» 第二次世界大戦RTSの代表格ともいえる,ブリッツクリーグシリーズ第2作の,初の拡張パックをレビューするのは,歴代シリーズを常にレビューし続けてきた虎武須氏だ。彼が「RTS初心者は要注意!」と警鐘を鳴らす本作は,果たしてどれほど手ごわい拡張パックなのだろうか?
第三帝国に訪れた落日の時
美しい雪原での激しい攻防! 敵が次々に橋を渡って来るが,敵の対戦車砲を奪えれば,少しは楽になる……はず? |
硬派な第二次世界大戦RTSとして知られる,ブリッツクリーグ(以下,BK)シリーズ。3月2日,世界の良質なRTSを多くリリースしているズーから,ブリッツクリーグ2初の拡張パックとなる「ブリッツクリーグ2 〜フォール オブ ザ ライヒ〜 日本語版」(以下,FotR)が発売された。FotRはこれまでのBKシリーズの拡張パックと同じく,BK2本体がなくても動作する,いわゆるスタンドアロン型である。だが,この点には注意が必要であり,詳細は後述したい。
BK2本体の詳細は,レビュー記事を参照してもらうとして,ここでざっと特徴をおさらいしておこう。BKは「2」になってグラフィックスがフル3D化され,シリーズ伝統の緻密で美しい兵器/風景描写はそのままに,より臨場感のあるゲーム画面が楽しめるようになった。
また,ミリタリーRTSではお馴染みの「援軍システム」が大幅に刷新され,より戦略的な援軍要請が必要なゲームデザインとなった。さらにユニットの種類ごとに指揮官を任命でき,経験を積むことでさまざまな「技能」が使えるようになる点も,大きな特徴。キャンペーンでは,ミッションをこなしていくごとに援軍要請できる兵器に幅が出てくるというのも,楽しみの一つだ。
もう一つのミリタリーRTSの雄,サドン・ストライクシリーズと人気を二分する,成熟した存在となっている。
さて,ミリタリーファンなら先刻ご承知のことと思うが,サブタイトルに使われている「ライヒ」という言葉は,ナチスドイツが支配した第三帝国(ドイツ語でDrittes Reich,英語ではThird Reich)を狭義で指している。サブタイトル全体を訳すと「第三帝国の没落」といったところだろうか。
つまりFotRは,これまでのBKシリーズ,いやほかのミリタリーRTSでもあまり見られない,1944年以降のドイツ軍の敗退キャンペーンなのである。FotRには第二次世界大戦終盤の,東ヨーロッパにおけるドイツとソ連両軍の攻防が,それぞれ8ミッション,合計16ミッション用意されている。BK1の拡張パックではエルウィン・ロンメルやジョージ・S・パットンなど,名将の華々しい戦歴をたどるキャンペーンが多かったのだが,BK2初の拡張パックとなる本作が,いきなりドイツ軍の敗退キャンペーンなのは興味深い。
FotRでは,上記のような史実に基づいたキャンペーンのほか,「創作ミッション」という架空の戦闘を扱った単独ミッションが10本用意されている。これはBK2本体のメニューにはあったが,ミッションそのものは実装されていなかったものだ。敵の試験場に忍び込んで最新鋭の戦車を盗み出したり,包囲している敵を突破させないなど,史実という縛りがないだけに凝った内容のミッションが多いのが魅力的だ。創作ミッションでは,マップごとに選択できる陣営が固定されているのだが,これはこれでかなり楽しめる内容である。
援軍の部隊ごとに指揮官を任命できる。経験を積むことによって部隊がスキルを習得していく | キャンペーンを通して援軍を要請できる回数が制限されており,各ミッションで使える回数も決まっている | プレイヤーキャラクターも,作戦を成功に導けば階級が上がっていき,要請できる援軍の種類が増えていく |
ミリタリーRTSではすっかりお馴染みの降下部隊。輸送機からポンポン飛び降りる様子は,眺めていると可愛い? | 遠隔地からの砲撃があまりに激しい場合,唯一対抗できるのが航空機による支援だ。案の定,大量の野砲が…… | 兵器事典も省かれていないのが嬉しい。BK2に登場する,各国の膨大な量の兵器が網羅されている |
絶叫モノの難度は制作者側からの挑戦状なのか?
敵が密集している場合には,爆撃機の要請が効果的。上手に決まれば大変気持ちいいのだが…… |
FotRは第二次世界大戦の終盤となる,1944年以降の東部戦線を扱っている。ドイツ軍キャンペーンは,すでに敗色が濃厚で疲弊した軍を奮闘させ,大攻勢を仕掛けてくるソ連軍に対抗するといったもの。対するソ連軍キャンペーンは,豊富な戦力をもってドイツ軍を蹴散らし,ポーランドへ向けて進軍するというものだ。
そんな時代背景を考えただけでも,ドイツ軍のキャンペーンは厳しいことがうかがえるが,かといって,ソ連軍キャンペーンにおけるドイツ軍も黙って叩かれるはずもなく,決死の抵抗をみせる。実際,ソ連軍キャンペーンでは大攻勢といった雰囲気はなく,とても疲弊しているとは思えないドイツ軍相手に苦戦することになる。
こうしたドイツ,ソ連両軍のキャンペーンで合わせて16本のミッションが用意されている。もともとBKシリーズの拡張パックのキャンペーンは,さほどミッション数が多くなかったが,FotRはその中でも最も少ない収録ミッション数となる。とはいえ,これまでBKの拡張パックでは1本のキャンペーンが提供されていただけなので,2本のキャンペーンが用意されている点は喜ばしい。
「ミッションが少ないなら,すぐ終わっちゃうんじゃないの?」という考えは早計である。FotRの全ミッションをクリアするには,これまでのキャンペーンとは比較にならないほど膨大な時間を要することだろう。もちろんミッションが冗長であるという意味ではない。
異様なまでに難度が高いのだ。
筆者はこれまで,4GamerでBKシリーズのレビューをすべて担当してきた経験から,正直なめてかかっていた。だがデフォルトの難度「中級」のままゲームを開始して,すぐにその異変に気付いた。あわてて「初級モード」に切り替えてはみたものの,やはり勝てない。それも完敗ともいえる負け方をしてしまうのだ。
ちなみにゲームは「初級」から「最上級」までの4段階に設定できるが,まったく援軍を呼べない最上級以外,ほとんど難度の差を感じなかった。援軍を呼べる数も同じようなので,実質的に最上級を除いて難度は固定と思っていいだろう。また,こちらのユニットの視界に入っているにもかかわらず敵ユニットを攻撃できないケースなど,調整不足ではないかと思える部分も散見された。もっとも,これは特定のユニットに対して起こりやすいので,意図的な仕様なのかもしれないが,どうも個人的にはしっくり来ない感じがした。
今までのBKシリーズでは,このようなことはなかったはずで,どうしてここまで難しくしたのかと首をかしげるほどだ。上述の時代背景のとおり,ドイツ軍キャンペーンよりもソ連軍キャンペーンのほうがいくぶん難度は低めに感じたが,それでもかなりの苦戦を強いられることになるだろう。
さて,ここでFotRというパッケージについて考えてみよう。新たに追加された新機能や,大幅に変化が加えられた部分はとくになく,ユニットステータスが調整された程度だ。例えば機関銃兵の射界が拡大し,野砲は射程距離が伸びて正確さと速度がわずかに低下したという具合である。歩兵の視界もいくぶん拡大されたようなので,これまで以上に索敵に慎重にならざるを得ない。
細かい部分に差異はあるものの,BK2本体との違いは,キャンペーンの内容,創作ミッションの実装といったところ。拡張パックとはいえマルチプレイ機能が省かれておらず,新たに専用マップが四つ追加された点も見逃せない。好評の兵器事典や,基本的な操作を学ぶチュートリアルも省かれていない。もちろん,数多く出回っているBK2用のMODも使用可能だ。つまりFotRは,キャンペーン内容が違うBK2本体のブラッシュアップ版と考えても差し支えないだろう。
これがそのソ連軍の爆撃機。ドイツ軍の爆撃機よりも数段デカい。三機編隊で画面を覆ってしまうほどだ | 創作ミッションはFotRの魅力の一つだ。どれも史実にはない作戦だが,そのぶん内容がドラマティックだ | キャンペーンでのミッション選択画面。最終ミッション以外はどれからでも選択できるのは従来のとおり |
マップ外から続々と迫り来る敵を迎え撃つ。戦車は周囲に土嚢を積んで,防御を固めることも可能 | 各ミッションで目標が提示され,一つ目標を達成すれば次の目標が追加される。表示されない隠し目標もある | 激しい砲撃によって美しい町並みは破壊され,地面は穴だらけに。影になっている部分は死角である |
敏腕RTSプレイヤーなら腕の見せどころだが
BK初心者が最初に手を出すのはとても危険な1本
BK初心者が最初に手を出すのはとても危険な1本
ゲーム中はあまりゆっくり眺めてもいられないが,ちゃんとドッグファイトも繰り広げられている。戦闘機はプレイヤーが操作できない |
結論を言ってしまうと,BK2本体がなくてもプレイできる拡張パックであるとはいえ,このシリーズ(または上級者向けRTS全般)に慣れていない人には,あまり強くお勧めできないほど本作は難しい。最も簡単であるはずの「初級モード」でプレイしたとしても,手も足も出ずに泣きを見ることになる。それでBKシリーズ全体にネガティブな印象を持つのは間違いなのだが,この拡張パックに限っては初心者が手を出すとヤケドする,そんな「超」硬派なRTSであると断言する。
こんな気骨あふれる作品は久しぶりに見た気がするが,ではいったい誰がこれを楽しめるのかというと,もはやBK2の上級プレイヤーに限定されてしまうだろう。それならばスタンドアロン型の拡張パックである必要性は感じないし,BK2本体と同じ価格設定では少し割高に感じられてしまう。何も知らずに本作を最初に買ってしまう人も皆無ではないだろう。単体でプレイできるだけに,そうした結果を招くリスクが高いことを推測するのは筆者だけではないはずだ。冒頭で「注意が必要」と述べたのは,このことである。
「一見さんお断り」といった挑戦的な難度の作品だとは思うが,BK2本体のキャンペーンや既存のミリタリーRTSが生ぬるく感じられるほどの敏腕プレイヤーには,FotRはうってつけだ。今まで体験したことがないほどの手ごたえを感じられるだろう。さらに,バラエティに富んだ創作ミッションも非常に魅力的である。しかし本作に興味を持った人は,まずはBK2本体を購入し,充分に腕を磨いてからFotRにチャレンジすることを強くお勧めしたい。
敵のあまりの鉄壁の守りに,ヤケクソになり突っ込んでみた。戦車や対戦車砲がいるわいるわ……突破できるはずもない | 敵の野砲の背後に降下し,一気に砲撃部隊をこちらの手中に収めよう。実際はここまでうまくいかないはずだが | 互いに歩兵がいなくなったため,視野外から出会い頭に戦車同士の撃ち合いが始まった。歩兵の視野は戦車よりずっと広い |
ただクリアするだけではなく,上手にミッションを進めると,勲章を授与されることもある | 限られたユニット数で,これほどの防衛ラインを突破できるのだろうか? ほかに回避できる方法も試すべし | ブリーフィングで,上官から作戦内容を伝えられる。モスクワにとってはもはや敵は脅威ではないようだが…… |