロソフト
発売日 2005/11/11 価格 5040円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP(DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/500MHz以上(Pentium 4/1.4GHz以上推奨),メインメモリ:256MB以上,HDD空き容量:500MB以上(インストール時には4GB以上必要),グラフィックスメモリ:32MB以上,グラフィックスチップ:Radeon 9800以上またはGeForce 4以上

(C) Copyright 2005 Lionhead Studios. All rights reserved. Microsoft and Xbox are either registered trademarks or trademarks of Microsoft Corp. in the United States and/or other countries.

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http://www.4gamer.net/review/fable/fable.shtml