― プレビュー ―
"ATI版SLI"の真実に迫る
CrossFireリファレンスカード(前編)
Text by 宮崎真一
2005年9月26日

 

 「CrossFire」について概要が発表されたのは2005年6月1日。4Gamerでは「こちら」で速報をお伝えしたので,あれからどうなったのか気になっていた人もいるだろう。
 9月26日22時,ATI Technologies(以下ATI)はついにCrossFireを正式発表した。そこで今回は,入手したCrossFire評価キットを用いて,とにもかくにも注目のデュアルグラフィックスカードソリューションについて,その実力をチェックしてみたいと思う。

 

 

■SLIとの違いと制限

 

「RD480」という開発コードネームで知られていたRadeon Xpress 200P CrossFire Edition。サウスブリッジは,IXP200にIntel High Definition Audioサポートが加わったIXP450が組み合わせられる

 CrossFireの詳細については,本誌連載「西川善司の3Dゲームエクスタシー」の「こちら」で紹介しているから,今回は思い切って説明を省略する。まだ読んでいない人は,まず一読いただければ幸いだ。
 おおざっぱに説明しておくと,CrossFireはNVIDIA SLI(以下SLI)に似た技術で,3Dパフォーマンスなどの向上を図るもの。動作には,今回発表されたRadeon Xpress 200P CrossFire Edition(以下Xpress 200P CFE)チップセットを搭載するマザーボードがまず必要になる。そして,発表されたRadeon X8x0シリーズのCrossFire Editionを「マスターカード」として用い,既存のRadeon X8x0カードを「スレーブカード」として組み合わせることで,CrossFireが有効になる仕組みだ。

 

Radeon Xpress 200P CrossFire Editionリファレンスマザーボード。今回入手したのはAthlon 64用だが,チップセット自体はIntel製CPU対応モデルも存在する

 

Radeon X850 XT CrossFire Editionリファレンスカード

 今回入手した評価キットには,PCI Express x16スロットを2本用意するXpress 200P CFEリファレンスマザーボード(以下リファレンスボード)と,Radeon X850 CrossFire Edition(以下X850 CFE)が入っていた。X850 CFEは,コア520MHz,メモリ1.08GHz相当(540MHz DDR)で動作しており,クロック自体は既存のRadeon X850 XT(以下X850XT)とまったく同じ。専用DVIケーブルを接続するため,カード側に特殊な接続端子を持つことと,CrossFire用のSilicon Image製TMDSレシーバを搭載する点は異なるものの,全体的な印象はよく似ている。

 

X850 CFE(左)とX850XT(右)を並べてみた。ぱっと見た印象ではほとんど同じだ。ちなみに,チップクーラーの透明なフードの下(写真手前)に見える黒いチップが,TMDSレシーバである X850 CFEカードの裏面には,用途不明のピンコネクタが置かれている

 

CrossFire用の専用インタフェースは,DVIと似て非なる59ピン仕様となっている ノースブリッジの近くには,多くのSLI対応マザーボードと同様に4ピンの給電コネクタがあった

 

CrossFireの接続イメージ

 リファレンスボードは,ノースブリッジから遠いほうのPCI Express x16スロットにマスターカードを取り付ける仕様になっていた。近いほうにスレーブカードを差して,専用ケーブルを接続。続いてBIOSからXpress 200P CFEのPCI Expressレーン数変更を行って,あとはドライバをインストールし,Catalyst Control Centerから「CrossFireを有効にする」チェックボックスをオンにして,再起動するだけだ。
 SLI対応マザーボードの場合,ほとんどはレーン数変更用カードが必要になる。だが,リファレンスボードがBIOSからの切り替えである以上,CrossFire対応マザーボードは基本的に,この仕様である可能性が高い。

 

評価キットにはターミネータのようなカードが付属していた。シングルグラフィックスカード動作時は,このように差しておくことになる

 以上,駆け足で説明してきたが,CrossFireの評価キットを実際に手にしてみると,二つの大きな問題に気づいた。まず一つは,アナログディスプレイで利用できないことだ。特殊仕様のDVI互換ケーブルを使っているのが原因なのか,単純にドライバの問題なのか,はたまたそれ以外の理由なのか分からないが,アナログ出力させようとすると,マスターカードは信号を出力してくれないのである。ATIいわく「製品版ではDVI-I−DSub変換を行ってアナログディスプレイに接続しても利用できる」とのことだが,リファレンスカードのレベルでこういったトラブルを抱えているのはいただけない。
 こういった事情もあり,NVIDIAによる「CrossFireでは1600×1200ドット/60Hzまでしか出力できない」という指摘(詳細は「こちら」)の検証は行えなかった。これについては,製品版を待って改めて評価してみたいと思う。

 もう一つは互換性の問題だ。今回,グラフィックスメモリ512MB版のRadeon X800 XLカードも用意していたのだが,これとマスターカードとの組み合わせでは,CrossFireが動作しなかった。Radeon X800 XLカードを追加で導入しようとすると,ドライバがインストールされないのである。
 仕様の異なるグラフィックスカードでも組み合わせられるというのはCrossFireのウリだったはず。このあたりからも,CrossFireの現時点における完成度には「?」が付く。

 

 

■3DMark05で判断するCrossFireのポテンシャル

 

 先に問題点を確認したところで,ここからは気になるパフォーマンス検証を行っていくことにしよう。テスト環境はのとおりだ。今回は比較対象として,GeForce 7800 GTX(以下7800GTX)およびGeForce 6800 GT(以下6800GT)の両SLI環境を用意した。マザーボードは異なるが,両プラットフォームとも対応チップセット以外では動作しないので,これ以上テスト環境を揃えるのは不可能。マザーボードを含めたトータル性能の指針としては十分意味があるものと考える。

 

 

 X850 CFEとX850XTは前述したとおり動作クロックが同じだが,何か違いはあるかもしれない。そこで,ほかのCrossFire対SLIの比較とは少々離れるが,シングルグラフィックスカード動作時のリファレンスデータ取得も兼ねて,それぞれ単独でもベンチマークテストを行うことにした。
 なお,解像度とリフレッシュレート以外変更していない状態を「標準設定」と呼ぶのは,本誌でこれまでも行ってきたとおりだ。

 さて,まずは「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)を利用してテストすることにしよう。3DMark05に関しては,読者の多くもご存じのとおり,ATIとNVIDIAによる最適化合戦が行われているので,厳密な比較には利用できない。だが,おそらくCrossFireの最適化が最も進んでいるタイトルの一つと思われるので,CrossFireのポテンシャルを測るには適しているはずだ。
 というわけで,総合スコアをまとめたのがグラフ1である。X850XTのCrossFireは,解像度にかかわらず,シングルグラフィックスカード時と比べて2倍弱のスコアを叩き出しているのが分かる。SLIとの比較では,事実上のライバルとなる6800GTに対しては安定して1000強のスコア差を付けている一方,最新世代となる7800GTXに対しては,高解像度で歯が立たない。当然といってしまえばそれまでだが,X850XTのCrossFireは,7800GTXのSLIに迫るほどの実力を備えているわけではないのだ。これは,フィルレートのテスト結果(グラフ2)も同様である。

 

 

 ただし,シェーダテスト(グラフ3)では様相が異なってくる。ピクセルシェーダ(Pixel Shader)はグラフ1,2と同傾向なのだが,頂点シェーダ(Vertex Shader)のテストでは,なんとX850XTのCrossFireが7800GTXのSLIを上回るのだ。
 CrossFireにおいては,適切なレンダリングモードが「Catalyst A.I.」によって選択される,というのがATIの言い分だ。そして3DMark05においては,2個のグラフィックスチップがそれぞれ交互にフレームをレンダリングすることで,最大の効果が得られる「Alternate Frame Rendering」(AFR)モード選択されていると思われる。このとき,頂点処理の3DMark05に対する最適化がとくに進んでいるのがその理由だろう。

 

 

 次にアンチエイアリアス(以下AA)および異方性フィルタリング(以下Anisotropic)を掛けたときの総合スコア(グラフ4)を見てみよう。X850XTはシングルグラフィックスカードだと6x AAまでのサポートとなるが,CrossFire構成にすることで,「SuperAA」と呼ばれる14x AAが利用可能になる。また,7800GTX SLIはForceWare 77.77以降で16x AAに対応しているので,それぞれスコアを取得することにした。
 なお,画質に関して筆者は14x AAと16x AAで劇的な違いを確認できなかったのでとくに触れないが,パフォーマンスは大きく異なっている。7800GTX SLIは16x AAでも1024×768ドットで6400強の値を出しているのに対して,X850XTのCrossFireだと14x AAでも4000弱止まり。6x AAを持つ分だけ,AA適用時のスコアはRadeon有利になる一方,同一レベルのAA適用時はGeForceのほうが優位という結果になった。

 

 

 グラフ5,6はAA&Anisotropic適用時におけるフィルレート,シェーダのスコアだ。やはりCrossFire構成では6xと8x AAでスコアの差が非常に大きい。6x AAがCrossFireにおける実用限界ではないかと思えるほどである。

 

※グラフ6のみクリックで拡大

 

 

■実ゲームタイトルで見るCrossFireの現状

 

 続いて,実ゲームタイトルにおけるCrossFireのサポート状況を見るため,3本のタイトルを用意した。具体的には,大作であり,CrossFireの最適化が進んでいると思われる「DOOM 3」,長らくSLI非対応タイトルの代表として知られてきた「ファイナルファンタジーXI」のベンチマークソフトである「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」,そして,比較的マイナーながらNVIDIAのサポートを受けており,SLIのプロファイルにもその名が載っている「TrackMania Sunrise」だ。

 DOOM 3では,Timedemoにおける平均フレームレートを計測した(グラフ7,8)。X850XTのCrossFireは,標準設定の低解像度だと7800GTX SLIに肩を並べるほどだが,高解像度になるにしたがってスコアの低下が著しい。1600×1200ドットでは6800GTのSLI構成にさえ大差で敗れているという状況だ。
 AA&Anisotropic適用時も傾向は変わらない。6x AAと8x AAで大きな差が生まれるのも,先の3DMark05と同じである。

 

 

 FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3においては,X850XT CrossFireが6800GT SLIよりもスコアが下になった(グラフ9)。もっとも,シングルグラフィックスカード時よりもスコアが上昇した点は評価したい。Catalyst A.I.はそれなりに働いているようだ。
 同ベンチマークでは,AA&Anisotropic適用時でもそれほどスコアの低下は見られない(グラフ10)。

 

 

 TrackMania Sunriseにおいては,1周53秒程度となる「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,平均フレームレートを「Fraps 2.60」で測定した。その結果をまとめたのがグラフ11,12だが,注目したいのは,X850XT CrossFireがシングルグラフィックスカード時と比べて大きくスコアを落としている点である。

 

 

 Catalyst A.I.は,プロファイルが不要で,どんなタイトルでもパフォーマンスが向上するのがウリのはずだが,この結果は宣伝文句と矛盾している。TrackMania Sunrise用の"プロファイル"を,Catalyst A.I.が持っていないと判断されても仕方ないだろう。フィルタを適用するとスコアが若干持ち直すのは,フィルタの適用によって,何らかの設定が読み出され,それに応じた動作モードが選択されたためと思われる。
 いずれにせよ,最適化設定の用意されていないタイトルにおいては,CrossFireのスコアが奮わない可能性がある。この点は注意しておく必要があるだろう。Catalyst A.I.が自動設定してくれるのは確かに便利かもしれないが,対応タイトルが明確なSLIのほうが,実際に運用するうえでは使いやすいのではなかろうか。

 

 

■X850XTよりも低発熱なX850 CFE

 

 性能とは直接関係ないが,最近は気にするユーザーも多いため,CrossFire構成時のシステム全体の消費電力とグラフィックスチップの温度も調べてみた。
 なお,X850 CFEならびにX850XTの温度は「ATITool 0.25 Beta 8」を使用し,7800GTXならびに6800GTの温度はForceWareを用いて計測している。ATITool 0.25 Beta 8は2個のグラフィックスチップ温度を同時に測定できないので,CrossFire動作時にマスターカード側の温度のみとなるのはご容赦いただきたい。また,OS起動後30分放置した状態を「アイドル時」,3DMark05をリピート実行し,グラフィックスカードに30分間負荷を与え続けた状態を「高負荷時」とする。

 まず,CrossFire構成時の消費電力はアイドル時で121W,高負荷時で260W(グラフ13)。シングルグラフィックスカード時と比べると大きいが,7800GTXや6800GTのSLIよりは少ない。

 

 

 次に温度だが,これはX850 CFEの低さが非常に印象的だ(グラフ14)。7800GTXや6800GTとはアイドル時で20℃前後の差を付け,高負荷時でも70℃以下。X850XTとの比較では,高負荷時で18℃も低い。
 これは想像に過ぎないが,X850 CFEはシュリンクされ,発熱の抑えられたRadonチップを採用しているのではないだろうか。消費電力や温度に関して,X850 CFEはかなり魅力的といえよう。

 

 

 

■現時点では未完成

 

 そろそろまとめたいと思うが,正直にいって,現時点の完成度は低い。その有用性を論じる段階ではないというのが,率直な感想だ。現時点において,ウリであり,SLIに対する明確なアドバンテージであるはずの機能が使えない,パフォーマンスの大きく下がるタイトルが存在する,といった状態では,先行きに不安を感じざるを得ない。

 また,SLIがユーザーに受け入れられた要因の一つに,対応チップセットであるnForce4 SLIが高機能で,Athlon 64プラットフォームにおける有力な選択肢と成り得たことが挙げられる。機能面でRadeon Xpress 200Pから大きな改善の見られないXpess 200P CFEが,ユーザーに受け入れられるのかどうかについては,少々疑問が残るところだ。

 もっとも,3DMark05やDOOM 3では,スコアが上昇するのは疑いようのない事実。ATI製グラフィックスチップ搭載カードのユーザーは,製品版のデキや,今後のドライバアップデートに注意を払っておくべきだろう。

 

タイトル ATI Radeon X800
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2004/05/11 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.