先住民3文明の追加で合計11文明がプレイ可能に
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先住民文明が入ったことでゲームバランスが気になっていたのだが,杞憂であったようだ。同盟国同士の連携のパターンも増え,戦略性が増している |
「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III:ザ ウォーチーフ」(以下,TWC)は,2006年1月に発売された「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III」(以下,AOE3)の拡張パック第一弾にあたる。
新大陸の覇権をめぐって争うAOE3だが,そこでアメリカ先住民は,あらかじめマップ上に集落を作って暮らしている。プレイヤーが交易所を建設することで彼らと同盟を結び,先住民をサブ文明的に使用できるというシステムだった。その要素をほぼそのまま残し,先住民をプレイヤー自身の文明としても使えるようになったのがTWCの一番の特徴である。
久しぶりにプレイして,AOE3そのもののゲームバランスもかなり様変わりしていることに筆者はまず驚いた。以前よく見られた「傭兵オンリー」といった単純な展開が減り,マップ全体を把握してユニットをうまくコントロールすることが重要になっている。また,遠隔騎兵に対して射手やスカーミッシャーがボーナスダメージを持っていて,ほぼすべてのユニットが得意/不得意な相手を持つ設定となっている。文明間の強弱バランスも調整され,本体のパッチで修正された部分と今回の拡張パックで変更された部分を合わせると,全体としてより面白い方向に変更が進んでいると感じた。
だがなんといっても,先住民文明の追加がゲームプレイに新鮮さをもたらしているのは間違いない。まずはTWCから追加された先住民の3文明に共通した特徴である「戦士長」(ウォーチーフ)および「ファイアピット」について見ていこう。
戦士長は従来のヨーロッパ文明の「探索者」に相当するもので,ゲーム開始時から一人だけ与えられている強力なユニットである。戦士長は“オーラ”を持っていて,効果範囲内にいる自軍のユニットに対して特別なボーナスを与えられる。各文明の戦士長が持つオーラは,具体的な内容は後述するが,どれも非常に強力であり,常に戦いの前線で活躍できる。また「自然との友好」の能力を使うことで財宝の守護者を味方にできたりもする重要な存在だ。
ファイアピットは建築物の一つで,町の人をそこで「踊らせる」ことにより,さまざまな恩恵が得られるというものだ。最大25人まで町の人を踊らせることができ,割り当てる人数が多ければ多いほどその効果が大きくなる。受けられる恩恵は複数種類あり,好きなときに切り替えて使える。Iの時代に使えるものは3文明共通で「ユニットの作成スピードの増加」「経験値獲得スピードの増加」「戦士長のHPアップ/倒れた戦士長の復活」の三つ。時代が進むにつれ,文明ごとに異なる新たな恩恵を受けられるようになっていく。
戦士長とファイアピットは,どちらも先住民文明のかなめとなる要素だ。そのままの状態の先住民ユニットはヨーロッパ文明のユニットにいろいろな面で劣るし,内政でも上回ってはいないのだが,これら二つを適宜有効に使うことにより,戦闘と内政のどちらにおいてもヨーロッパ文明と互角にわたりあえるのである。
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先住民でプレイすると最初はとまどうかもしれない。だがファイアピットの活用法が分かってくると俄然面白くなる | 先住民文明はラッシュ向きではない。むしろアップグレードコストの安さなどを生かし,時代を先行して進むブーム型の戦略を取るべきだ | ユニットの周囲に付いている白い円がオーラの効果範囲を示している。主力同士の戦いには,必ず戦士長を同行させたい |
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ファイアピットの使い方次第で勝敗が決まるといっても過言ではない。資源採集に当てる町の人と,ファイアピットに当てる町の人の人数配分が悩みどころだ | 個人的に登場を心待ちにしていた破城槌。イロコイのみが使用できる。近接攻撃の攻城ユニットなので攻撃速度に優れ,データから受ける印象以上に強力だ | 革命した国だけが使える特殊ユニット,ガトリング砲。機関銃の一種で,歩兵に対して絶大な威力を発揮する |
終盤戦に新展開をもたらす
「革命」「交易の独占による勝利」
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革命を選択すると,以後入植者は作れなくなるが,その代わりに植民地民兵という軍事ユニットを食料100で生産できるようになる。工場や交易所があれば,わずかながらも継続して資源を得られるし,ここ一番で勝負を決めるときに革命する,という選択は悪くない |
TWCから新しく追加された先住民の文明がスー,イロコイ,アステカの3文明である。
スーは北米大陸西部のグレートプレーンズ周辺に居住していた部族で,狩猟を得意とし,強力な騎兵が特徴の文明だ。家を建設する必要がなく,最初から人口リミット200を持っているのが魅力的。これといった攻城兵器は持っていないが,ファイアピットですべてのユニットの攻城攻撃力をアップさせられるのがポイントである。戦士長のオーラは自軍のユニットの移動速度をアップさせる。
イロコイは北米大陸東海部に居住していた複数の部族の総称で,歩兵と騎兵に加えて大砲も使えるバランスの取れた文明だ。好きな建物を任意の場所に建造できるトラヴォイという馬車を多く使える。戦士長のオーラは自軍のユニットのHPを一時的にアップさせる。
アステカは中米,現在のメキシコの周辺で栄えた部族で,強力なエリート歩兵と豊かな農業生産を軸とした文明である。騎兵は存在しないが,騎兵に相当するユニットが存在する(※注)。「戦闘神官」というユニットをファイアピットで踊らせると,町の人を踊らせた場合の2倍の効果が得られる。戦士長のオーラは,自軍のユニットが敵を倒すことで得られる経験値を通常の2倍にする。
ヨーロッパ文明にもいくつかの新要素が追加されている。
IVの時代(工業の時代)で行使できる「革命」は,もう一つの別の“V”の時代とも言うべきもので,入植者をすべて「植民地民兵」という軍事ユニットに瞬時に変え,使えるカードもまったく新しいものに置き換わるのだ。従来のVの時代(帝国の時代)には進めなくなり,また,敵国が革命を起こすこともできなくなるという点が面白い。
革命を起こすと入植者は植民地民兵に置き換わってしまうので,入植者による資源採集は行えなくなる。ただし工場や銀行による資源生産だけは継続されるようだ。「エイジ オブ ミソロジー」には北欧文明のゴッドパワーとして「ラグナレク」があったが,イメージとしてはそれに近く,内政を犠牲にして一時的に兵力と攻撃力を大幅にアップさせ,そのまま押し切って勝利するのが目的だ。今のところあまり使われていないようだが,可能性は未知数。うまい使い方の発見が待たれる。
また,ヨーロッパ文明には「スパイ」という新しいユニットが加わった。これは探索者/戦士長/傭兵に対して大きなボーナスダメージを持つユニットで,「忍び足」を使ってステルス状態になれるうえ,敵ユニットの忍び足を見破る能力を持っている。
また,もう一つ大きな追加点としては,新たに「交易の独占」という勝利条件が加わったことが挙げられる。IVの時代以降,マップ上の交易所の過半数以上を保持することでタイマーが発動され,その状態を一定時間維持すると勝利となるのだ。マップの各地に散らばっている交易所を壊されることなく一定時間保持するのは難しいが,少なくとも籠もっている敵をおびき出すのには十分に使える。地味ではあるが,なかなか興味深い新要素だ。
(注)アステカの「コヨーテ・ランナー」と「イーグル・ランナー・ナイト」は軽歩兵に分類され,槍兵から騎兵と同等のボーナスダメージを受ける。従来,軽歩兵とされていた射手やスカーミッシャーを軽歩兵と呼ばなくなったことに注意。これはアステカに馬がいないための処置で,TWCからの変更点である。
カードも多数追加。マルチプレイ環境も改良されていて申し分なし
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革命を行うとすべてのユニットを前線に出せ,一時的にものすごい物量を得られる。一人でやるにはリスクが高すぎるかもしれないが,チーム戦ならうまい使い方があるのではないだろうか |
AOE3のレビュー執筆以降,AOE3本体に適用されたパッチを含めた改良点についてもちょっと触れておこう。
AOE3のレビューでは「実力を反映したレーティングシステムの導入を」と書いたが,2006年3月にリリースされた“1.05パッチ”でパワーレーティングシステムが導入され,プレイヤーの戦績に応じて階級がつけられることになった。これにより実力の拮抗したゲームが楽しめるようになったといえる。操作性なども向上した。
“1.09パッチ”では特別経験値が新たに加わり,ゲーム内経験値の1.5倍が加算されるように変更された。そのため,以前のほぼ1.5倍の速さでホームシティをレベルアップできる。
TWCでは,レベル40以上にならないと取得できない強力なカードが追加され,さらにレベル10からレベル50まで10ごとにデッキに組み入れられるカードが増えていく(レベル1-9で20枚,レベル10〜19で21枚,レベル50以上で25枚)。このシステム自体は歓迎なのだが,その反面,マルチプレイ時にプレイヤー間でホームシティのレベル差がある場合,ハンデがさらに大きくなってしまう。経験値稼ぎのみを目的にプレイすれば,効率的なレベルアップも可能だが,それでは本末転倒というものだ。このへん,もう一工夫ほしかったところ。
ゲームデザインとしては,やはりテーマと文明の範囲がヨーロッパとアメリカ先住民のみで完結してしまい,全世界が舞台の「エイジ オブ エンパイア II」などと比べたスケールダウン感は否めない。文明の一つとして「日本」が登場しなかったことを残念に思う人も多いだろう。
ただ,本作は歴史的事実を重視しており,銃兵の扱いや大砲,ホームシティの搬送,傭兵,ファイアピットなど当時の歴史をうまくゲーム内の要素として登場させ,ルールに調和させている。ゲームとしての面白さを損なうどころか向上させつつ,歴史的要素も存分に味わえるというデザインは非常に見事だ。
TWCの登場によって一番変化したのはマルチプレイのチーム戦ではないかと思う。2対2にしても3対3にしても,先住民文明が一つ混じるだけでかなり違ったゲーム展開になるため,AOE3の熱心なファンなら,TWCを試す価値は十分にある。以前プレイしていたが最近離れているという人も,まだ未プレイの人も,ぜひ参戦してほしい。
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交易の独占による勝利は,交易所の配置次第なところもあるので,マップによって状況が大きく異なる。写真のようなマップ(ニューイングランド)ならやりやすそうだ | 戦士長は「自然との友好」アビリティを使うことで財宝の守護者を味方にできるため,資源の獲得が容易になる | ランダムマップのタイプも数種類追加されている。地形やスタート位置などが特殊なものもあり,これまでとは違った戦略を求められる |
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ヨーロッパ系の8文明が新たに使える建物「酒場」。ここでは傭兵を雇える。いままではカードでしか呼べなかったが,これで選択肢が広がった | 斥候やスパイなどの特定のユニットには「忍び足」モードという特殊能力がある。これを使えば敵に見つからずに偵察をしたり,裏に回って奇襲をしかけたりできる | 新しいカードも多数追加。とくにレベル40以上のカードは面白いものが多いので,がんばってレベルアップさせよう |