■30年の歴史を持つロールプレイングの代名詞
「Dungeons & Dragons Online: Stormreach」では,仲間とともにダンジョンを攻略するRPGの真髄を堪能できる |
「Dungeons & Dragons」は,テーブルトークゲームとして1974年に生まれ,その後の“ロールプレイング”という概念に大きな影響を与えた作品である。アメリカでは,小説はもとよりテレビアニメや数々のグッズがリリースされており,当時を学生として過ごした現在40歳前後の男性にとっては,一つのカルチャーアイコンとなっている。
テーブルトークとは,文字通りテーブルを囲んで数人の仲間達で遊ぶ,ボードゲームのような玩具ジャンルのこと。Dungeons & Dragonsも,元々は20面の特殊なサイコロ(ダイス)および,キャラクターシートに書き込むペンと紙を使い,一人の進行役「ダンジョンマスター」(DM)と,複数の参加者で楽しむゲームである。
初めてコンピュータゲームとして正式にライセンスされたのは,ルールブックか第2版「Advenced Dungeons & Dragons」に改定された1980年代後半のこと。SSI(Strategic Simulation Inc.)という古参のメーカーによって,いわゆる“ゴールデンボックス”シリーズという数々の作品がリリースされている。
「仲間と遊ぶか1人で楽しむか」という命題は大いに議論されたようだが,グラフィックス化による視覚表現の魅力と,情報が正確に記録されることの利便性によって,確実に浸透していった。近年ではBioWareが90年代後半から復興に成功しており,「Baldur's Gate」や「Neverwinter Nights」などなら,日本のゲーマーでも知っている人は多いだろう。
そのDungeons & Dragonsが,遂に完全3DのオンラインRPG「Dungeons & Dragons Online: Stormreach」(以下,DDO: Stormreach)となった。開発元は,ボストンを本拠地にするTurbine Entertainment。代表作に,以前,MicrosoftがパブリッシングしていたAsheron's Callがあるデベロッパだ。
「Ultima Online」のOrigin Systemsや,「EverQuest」のVerant Interactiveが大企業に取り込まれた今となっては,最古参のMMORPG専門独立系開発集団といって差し支えないだろう。
「Asheron's Call」のサポートにMicrosoftが本腰を入れなかったことで,しばらくは資金繰りに難航していたようだが,その間にもDungeons & Dragonsと「指輪物語」(The Lord of the Rings)のMMORPG化権を獲得しており,同社にとって2006年は,飛躍の一年となりそうな気配だ。
攻撃時には,距離,高さ,方向などでボーナスポイントが加減される。単にマウスクリックするだけではないのだ | 20年近い歴史を持つ「Forgotten Realms」とは異なり,できたての「Eberron」の世界は,独創的な風景だ | ヘルスやマナポーションは,かなり貴重な存在。1人で巨大モンスターに立ち向かうのはかなり困難だろう |
Dungeons & Dragonsだけに地下での戦闘ばかりと思ったら大間違い。密林や孤島,廃墟など屋外も少なくない | 多くの新米プレイヤーにとっては,初めてのクエストになるであろうチュートリアルクエストのスタートポイントの酒場 | 自社開発のゲームエンジン「Turbine Engine」も,第3世代へと突入している。これも一つのポイントだ |
■新世界「Eberron」で繰り広げられるアドベンチャー
コンピュータゲームには初登場となるWarforged。男女の性別が設定できるが,容姿は変わらない |
前置きが長くなったが,2月末に予定されているアメリカでのリリースに向け,DDO: Stormreachのβテストが続けられている。DDO: Stormreachは,2003年にリリースされたシリーズ公式ルールブックの第3.5版にのっとって制作されており,この改訂版で追加された新世界「Eberron」の「Xen'trik」という大陸を舞台にしている。
魔力が充満した過去の遺産で溢れているEberronでは,何百年にもわたる戦争で国々が反目し合っている。そんな過酷な闘争の中で「ドラゴンマーク」という宿命を持つ勇者達が生きているという設定だ。
DDO: Stormreachでプレイヤーが選択できるのは,五つの種族と九つの職業。ローンチ時に用意されているプレイヤー種族は,Human,Elf,Dwarf,HalflingというDungeons & Dragonsでは定番の4種と,Eberronで新しくフィーチャーされたWarforgedと呼ばれるゴーレム系の生命体。
Warforgedは,戦乱の中でカニス家のウィザード達の手により,肉片と機械を合成することで生み出された種族である。今では協定で自由な身分が保障されているという設定で,プレイヤーキャラクターに昇格している。前衛向きで修練のペースが速いなどの特徴がある。
コア職業は,バーバリアン,バード,クレリック,ファイター,パラディン,レンジャー,ローグ,ソーサラー,そしてウィザードの9種類。もちろん複数の職業に分けて成長させられるマルチクラスや,ハイレベルになると体得した特殊スキル「Feat」の種類によって変化する「Prestige Class」もサポートされている。
featsとは,Dungeons & Dragonsでプレイヤーが自由に設定できる特殊能力の一つ。第3.5版ではEnh,Imp,Grt,Supの4段階で向上していくfeatsがツリー化されているなど,わかりやすい改良点が見られ,これもDDO: Stormreachに取り込まれている。
DDO: Stormreachのゲームキャラクターの育成は,Dungeons & Dragonsの伝統にのっとったものなので,欧米のRPGに慣れた人なら違和感はないはず。ステータスにボーナスポイントを振り分け,Good/Neutral/Evilのアライメントを決定する。このアライメントは,例えばほかのキャラクターとの相性や,カリスマを使ってNPCと会話するときなどに作用する。
現行のテストサーバーでキャラクターが最初に降り立つのは,「Smuggler's Point」という場所だ。小さな港があり,プレイヤーが情報を得るための護衛兵が立っている。また,近くの酒場には,基本動作を教えてくれるチュートリアルクエストが一つ用意されている。さらに,その近くに四つの扉のある建物があり,ここでファイター,アタックマジック,ヒーラー,ステルスそれぞれの基本動作を教えてくれるようになっていた。 これらを一通りこなして帆船に乗ると,ようやくXen'trik本土に到着することになる。
デンマークのあるジュットランド半島のような形状のXen'trik大陸。Eberronの世界の,ほんの一部にすぎない | DDO: Stormrerachでは,5種族9職業が用意されている。画像はキャラ作成時のデフォルト状態のヒューマン女性 | キャラクター作成時には,職業別に簡単なムービーで将来どのように成長するのかを説明してくれる |
Dwarfパラディン(男性)を作成。髪形,肌,目や眉毛の形,鼻,口,顔の傷などを,プレイヤーの好みで調節する | Halflingローグ(女性)。トラップなどの探索に便利なHide Checkに+4などのボーナスがあり,ローグにはうってつけ | レベルキャップは10で,各レベルには四つのランクが。ローディング画面のようなキャラに育つまでの道のりは遠そう |
■仲間を募って楽しむテーブルトーク風ゲームプレイ
ゲームが進むごとにクエストを一人で切り抜けるのは難しくなってくる。本作ではパーティプレイの比重が高いのだ |
DDO: Stormreachのコンセプトが,「テーブルトークで楽しむ感覚をコンピュータで再現」することにあるためか,ゲームプレイのアチコチにDungeons & Dragonsの匂いが漂っている。クエストの多くは,ほかのプレイヤー達とパーティを組んでダンジョンや地下倉庫,孤島,廃墟,下水道,洞窟などに潜入するというもの。
ゲーム序盤は,ソロプレイでクエストを切り抜けることも可能だが,レベルが上がっていくほどパーティを組むほうが楽しく,また効率良くプレイできるようだ。
パーティを組むには,近くのプレイヤーキャラクターをクリックし,右下の小ウィンドウに相手の顔グラフィックスを表示させる。その後,Inviteボタンを押すことで,相手にお伺いをたてるだけだ。シャイで英語の苦手な人でも負担は少ないだろう。また,クエストの場所を意味する渦巻き模様のある場所で待っているだけでも,後続のプレイヤーに誘ってもらえるだろう。
パーティメンバーを集めるために,自分がどんなクエストをしたいのかを表示させておくウィンドウを,左上のメニューアイコンから引き出すことも可能だ。希望人数やクラスタイプなども指定でき,ここに登録しておけば,マップ上に散らばるプレイヤー達の参加を募れるのである。
一つ一つのクエストは,俗にインスタンスと呼ばれる最近のMMORPGには多いタイプのシステムで,プレイヤーもしくはパーティメンバー専用のマップでプレイできる。そのため,集まった仲間達と,ストレスなく楽しむことが可能だ。初心者向けのクエストであれば,15分から30分程度で完了といったところだろう。
DDO: Stormreachでとくにユニークなのが,クエストの開始時点や移動中に「湿った空気がドアの向こうから流れてくる」とか「奥の部屋から物音が聞こえる」といった,そのマップの内容や雰囲気を伝えるナレーションが挿入されていることだ。これは,テーブルトークにおけるゲームマスターの役割を自動化したもの。いくつかのクエストでは,Dungeons & Dragonsの原作者であるGary GygaxとDave Arneson両氏が声優として参加している。つまりプレイヤーは,原作者をゲームマスターにしてゲームを遊べるというわけだ。これは,マニアには堪らない趣向だろう。
出現した途端,パーティメンバーのクレリックに一斉に向かっていくバイオレット・スライム。モンスターAIも悪くない | それぞれの職業のプレイヤーが,お互いの長所やスキルで助け合う。なお,モンスターを倒しても経験値は上がらない | 仲間集めも難しくはない。近くにいるプレイヤーをクリックし,右下のウィンドウ下に表示されるInviteボタンを押すだけ |
画面中央の黄色い文字に沿い,DMが話しかけているようなナレーションが入る。テーブルトークらしくて好印象だ | トラップやロック解除,ステルスが得意なローグ。ダンジョンには隠し部屋も多く,ローグは何かと重宝しそうだ | インベントリのウィンドウ。バッグは三つだが,アイテムには重量値があり,キャラクター種族によって運搬限度は異なる |
■ゲームの基本的要素やアクションに滲み出る“らしさ”
クエスト中に木箱や樽を破壊すると入手できるゴールドやポーションは,ほかのMMORPGと比べてもかなりの貴重品だ |
DDO: Stormreachは,全体的にスローなペースにデザインされている。当初のレベルキャップが,10であるとのことで,「World of Warcraft」や「ギルド ウォーズ」のような最近のゲームと比較すると,キャラクターの成長は遅く,レベル1からレベル2になるだけでも1万ポイントを必要とする。そもそも,キャラクターを成長させる経験値は,クエストやキャンペーンをこなすことだけで得られるので,何匹モンスターを殺しても経験値が増えないのが,ほかの多くのMMORPGとは異なる部分だ。
最初こそ,このシステムには違和感を覚えることだろうが,慣れてくるとDungeons & Dragonsの良さというか,「本当のロールプレイングってこんなものだったんだ」と思えてくるようになるはず。
モンスターを倒した数とか,力や魔法の強さだけに頼って黙々とプレイするのではなく,ヒーラーや謎解きなどサポート役としての貢献に徹していても,クエストを完了したことで得る報酬は等しく与えられる。モンスターの後方をステルスで歩き,ドアを解除するローグのようなキャラクターにも,公平なシステムといえるだろう。
それでいて,アクションによる楽しさも十分に考慮されているのがこのゲームだ。テーブルトークでのDungeons & Dragonsは,コンバットやマジックシステムをより理解し,キャラクターの位置や攻撃の機会を見計らう“プレイヤースキル”が重要な要素である。これを,DDO: Stormreachではコンピュータゲーム的にアレンジしており,モンスターの行動パターンを推測して方向転換したり,マウスクリックによる剣の振りの間合いを読んだりといったことが必要となっているのだ。
事実,低レベルのミッションに登場するモンスターの中にも,プレイヤーの背後に回りこんできたり,飛び跳ねてプレイヤーの攻撃をかわそうとしたり,スペルキャスターを狙って突撃するような行動を取るものがいる。これらのAIはモンスターごとに属性として設定されているので,攻撃パターンを覚え,迅速に対処する“プレイヤースキル”が本作では求められている。
もちろん,攻撃力を決定する複数面ダイスは自動的にコンピューターが処理計算してくれる。プレイヤーの武器が“3d6”だった場合は,6面ダイスを3回振る,つまり1×3 〜 6×3の数値の中で,相手へのダメージがランダムに算出されるわけだ。
DDO: Stormrechのマジックは,キャラクタースキルや能力などの要素から自動算出されるスペルポイントを,マナとして消費する。強力なスペルのバランスを取るため,クレリックとウィザードは利用するスペルを複数個記憶(事前登録)してクエストに備えることになるが,バードとソーサラーは知っているものを常にすべて使える。これは,「Unearthed Arcana」ルールブックのシステムを特別採用したものだ。
スペルポイントは,マップの最終地点などにある祭壇(Spell Shrine)で休憩することにより回復する。ウィザードも,ウィザードブックの中から別のスペルを記憶し直すことができるようになっている。なお,すべてのスペルは,街やクエストで入手するリージェントを消費する。
グラフィックスは,「EverQuest II」と比べるほどではないとはいえ,街は細部まで作り込まれているし,クモの巣に覆われた「ダンジョン・クロウル」の雰囲気は十分に堪能できるだろう。
気になるのは,Asheron's Callを思い出させる少々野暮ったいインタフェース。解説ウィンドウがときどきポップアップして,状況や操作を説明してくれるのはありがたいが,パラメータなどと合わせて画面中がウィンドウで覆われてしまうのだ。
DDO: Stormreachは,テーブルトーク時代を含めて30年以上の歴史を持つ本家RPGの伝統と,Turbine Entertainmentが組み込んだ新鮮な要素がうまくミックスされており,想像以上に面白いMMORPGであるという印象を受けた。βテストで確認できたのは,ハブとなる港町を中心としたほんの一部。サービス開始時には200種類程度のキャンペーンが用意される予定とのことで,その奥の深さは多くのRPGファンを惹きつけるだろう。
画面右のダイスが,実際のHP。その下がProficiencyと呼ばれる,種族やクラスの能力に応じたボーナスだ | スケルトンを引き連れて登場することも多いスペクトルは,エネジードレインなどのスペルも持つ厄介な敵 | Eberronの世界は,版元のWizards of the Coastが作ったばかりなので,Turbineも創造力を発揮している |
プレビューテストの終盤には,ファイアースペクトレやカストアント,ビホールダーなどのモンスターが酒場にも出現 | ヘルスやマナを回復できるのは,クエスト途中で見かける祭壇か,酒場だけ。クエスト前に,しっかり作戦を練ろう | キャラクターが成長すれば,派手な魔法や武器でガーゴイルやジャイアント,ドラゴンなど巨大モンスターを退治可能 |