» 「オペレーション フラッシュポイント」の生みの親であるBohemia Interactive Studioが,このたび満を持して発表した「アームド アサルト」。本格的なリアル系FPSをほとんど見かけなくなって久しい昨今だが,本作はそういったファンにとって渇望の一本となった。日本でも4月20日にズーから発売された本作。さあ,気になるその実力は?
OFPの後継作となりうるか? ファン待望の新作登場
最新のゲームエンジンでグラフィックスは大幅に美しくなったが,基幹となるゲームシステムや独自の理念などは,OFPをほぼそっくり継承する形で開発された |
2001年,「オペレーション フラッシュポイント」(OFP)のリリースは衝撃的だった。戦場を見事に再現したリアリティ,おそらくは現在においても第一線級のAI,すべてを1枚の中に包括する広大なマップ,部隊を率いての大規模な戦闘などなど……。緊張感にあふれたシビアなリアリティを持ち,派手な演出を抑えつつもドラマチックなシナリオで,何かとハードルの高いゲームだったにもかかわらず,元来のFPSファンだけに留まらず多くのゲームファンを魅了した。
ゲームそのものの独自性や優れたキャンペーンシナリオもさることながら,何よりOFPを特徴づけたのは,非常に高性能なミッションエディタだった。このおかげで,ファンが作成した数え切れないほどのミッションが発表された。さらにゲーム本体には付属しなかったものの,デベロッパから3Dモデリングツールも公開されていたため,MODの充実度も当時では実に際立っていた。2001年のGame of the Yearをはじめとした数々の賞を受賞し,チェコの無名デベロッパはその最初にリリースした作品で,いきなり金字塔を打ち建ててしまったのである。
だがその後,OFPの販売元だったCodemastersと開発元だったBohemia Interactive Studioは,それぞれがOFPの続編を制作するという奇妙な状況になってしまっている。
現在Codemastersはレースゲームなどで使われているゲームエンジン“NEON”を採用して,独自に「Operation Flashpoint 2」を開発中で,つい最近になってようやく本格的な開発段階に入ったと発表があったばかりだ。
対する開発元のBohemia Interactive Studio(BIS)が新たに開発したのが,このたび紹介する「Armed Assault」(ArmA)なのである。日本ではズーから「アームドアサルト 日本語マニュアル付英語版」として発売されるに至った。ゲーム中のテキストは英語のままだが,68ページに及ぶ詳細な日本語マニュアルが付属している。
さて,ArmAはタイトルも販売元も変わっているため,OFPの正式な続編とはいえないのだが,グラフィックス,ゲーム性,インタフェース,ゲーム進行など,どこをとってもOFPの流れを汲むゲームである。実際OFPとの類似点を探るよりも,むしろ相違点を見つけるほうが難しいくらいで,これはもはやOFPの正統進化版という認識で問題ないだろう。
このレビューでも,ArmAはOFPの実質的な続編という位置づけで,両者の比較なども交えて書いていきたいと思う。なお現在BIS社は“Next Generation PC Game”なるポストOFPとなるべき作品を開発中で,これが“Game2.0”と称されていることから,その中間作ということでArmAはファンの間で“Game1.5”と呼ばれることが多い。
ちなみにOFPやArmAを,単純に“FPS”と呼称するのには抵抗があるファンも多いことだろう。しかし4Gamerで採用されている6種類のジャンル分類の中で適当なのはFPSとなってしまうので,そのあたりはあらかじめご理解を頂きたい。
さすが現代戦らしく,AV8BハリアーIIが登場する。もちろん自分で操縦が可能だ | 見事なまでにリアルな3DモデルとなったArmA。OFPとの違いは一目瞭然だ。しかも兵士達がガニ股じゃない! | 敵の死体から奪ったRPGでSilkaを撃つ。木の葉の影がRPG発射の煙に映りこんでいるのが分かるだろうか |
M1A1エイブラムスが敵基地を叩く。本来この戦車は非常に遠距離から攻撃できるのだが,そこはご愛嬌 | さまざまな用途に使用できるUH60-Lブラックホーク。ArmAにはFFAR(ロケット弾)を搭載したモデルもある | 平和で退屈な島での教練活動。1週間後には本国アメリカに帰れると喜んでいる兵士だったが…… |
大きな変化がないことも魅力の一つ
平和維持のためにサーラニ島にやってきたアメリカ軍。だが皮肉にも,その行動が北の国を刺激してしまったようだ…… |
大西洋に浮かぶ地上の楽園,サーラニ島。豊かな自然に恵まれ,地下資源も豊富である。この島には二つの国家があり,北にあるサーラニ民主共和国と南にある南サーラニ王国は長らく対立してきたが,近年の情勢は落ち着いており,緊張をはらみつつも平和を保っていた。そこにPKO活動の一環として,南の軍隊へ訓練を施すため米軍がやってくる。これが北には脅威と映ってしまったようだ。
のどかな島での退屈な教練活動を終え,米軍はすでに一部の部隊を残して本国に帰り始めていた。それを見計らって共和国軍(SLA)が南へと侵攻を開始する。かくして,残存する米軍の少ない兵力とサーラニ王国陸軍(RACS)で,北の侵略を阻止しなければならない……。
・戦略マップとメイン/予備ミッション
そんな背景で展開されるキャンペーンの進行では,OFPと比べて二つの大きな変化が見られた。まず新たに「戦略マップ」という勢力図が導入されたこと。そこに,次に選択できる一つのメインミッションと,二つの予備ミッションが用意される。予備ミッションはメインミッションに付随する副次的な任務となるもので,内容の規模はやや小さめだが,かといって遂行が簡単というわけではない。
予備ミッションをクリアした結果は,メインミッションにも(有利になるか不利になるかは別として)影響を与えるため,やはりArmAを存分に楽しむなら予備ミッションもすべて遂行したいところだ。もちろん予備ミッションを回避して,そのままメインミッションをプレイすることは可能だ。しかし先にメインミッションをクリアすると次の戦略マップに進むため,予備ミッションをあとからプレイすることはできないので注意が必要だ。ダイナミックキャンペーンとまではいかないまでも,それに近いものが導入されたことは素直に喜びたい。
・チームの切り替え
また,多くのミッションで操作可能な兵士が複数おり,プレイヤーが任意に切り替え可能になった。例えばヘリのパイロットを操作して地上の敵戦車を破壊したのち,歩兵のリーダーに戻って地上で戦うといったこともできるのだ。また,ミッション内でプレイヤーが操作しているキャラクターが死亡しても,ほかの兵士でミッションを継続可能だ。「どこからともなく撃たれて即死」というパターンの多い,このゲームゆえの措置とも考えられ,その気になれば小隊の最後の一人になるまで戦闘を続行できる。このため,キャンペーンに明確な主人公が存在しないという一抹の寂しさはあるものの,ミッションを多角的に攻略できるという新しい楽しみを提供しているのは,大きなトピックといえよう。
・グラフィックス
情景描写はとても写実的で,決して派手な造りではないものの,戦場をリアルに表現するに当たって非常に説得力がある。OFPでは,街といっても平坦な場所に建物が数軒あるだけの「集落」としか呼べないようなものしかなかったが,ArmAではこの点も大きく改善されている。きちんとした現代風の建物が軒を並べ,それが丘陵に沿った形で立体的な「街」を形成しているのだ。残念ながらキャンペーンには市街戦のあるミッションはさほど多くはないのだが,これは今後のファン制作ミッションに期待したいところだ。
草木などの描写もかなりのもので,とくに茎の細い草が斜面を覆い,ところどころに小さな花が咲いているなど,リアルな野山や草原を表現できている。ただしFPSとして,この草がけっこう邪魔な存在だったりもする。銃身を安定させ,なおかつ被弾しにくくするためには「伏せ」ることが不可欠なのだが,伏せてしまうと草が邪魔になって狙いが付けづらくなるのだ。それ自体は演出と受け取ることもできるが,草は3Dオブジェクトではないので,敵AI兵士の視界の妨げにはなっていない。ここは何らかの措置が欲しい。
そうした細かな問題はあるものの,格段に滑らかになった3Dモデルや自然描写,建物が密集した街の情景など,グラフィックス面に関してはかなりの完成度だ。ちなみにHDRレンダリングが用いられているが,これは描画だけでなく戦闘時に太陽を背にしていれば蒸発現象(太陽などの強い光に物体が溶け込み,見えなくなる現象)を起こすため,戦術面でも利用できる。これを応用できる機会は稀かもしれないが,そこまで再現しているのは評価に値するのではないだろうか。
ただしグラフィックスが高精細化されたことで,要求されるPCスペックもかなり高めになった。ハイエンドマシンを所持している人なら問題ないだろうが,そうでない場合は描画設定を細かく調整しないとゲームにならないかもしれない。もっとも,ある程度まで設定を落としても,パッと見はさほど変化が現れにくいので,いろいろと試してみてほしい。
・リアリティの追求
さて,言うまでもなくArmAはリアル系FPSである。まず,敵を至近距離からバリバリ撃つような爽快感とは無縁。数十m先の敵に必死で照準を合わせて撃ち,米粒のような敵兵が音もなく倒れるのを見守るようなゲームである。ヒットポイントや体力ゲージなどという概念はなく,頭部や胸部などを撃たれると即死してしまう。体の一部に被弾すれば,死なないまでも照準がブレて狙いがつかなくなったり,立ち上がれなくなったりする。
もちろん体力を一気に回復してくれるアイテム,一定時間無敵になれるアイテムなど存在しない。被弾するなどして怪我をした場合,すぐに衛生兵や救護テントなどで手当てをしなければならない。もっとも,すぐに止血しなければ出血多量でいずれ死ぬ……ということはないので,その点は助かる。
また,走ったり匍匐前進したりなどで息が切れてしまい,しばらくの間は狙いが定まらなくなる,構えた銃身は健常な状態でも常にブレるなどといった要素は当然ある。アサルトライフルで敵一人を撃つにも緊張と集中を強いられるため,リアルFPSに免疫のない人は,まずこのシビアさに面食らうだろう。しかし「これが戦場だ」という説得力が本作にはある。
・小隊長として部下を率いて任務遂行する
小隊を率いるミッションでは,兵士達へ下せる命令は多岐にわたり,「移動」「隊列」「攻撃」「報告」などの命令が,それぞれ細かく用意されている。
基本的に,AI兵士達は状況に応じて最適な動作を自動で行うが,より完璧なミッションの遂行や,ワンランク上のチームプレイを演じようとすれば,細かな指示を出す必要がある。
ArmAは,OFPで定評のあった優れたインタフェースをほぼそのまま受け継いでいる。命令系統を覚えるのは大変であるが,いったん慣れてしまえば,スムースに下命ができるようになるだろう。実に多様で細かな行動を指示できるにもかかわらず,これだけ小気味良く動かせるのは特筆に価する。
・さまざまな登場兵器
これもOFPから継承された要素だが,本作には数多くの兵器が登場する。普通の自動車,軍用のジープやトラック,歩兵戦闘車,戦車,果てはヘリや戦闘機まで登場し,ミッションにもよるがプレイヤーはこれらを操縦し,戦えるのだ(このあたり「リアル」と呼ぶのに抵抗ある人もいるようだ)。マップ上にある兵器はどれでも自由に拾って乗れるという「バトルフィールド」タイプというよりは,そのためのミッションがそれぞれ用意されているといった感じだが,兵器を操るうえでの自由度は割と高い。キャンペーンをクリアしていかなくても,最初からヘリの操縦を楽しめるミッションなどが用意されている。
・マルチプレイ
最大100人同時参加可能というマルチプレイでは,Co-opやキャプチャー・ザ・フラッグなど6種類のゲームが楽しめる。Gamespyが組み込まれているのでサーバ探しも容易で,かなりの賑わいを見せている。初期のOFPで問題となっていたネットコードのまずさもないため,ストレスなくプレイできることだろう。
ArmAでは途中参加が可能になったので,OFPのように現在プレイしているゲームが終わるまで待つ必要がなく,セッションがロックされていない限り,いつでもゲームに参加できるのはありがたい。またボイスチャットプログラムも組み込まれており,外部プログラムを使わなくてもボイスチャットができるというのは,クランなどに所属しているプレイヤーには嬉しい仕様だろう。
戦略マップでミッションを選択できる。丸いアイコンがメインとなるミッションで,菱形が予備ミッションだ | 待ち伏せして,視界に入ったT-72を攻撃。しかし敵の反応が速すぎるため相撃ちとなってしまった | ArmAには野砲も登場する。これはM119という105mm榴弾砲で,ArmAでは移動させることはできない |
ブラックホークは強襲用に使用されることも多い。強烈な風圧で巻き上がる砂塵の表現が見事だ | 牧歌的な雰囲気の農村でいきなり敵に襲われ戦闘状態に。どこから撃たれたか分からず死ぬことも多い | ヘリで上空を飛んでみると,丘陵に沿って立体的な街が形成されているのが分かる。見事な光景だ |
有志制作のMODで長期的に遊べる作品
リアル好きな人は買って損なし!
AV8BハリアーIIを下から見上げてみる。機体に差し込む太陽のフレア処理が美しい。HDRレンダリングの効果か |
Codemastersと訣別したBISが独自にリリースした,OFPの改良版ともいうべきArmA。元来のOFPファンからしてみれば,劇的な変化がないことに安心感を感じると同時に,5年以上も待った割にはとくに変化がなかったことに,物足りなさを感じる人もいるかもしれない。ただ,では具体的に「どこが足りない」かを考えてみると,とくに思い当たるものがないのだ。むしろOFPがあまりにも先進的だったのだろう。
ゲームシステムに関してはまさにそのような感想だが,あえて気になった点を,ここでいくつか挙げたい。
昨今,リアル系FPSはすっかり少なくなってしまったが,ArmAは古き良き(?)リアルにこだわったFPSである。筆者が惜しいと感じる点は,ここまでリアルさを追求していながら,兵士達の心理面(恐怖心)や必死さがほとんど表現されていないところだ。敵味方を問わず,いくら激しく銃弾が飛び交うなかでも,部下達はプレイヤーの命令を忠実に実行しようと命を無駄にし,あっけなく死んでいく。描写がリアルなだけに,機械的な挙動が浮き彫りになってしまうのだ(ほとんどのFPSがそうだが)。
その結果,戦術的な要素は取り入れられてはいるものの,端的にいえば単なる撃ち合いに終始しているという感が否めない。例えば小隊を数チームに分けて,一つのチームが制圧している隙に,ほかのチームが移動するといった「制圧」の概念などを上手に取り入れれば,戦場のリアリティは一段とアップするのではないだろうか。
また,敵の射撃がとんでもなく正確な部分にも不満が残る。100メートル先の敵マシンガン兵にすんなりヘッドショットされると,これはちょっとなぁ……という気分になる。
キャンペーンでは,ArmAは島を二分する国家間に起きた紛争を,それに巻き込まれた米軍の視点から時系列に沿って淡々と進行させていく。全体的に非常にドライであり,それが良いという人もいるだろう。
しかしOFPで用意されていた三つの公式キャンペーンは,いずれも戦場に身を置く一人の主人公の苦悩を滲ませ,非常にドラマティックに進行していった。声高らかに反戦を叫ぶわけではないが,反戦色の強いメッセージを含有していたからこそ,「戦争ゲームは好きだけど,戦争には猛反対」という二律背反的な特性を持つであろう,多くのFPSゲーマーにも強い印象を残したのではないだろうか。そういった面がArmAに引き継がれなかったのは,個人的には残念に感じる。
ただし個々のミッション内容は,やはり素晴らしいものがある。スニークミッションから狙撃ミッション,戦車やヘリなどの兵器に搭乗して戦うミッションなど,実にバラエティに富んでいる。OFP譲りの,「間の持たせ方」も絶妙だ。静寂を通して真の緊迫感を感じさせるものや,逆に激しいBGMを使った高揚感の煽りなど,納得のいく仕上がりとなっている。
OFPやArmAでは,数え切れないほどのユーザーミッションがあるため,キャンペーンの質はさほど重要ではないという考え方もある。OFPの人気が長らく衰えなかったのは,数多くのMODやミッションを制作したコミュニティの功績が大きい。ArmAも同様にそうしたコミュニティが大きな支えとなって,長らく活気づかせてくれることだろう。すでに数多くのMODやミッションが出回っており,そうした土壌は出来上がっているといっていい。
OFPから大きな変化は見られなかったが,その点に特別不満はなく,完成度は高い。これといった欠点はないので,パッチで細かな調整を行っていけば,少なくともGame2.0のリリースまでは人気を保持できるはずだ。思い返せば,OFPも完成の域に達したのは発売から数年後だった。すでにノウハウを蓄積している現在のBISゆえ,そこまで時間がかかることはあるまい。現在のプレイヤーが感じている細かな不満点は,次第にパッチで潰されていくことだろう。
今年はFPSが豊作の気配を見せているので,苦戦を強いられることも考えられるが,ArmAはキャンペーンをクリアしたら終わりという類のゲームではない。新しいミッションを追加することで長期にわたって楽しめるゲームである。OFPの質の高いゲーム性をそのまま引き継いだ作品であり,FPSに爽快感を求める場合を除き,幅広い層のゲーマーにとって買って損のないゲームである。価格が安めに設定されていることもあり,ぜひ多くの人に楽しんでもらいたい。
ストライカー装甲車は兵員輸送で使用される。ArmAでは搭載火器の違う三つのバリエーションが用意されている | ホテルにやってきた敵の将校を狙撃する。……しかし屋上にはヘリやマシンガンが構えている。危険な賭けだ | AH-1Zスーパーコブラ。戦闘能力が非常に高い。ArmAのヘリは操作が非常にシビアで,かなりの慣れが必要 |
民間人を虐殺した北の軍隊(SLA)の残忍さを,必死に訴えるRACS将校。戦争の悲惨さを物語る場面である | 流血の表現もリアルになっているが,調整は可能。被弾したところに穴があき,地面に血溜まりができている | ミッションエディタも,ほとんど昔のままのものが搭載されている。これさえあれば何年も遊べるだろう |