長寿シリーズの最新作はファンタジーアクションに
シリーズ第1作の「Might and Magic: The Secret of the Inner Sanctum」がリリースされたのは今から20年前,1986年のことだ。制作したNew World Computingは,ゲームデザイナー/プロデューサーのJon Van Caneghem氏らが1984年に設立したデベロッパである。中世風のファンタジー世界を舞台に,旅の途中で出会う仲間とパーティを組んで冒険をするRPGで,プレイ画面が一人称視点であるところが特徴的だった。「Wizardry」「Ultima」と並ぶ,PCゲーム黎明期の傑作RPGである。
2002年に発売された「Might and Magic IX」まで全9作が作られ,とくにシリーズ三作目の「Might and Magic III: Isles of Terra」(1991年)は高い評価を得た。
New World ComputingがThe 3DO Companyに買収されてからも,「Might and Magic VI: The Mandate of Heaven」(1998年)がスマッシュヒットとなっているほか,さらに1995年からは,本編のスピンアウトとして,同じ世界観を共有するターン制ストラテジー「Heroes of Might and Magic」シリーズが登場し,こちらも大成功を収めている。
しかし,残念ながらその成功は続かなかった。2002年の「Might and Magic IX」がバグだらけで不興を買い,その翌年には親会社のThe 3DO Companyが倒産してしまう(倒産理由はMight and Magic IXのせいばかりではないが)。New World Computingは空中分解し,Caneghem氏は2004年,NCsoftに参加してRichard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏とともに新しいRPGを作るとアナウンスされる。「Might and Magicの父」と「Ultimaの父」(ギャリオット氏のこと)のコラボレーションということでファンの期待は高まったが,2006年9月,Caneghem氏は同社を退社,Electronic Artsの元副社長であるLars Buttler氏と共にTrion World Networkを設立し,現在“まったく新しいオンラインゲーム”の開発を目指している。
そういった経緯で宙に浮いたMight and Magicシリーズのライセンスを,わずか130万ドル(約1億5千万円)で買い取ったのがフランスのUbisoft Entertainmentである。Ubisoftは,ライセンス取得後ただちに新作の開発に着手し,2006年5月には「Heroes of Might and Magic V」をリリースした。制作したのはロシアのNival Interactiveであり,また,ここに紹介する「Dark Messiah of Might and Magic」は,「Arx Fatalis」(2002年) などを手がけたフランスのArkane Studiosに開発委託された(シングルプレイモードのみ)。ちなみに,Arx Fatalisは,同時期にリリースされたBethesda Softworksの「The Elder Scrolls III: Morrowind」の陰に隠れがちとはいえ,一人称視点で自由に世界を歩き回れるRPGとしてカルト的な人気を誇っている。
「Half-Life 2」でおなじみのSourceゲームエンジンを採用し,パーティを組まず一人で戦い続ける「Dark Messiah of Might and Magic」のポジショニングは,本家RPGシリーズとは異なる“外伝”であるようだが,前述のHeroes of Might and Magic Vのエンディングから物語が始まっており,このあたり,Might and MagicとHeroes of Might and Magicの関係と一緒だ。
また外伝とはいえ,そもそもMight and Magicシリーズ自体,6作目あたりからアクションRPG方向に舵を切っていたのも事実。Might and Magic IXでは,ゲームエンジンにMonolith ProductionsのLithtech 2.0を使用しているが,これは大ヒットしたFPS,「No One Lives Forever」に使用されたゲームエンジンであり,したがって,今回のDark Messiahはある意味,正統な進化を遂げた最新作という見方もできる。
孤児だった主人公のサレスを育ててくれたマスターウィザードのフェンリグ。最近,サレスは妙な悪夢に悩ませられている | フェンリグの指示で,重要人物がいる街に向かったサレスは,いきなり災難に見舞われる。この街から彼の冒険が始まるのだ | マネラグがグールに暗殺され,物語の鍵を握るクリスタルが盗まれてしまった。屋根を伝ってのグール追跡が序盤のクライマックス |
レアンナと共に,廃墟となった寺院のある孤島へと向かう。このエピソードでは,彼女はプレイヤーの体力を回復してくれる頼もしい味方だ | アメリカでは,本作は18歳以上の“Mレーティング”に指定されており,卑語やセックス描写こそないが,体の各所が切り刻まれるゴア表現あり | 右上の木箱を吊り下げたクレーンを動かすことで,焚火で暖をとっていたブラックナイトたちを突き飛ばす。物理エンジンを使ったパズルの一例だ |
ほかのRPGとは趣の異なるキャラクター成長システム
Dark Messiahでは,屋外マップはあまり多くない。画像の巨大モンスターは,パオ=カイと呼ばれるドラゴンで,キャンペーン中に何度かプレイヤーと対決することになる。ただし,剣や魔法といった通常攻撃で倒すことはできないようだ |
Dark Messiah of Might and Magic(以下,Dark Messiah)のストーリーは,何世紀もの間ダンジョンの奥深くに閉じ込められていたデーモンを解き放つ力を持つ“Skull of Shadows”というアーティファクトをめぐって進んでいく。プレイヤーキャラクターである主人公サレス(Sareth)は,グランドウィザードのフェンリグ(Phenrig)に師事する若き武闘派マジシャンだ。
フェンリグの命を受け,サレスはマネラグ(Manelag)という人物が統治するストーンヘルム(Stonehelm)の街にやって来る。だが突然,ネクロマンサーのアランティア(Arantir)が率いる一軍にストーンヘルムが襲われてしまう。アランティアは,「闇の救世主」(ダーク・メサイア/Dark Messiah)降臨の啓示を得て,その鍵となるクリスタルを奪いに来たのだ。奪われたクリスタルを取り戻すため,プレイヤーは同じくウィザード見習いであるレアンナ(Leanna)と共に旅に出ることになる。
本作でのレアンナは,パーティメンバーの一人というよりは,Half-Life 2におけるアレックスのようなサイドキックである。いくつかのシーンでは一緒に戦ってくれるが,マップ中の謎解きや目的の達成はサレス一人でこなしていかなければならない。また,フェンリグにあてがわれた旅のコンパニオン,ザーナ(Xana)は,プレイヤーと一体となってテレパシー(?)でコミュニケートするガーディアンだ。ヒントを与えてくれたりする重要な役だが,純真なレアンナが気に入らないのか,サレスとレアンナの会話中,うっとうしくなるほどのツッコミを入れてくる。
Dark Messiahにクラス(職業)の概念は存在しない。その代わり,ミッション中に得られるポイントを攻撃系マジック,回復系マジック,コンバットスキル,ステルススキルの各要素に振り分けていくことで,キャラクターを育てるのだ。スキルポイントはモンスターを倒した数ではなく,ミッション中のオブジェクティブをクリアすることで得られ,RPGとしてはちょっと異色といえる。
とはいえ,もともとMight and Magicではクエストをクリアすることで経験値を得るという,当時から“普通とは違った”システムが採用されており,その伝統を踏襲しているともいえる。
そのため,例えば,狭いダンジョンの中で敵と出くわしたような場合でも,プレイヤーは必ずしも闘う必要はなく,ステルス能力を駆使してコッソリと暗がりを通り抜けてもよい。「Deus Ex」のように“誰一人殺すことなくゲームを終わらせる”,というところまではいかないにしても,プレイヤーは一定の地点に到達するなり目的を達成することでポイントを得られる。モンスターを倒すことで経験値を稼ぐ形ではないので,戦闘系キャラクターが有利になるようなシステムではないのだ。
一つのスキルタイプにこだわらず,体力勝負のウォーリアーにマジックを使わせてもかまわない。そのへんは自由自在だ。ただ,当然ながら得られるポイントには限りがあり,たとえすべての目的を達したとしても,すべてのスキルタイプをマスターするのは不可能だ。このへん,うまく考えてポイントを配分するべきだろう。
暗い場所は,デフォルトで用意されているマジック,“ナイトビジョン”を使って移動する。マナを消費するが,消費量はそれほど多くない | ゴブリンは「Where IS you?」のような変な英語を話し,暗がりに隠れるプレイヤーを探しまわる。AIキャラクターのセリフの反復は少々くどい | オーク,ゴブリン,サイクロプスなどのデーモン系モンスターには,ライトニング系の魔法や武器が頼りになる。卒倒させてやろう |
剣や魔法を駆使する軽快なアクション
Dark Messiahには赤いヘルスバーの隣に黄色いアドレナリンバーが存在し,戦闘によって満タンになると,攻撃力や集中力が一定時間アップする。テレキネシス魔法では,人体のような重いものでも持ち上げられる。「Half-Life 2」のグラビティガンを連想させる面白い効果だが,ゲーム中で何度もお目にかかれる技ではない |
Dark Messiahにおける戦闘システムは,よくあるメレー系のアクションゲームとはやや異なっている。デフォルトでは左クリックが攻撃,右クリックで防御という設定になっており,左クリックをしばらく長押しすることで,より破壊力のある“パワーストライク”を発動できる。倒れている敵に対するフィニッシュムーヴにもそれぞれに違うアニメーションが用意されているなど,アクションはかなりバリエーションに富んでいる。
本作ではキックも多用される。基本的にキックは,近くに寄ってきた敵を蹴り飛ばしたり,一時的に放心状態にさせて防御できない状態に持ち込んだりするときに活用される。階段の上に立って,駆け上がってくる敵を蹴り落とすといったことも可能で,谷底などへ落とせばどんな敵も復活することはない。
しかも,マップにはなぜかスパイクのついたラックが各所に用意されており,まさに,「ここに向かって蹴ってください」という絶好の位置に配置されている。スタミナのある限りはキックできるため非常に使い勝手が良いが,しかし,あまりにも使い勝手が良すぎるため,「戦闘を楽しみたい」という人にとっては逆に興醒めになってしまうかもしれない。
Dark Messiahでモンスターがドロップするアイテムや,宝箱から得られるアイテムはあらかじめ決まっており,種類はそれほど多くない。ウォーリアーの場合は剣のほかに斧や大鉈(クリーバー)なども使用可能だが,ゲーム中で実際に利用価値があるのはNaga SwordやEarthfire Swordなど,だいたい決まっている印象だ。杖(スタッフ)が与えるダメージはそれほどが多くないが,キックと同様,敵を一時的に後退させる能力があるため,大勢に囲まれたときには重宝する。
短剣(ダガー)も,スタッフと同じく攻撃力は低いものの,素早い攻撃で相手に反撃の隙を与えないといった固有のメリットを持つ。とくに,ステルススキルがある程度あれば,背後から忍び寄って一刺しすることで,相当なダメージを与えられる。そして,忘れてならないのが弓だ。ゾンビやゴブリンのような単純な行動をする相手には,物陰に忍びつつ射掛けることで一網打尽にできる。
魔法は,ファイアーボールとフリーズ,ライトニング,そしてオブジェクトを遠方から動かすテレキネシスの四つが基本。マジックウェポンにもいえることだが,ヒューマンや昆虫系のモンスターは火炎に弱く,オークやゴブリンなどはライトニングに弱い。フリーズは,複数の敵に囲まれたときに,一人を一定時間凍らせるというものだ。
拾えるポーションが多いのでマナが枯渇することはないだろうが,ミッション中には強力な敵と戦わなければならない場面も多く,魔法だけでプレイするのはちょっと難しいのではないかと思う。
美しい景観が楽しめる屋外が少なく,同じようなダンジョンが多いのが本作のマイナスポイントの一つ。ゲームエンジンの性能が良いだけに残念 | 地下の墓場はゾンビでいっぱい。体の部位によって与えるダメージが異なる本作だが,何度も生き返るゾンビには胸を狙って弓を射るのがよい | キー操作でかなり異なった武器の振り回しぶりを見られるのも特徴だ。メレー系のキャラクターを育てるなら防御もマスターしておこう |
普通のRPGやFPSに飽きた人にオススメ?
マルチプレイモードは,プレイするクラスを選べたり,アンデッド用の特別キャラクターが用意されていたりと,キャンペーンとはまったく異なる雰囲気だ。ただし,現時点ではラグが多く,大人数でプレイするのは大変。マップも多くない。Ubisoftによる今後のサポートが期待されるところだ |
「AIは,プレイヤーのすることなら何でもする」とアピールされているDark Messiahだが,実際にプレイした限りではそれほど秀逸な思考ルーチンだとは感じられなかった。たしかに,複数で戦っているときには別々の方向から迂回して来たりもするのだが,先に挙げたスパイク付きの木製ラックを使ったトリックに簡単にはまってしまう。突き落としてくれ,と言わんばかりの位置に移動する敵もいるし,瓦礫や石棺の上に上ると,なぜか敵が攻撃してこないというバグっぽい行動も見られ,普通のレベルだ。
物理エンジンのHavokをフルに活用しており,樽の乗った棚や崩れかけた石像などを倒して敵に当てることが可能。鎖につながれた木箱が振り子のように揺れ,ゾンビを奈落の底に突き落とすというようなシーンもあり,開発者が用意したこうしたパズルを見つけるのも楽しみの一つだ。厳しい戦闘が,意外な方法を見つけることで一気に簡単になったりする。
イギリスのKuju Entertainmentが開発したマルチプレイモードは,シングルとはまったく違うゲームのように感じられる。プレイヤーは,アサシン,アーチャー,ウォーリアー,プリーステス,メイジの五つの職業からキャラクターを選び,プレイ中に獲得できる経験値を使ってそれぞれの能力を伸ばしつつ戦っていくのである。
ヒューマン,もしくはアンデッドの二つの勢力が用意されており,デスマッチやチーム戦のほか,BattlefieldシリーズのConquestモードを連想させる,城や砦を陥落させていくWarfare,そしてヒューマンとアンデッドに分かれて,対戦用に用意された五つのマップを戦い続けるCrusadeというゲームモードがある。
シングルプレイでメインとなるメレー戦だが,マルチプレイに昇華させるのは難しかったようだ。敵との肉弾戦では,キャラクター同士がクルクル回転している印象を受け,あまり面白味が感じられない。とくに相手の攻撃によるダメージがうまく表現されておらず,知らない間にヘルスバーが減っていたりと,まだ改良の余地は多いと思う。
Xanaのうるさいほどの状況説明,キックと木製ラックの多用,アイテムや魔法のバリエーションの少なさ,ダンジョンが多くやや単調な風景など,全体的な作り込みが今一つのように思える本作。RPGとして見た場合,Arx Fatalisや「The Elder Scrolls IV: Oblivion」のような自由度はなく,また,それぞれのキャンペーンが短めなのも難点だ。
ただ,ダークで深味のあるストーリーは秀逸で,20年の歴史あるシリーズの雰囲気をよく活かしている。シリーズの新たな方向性を模索しつつ,ひとつの形を見せてくれたタイトルといえるだろう。FPSとして見た場合,もともとハイファンタジー系のタイトルが非常に少ないだけに新鮮味を感じさせる。自由度の乏しさも,FPSであるならそれほど気にならないはずだ。
もうすぐフロンティアグルーヴから「Dark Messiah of Might and Magic 日本語マニュアル付英語版」もリリースされる予定の本作。ケアの足りない部分がいささか多いものの,伝統あるゲームの世界観を援用しつつも,数々の野心的な試みが見られるのは間違いない。PCゲームのプレイ歴の長いRPGファンやFPSファンなら十分に楽しめるだろう。