― レビュー ―
満を持して発売されたRTSの大本命
マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III
Text by Sluta
2006年2月14日

 

■ついに発売された大ヒットシリーズ最新作

 

歴史ものとしては1999年の「2」以来,実に7年ぶり。本作で一番変わった部分は,やはりグラフィックスの品質だ

 マイクロソフトから発売されている,歴史を題材にしたリアルタイムストラテジー(RTS),エイジ オブ エンパイアシリーズは,全世界でのべ1600万本超の販売本数を誇る大人気作。日本ではRTSの代名詞といっても過言ではないくらいの人気と知名度を得ている。筆者も第1作からずっとプレイしてきたが,とくにマルチプレイの熱中度は格別で,どの作品でも夜な夜な対戦を繰り広げた思い出がある。

 このベストセラーRTSのシリーズ最新作となるのが,2006年1月27日に日本語版が発売された「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III」(AoE3)だ。簡単にシリーズの歴史を振り返っておくと,第1作「エイジ オブ エンパイア」は古代を舞台とした作品で,第2作「エイジ オブ エンパイアII」は中世。そして第3作「エイジ オブ ミソロジー」は神話をテーマにしている。このたび発売されたAoE3は,“エイジ”シリーズとしては4作めとなる。

 AoE3の時代設定は,近世と呼ばれる15〜19世紀。ちょうど第2作の続きにあたる時代で,大航海時代からナポレオン戦争くらいまでの時代を扱っている。これまでの作品と多少異なるのは,舞台が全世界でなく「アメリカ大陸」に絞られている点。史実に対してより厳密になり,歴史的な要素が従来より多くゲーム内に取り入れられている印象を受ける。

 ところで,本作の内容については全9回にわたる連載記事の中で詳しく紹介してきた。そこで今回は,「AoE3はゲームとしてどうなのか」「RTSとしてどうなのか」という点について,RTS特有の問題に沿いながら述べてみたい。

 結論から言ってしまうと,AoE3は期待を裏切らない,まさに最新RTSの代表作と呼ぶにふさわしい作品になっている。抜本的に新しくて斬新なRTSを目指したかというと,決してそうではない。前作から舞台を15〜19世紀のアメリカ大陸へと移し,「ホームシティ」と「デッキ」のシステムを追加したものがAoE3だと言っても当たらずといえども遠からず,である。
 そもそもAoEシリーズは,第1作である意味完成されていたシステムに対し,新作のたびに細部にわたって突き詰めた改善を加えてさらに質を高め,回を重ねるごとにゲーマーから支持されてきたシリーズだ。とくにゲームバランスには細心の注意を払い,対戦ゲームとしてのプレイアビリティに力を入れてきたのが,本シリーズの特徴といえる。

 

「探索者」はプレイヤーの分身ともいえる存在のヒーローユニット。本作では探索者だけが町の中心を建設できる 最新の物理エンジンを使ったユニットの挙動に注目。ユニットが大砲で吹き飛ばされる様子は非常にリアルだ 本作の舞台はアメリカ大陸。プレイヤーは旧大陸から来た人間だが,先住民との連携が非常に重要な意味を持つ

 

建物が攻撃されると,少しずつ壊れていく。たいまつで攻撃した場合と大砲で攻撃した場合で壊れゆく描写が異なる 本作は完全日本語版だが,海外のバージョンと完全互換でパッチも常に最新のものが適用できるので安心だ シナリオエディタ。スクリプトやトリガーの設定は難しいが,ユニットの配置やライティングの変更程度なら簡単にできる

 

 

■RTSとしてのAoE3の魅力

 

ホームシティの住民が話す内容が地味に面白い。とはいえ,実際のプレイ中にゆっくりと眺めている暇はないのだが……

●プレイ開始前に戦略を練る楽しみ

 対戦プレイ自体の楽しみはもとより,ゲーム開始前にあれこれと戦略を練るのが,AoE3の大きな楽しみの一つだ。その具体的なシステムが「ホームシティ」と「デッキ」である。
 各プレイヤーは,アメリカ大陸に植民地を築くためにヨーロッパ本国から送り出された開拓者という設定だ。基本的には自らの力で開拓を進めていくのだが,一定の業績を上げる(経験値を溜める)ごとに本国,つまりホームシティから支援を受けられる。その支援は「カード」という形で表現されている。

 プレイヤーは約100種類あるカードの中から20枚を選び,「デッキ」を組んでゲームに臨む。これはつまり最大20種類の支援を本国に要請できるということだ。デッキはゲームプレイ開始直前に選択できるので,マップや対戦相手に合わせてデッキを何パターンか用意しておける。

 カードは,資源を送るもの,軍事ユニットを呼び出すもの,技術を得るものなどバラエティに富んでおり,どのカードをデッキに入れるかが,ゲーム展開上とても重要だ。プレイスタイルを考えながらゲーム展開をイメージし,自分なりのデッキを編成する楽しみがある。RPGで装備やスキルを選ぶ楽しみと似た感覚だ。

 

●戦略を固定化させない工夫

 シリーズ従来作品が抱えていた限界の一つに,戦略が固定化しやすいという問題があった。ベテランのプレイヤー達によって研究され,編み出された「最適戦略」のようなものが出来上がり,それを模倣するのが最善のプレイとなってしまって,ゲームがパターン化してしまうという問題だ。

 AoE3には,この問題について多くの工夫が見られる。すでに述べたデッキシステムも,まさにパターン化回避のためのアイデアだ。約100種類のカードから20枚選ぶという組み合わせを単純計算してみても,軽く兆を越えるバリエーションがあり,実質ほぼ無限といっていい。デッキもパターン化してしまうのではないか? という心配は当然あるが,マップや相手文明などに応じてデッキをいくつも作れることを考えると,その心配は当分先送りにできる。

 マップによって異なる「先住民」の存在も,戦略が固まりにくい工夫の一つだ。AoE3では15種類のマップと14種類の先住民があるが,各マップには異なる種類の先住民の集落が存在する。ここに「交易所」という建物を建設することによって,その先住民が味方となり,独自のユニットと技術を数種類ずつ使えるようになる。いわばサブ文明のような位置づけで,先住民を生かすことを考えれば戦略も当然変わってくる。

 また,ゲームスタート時の資源バランスがランダムで微妙に異なるという点も(例えば食料300/木200の場合と,食料200/木100/金100の場合があるなど),戦略の固定化を避けるための工夫として,細かいが見逃せないポイントだ。

 

●「荒らし」対策〜攻撃側と守備側のバランス

 足の速い騎兵などでゲリラ的に攻め入り,敵の内政ユニットをちくちくと削るという,いわゆる「荒らし」。敵の本隊を避けて直接拠点を叩くというのは,戦略として当然の行為であり,RTSの常套戦術の一つだ。だが,軍事ユニットが内政ユニットを直接攻撃するのは,ゲームを面白くも,つまらなくもする行為でもある。

 これに対しては前々作のAoE2で,建物の中に避難する「駐留」ができるようになり,ある程度バランスが取られていた。AoE3はこれに加えて内政ユニット(入植者)が銃を持っており,抵抗力が大幅にアップしている。攻撃力は低いものの射程は長く,荒らしに対して積極的な反撃が可能になった。新大陸の開拓者であるという設定を反映しているのだろうが,単にゲームバランス的に見ても面白くなっている。また,緊急時に瞬時に生産でき,短時間の防御に絶大な威力を発揮する民兵ユニットも,荒らし対策として効果的で,一方的な展開でやられてしまうことがないよう工夫されている。

 少し違う話になるが,AoE3では近接攻撃を受けたユニットは移動速度が一時的に低下するという特徴がある。いったん乱戦になると逃げにくいので,その場で決着がつきやすい。一方,遠隔攻撃の場合はそういったことはないので,近接/遠隔攻撃の差が際立っているという印象だ。

 

●「作業的」な操作の排除

 もともとRTSは,操作が忙しいゲームジャンルだが,従来作ではとりわけゲームの面白さや勝敗に直結しない部分での,細かい作業的な操作を要求されることが多かった。

 その際たるものが「畑の張替え」で,従来作では畑は「枯れる」もので,一定量収穫したらもう一度作り直さねばならなかった。AoE3ではそれは不要になり,一度作った畑(粉引き所)からは無限に収穫できるようになっていて,さらに一つの畑で一度に10ユニットが働けるようになっている。たくさんの畑を作る手間が一気に省けたのだ。

 なんといっても,AoE3で最もプレイしやすくなったと感じたのは,倉庫が不要になったことだ。従来作では資源を得るためには採った資源を倉庫へと運ぶ必要があり,資源のある場所が遠くなったら,そのつど倉庫を建て直さなければならないのがとても面倒だった。AoE3ではそれがなくなり,採った資源は直接そのまま使える。内政の余計な負担が減って,そのぶん軍の操作に集中できるようになったといえる。

 ユニットをまとめて生産できる点や,建物の修理が1クリックで行えるようになった点も操作性改善に一役買っている。

 

●プレイ時間,テンポの良さ

 AoE3で1プレイにかかる時間は約10分〜40分程度。公式サイトの統計によると,全世界のマルチプレイヤーの1ゲームあたりの平均プレイ時間は27分32秒となっている(2月11日のデータ)。これはRTSの対戦としては標準的な時間だが,より重要なのはテンポの良さだ。

 AoEシリーズでは以前から「時代の進化」という概念が存在した。これはゲームの発展段階を4〜5程度の時代に分割し,ある条件を満たして時代を新しくすると,新しいユニットや技術などが使えるようになるというもの。時代が変わるごとに手数全般が一段階アップするので,メリハリの効いたプレイを楽めた。
 しかし,時代を進めるために満たさなければならない条件が厳しく,あまり時代を進めずにそのままプレイしていたほうが有利,という場面が多いのが従来作の問題だった。

 AoE3は「進化ボーナス」によって,この問題を解決している。プレイヤーは時代を進めるときに何種類かのボーナスを選択でき,進化と同時に資源やユニットなどがもらえる。これによって,ちょっと我慢して時代を進めることの利点が増し,時代進化がテンポよく行われるゲームバランスを実現させたのだ。

 参考までに,公式統計による時代進化の時間はIIの時代が5分,IIIの時代が14分,IVの時代が24分,Vの時代が36分となっている。約10分間隔で時代を進ませる,この的確なバランス調整は恐るべしだ。全ゲームの36%がIVの時代まで進み,13%が最後のVの時代まで進んでいるというデータも,従来作を知っている人にとっては驚きを感じる部分だと思う。

 

●長期間にわたって遊べる工夫

 RTSの「スカーミッシュモード」というのは本来1プレイ単位で完結したもので,1プレイが終わればすべてリセットされるというのが当たり前だった。プレイした分を何かしらの形で蓄積できれば面白いが,それをやってしまうとシングルプレイではともかく,マルチプレイで差がついてしまう。

 AoE3は,ホームシティのアップグレードというシステムを取り入れることで,この問題に挑戦している。デッキに組み込めるカードは約100種類あるとすでに述べたが,これらは最初から揃っているわけではなく,プレイを重ねてホームシティのレベルを上げていくことで,1枚ずつ新しいカードを追加していけるというシステムにしたのだ。

 実際には1ゲームで使えるカードの数は20枚という制限があるので,多くのカードを使えるプレイヤーが必ずしも有利とは限らない。だが,ホームシティのレベルが一定以上ないと選べない強力なカードも存在するので,レベルが高いに越したことはなく,プレイヤーのやり込み意欲をそそるようになっている。

 

カードを使うと,ホームシティから出航していく様子が実際に描写される。画面はオスマンのホームシティからイエニチェリが出撃していく場面 時代を進化させるときにボーナスを選べるようになった。時代を進化させる負担が少なくなってスピーディな展開になったのは,とても素晴らしい 重要な要素ではないが,ホームシティはプレイヤー自身で外観をカスタマイズできる。愛着の沸くホームシティを作って,じっくり成長させよう

 

百科事典が非常に充実している。実際の歴史からゲームのルールの説明にいたるまで,かなり詳しく書かれている。今回の舞台は日本人になじみが薄い分野なので,当時の時代背景や自然環境などの理解を深めて,ゲームをより楽しもう

 

 

■マルチプレイ環境がもう少し向上すれば完璧

 

マルチプレイのための公式サーバーが整備されている。プレイ人口は平日でも3千人,週末ともなれば5千人以上いて,対戦相手を探すのには困らない

 まずはシングルプレイについて言及しておこう。
 シングルプレイは「キャンペーン」と「スカーミッシュ」の2種類。キャンペーンはブラック家一族を主人公に,アメリカ大陸の歴史をたどるオリジナルストーリーで,大きく分けて3部から構成されている。ストーリーの面白さやミッションの多彩さに加え,ホームシティを発展させながら進めていく方式が秀逸で飽きさせない。キャンペーンの出来はシリーズ随一だろう。
 スカーミッシュは8文明から一つを選んで,任意のマップで自由にプレイするモード。プレイするごとにホームシティを成長させていけるので,やり込み要素が高い。マップのバラエティやコンピュータAIの出来は及第点以上で,マルチプレイをやらずとも十分楽しめる。だが従来作と比較すると(1)チームを三つ以上に分けられない,(2)勝利条件が「敵を滅亡させる」しかない,といったあたりは気になった。

 マルチプレイは,シングルのスカーミッシュと同様のシステム。現時点ではESO(Ensemble Studio Online)と呼ばれる公式ロビーサーバーを通じての対戦が定番となっている。IPやLAN接続による対戦も一応サポートされているものの,ルーターを介している場合の接続条件が厳しく,あまり利用されていないようである。

 ともあれ,ESOは機能が充実していて対戦環境も整備されているので,こちらを利用すれば問題ないだろう。ESOではクイックサーチという,自動で対戦相手を検索する機能もあり,任意のゲームをホストして相手を募集することも可能。仲間同士のチャットルームやクラン専用ルーム/掲示板なども自由に作れる。ESO内でマルチプレイコミュニティが作れるのは,とても魅力的だ。日本人専用のチャットルームも活況を呈しているようだ。

 全体的にマルチプレイ環境は良いが,問題点として2点挙げておきたい。
 一つはホームシティ自体について。ESOのホームシティはシングルプレイとは別に作成する必要があり,シングルプレイのものをESOでは使えない。強力なデッキを組むには数多くプレイしてホームシティのレベルを上げる必要があるが,一つの文明だけならいいものの,8文明すべて満足のいくようなデッキを組めるホームシティを作るのには非常に時間がかかり,多少ハードルの高さと面倒くささを感じてしまった。ホームシティのレベル上げの大変さは,やり込み要素や達成感と裏表の関係にあるため一概に否定はできず難しいのだが,もう一工夫欲しかったところだ。

 もう1点はレーティングの問題。現在ESOではプレイヤーの強さの基準として「ホームシティのレベル」を使っている。前述の通りホームシティのレベルはプレイした分だけ上昇するので,必ずしもそのプレイヤーの強さを反映していない。実力の近いプレイヤー同士がマッチングしやすいようにするためにも,対戦成績をもとにした実力評価システムの導入を期待したい。

 英語版の発売から数えると約4か月経ち,そろそろバランス的な問題点も明らかになってきたかなという今の時期,バランス調整のためのパッチの内容が公開された。これでまた,さらに面白さを増し活気を帯びてくるのが楽しみだ。
 ゲームの内容自体には,とくに文句のつけようがないくらい完成度が高く,RTS初心者から上級者まで幅広い層に受け入れられると思う。マルチプレイをこれからやってみようという人には,ぜひお勧めしたい。友人同士でプレイするのも楽しいし,プレイ人口が多いので対戦相手を新たに探すのも容易だ。

 

キャンペーンは映画のようなオリジナルストーリー。ファンタジーっぽい要素も含まれているが,著名な歴史上の人物も登場する シングルもマルチも,最大8人まで対戦が可能だ。本作のコンピューターAIは,文明によってはっきりした個性の差があって非常に興味深い 自動で対戦相手を検索してスピーディに対戦を楽しめる。ホームシティのレベルでプレイヤーのレベル分けをしている点の改善をぜひ期待したい

 

クランは自由に作れるし,専用のルームも持てる。こうしたコミュニティ支援機能があるのはマルチプレイを楽しむうえでとてもありがたい ESOでは,他人のデッキを覗き見ることも可能だ。上級者のデッキを見るのはとても参考になる。積極的に他人から学ぼう 上級者のリプレイを見るのもAoE3の大きな楽しみの一つだ。ネット上には多くのリプレイがある。ダウンロードして楽しもう

 

タイトル マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III
開発元 Ensemble Studios 発売元 マイクロソフト
発売日 2006/01/27 価格 9400円(税別)
 
動作環境 OS:Windows XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.40GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上,グラフィックスチップ:DirectX 9.0c以上に対応,グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨]

Microsoft, Age of Empires, Windows, The Age of Kings and Age of Mythology are either registered trademarks or trademarks of Microsoft Corp. in the United States and/or other countries. The names of actual companies and products mentioned herein may be the trademarks of their respective owners.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/aoe3/aoe3.shtml