― レビュー ―
リアルタイム・コマンドコントロール・ヘックスなし。新機軸のプロトタイプ的作品
大戦略VIII
Text by 徳岡正肇(アトリエサード)
2006年6月5日

 

四つの新機軸で大戦略のパラダイムシフトを試みる作品

 

戦場画面と作戦画面の分離,座標制/スクエア制,セミリアルタイム進行,軍団制によるコマンドコントロールと,従来のシリーズ作品とは根幹から異なる「大戦略VIII」

 「大戦略VIII」が発売されて2か月あまりが経過したが,まことに残念なことに世間での評判はあまり芳しくないようだ。そうした評判を,本作の操作性や動作安定性の問題が生み出していることは否定すべくもないが,それらに加えて,このゲームが打ち出した新しいコンセプトが,十分に理解されていないがゆえのネガティブ評価もあるように思われる。
 そこでこの記事では,この作品がどんなゲームであるかに加えて,いったい何を目指したゲームなのかを見ていく。ゲームの全体的な出来は是々非々で判断すべきだが,それに先立ってコンセプトを理解しておくことは,決して無意味ではないだろう。

 1985年に「現代大戦略」が発表されて以来,大戦略シリーズは現代戦ストラテジーゲームの一つの定番となってきた。大戦略シリーズには,キャンペーン重視でその時点までのルール/システムの集大成となる「大戦略パーフェクト」シリーズや,時事性が強くエキセントリックな味付けの「現代大戦略200x」シリーズ,番外編的な位置づけの「大戦略 大東亜興亡史」といったラインナップ/派生型がある。そのなかで「大戦略」の語の後ろに第1作以来の通し番号を振った作品群,いわゆる「ナンバー大戦略」は,最新のシステムをいち早く採用するフラッグシップ的な位置づけだ。そして「大戦略VIII」は,このナンバー大戦略の最新作に当たる。

 コンピュータストラテジーゲームの世界で,まだリアルタイム処理が未来のコンセプトと考えられていた1989年に,システムソフト(当時)はセミリアルタイム制の「大戦略III」を世に送り出した。今回の大戦略VIIIはまず,大まかな系譜関係でいうなら大戦略III,同IVの末裔と位置づけるべきセミリアルタイム進行の作品だ。
 大戦略VIIIではさらに従来のヘックス制を廃止し,座標ベースのシステムに変更,またユニット個別に直接移動/攻撃操作を行うのではなく,自分で編成したユニット集団の指揮官に,「迎撃」「防衛」といった行動方針作戦を与えるシステムとなっている。
 戦場とユニットは3D描画されているが,ユニット集団への指示は,別途用意された2Dの地図上で行う。この画面だとゲームの進行は停止しており,指示を出し終えてボタンを押すとゲーム内の時間が再び流れ始め,敵味方のユニットが実際に行動する。
 戦場と作戦地図の分離,座標/スクエア制のユニット移動,セミリアルタイムの進行,コマンドコントロールと,シリーズとして新しい概念を四つも盛り込んでゲームの骨格を形作っているため,旧来の大戦略シリーズに馴染んでいる人は少々とまどうかもしれない。後で詳しく触れるように,プレイ感覚からして旧来作品とはまったく異なるのだ。

 大戦略VIIIで選択できる生産タイプは,日本,アメリカ,ロシア,ドイツ,イギリス,フランス,中国,イスラエルの8か国。登場する兵器は280種類ほどだ。アメリカのF-22ラプター,自衛隊のイージス駆逐艦こんごう,ロシアの主力戦車T-90など,最新鋭のものが並ぶ。
 兵科のバリエーションは広いが,近年の作品に準じて,純然たる「歩兵」は存在しない。都市などの占領は歩兵戦闘車/兵員輸送車や兵員輸送ヘリが行う。早期警戒機や対潜哨戒機,大型輸送ヘリといったややマニアックな兵科も充実しているのは,大戦略らしいところだ。とくに本作では索敵の効果が大きいため,優秀な早期警戒機は大きなアドバンテージをもたらしてくれる。
 用意されたマップは合計40種類,マップの広さは最小で40×40ブロック(スクエア),最大で72×72ブロックとなっている。1枚のマップに登場する勢力は最大四つ,それぞれの同盟関係や初期予算,そもそもどの勢力を担当するかなどはマップ選択時に変更できる。
 なお,ゲームは完全に一人用として設計されており,複数名での協力プレイや対戦プレイはサポートしない。

 

シナリオ選択画面。シナリオは総計40本用意されており,架空戦が主体なのは大戦略の伝統ともいえる 設定画面。ニュース表示はプレイの方針に従って絞り込んだほうがよいだろう。発見とロストは別項目のほうが便利だったかも シナリオ開始時。ファンにはおなじみのマップを選んで,プレイをスタートしてみた。ここから兵器を“購入”し,軍隊を編成する

 

購入した部隊を配置しているところ。首都から一定圏内の都市(空軍なら空港,海軍なら港)にしか配置できないのは従来どおり 部隊編成画面。右側が編成中,あるいは既存の部隊。左側が未配属ユニット。マップ上に配置されていないユニットは編入できない 部隊を展開したところ。No.08の90式戦車は第二部隊のリーダーユニットであり,命令を下すことで第二部隊全体がその指揮に従う

 

兵員輸送ヘリに都市を占領するよう命令を出したところ。白い都市や軍事施設は中立で,占領可能ユニットで自軍支配下に置ける 必要な指示を与え終わったら,ゲームの進行ボタンを押す。黄色いプログレスバーが伸びるわずかな時間に,A.I.の思考は終了する 兵器の購入画面。予算の範囲内で自由に兵器を購入できる。予算も問題だが,何よりも厳しいのはユニット数の上限だったりもする

 

 

ユニットの直接操作でなく,軍団への命令がゲームの核

 

各ユニットの行動は3Dで見られる。ただし,描画手法はいたってプリミティブなものなので,近年の海外産コンバットアクションなどとは印象がかなり異なる

 この作品の要ともいえるコマンドコントロールについて,もう少し詳しく見ていこう。大戦略VIIIでプレイヤーが編成するユニットグループは「軍団」と呼ばれる。軍団は,同一のユニットを集めて効率的に運用してもよいし,異なる兵科のユニットを組み合わせてさまざまな事態に対応させることも可能で,後から生産したユニットを編成済みの軍団に組み込むのもごく簡単だ。プレイヤーは軍団編成時にリーダーとするユニットを選び,軍団への命令はそのリーダーに与える。
 具体的に下せる命令は,「遊撃」「迎撃」「防衛」「索敵」「護衛」「輸送」「警戒」「占領」「追跡」「補給」そして「自動」だ。これらの命令を下す際には,その作戦を行う範囲と,どれくらい補給を重視するか,またどれくらい積極的に攻撃を仕掛けるかが設定でき,パラメータは随時変更可能だ。最後の「自動」は,A.I.にすべてを委ねるモードであり,極端な話,全部隊を「自動」に設定すれば,プレイヤーのやることは戦況に合わせた生産と軍団編成のみになる。
 従来の大戦略では,プレイヤーが「神の目,神の手」を持ち,すべてのユニットを操作することをあえてゲーム性としてきた。それに対して大戦略VIIIでは,何もかもを意のままに動かすことなどできないという意味で,リアルな司令官の気分を味わえる。ユニットの細かな機動はA.I.任せになるので,「何やってるんだ,お前ら」と思う場面も多々生ずるが,それこそがある意味リアルなのだ。前線の兵は限られた情報をもとに努力しているのであって,大局を見ている者と同じ見解に達するとは限らないのである。
 細かい機動がA.I.任せということは,従来作品にありがちだった「戦略的な大失敗を,巧みな戦術的機動で乗り切る」ことがほぼ不可能ということにもなる。ゲームとしての快楽の在りどころが大きく変わるため,ここは賛否両論あるかもしれないが,コマンドコントロールが,そうした旧来作品と異なるストラテジー性を目指すものであることだけは確かだ。
 ただし,個々のユニットに細かな命令を下すという選択肢も一応残されており,攻撃対象の指定はもちろん,やろうと思えば従来作品同様に移動コースを細かく指定できる(あまり現実的な操作ではないが)。大まかな作戦指示では不十分になりがちな戦域や,ここぞというときの集中砲火,手順の込み入った占領作戦などに限って使うのが合理的だろう。
 とにかく,現実の司令官と同じく部下に任せ,部下に指示を出すのが,大戦略VIIIが示す新しいプレイ形式なのである。

 ちなみに,本作におけるブロック制の移動ルールは,ほかのゲームには見られない独自の手法だ。そもそもヘックスは,平面をなるべく辺の多い正多角形で分割し,ユニットがどの方向に動いても,直線距離との誤差が少なくなるように考えられた便宜的なものにすぎない。便宜といっても,それはボードゲームでプレイヤー自身がヘックス数を数えるときの便宜であって,実のところコンピュータゲームでこれを使う必然性は薄い。見た目の長さがそのまま距離を表す座標制で,とくに問題ないはずなのだ。
 ここで大戦略VIIIはシンプルな座標制でなく,それを中間でまとめる単位としてのブロック制を採用した。マス目が四角形だと,縦横の移動と斜め方向の移動で距離的誤差が大きくなるが,斜め方向の必要移動力を1.4倍に設定することで,この問題を回避。移動を妨げる地形効果は,ユニットの速度低下として再現する。
 こうした処理を併用してまでスクエア,というかマス目の仕組みを温存するメリットは,地形の境界をはっきり示せることだ。純然たる座標制には,境界が分かりづらくて特定の地形や構造物を利用しにくいというデメリットがある。大戦略VIIIの採用した手法は,その点でストラテジーゲームとして合理的なものといえよう。

 

ゲーム進行中の画面。ユニットが何か特別な行動をしたり,敵部隊を発見/ロストしたり,敵からの攻撃を受けたりすると,画面右下にニュースとして表示される

 

自軍の90式戦車で敵軍のMLRSを攻撃しようとするところ。まず自軍のユニットを選んで,左のウィンドウから「行動指示」を選択,「攻撃」を選んで,目標とする敵ユニットを選択する(画面左)。次に攻撃に使用する武装を選択し,「決定」をクリック(画面中央)。最後に左のウィンドウに戻って「決定」をクリックすると,行動がプロットされる(画面右)

 

 

軍人将棋とコマンドコントロールという,別個の課題

 

「戦場の霧」(見つけていない敵は表示されない)を打破するために,早期警戒機はあったほうが無難。狭いマップではとくに有効

 さて,このように新しいパラダイムを盛大に導入した大戦略VIIIだけに,その独特の作法に慣れないうちは,とまどう場面も出てくるだろう。ウィンドウ/ダイアログデザインはまだまだ練り込みが足りない印象だし,2D画面で軍団のリーダーユニットが見分けられないとか,どのユニットがどの軍団に属しているか一発で分からないとか,現在与えている命令の詳しい中身が確認しづらいとか,ゲームとしていろいろこなれていない部分もある。また,2D画面と3D画面がとうていスムースに連携しているといえない点は,もう少し大きなデザイン上の課題といえるかもしれない。
 まあ,基本的な動作の不安定さについては,ぜひともアップデートパッチに期待したいところだが。

 ポイントがコマンドコントロールにあることさえ掴んでしまえば,このゲームはそれなりに遊べる。だが,大戦略シリーズがその発祥時点から持ち続けている「現代戦版軍人将棋」としての性格を本当に一変させ,セミリアルタイムストラテジーとしての完成を目指すなら,コマンドコントロールは最終的に「ドクトリン」(その軍に固有の戦術,装備の考え方,そのほか行動様式全般)に結実しなければならないと,筆者は思う。
 兵器のバリエーションとパラメータで各国の軍隊の違いを表現してきた大戦略が指揮/統制に手を出す以上,アメリカ軍らしい航空優勢や,旧ワルシャワ条約機構軍らしい無停止進撃戦術,イギリス軍らしい小規模立体戦術などが,少なくとも行動の一つの基準として存在すべきだろう。それをそっくり再現するのか,プレイヤーによる可能性追求に力点を置くのかはまた別としても,である。

 ゲームデザインをめぐる考え方の点でも,1個のアプリケーションとしても,大戦略VIIIはまだまだ荒削りな段階といわざるを得ない。新しい大戦略像を目指す革新的アプローチになるのか,一つの試みに留まるのかはまだ見えないが,この大戦略VIIIを一つのステップとして,大戦略シリーズがさらなる進化を遂げてくれることを,願ってやまない。

 

長距離攻撃能力を持たない陸上ユニットを大量生産し,敵軍に対応を強いたうえ,少数の歩兵輸送ヘリで空からの占領作戦。ユニット数上限があるので,敵軍は有効な対空攻撃手段を準備できないまま,陸戦を優位に進めていながら,むざむざ首都の占領を許す シナリオ終了時のレポート。上記のような戦術を採ったため,ユニット数上限30に対して残存15ユニットという大損害を受けつつ勝利

 

タイトル 大戦略 VIII
開発元 システムソフト・アルファー 発売元 システムソフト・アルファー
発売日 2006/03/30 価格 10,290円
 
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,CPU:PentiumIII 1.3GHz,メモリ:512MB,HDD:800MBの空き,グラフィックスカード:DirectX 9.0c対応128MB,サウンドカード:DirectX 9.0c対応,光学ドライブ:CD-ROM

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