― レビュー ―
待ちに待った第2作は正しく生まれ変わったのか
Black & White 2
Text by 奥谷海人
2005年12月15日

 

■天下無双の「ゴッドゲーム」としてのユニークさ

 

プレイヤーが守護するのはギリシャ民族。ゲームが進むに従ってノースや日本民族とも混成していく。建物の種類が大幅に増え,都市建設ゲームとしての魅力が備わったのは本作での大きな収穫だ

 奇才ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏といえば,本国イギリスやアメリカはもとより,日本でも人気の高いゲーム作家の一人。氏が生み出す作品の独創性は,ゲーム業界全体から見ても常に抜きん出ている。「ポピュラス」や「ダンジョン・キーパー」など,1980年代から氏が世に送り出してきた異色な作品群は,すべて「眼下で忙しく動き回るリトルピープルの生死を,プレイヤーの意のままに操る」という「ゴッドゲーム」(神のような立場で遊ぶゲーム)で,人間のサディスティックな願望のようなものが込められているのが特徴だ。

 

 本作「Black & White 2」は,そんなゴッドゲームとしての要素はそのままに,現時点で最高レベルともいえる美しいグラフィックスと,前作をさらに煮詰めたアイデアを盛り込んだ意欲的な作品である。

 

 Black & White 2は,原則的に前作の雰囲気を色濃く継承している。前作と同様,プレイヤーは起伏ある島で原住民達に神として崇められる存在,すなわち神として,彼らを導いていく。
 ただし,まさに未開の原始文明から始めなければならなかった前作とは異なり,本作のリトルピープルは古代ギリシャ人としてのアイデンティティを持っている。あやふやだったストーリーラインも明確なものになり,アステカ文明に定住の土地「エデン」を奪われたギリシャ人達の前に降臨したプレイヤー(神)が,行く手を阻むノース(北欧)や日本民族達を統合しながら,アステカからエデンを取り返すために奮闘するという目的が与えられている。

 

 「神」になるという設定だけに,本作でプレイヤーができることは実にさまざまだ。マウスカーソルには「神の手」としての機能が備わっており,村人達を握って好きな場所に移動させたり,麦や樹木を引き抜いて資源供給を補助したりといったことが可能で,ほぼマウスだけでプレイできるのは前作の仕様そのまま。
 大邸宅や野外劇場,酒場や風車,城壁といった,さまざまな施設をレイアウトできる都市建設ゲームとしての魅力もあるかと思えば,リアルタイムストラテジーのように軍団を率いて敵地を制圧することもできる。変わったところでは,敵軍や敵の都市にダメージを与える「魔法」も使える。

 

 何より,プレイヤーのペット兼“神の遣い”である「クリーチャー」を育て上げる試練は,シリーズのトレードマークでもあるといえる。今回は,クリーチャーの存在がゲームプレイに深く関わっており,クリーチャーに町作りを手伝わせたり,軍隊に同行して敵と戦わせたりもできるようになった。育て方次第でクリーチャーの体格や性格も変化するのだが,プレイヤーの人格がクリーチャーの外貌に投影されていくのが楽しくて,建設や戦闘の合間でも,ついついクリーチャーの世話をしてしまうことだろう。

 

 九つあるマップは前作同様すべて島で,ツンドラから砂漠までバリエーションに富んでいる。大地を覆い尽くしている何千本という樹木,海面の揺れ,昼夜の変化,そしてマップごとに異なる雰囲気に至るまで,グラフィックスエンジンの作り込みに関しては「マニアック」という言葉だけでは語り尽くせないものがある。
 その魅力を最大限に味わうにはDirectX 9.0に完全対応したグラフィックスカードが必要になるが,水に濡れるとべっとりとなるクリーチャーの毛並みとか,カメラを最大限にクローズアップすると大地に這うアリの様子が見えるなど,ゲームとは直接関係のない部分まで,とことん描かれているといった調子だ。
 用意されたマップのうち,最初の3面はチュートリアルとして利用されており,ストーリーの流れと共に手取り足取りゲームプレイの基本を教えてくれるので,前作をプレイしていない人でも理解しやすい。発売当初は新しいゲームで遊ぶたびに2時間近くかかるチュートリアルをこなすのが非常に苦痛だったが,早々にパッチで修正されたことでかなり負担が軽減された。

 

 前作「Black & White」はあまりにもオープンエンドだったためか「何をすればいいのか分からないゲーム」として批判されていたこともあって,Black & White 2ではあらゆる部分で見直しが行われた。さらに洗練されたゲームプレイとグラフィックスで,Lionhead Studiosのフラッグシップソフトとしての面目を保つ傑作になる……はずだった。

 

Black & Whiteといえばクリーチャー。そもそもは1990年代に欧米へ輸出された「たまごっち」にヒントを得たもの 本作の評価を決めるのは,やはり大幅にアップデートされている戦術ゲームとしての要素だろう。しかし…… マップは例によって島状になっている。切り立つ絶壁や樹木の様子は,一目見てBlack & Whiteシリーズだと分かる

 

プレイヤー扮する神がエデンに降り立ったときには,すでにギリシャ民族はアステカに蹂躙されている リトルピープルは農夫,木こり,鉱夫,祈祷者,ブリーダーなどの専門職業に設定できるようになった ブリーダーは人口を増やすために不可欠な専門職。その場で異性と恋に落ち,道端でお産してしまう。常に用意しよう

 

 

■洗練されたインタフェースとゲームの目的

 

クリーチャーは,成長するに従って頼もしい姿になっていく。神々しくなるか凶々しくなるか……。タイトルの「Black & White」は,まさにこの観念から名付けられている

 Lionheadの作品らしく,Black & White 2を最初に起動したときに広がる光景は格別である。今回が初めてという人なら,その美しさや細かさに感嘆することだろう。
 カメラの移動には,カーソルの手で大地を掴みながら進んでいくのがユニークで,本作が初めての人は慣れるのに時間がかかるかもしれない。大きく見直されているのがインタフェースで,パラメータなどのHUDがことごとく削り取られていた実験的な前作とは違い,ツールバーから必要なコマンドを引き出せるようになったことで,かなり操作しやすくなった印象を受ける。
 マネージメント用のツールバーは,大別して施設建設(construction),クリーチャー育成(creature leaning),クリーチャー・ロール(creature roles),進貢(tributes),ミラクル(miracles),オブジェクティブ(objectives),そして統計(statistics)の7種類がある。何をするにもカーソルを合わせると吹き出しのような形のポップアップが飛び出て説明してくれるので,マニュアルと格闘することもほとんどないだろう。

 

 施設の種類は大幅に増えており,都市建設シミュレーションとしての面白さは格段に向上している。ゲームが始まると,最初は決められた場所に“町の中心”(town center)が用意されているだけだが,プレイヤーは好きなように道を引いたり,住居や畑から,教会,祭壇,兵の訓練所,墓地,学校,製鉄所,劇場,石像といった40種類ほどの施設を建設したりして,都市を自由にデザインしていけるのだ。
 これらの建物を建設するには,「トリビュート」(tribute)と呼ばれる神様専用の貨幣に相当するものを使って,ツールバーのtributesアイコンで利用可能な状態にする必要がある。トリビュートは,プレイヤーが“神”として民衆を感動させることで増える。マップごとに決められたオブジェクティブをこなすことで得られるものもあれば,マップに点在するサブクエストで発生するものもある。建物ばかりでなく,プレイヤーが使用するミラクルや,クリーチャーに覚えさせるミラクルを購入するのにも使う。

 

 Black & White 2では,プレイヤーが選択できるクリーチャーは,サル,ライオン,オオカミ,ウシの4種類となり,ウェブでダウンロードファイルが出回っているトラとゴリラを含めても,数は大幅に絞り込まれている。これらをゲーム開始時点で選択して,プレイヤーが建設していく文明の守護神として育て上げていくわけだが,やはりツールバーの導入によって,前作よりも飛躍的に育てやすくなっている点には好感が持てる。
 まず,Creature Rolesは,あらかじめクリーチャーに大まかな指示を与えておくことで,プレイヤーの代わりに細かい仕事をしてもらうコマンドだ。五つのロールがあり,歓待(entertainer),収穫(gatherer),建設(builder),兵士(soldier),自由意思(free will)という項目に分かれている。例えば収穫を選べば,クリーチャーから緑色の「リーシュ」と呼ばれるヒモが表示されて,それを畑や森に繋いでおくことで,クリーチャーは自分の知識の範囲内で行動してくれる。ただしクリーチャーが若いあいだは,木に繋いでおいたからといって必ず木を伐採してくれるわけではなく,その木を村のアチコチに投げたり,食べてしまって嘔吐したりすることだってある。

 

 そのために,Creature Leaningというツールバーが重要になってくる。クリーチャーは,ゲームが進行するに従って「何をするか」「何を食べるか」「どこで用を足すか」など50種に及ぶ行動パターンを学んでいくのだが,これらの行動はプレイヤーが直接指導可能なのだ。良い行動をしたら撫でてあげると,良い行動だと記憶する。クリーチャーが空腹のために村人を食べるような行動を好ましくないと考えるのなら,クリーチャーをカーソルでひっぱたいて,諭してやるのである。

 

 クリーチャーは成長するにつれて,まさに“プレイヤーの右腕”として活躍してくれるようになる。ここまで来れば,クリーチャーは自由意思(free will)の状態にしておいても,それなりに融通の利いた行動をしてくれるし,クリーチャー自身もハッピーな状態を持続できるようになる。
 ハッピーなクリーチャーは,体毛が白っぽく神々しい雰囲気となり,画面に向かって踊ってみせたり手を振ったりと,その行動もなかなか可愛いらしい。反対にプレイヤーが荒々しく育てると,全体的に黒っぽく醜い体つきとなり,やたらと吠えるなどの威嚇的な仕草を見せるようになる。あまり食べさせないと痩せてガリガリになってしまうし,戦いに送り続けていれば筋骨隆々になっていく。
 どのようにクリーチャーを育てていくかで,クリーチャーの容姿も変化していく面白さは,Black & Whiteシリーズの醍醐味の一つといえるだろう。

 

ツールバーの採用によってBlack & Whiteシリーズの奇抜さは減ったが,ゲームとしては非常に遊びやすくなった これは,第5面での“サミュライ”クエストのネタバレ画像。ネタバレが嫌いの人は画像を拡大しないように注意 前作の拡張パックでは20種を超えたクリーチャー達も,本作ではデフォルトで4種,最大でも6種類と減ってしまった

 

ひっぱたいたり撫でたり,文字通りクリーチャーを“調教”する。パラメータの導入で前回より分かりやすくなった クリーチャー同士の対決。このトラは樹木ばかり食べていて,成長が劣っているようだ。死んでも生き返るので安心 ラスボスのゴリラは,どことなく愛嬌がある。序盤はやっかいだが,壁を二重にするなどして侵入を防いでしまおう

 

 

■受け皿が大きすぎたため,戦闘要素が崩壊

 

ゲームの勝敗を一撃で決定してしまう「ミラクル」には,敵民族を自国に引き込むSerene,竜巻で被害を与えるTornado,大地震を引き起こすEarthquake,そして周囲を焼き尽くすVolcanoの四つがある

 ではなぜ,Black & White 2をプレイしても「面白すぎる!」と言い切れないのか? それは,Lionheadが「分かりやすさ」に細心の注意を払っていたのとは裏腹に,「ゲームバランス」の調整で難航していたからではないだろうか。
 とくに戦闘システム。Blizzard EntertainmentでWarcraftシリーズを開発していたメンバーを引き入れて,開発途中で戦闘システムを見直したことには好感が持てるものの,ユニットは歩兵と弓兵しか兵科がないため,RTS風味と呼ぶには忍びないほど単純な構造になっている。単体で生産できるカタパルトもあるのだが,壁やゲートの破壊はクリーチャーで代用できるため,製造所を作るコストに見合うほどの使い道はない。
 極端な話,攻撃や破壊はすべてクリーチャーに任せてしまって,敵の町を制圧するために50人ほどの小軍団を作っておけば間に合うくらいだ。

 

 この戦闘システムの崩壊は,NPCのAIがうまく機能していないからであるように思える。敵の軍団は,ゲートが開いていなければ攻撃してくることはなく,弓兵をアップグレードした火矢の大軍団でもない限り,成長したクリーチャーを倒すことは難しい。敵軍の数が多い後半でも一斉に攻撃を仕掛けることがないので,いつも同じ場所に進出してくる敵軍を,クリーチャーか魔法を使って逐一駆除していくだけでよい。敵AIがお粗末すぎて,兵士を整える必要さえも見当たらないのである。Black & White 2にマルチプレイヤーモードがあれば,どれほど面白かったことだろう。

 

 この敵のAIが単なる失敗作なのか,意図してダウングレードさせられたものなのか,はっきりとは分からない。 Black & Whiteは,戦闘が好きな人でも都市建設が好きな人でも,はたまたリトルピープルの生活をじっと見ているだけの人でも,それなりにゲームを進められることを目的に作られているはずであり,そのことからもダウングレードが図られた可能性は十分ある。この受け皿の大きさが,ゲームコンセプトの一つであるというのは疑いの余地がないことだ。

 

 ただ,そもそも兵士ユニットの数も都市の人口によって左右されるため,簡単には大軍を作り出せない。人口を増やすためには,都市の機能を整備しなければならないのだが,そうこうしている間に文明の魅力値が上昇し,プレイヤーが兵を集めて占領軍を派遣する前に,近辺の都市から民衆達が投降してきてしまう。結局は遊び方が単調になるわけで,ストラテジーゲームとして未熟であるのは否めない。受け皿が大きすぎるために,それぞれの要素が中途半端になってしまったのではないだろうか。

 

 Black & Whiteシリーズは,その独創的なゲームシステムとコンセプトゆえに,かなり玄人のゲーマー達にしかウケないはずだ。日本語版のリリースを見送った(日本の)エレクトロニック・アーツの判断は間違っていないと思う。
 Lionhead Studiosが誕生してから10年。Black & White 2は前作の評価を受け止め,より多くの人達に楽しめるように5年もの歳月をかけて改良されていたはずだが,荒削りながら“何でもできるオープンエンドなゲーム”を標榜して大きなインパクトを与えた前作と比べても,どこかこぢんまりとまとまってしまったようだ。「良くなりつつあるが,まだまだ」と感じると同時に,前作以上にぶっとんだ発想を期待していたファンは,筆者のように肩すかしを食ったことだろう。

 

 モリニュー氏の構想によると,Black & Whiteシリーズは3〜4作続くことになるという。原始時代からギリシャ時代となれば,次に来るのは暗黒時代あたりだろうか。クリーチャーの宿敵にドラゴンが登場したり,城を建てたり騎士や吟遊詩人を生産したりするのだろうか?
 このレビューを読んでいただいた読者の多くは,シリーズを通してプレイしてきたファンだろうし,本作では物足りなさを感じながらも,次への進化を心待ちにしている人も多いはずだ。結局,このゴッドゲームの魅力に取り付かれたゲーマー達は,さらに高まる期待感をモリニュー氏とLionheadの手に委ねるしかないのである。

 

クリーチャーには,早い段階でLightiningとHealingの魔法を習得させておけば,単体でも強力なユニットとなる 列を作るようにしてプレイヤーの城壁の外で待っている敵の軍隊。面倒ならFireballで焼き払ってしまってもよい せっかく大軍を用意しようとしているのに,敵の土地の住人が次々と投降してきて勝手に勝利してしまうのは残念だ

 

町の中心(Town Center)には,何が求められているのかを表示する銅像などがあり,細かな情報が引き出せる ギリシャ時代にサムライや足軽はいないが,もし次世代Black & Whiteで中世に突入したら日本民族はどうなる!? クリーチャーの周りにいるのはプレイヤーの心象。どちらを選択するかでエデンの世界も異なる景色に代わっていく

 

タイトル Black & White 2
開発元 Lionhead Studios 発売元 Electronic Arts
発売日 2005/10/07 価格 N/A
 
動作環境 N/A

All rights reserved. Black & White is a trademark of Black & White Studios and Lionhead Studios No part of these pages may be reproduced without the prior permission of Black & White Studios and Lionhead Studios.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/bw2/bw2.shtml