100人がプレイすれば100通りの物語が生まれるRPG
足の向くまま気の向くまま,広大なゲーム世界の中を好き勝手に歩き回る喜びをかみしめよう。目の前には選択肢があるだけ。何を選ぶか,あるいは“何も選ばないこと”を選ぶのか,すべてはプレイヤーの自由だ。 |
「The Elder Scrolls IV: Oblivion」は,実を言うと,以前から大いに注目していた作品だ。2005年のE3で,プロデューサーのTodd Howard氏直々のプレゼンテーションを見てからは,さらに期待が高まっていた。そのOblivionが,ようやく3月に欧米で発売されたので,筆者は個人的に購入して楽しんでいるのだが……,やってみると,「やっぱりスゴイ!」。海外のメディアでも,軒並みかなりの高評価となっているようだ。
そんな折,4Gamerからレビューの依頼を受けた。聞けば筆者と同じように,個人的にプレイしている人が編集部内に数名いるらしい。
現時点で日本では,日本語版どころか,日本語マニュアル付き英語版さえ発売の予定がない。そのため本作を購入するには,海外ソフトを扱っている店/通販などを利用する必要がある。にもかかわらず,4Gamer編集部からレビューの依頼が来て,筆者も承諾した。なぜなら,編集部も筆者も,本作を少しでも多くの人に知ってもらいたいと思ったからだ。本作は,仕事でゲームに携わる人をも夢中にさせる,作品なのである。
なお,前述したように筆者も本作を(仕事を引き受ける以前から)個人的にプレイしており,一度はクリアしているが,本作のボリュームから考えると,全体の半分以上を見たとは断言しにくい。そのため,いくつか抜けて落ちている重要な要素があるかもしれないが,なにとぞご了承いただきたい。
Oblivionは,簡単にいえば,ファンタジー世界を主人公が(基本的には)たった一人で冒険する,シングルプレイ専用RPGだ。
本作のプレイは,一人称視点で進めていく。三人称視点への切り替えも可能だが,戦闘時にうまくターゲットを合わせるのが難しいので,こちらは主に移動時に使用することになる。基本的にマップ移動モードや戦闘モードといった画面の切り替えはなく,それらはシームレスにつながっている。
……というと,どうしても古めかしい印象を受ける人もいるだろうが,その印象自体は間違いではない。しかし本作は,そういった過去のRPGが目指してきたものの,現時点での到達点と言って過言ではないのだ。「Ultima」「Wizardry」によって生まれたコンピュータRPGの,順当な進化の結果の一つが,本作なのである。それを,順に説明していこう。
まず本作には,実に広大な舞台が用意されている(世界全体はほかのシリーズ作と共通するが,本作で描かれるのは,Cyrodiilと呼ばれる一地域。でも十分広大)。この世界は,RPGジャンルとしては現時点で最高峰のグラフィックスで描かれており,かつ物理エンジンにHavokが採用されている。その美しさ,SpeedTree(植物生成エンジン,とでも言おうか)による林や森の見事さ,Havokによる挙動の自然さ……まるで,どこかに本当にあるんじゃないだろうという錯覚すら覚えてしまう。
いや,「まるでどこかに」といった表現は従来のゲームでも幾度となく使われてきただろうが,本作はその作り込みが尋常ではない。HDRレンダリングによって描かれた景色は美しいの一言だし,手にした剣一本まで細かく描かれているなど,緻密さも見事だ。洞窟の天井から垂れ下がっている植物のツタなどは,当たったり剣で斬りつけたりしたら,ちゃんと力の加わった角度/スピードに応じて,動く。お店の看板は,風が強い日は揺れているし,もちろん殴りつけることでも大きく揺れる。テーブルの上に置かれた花瓶を持ち上げられるのはもちろん,うっかり倒してしまったのを,うまく操作して,また立てることも可能。生物の死体だって例外でなく,つかんで動かすことで姿勢を変えたり,持ち上げたり,川に投げ入れて「浮かぶんだなぁ」と眺めたりする(?)こともできる。
「Half-Life 2」を挙げるまでもなく,こういった美しいグラフィックスと物理エンジンを組み合わせた「現実味のある架空世界」は,FPSジャンルではもはや珍しくない。しかし,こういった世界は,その世界を自由気ままに冒険できるRPGジャンルにこそよりふさわしいのではないだろうか。
さて,前置きが長くなってしまったが,Oblivionはこの作り込まれた箱庭の中に,自分で作成したキャラクターを放り込み,その中で好きなように生きられるRPGである。
この世界には時間の流れが存在し,昼夜の移り変わりはもちろん,雨が降ったり,雷が鳴ったり,高山に登れば雪が降ったりもする。
NPC達も,各自の生活スケジュールに合わせて行動しており,食事したり,仕事をしたり,夜には眠ったりしている。ここまででも十分凄いが,本作で驚くのは,NPC同士にもコミュニケーションが存在する,ということである。彼らは街中で会話していたり,喧嘩していたりする。時には別のNPCからスリを働いている(そして見つかって袋叩きに遭っている)NPCを見かけることもあるだろう。
この世界でプレイヤーは,自分の家を購入できる。購入できる家は,九つある街にそれぞれ大抵一つは用意されており,クエストをクリアすることで無料で手に入るものから,非常に高額のものまで存在する。家には家具を置け,家具にはさまざまなオブジェクトを配置できる。本棚に入っている一冊の本を開くと,実に100ページ以上もの英文が書かれていたりすることもある。
画面の美しさは前評判のとおり。描画のためにマシンにかかる負荷はもちろん高いが,ゲームのために定期的にマシンをアップグレードしているような標準的なPCゲーマーの環境であれば,このクオリティでそれほどストレスと感じることなくプレイできるはず |
冒頭で出会う皇帝に声をあてているのは,「新スタートレック」のピカード艦長役で有名なパトリック・スチュワート | ジャーナルは前作よりも使いやすくなった。個別に進捗状況を確認できるので,いくつものクエストを同時に進めるのも容易 | レベルアップ時には好きなアトリビュートを上昇させられるが,その上昇量は,最近どのスキル(マイナー含む)を使っているかで変わってくる |
バラエティに富むクエスト群。オンラインRPGとは格が違う!
薄暗い地下霊廟へと足を踏み入れた。しめった空気の向こうからは,ゾンビの足音やスケルトンの骨がカラカラ鳴る音が聞こえてくる……。このいかにも“地下迷宮”といった雰囲気は,好きな人にはたまらないはず |
では,この世界でプレイヤーは何をしたらいいのだろうか? 一応,オープニングからつながる一連のメインクエストもあるにはあるが,それを進める/進めないの判断はプレイヤーに委ねられている。周囲の期待に応えるようにメインクエストをまっすぐに進めても構わないし,世界の行く末(「エンディング」と言い換えてもいいだろう)などにはまったく関心を持たずに,自由にぶらぶらとこの世界を楽しむのもまたよい。
もちろん,いかに自由に行動できるからといって,その世界がスカスカならば,つまらないだろう。しかし本作は,密度の点でも申し分なしだ。
例えば,一連のメインクエスト以外にも,クエストは山のように用意されている。クエストといっても,多くのMMORPGで見られるような,●●を倒せ,●×を▲個集めろ,といった単純なものとは,(シングルRPGなのだから当然といえば当然だが)次元が違う。
生き別れの兄弟を捜し出すといった比較的シンプルなものから,とある杖を手に入れたために,悪魔が常につきまとうようになってしまった女性を救うもの(この杖を手に入れたプレイヤーキャラは,自身が悪魔につきまとわれてしまう。実に邪魔だが,弱いうえに殺しても殺しても復活するので,レベル上げに良いという話も)。ある人物から依頼される,彼を尾行しているかもしれない3人の素行調査を行うもの(3人を尾行しても,とくに怪しい行動はない。実は……),夢の世界から戻ってこられなくなった人物を,こちらも夢の世界へ入り助け出してくるものなどまで,実にバリエーション豊かに取りそろえられている。
行方不明となった旦那を捜してほしいと頼まれ,彼の行方を知っているという金貸しの示した場所へ行ってみれば……といった,ちょっとシビアな展開を見せるクエストもあれば,ヴィンテージワインを集めるといった,軽いノリのクエストもある。またこの世界にはファイターギルドやメイジギルド,暗殺者ギルドやバンパイアの撲滅を目指すものまで,さまざまな組織が存在し,それらに所属することでも,独自のクエスト(任務)を得られる。むろん任務をこなしていけば,組織内での自分の地位を上げていくこともできる。
メインストーリーは気にせず,世界を回りながら行く先々で人々の悩みを解決していくなんていうプレイも,面白そうだ。あるいは逆に,初めからクエストなんか全部無視して,見つけた遺跡やダンジョンに端からもぐりまくり,腕を磨く修行者を演じるのもアリだろう。
クエストの中には,プレイヤーキャラクターの行動や決断によって内容が変化するモノもある。善行を貫くか悪行をなすか,あるいはそのときどきで態度を変えるのか,Oblivionでは主人公の属性/性格も自分で決められる。同じメインクエストを進めるにしても,このゲーム世界の中で自分がどのようなスタンスで立つのかによって,各プレイヤーのゲーム体験は異なったものになるはずだ。
信条を重んじ,困難な使命の達成に全力をかける正義漢としてプレイするのならば,その体験は英雄の道程を辿るようなものになるだろう。逆に,殺人や窃盗を繰り返しつつも,思うところあって少し世界を救う手助けをする気になった,なんていう態度でプレイを進めていけば,その冒険記はピカレスク・ロマンというべきものになるだろう。このようにOblivionのプレイ体験は,それぞれのプレイヤーの想像力次第で,まったく異なったものになる。100人がプレイすれば,100人全員がそれそれ違う冒険を味わう。この懐の深さが本作の最大の魅力だといえる。
戦闘時には,敵に向かって左クリックで武器を振るって,右クリックでブロックするという操作となる(魔法詠唱はCキー)。移動と攻撃のタイミングが重要なリアルタイム戦闘なので,本作のことをアクションRPGだと表現しても間違いではないだろうが,それが的確な表現に感じられないのは,この作品が始終戦ってばかりのゲームではないからだろう。Oblivionは敵を倒しまくって奪いまくるハック&スラッシュ系のRPGではない。無尽蔵にわいてくるモンスターを次々にうち倒すようなプレイにはならず,戦闘は探索中無理のない頻度で発生する感じだ。
敵とあまり戦わないというスタイルは,キャラクターの成長システムの面からも保証されている。Oblivionでは,敵を倒しても汎用の“経験値”のようなものは得られない。キャラクターの個性は種族やアトリビュート(いわゆる能力値)のほか21種のスキルで構成されており,これらスキルは,関連する動作を行うことで上がっていく(スキルキャップは100)。
そして自身が得意とする7種のスキル(メジャースキルと呼ばれ,キャラクターエディット時に選択可能。詳細は後述)が合計で10上がるたびに,キャラクターはレベルアップする。レベルが上がると任意で三つのアトリビュートを高められ(上昇量は,レベルアップまでに高めた全スキルによって変化),それに合わせてHealthやMagicka(魔法使用に必要なエネルギー)などの総量もアップする。
この仕組みの場合,ギルドホールにこもってひたすら魔法の練習をしたり,街の人達にドンドン話しかけてSpeechcraft(会話術)のスキルを上げたり,敵と戦わずにすむように忍び足を頻繁に使うことでSneakのスキルを上げたりと,戦闘以外の行動だけでもレベルアップ可能だ。これもOblivionが,多くの行動の選択肢を保証しているゲームであることを示す一例である。
キャラメイク時には,メジャースキルなどがあらかじめ組み合わされたクラス(というかテンプレート)を利用することも可能だ | NPCはそれぞれの生活スケジュールに沿って行動している(働いたり寝たり食事をとったり)ため,時間によっている場所が異なる | 売っている魔法が気に入らなければ,オリジナルスペルを作ってしまおう。複数の効果を組み合わせたり,威力を調節したりできる |
The Elder Scrollsの世界には,人間に近い姿のいくつもの種族のほか,トカゲやネコのような外見を持つ変わった種族も住んでいる。キャラメイク時にはそれらを含めた10の種族の中から好みのものをチョイスできる。また顔の造作や肌の色は,かなり自由に調整可能だ |
プレイヤーの想像力がキャラクターの血肉となる
基本的には,一人称視点でゲームを進めることになる。Xbox 360版がリリースされていることから想像できるように,操作方法は意外とシンプル。それこそ,設定さえできればゲームパッドのみのプレイも可能だろう |
Oblivionのプレイヤーキャラクターの個性を決定づける要素の中でも,最も影響が大きいのは,レベルアップに直結する七つのメジャースキルだ。プレイヤーはキャラクターエディット時に,全部で21あるスキルの中から七つのメジャースキルを選ぶ。残った14のスキルは,このキャラクターのマイナースキルとなる。あまり得意ではない(→メジャーに比べ成長しにくい)けれど,努力すれば高められる技能,といったところだ。
メジャースキルはスタート時のスキル値にボーナスがあり,プレイ開始後はそれ以外のスキルよりも楽に上昇していく。前述したようにキャラクターレベルの上昇に直結しているので,プレイヤーは自然と,メジャースキルを意識しながら冒険を進めることになる。そのためキャラクターの作成時には,まず自分がそのキャラクターにどんな活躍をさせたいのかをイメージし,それに合わせてメジャースキルを取っていけばよい。
例えば,丈夫な鎧を着込んで剣で戦う戦士が作りたいなら,Heavy ArmorとBladeのスキルをまず押さえる。自分で回復魔法が使えたほうが便利だと思えば,それに加えてRestorationのスキルをとる。さらに壊れた鎧が自分で直せると経済的なので,Armorerのスキルもとる……といった具合だ。
魔法による戦闘が得意なキャラクターが作りたいのであれば,攻撃用にDestructionとConjuration,防御魔法用にAlterationをとって,鎧も着たいのでLight Armorのスキルも押さえる……なんてパターンが考えられる。そのほか,スニーク系のキャラクターを作ることも可能だ。その場合は姿を隠すSneak,弓使用のスキルMarksmanを中心に,敵に接近されたときのためにBladeとLight Armorもつけて,さらに何か魔法スキルを1系統加えてみる……といった組み合わせが標準的だろう。
このようにOblivionには,“それを選ぶことでゲーム内でできることがカッチリ限定されてしまうクラス”というものはなく,得意なスキルやアトリビュートの組み合わせがそのキャラクターの個性を決める(キャラクターエディット時に21種類のクラスから一つを選択することも可能だが,これは,アトリビュート/スキルの組み合わせ例といった感じである)。この考え方は,「ウルティマ オンライン」のキャラクターの作り方と似ている。
このようにフレキシビリティの高いキャラクターメイクが可能なことは,Oblivionの大きな魅力の一つだ。そのほか,それぞれパワーと呼ばれる特殊能力を持つ種族,性別の指定が可能なのはもちろん,目の大きさや位置,鼻の高さ,その横幅,髪型,皮膚の色など,キャラクターの外見も,実に細かく設定可能。
そしてそのうえで,Oblivionではキャラクター作成後にも,そのキャラクターの成長の方向に多くの自由が残されている。
例えば先ほどのヘビーアーマーの戦士だが,彼が旅の途中でとても性能の高いハンマーを入手したとする。彼は剣に対して高い適性を持つ戦士だが,これ以降はハンマー使いの戦士として生きるという選択も可能だ。彼にとってBluntのスキルはマイナースキルなので,Bladeに比べれば伸びにくいし,さらに伸びたとしてもそのポイントはレベルの上昇には貢献してくれない(アトリビュートの上昇量には影響する)。しかし,それでも“選択可能”なのである。そういうプレイをする人は少ないかもしれないが,ここでは“そういったことも可能”であることが,ある種のゲーマーにとっては重要なはずだ。
このような選択は,システマティックな視点で眺めた場合,明らかに非効率的である。曰わく「キャラメイク失敗」や「アイテム運が悪かった」といったところだろうか。しかし,である。この選択がとても面白く見えるような視点も,想像できはしないだろうか。
そんな視点を持つプレイヤーの目に,このキャラクターはどう映るだろう。ある人にとっては「聖騎士の家系に生まれながら,偶然手に入れた魔法のハンマーに魅了され,運命を狂わされていく悲劇のパラディン」に見えるかもしれない。またある人には「目先の利益にこだわって,成長の遅いゴロツキ魔法戦士」に見えるかもしれない。Oblivionはそのような遊び方を許容する。こんな風にキャラクターシートから想像力を使って自分ならではの物語を夢想し,さらにそれをふくらませて楽しめる人にとっては,本作は何通りもの人生を楽しめる魅力的なゲームなのだ。
誰がプレイしても,まったく同じストーリーが展開し,決まったところで決まったイベントが起こり,決まったムービーが流れ,“主人公”はどこかの誰かが決めた設定に沿って勝手にしゃべり出す。好みの問題なので,どちらが上でどちらが下というわけではないが,明らかにOblivionは,そういったタイプのゲームとは対極に位置する作品であるといえよう。
Alchemyスキルを使った薬品調合の画面。モンスターの身体の一部や植物などを組み合わせて,武器に塗る毒や飲み薬が作れる | マップを使えばクエストの目的地が簡単に分かるほか,発見済みの場所であれば瞬時に(ゲーム内時間は流れる)移動可能だ | 野外であれば馬に乗っての移動も可能。借り物や盗んだものでなければ,Fast Travel時に自動的に最寄りの厩舎に入ってくれる |
NPCに対する話術の行使は,一種のミニゲームとして表現されている。Speechcraftスキルが高ければ交渉はより有利に進む | 物理シミュレーションにはHavokのエンジンを使用。敵の死体はラグドール効果によってグッタリと倒れる | 錠前はロックピッキングのミニゲームでこじ開けることが可能なほか,開錠の魔法を使うことでも開けられる |
底の見えない奥深さがプレイヤーを魅了する
十分綺麗に見えるだろうが,これでもまだ,本作の最高画質ではない。Radeon X1000シリーズ搭載グラフィックスカードで,Catalyst 6.3以降を使えば,HDRバッファに対するアンチエイリアシングが可能になる。こうなると,FPSジャンルを見ても,現時点では本作に匹敵するグラフィックスのタイトルはほとんどないだろう |
前作「Morrowind」をプレイしたときの経験と比べると,Oblivionはいま一つ世界が狭いような印象を受けた。これは,描画のクオリティが上がって画面の抽象度が減じ,プレイヤー側で広大さを勝手に想像する作業にブレーキがかけられてしまっていることのほか,時間をとばして,長距離を「移動した」ことにできるFast Travel機能や,馬に乗る機能が実装されたためと思われる。
ただ,これらの機能がなかったらなかったで,きっと移動が面倒くさいという感想を持つはずなので,このあたりは作り手も検討して,結果,利便性のほうを選んだということなのだろう。
三人称視点がイマイチ使いづらいのも,そういった検討と選択の結果だと思える。欧米で一人称視点の人気が高いのは周知のことであるし,基本的にはそれでプレイしてくださいということだろう。
クエストの目的地が,マップ上のマーカーでとても簡単に分かるようになってしまったことについては,賛否両論があるだろう。人から聞いたあやふやな道順を頼りにフラフラさまよったあげく,迷うようなことはもうない(ただし,目的地がマーカーで表示されないタイプのクエストもある)。迷うつらさを感じる機会は減ったが,同時に迷うことの楽しさを感じる機会も少なくなった。ただこの機能のおかげで,(これまた,一部のクエストを除き)会話文やジャーナルを読み込まなくてもクエストを容易に進められるようになったので,入門者/英語が得意でない日本人に対しても,ハードルは低くなっている。
個人的に最も気になったのは,ゲーム内のヘルプ機能が乏しく,ツールチップなどにもあまり詳しい情報が書かれていないので,自然と,製品付属のマニュアルの重要度がとても高くなっていることである。“そのスキルを鍛えていくとどんなメリットが生まれるのか”“ポーションを作ったりアイテムに魔法をかけたりするためにはどんな道具が必要なのか”“重い防具は魔法の使用にどんな影響を与えるのか”。そういったことに関する詳しい説明文は,マニュアルには載っているが,ゲーム内では確認できない。これは最近のゲームにしては珍しい。
それにしても,ここまで書き進めてあらためて思うのだが,ホントにこのゲームは,こうやって文句をブーブーと書き連ねることすら楽しい。何を言ったって,このゲームが自分にとってステキなゲームであることは変わらないのだ。
戦闘は楽しいし,ただ美しい景色を見ているだけでも楽しめるし,アイテム探しも楽しい。豊富に用意されたクエストは,どれも練り込まれていて,MMORPGのそれに慣れた目には新鮮に映る。とまぁ,本作は,どんな行動も,見事にゲーム的な面白さにつながっているのだ。もっとも,ちょっと好きになりすぎてしまって,アバタもエクボに見えている部分があるとしたら,レビュワーとしては不適切かもしれない。しかし,本格派RPG好きを自認している人ならば,誰もが筆者と同じように,本作を好きになるはずだ。
なんだかんだと言いながらもズーっとプレイを続けてしまう……,本作はそんなゲームなのである。きっと誰にでも,そのような思い出と共に心に残っている作品というのはあるものだろう。Oblivionは,その中の一本になり得る作品である。長くプレイをしても,まだ冒険していない場所や,出会っていないNPC,試していない遊び方が残っている。そんな底知れぬ奥行きに魅せられて,今この瞬間にも,世界中で多くの人がOblivionをプレイしているはずなのだ。
なお本作は,シングルプレイ専用ゲームでありながら,MMORPGにおける「アイテム課金」のように,有料の拡張データが販売されている。そのうえ,本作にはMODを開発するための「TES CONSTRUCTION SET」というツールまで無料で用意されており,実際に,世界中のファンによって,数多くのMODが日々作られている。
本作の奥行きは,今後も限りなく深まっていくのである。
[撮影用PCスペック] CPU:Athlon 64 3200+,メインメモリ:3GB,グラフィックスチップ:GeForce 6800(一部の画像は,GeForce 7600 GS) |