― レビュー ―
久々に満足できる第二次大戦モノの傑作ストラテジー
Company of Heroes
Text by 奥谷海人
2006年9月28日

 

あのRelicがお贈りする,大戦モノRTSの決定版

 

「第二次世界大戦を扱った傑作RTS」と聞いて,読者の皆さんはどのタイトルを思い浮かべるだろうか? 「Sudden Strike」だろうか? あるいは「Commander」? いずれにしろ,ここ数年,多くのゲーマーからそう呼ばれるタイトルは少ない。だが,本作はそんな欠番を埋めるだけの評価を獲得しつつあるのだ。

 「Company of Heroes」は,ハイレベルのストラテジーをコンスタントに作り続けるカナダのデベロッパ,Relic Entertainmentの最新作である。1997年に創立されて以来,3次元の操作を可能にしたSF作品「Homeworld」(1999年)や,さまざまな動物のパーツをくっつけて独自のユニットを作る「Impossible Creatures」(2003年)などで高い評価を得てきた。2004年5月にTHQに買収されてからも,「Warhammer」関係のタイトルとしては久々のヒット作となった「Warhammer 40,000: Dawn of War」(2004年)を開発している。
 拡張パックなども含めると,PC用のストラテジーはこの,Company of Heroesで実に6作目となる。また,今年3月にはXbox 360用のアクション「The Outfit」をリリースするなど,ストラテジージャンルでの成功をバネに,多角的なゲーム開発に乗り出したという印象だ。

 

 Company of Heroesは,2005年5月のE3 (Electronic Entertainment Expo)で初めてその制作が発表され,特別シアターではデモムービーの公開が行われた。公開されたムービーは,「開発者の持つゲームプレイのイメージを表現する」とされ,スクリプトを使って映画風に再編集したものだった。そのため,そのムービーを見た多くの人は「これが本当に実現できるのか?」と疑問を持ったかもしれない。
 最近のPCゲームに利用されるさまざまなグラフィックス技術は,DirectXなどのAPI(Application Programming Interface)によるものであり,それらの機能をいかに適材適所でゲームに適用させていくかが重要になる。Company of Heroesでは,少ないポリゴンデータで擬似的に表面の凹凸を表現できるノーマルマッピング技術などを使用し,まるで最新のFPSのように緻密な映像を実現することを最大の目標としていた。RTSで問題となるのは常に何十何百ものユニットが登場することであり,(普通に処理していたら)その負荷は相当なものになるはずだ。
 正直なところ,「今のPCの処理能力でこのグラフィックスは無理なんじゃない」というのが筆者の感想だった。ところが,発売されたゲームのグラフィックスはまさにE3で公開されたムービーそのままであり,Relic Entertainmentの開発力の高さを知ると同時に,RTSの新しいスタンダードを見る思いがした。もっとも,グラフィックスも確かにゲームの重要な要素だが,内容が伴っていなければ文字通り絵に描いた餅だ。というわけで,さっそくプレイしてみよう。

 

 Company of Heroesは第二次世界大戦のノルマンディ上陸作戦からスタートする。1944年6月6日,アメリカ軍,イギリス軍,カナダ軍,そして自由フランス軍からなる連合軍部隊は,ドイツ占領下にあったフランス北西部のノルマンディ海岸へ大胆な上陸作戦を敢行した。ドイツ軍が東部戦線でソビエト軍との激しい戦闘状態にあったことから,西方に新たな戦線を開いてナチスドイツを挟み撃ちにしようとしたのだ。
 しかし,あとのないドイツ軍の抵抗は凄まじく,「血のオマハ」と呼ばれたオマハ海岸を中心に米英軍だけで死者約4万人。戦傷者や行方不明者は両軍合わせて約43万人にのぼるという史上最大の激戦が展開されたのである。

 

 ゲームはやがて大西洋の玄関口だったシェルブール港の争奪から,ドイツ国内の戦闘まで続いていく。ゲーム中には時折,戦争の無慈悲さを批判するエピグラフや兵士達の言葉が登場し,バイオレンスを扱っていながら反戦的でもあるというアンビバレンツを感じさせる作りになっている。

 

ゲーム中,使われているグラフィックスエンジンを利用した迫力あるムービーシーンが随所に挿入される。ハイレベルなグラフィックスとサウンドで,その臨場感は抜群だ ミリタリーものなので,それなりの用語を知っていると話が早い。Able“カンパニー”といっても,むろん会社ではなく“中隊”の意味。ご存知プラトゥーンは“小隊”だ グラフィックスに力を入れたRTSとしては「Rise of Nations」や「Maelstrom」などがあるが,本作ではこんなに近づくことが可能。これはもはやユニットでなくキャラクター

 

映画「プライベート・ライアン」以来,ノルマンディ上陸作戦を扱った第二次世界大戦モノのゲームが増えた。Company of Heroesも例外ではない。血のオマハを生きのびろ! シングルプレイモードのミッションは全部で15種類。まあ,だいたいがフランスのノルマンディ地方なのだが,それぞれのマップは変化に富んでおり,ボリューム感は満点だ 攻撃ばかりでなく,敵の侵攻を食い止めたり撤退したりと,ミッション内容は多彩だ。難度は高めなので,ビギナーは,Easyモードに設定してプレイするのが良いだろう

 

 

マップ利用の巧みさと部隊管理のバランスが,
Company of Heroesのセールスポイント

 

美しいグラフィックスに加えて,そのプレイ感覚からは,Relicの前作「Warhammer 40,000: Dawn of War」のDNAを強く感じる。ちなみに本作は,Microsoftの新しいゲーム標準規格「Games for Windows」のロゴをパッケージにあしらった初のゲームでもある

 ゲームが始まると,プレイヤーには「マップ中の拠点を制圧しながら,相手の本拠地を破壊する」とか「町の中心部を一定時間死守する」といったようなミッションが与えられる。RTSといっても,資源の入手と管理に関してはファンタジー系ストラテジーとはかなり趣を異にする。本作では,どのようなルートで拠点を制圧するか,もしくは相手のユニットやミッション内容に合わせてどんな種類のユニットを生産するかというマネージメントが重視されている。
 ここで言う資源とは,人材,弾薬,燃料の三つだ。これを確保するには,多い場合でマップに20か所ほど点在している拠点を制圧する必要がある。拠点の確保により,兵站ルートが確立されていくというイメージになっているのだ。キャンペーンモードでは,多くの拠点が中立ではなくドイツ軍の支配下にあり,機関銃や対戦車砲,狙撃手などを配した強固なバリケードが作られている。何もないと思って近づいていくと,付近の建物からこちらを狙っていたということも一再ではない。
 また,制圧した地域は,注意していないと相手に奪い返されることがあり,そうなると兵站線が寸断されて前線が一気に弱体化する。補給線を守るために部隊を配置したり,鉄条網や土のうなどで防備を固めたりとさまざまなことを考慮しなければならず,この拠点の取ったり取られたりが本作の面白い部分だ。すべての地域にそれなりの重要性があるといった,巧みなマップ利用は,これまであまり前例がなかったと思う。戦略眼が大きく問われるところだ。

 

 Company of Heroesでは,兵数の上限が厳しく設定されているため「ユニットを量産してラッシュを仕掛ける」というプレイスタイルは実行しづらい。プレイヤーは,もっぱら最大6名からなるスクワッド(分隊)を10個から20個ほど使って戦闘を進めることになる。
 生産されたユニットは「援軍」というスタイルでマップ上に出現し,生産から登場までのタイムラグは非常に短い。興味深いのは後述する「Company Command System」で,簡単にいうとテクノロジーツリーを使ったユニットのアップグレードだ。このアップグレードによって工兵がパイロ(火炎放射兵)を兼ねるようになるなど,ユニットの種類は意図的に減らされているようだ。
 また,各ユニットのAIはかなり秀逸で,突然の攻撃に対するカバーやチームでの行動など,非常にディテールに富んでいる。例えば,ビルの廃墟を行軍していていきなり相手の攻撃を受けた場合,ユニットは近くの壁に張り付いたり廃車の陰に身を潜めたりして自動的に応戦する。もっとも,遮蔽物の材質によって防御力が異なるのだが,その判断はできないようだし,突進してくる戦車に対して手榴弾や映画「プライベート・ライアン」でおなじみの“粘着爆弾”(Sticky Bomb)を自動的に投擲することもしてくれない。それでも,こうした優れたAIによって,なるべくプレイヤーの手を煩わせないようになっているという印象が強い。
 しかしこれは,戦闘が簡略化されて単純になっているということではない。プレイヤーは,コストの高い対戦車砲をいかに有効に活用するか,あるいは進撃路を塞ぐ相手のトーチカを,どの方向へ迂回していくかというような戦略に集中すべきであり,慣れると飽きてしまうような細かい操作だけをすべて自動的にやってくれるということだ。

 

 もちろん,手ばなしで誉められない部分もある。例えば,防御のための有刺鉄線を引くように指示した工兵が壁の隙間に挟まって身動きが取れなくなったり,ひたすら最短距離を進もうとする戦車のために,せっかく占領した陣地の壁や土のうが破壊され,こちらの防御力が減ってしまうなど,もっぱらパスファインディングでの不満を感じるケースがあった。

 

ミッションブリーフィングは地図を使って分かりやすく説明されるし,キャプションも出るため,英語版でもそれほどミッション内容の理解に困らないはずだ インタフェースはシンプルで使い勝手が良い。左下のマップの青い部分が自軍の,赤が敵の制圧地域を示す。緑のサークルはミッション目的に関連する場所だ 本作は,アメリカでは17歳以上しか購入できないMレーティング。汚い兵隊言葉が出てくるうえ,血が飛び,爆撃された兵士の体がバラバラになるなどのゴア表現が見られる

 

敵の侵攻に備えて設置した自陣の土のうを,味方の戦車が吹っ飛ばして行くと少々腹が立つ。AIが秀逸なだけに,細かいパスファインディングなどの再調整がほしいところだ 塹壕や廃車,トーチカといった遮蔽物があれば,兵士達も体力を減らすことなくタフに奮闘してくれる。戦闘に勝つことによって,ベテランユニットへと昇格する ゲームには,夜間にドイツ軍の工場を攻撃するといったミッションも登場する。プレイヤーは,マップごとに3種類の兵科を選んで特殊スキルを磨いていく

 

 

マルチプレイも面白い,
第二次大戦系RTSの新たなる指標

 

ユニットはそれぞれが得手不得手を持っている。戦車は後方からのロケット攻撃にはすこぶる弱いし,歩兵の肉迫攻撃によるヒット・アンド・ラン戦法も有効だ。画面右手奥にあるポールが戦略拠点に当たり,これを制圧することで資源の補給ルートを獲得するのである

 シングルプレイで担当できるのは連合軍側だけだが,マルチプレイモードではドイツ軍も使える。ユニットの種類は多くないが,上記のようにCompany Command Systemによってバリエーションが付けられる仕組みだ。
 連合軍は「歩兵」「空挺」「装甲車」,そしてドイツ軍なら「防御」「電撃戦」そして「テラー」(兵士に対する戦意高揚のプロパガンダ)の三つの“カンパニー・ドクトリン”から一つをを選択できるようになっている。これらにはそれぞれテクノロジーツリーがあり,戦闘によって得られるマンドポイントを使ってユニットの能力を向上させていくのだ。たとえば,相手の歩兵によって次々とこちらの拠点が奪われていたとしても,戦車ドクトリンの初期スキルである“Raid”が開発されると,ジープや装甲車でも拠点制圧が可能になり,これまでピンチだった状況が一転する。まるで,突然ゲームの流れが変わるような感覚だ。空挺を選んで落下傘部隊を後方に送り込んだり,かと思うと歩兵ドクトリンで戦車に強い“Ranger”の生産スキルを開発したりと,歴史的なリアリティをあまり損なうことなく,ゲームとしての面白さ,逆転の緊張感を作り出すことに成功している。
 このシステムにより戦い方も一様でなくなり,少ない種類のユニットでもバリエーション豊かに戦える。また,チーム対戦では仲間が別々のドクトリンを担うことで,さながら各兵科の司令官気分を味わえるのだ。

 

 Company of Heroesでは,物理エンジンとして有名なHavokを使用している。ジープが爆発すると中の兵士が吹き飛び,戦車はレンガ壁や森を突き破って前進していく。建物にこもる敵機関銃手は,手榴弾や戦車の砲撃で建物ごと成仏させることも可能だ。こうした物理エンジンによる演出が,リッチなグラフィックスと相まってゲームに現実っぽさを与えていることはいうまでもないだろう。

 

 マルチプレイでは,Relic Entertainmentが運営を始めたロビーサーバーにアクセスしてプレイすることになるのだが,実際にプレイする限りとくにラグや通信障害などの問題はないようだ。とはいえ,チーム戦では味方チームのユニットが色分けされておらず,誰のユニットなのか判別できないなど,まだちょっとした手直しの積み重ねが必要かもしれない。

 

 サウンドにも臨場感があり,効果音に定評あるFPS「Call of Duty」シリーズのRTS版といった雰囲気だ。爆発音に重なって兵士の悲鳴が聞こえ,指揮官が声高に命令を下すなど,「戦場にいる」感覚はかなりのものだ。
 ユニットが多数登場したときのPCへの負担は尋常でないので,本当にRTSにここまでハイレベルなグラフィックスが必要なのか? という議論は確かにあるだろう。しかし,実際にプレイしてみるとその説得力に驚くはずだ。これまで地味な印象で長らくヒット作のなかった第二次世界大戦モノのRTS系において,Company of Heroesは,その新たなる指標となるだろう。

 

写真のカリオペは,1944年にアメリカ軍が開発したロケットランチャー装備の戦車。広範囲にわたって攻撃を加え,絶大な破壊力を誇る頼もしい味方である。ただしコストが高い スナイパーは建物にこもるだけでなく野戦でもかなりの能力を発揮してくれる。アクションを起こさない限り敵には見えないカモフラージュモードにすれば,かなりの距離まで敵を引きつけられる 空挺ドクトリンを習得していれば,緊急時に落下傘部隊を召集することも可能。このほか,偵察/空襲などのスキルもある。各兵科の能力をうまく利用して戦い抜いていこう

 

マルチプレイはチーム戦が楽しい。開発元が運営するサービス“Relic Online”は,これまでの作品で使うのはちょっと難しそうだが,チャットなども搭載した本格的なものだ Skirmishモードには,キャンペーンに登場しないマップが15種類も用意されている。1対1から4対4までのBOT対戦も楽しめるのだ Company of Heroesには高解像度テクスチャモードがあり,選択すると細部まで描き込まれたゲーム画面が楽しめる。Havokエンジンでほとんどの建物が破壊可能になっている

 

タイトル カンパニー オブ ヒーローズ
開発元 Relic Entertainment 発売元 ズー
発売日 2006/12/22 価格 8190円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP/Vista,CPU:Pentium 4/2GHz以上,メモリ:512MB,HDD空き容量:3GB以上,グラフィックスカード:GeForceFX/Radeon 9500以上(オンボードおよびメインメモリ共有型は動作保証外),グラフィックスメモリ:64MB以上,サウンド:DirectX対応,光学ドライブ:DVD-ROMドライブ必須

Company of Heroes and the Company of Heroes logo are (c)Copyright 2005 Relic Entertainment and THQ Inc. All Rights Reserved.

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