― レビュー ―
「The Sands of Time」から始まった新ペルシャシリーズ第二作
プリンス・オブ・ペルシャ ケンシノココロ
Text by 星原昭典
2005年10月21日

 

■あの虚弱だった"王子"が逞しくなって日本上陸

 

じっくりとマップを攻略して,ようやく安全な足場にたどり着いたと思ったら,今度は数多くの敵が現れる。このようなメリハリのきいた展開がプレイヤーをゲームへと引き込んでいく

 オールドゲーマーの心に強い印象を残した傑作「Prince of Persia」(以下,PoP)の発売は,1989年だという。その後いくつかの関連作品を経たあと,とりあえず時代の波に乗ってPoPを3D化してみた作品「Prince of Persia 3D」がリリースされたのは1999年。そして2003年,PoP新時代の幕開けとなる「Prince of Persia:The Sands of Time」が発売された。

 

 今回紹介する「プリンス・オブ・ペルシャ ケンシノココロ」(Prince of Persia:Warrior Within)は,PoPの新シリーズといえる「The Sands of Time」の続編に当たる作品だ。ストーリーも「The Sands of Time」の展開を引き継いでいる。

 

 PoPといえば,凶悪なトラップの数々があまりにも有名だ。胴体を真っ二つにするギロチンや,落とし穴の下にズラリと並んだ槍の山など,見るからに痛そうなトラップの数々。主人公のプリンスにはライフゲージがあるが,特定の即死トラップや高所から落下した場合などは,どんなにヘルスが残っていても一発で死んでしまう。槍の山に全身を貫かれてぐったりしているプリンスの姿は,元祖PoPから最新作まで受け継がれる伝統的な死に様だ。

 

 前作「The Sands of Time」で新しく生まれ変わったPoPは,ゲーム中で必要とされるアクションの質が大きく二つに分けられる。一つは襲いかかってくる敵を倒す"戦闘のアクション"であり,もう一方はタイミング良くトラップを避けたり,壁をよじ登ったりすることで先に進む道を見つけていく"マップ攻略のためのアクション"である。
 「常に敵をさばきながら同時にトラップもよける」という感じではなく,知恵を絞って「ここはどうやって進むんだろう」と悩む部分と,敵との戦闘に集中する部分が交互にやってくるようなデザインで,ゲーム展開は緩急のあるものになっている。ここが戦闘のみを楽しむアクションゲームとは異なる,本作ならではの部分だといえるだろう。

 

 こういった難度の高さを和らげてくれるのが,「The Sands of Time」から登場した"時間を操る"能力である。これは,倒した敵の身体や壺などのオブジェクトから入手できる"時の砂"を溜めていき,それを消費することで発動できる。能力にはいくつもの種類があり,バリエーションはゲームが進むにつれて増えていく。なかでも頻繁に使うことになるものは,"時間を戻す能力"と"自分以外の時間の流れを遅くする"能力だ。

 

 "時間を戻す能力"は,発動させると数秒間ゲームが巻き戻り,プレイヤーのミスをなかったことにできる。例えば操作を誤って一撃死のトラップにはまってしまったときに即座に使えば,ゲームオーバーとリスタートをする必要がないのだ。"時間を遅くする能力"は,高速で動くトラップをうまく回避したい場合のほか,敵との戦闘でも使える。戦闘の流れが遅くなると有利なのは,いくつかのゲームで採用されてきた"バレットタイム"などでご存じだろう。
 こういった三人称視点のアクションは,何度も何度もゲームオーバーを経験しながら少しずつ進んでいくのが一般的だ。だが本作の場合は時間を操る能力のおかげで,理不尽にも思えるトラップにハマり,憤りを感じるような機会は減っているようだ。
 ただゲーム中盤を過ぎると,「ここでは時間を遅くしないと,自分の動きよりも先に足場が崩れてしまって進めない」といった,能力の使用を前提とした仕掛けも現れ始める。こうなると「限りある"時の砂"をどこで使うべきか」を考えながらゲームを進める必要が生じる。とはいえ,そのころにはプレイヤーの側にもだいぶプレイ経験が蓄積されているはずなので,新たなやりがいとともにプレイに挑んでいけるだろう。

 

刃のついた回転柱に丸ノコギリ。PoPの代名詞とも言えるデッドリーなトラップは今作にも登場する 倒した敵の身体から,ときどき光の玉が現れる。これが時間に関する能力を使うために必要な"時の砂"だ 時間の流れを遅くする能力を使用すると,画面に特殊効果が。ゆっくりとしか動けない敵を存分に攻撃しよう

 

プリンスの前に時折姿を現す謎の人影。彼の正体はゲームを進めていくうちに,驚きとともに明らかになる プレイ中に操作方法をアドバイスしてくれる機能はあるが,多数ある動作のすべてを教えてくれるわけではない セーブと体力回復は各所にある泉で行える。この水を飲む以外に回復方法は用意されていないので注意

 

 

■卓越した体術で進路を探すのが楽しいマップ攻略

 

細かなものも含めると,挿入されるイベントシーンは豊富だ。マップ攻略のヒントが含まれていることも多い

 あたりを見回して手を掛けられる柱やわずかな足場を探し,さらにそこに到達するには,どんなアクションをどう使えばいいのかを考え,実行する。そのようにして道なき道をどんどん進んでいくのが,PoPのマップ攻略要素である。
 プリンスの運動能力は常人離れしており,横向きに壁を走ったり,壁にはさまれた空間を連続ジャンプで上っていったりという,アクロバティックなアクションが可能だ。ゲーム開始直後は,そのようなアクションが人間に可能と思い至らないために悩むこともあるが,そのぶん解法を発見できたときはとても気分がよい。プレイに慣れてくると,どのシチュエーションでどのアクションが求められるのかが感覚的に分かってきて,とても進めそうにないところをスルスルと進めることにカタルシスが感じられるようになる。しかし,しばらくするとさらに難度の高い複合アクションが必要な場所が現れて,またしばし悩み……。マップ攻略は,このような"試行"と"錯誤"の繰り返しとなる。悩むようにはできているが,意地悪だと感じる部分はほとんどなく,素直に解法探しを楽しめる。

 

 マップには平穏に床を進めるような場所はあまりなく,プリンスは目を覆いたくなるような危険な場所を命がけでクリアしていかなければならない。3Dグラフィックスで作られているだけあって,「ここでジャンプに失敗したら数十メートル下の岩場に激突する」などというシチュエーションからは,かなりの臨場感が伝わってきた。もう本当に王子の行動は危険過ぎて,プレイしながら"ヒヤッ"とするのだ。現実世界で,とても高いところからその下をのぞき込んだときに感じるような,あの足がすくむ感覚というか,股のあたりの力が抜けて粗相につながってしまうような感覚を,プレイ中に何度も味わえる。もし筆者が小学生男子だったら,きっと「うおおおおお! こえええええ!」なんてギャアギャア言いながら喜んでいたはずだ。

 

 さらにマップ攻略に関わるアクション要素としては,ストーリーの合間に何度か挿入される"ダハカ"という刺客とのチェイスシーンがある。倒すことのできないダハカから,とにかく逃げるというこの場面では,通り抜けるルートとゴールが決まっており,その区間の仕掛けやトラップを遅延&操作ミスなしでクリアしなければならない。少しでもまごつくと,ダハカに追いつかれて即ゲームオーバーとなる。
 攻略には何度かゲームオーバーを繰り返して,コースの仕掛けと操作の順番を覚え込むことが必要だ。アクションを連続で,かつ手早く行わなければならない点がほかの部分とは異なっているため,このダハカチェイスのシーンは,プレイにさらなる変化を添えるスパイスとして役立っているようだ。

 

 本作は視点操作が完全に自由なゲームではなく,場面によっては「バイオハザード」などのようにカメラが固定されている。このあたりはコンシューマゲームライクだ。このため,足場となるオブジェクトの位置関係を把握するのに手間取ったり,アナログな角度への方向入力がキーボードではうまくできなかったりといった場面にいくつか遭遇した。またキーボードではちょっと出しにくい技もある。ゲームのインストール時にはパッドの使用を推奨するメッセージが表示されることもあり,できればアナログ入力のできるゲームパッドでプレイしたほうがよい。

 

マップ攻略に欠かせない動作の一つ"ウォールラン"。先に進めなくなったら,まずこの動作のことを思い出そう 着地に失敗すれば奈落の底に真っ逆さまというシチュエーション。高所がニガテな人は見ていてかなり恐いはず 細い足場をよたよたと歩く王子。プレイしていてジャンプの瞬間に目を覆いたくなってしまうこともしばしば

 

ときおり現れてはプリンスを追いかけ回すモンスター"ダハカ"。これが現れたらチェイスシーンの始まりだ 壁や床にあるスイッチはマップ上の仕掛けを動かすためのもの。素早く行動しないと,仕掛けが元に戻ってしまう 両側の壁を交互に蹴り上げて上に進む。とくにここはダハカチェイスの一場面なのでミスは許されない

 

 

■華麗なる戦闘! 豊富なモーションで立ち回る王子

 

アクロバティックなアクションを駆使して敵を翻弄する王子。派手なアクションを繰り出すのに,とくに難しいコマンド入力などは必要ない

 プリンスの戦闘アクション/モーションが非常に豊富なのは,本作のセールスポイントの一つである。コンボの数も実に豊富で,ゲーム内で参照できるコンボリストが数画面分にもわたっていることには驚いた。
 プリンスのメイン装備は,右手用の一本の剣だ。この剣はゲーム進行とともにアップグレードされるが,基本的に手放すことはない。そしてプリンスは,もう一本の剣を敵から奪ったり,マップ上の武器ラックから入手したりすることで,二刀流スタイルでも戦える。
 2本めの剣には耐久力が設定されており,何戦かですぐに壊れてしまう。また,この剣は敵に向かって投げつけることも可能なので,実際のプレイでは1回の戦闘中に一刀流/二刀流のスタイルが頻繁に切り替わることになる。そして一刀流と二刀流では,それそれで繰り出せる戦闘アクションが異なる。
 うれしいのは,個々のアクションの出し方がそれほど難しくなく,あまり意識しなくてもコンボ技がつながってくれるところだ。つまり,あまりアクションが得意でない人がプレイしても,すべてのコンボ入力を覚えることなく,多彩なアクションで戦うプリンスを堪能できるというわけだ。

 

 ストーリーの要所要所に配置されたボス戦では,また違った戦闘の楽しさが味わえる。当たり前だがボスは強い。初トライでは相手の体力ゲージの半分も減らせないままやられてしまうケースがほとんどだろう。しかしマップ攻略と同様,四度五度と戦ううちに,ここでもやはり解法が見えてくる。プリンスの最大の武器である時の砂の力を,どんな形で,またどのタイミングで使用するればよいのかが分かれば,とても勝てそうになかった戦いにも勝機が見えてくるのだ。

 

 本作の魅力は,この「解法を探し出して,それをアクションで実践する。そして達成感を得る」というサイクルである。少なくとも筆者の達成感への欲求は,エンディングを見るまで衰えることはなく,ゲームの展開は早くてストーリーも二転三転する凝ったもので,好奇心が尽きることは最後までなかった。

 

 この日本語版ではプリンスの声を「メタルギア」シリーズの「ソリッド・スネーク」役などで有名な大塚明夫氏が演じている。筆者は「PoP=ものすごく難しいゲーム」という印象をいまだにぬぐいされない人間の1人だったが,時を巻き戻せる仕組みの導入や,この全編にわたる吹き替え/テキストの日本語化によってマイルドになっている「ケンシノココロ」をプレイすることで,ペルシャの王子に対する印象がだいぶ変化した。
 はっきりいって,このゲームは面白い。そして,プレイする前から尻込みするほど恐ろしく難度の高いゲームでもない。元祖PoPに対して,いらだちとともにロムカセットを引っこ抜いた思い出しか持っていないような人には,とくにおすすめしたい。現在のプリンス・オブ・ペルシャは,こんなあんばいになっているのである。

 

 ちなみに,本作のさらなる続編に当たる「Prince of Persia:The Two Thrones」は現在開発中で,アメリカでは2005年12月発売予定だ。

 

二刀装備時には周囲の敵を一度に攻撃するような動きも可能。左手の武器が壊れたら,すぐに別の武器を拾おう 壁や柱は武器の一つといっていい。ジャンプやウォールランと組み合わせて利用すれば,より立体的な動きも可能に タイミングよく技が決まると,視点が切り替わって,フィニッシュブローがスローモーション表示される

 

独自のライフゲージを持ったボスとの戦闘。人間タイプのボスとの戦いでは,合間にイベントが挿入されることもある。どのボスも非常に手ごわいが,繰り返し挑戦することで勝利への糸口が見えてくるはず。力押しで勝とうとするのではなく,相手の攻撃パターンを把握して,きちんと攻略法を編み出して挑むことが重要だ

 

 

タイトル Best Selection of GAMES プリンス オブペルシャ ケンシノココロ 日本語版
開発元 Ubi Soft 発売元 フロンティアグルーヴ
発売日 2006/11/10 価格 3990円(税込)
 
動作環境 対応OS:Windows 98/2000/XP
CPU:Pentium III/1GHz以上(1.5GHz以上推奨)
メインメモリ:256MB以上
グラフィックスカード:GeForce 3またはRADEON 7500以上(GeForce 4またはRADEON 9500以上推奨)
DirectX 9.0c以降

(C)2004 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Based on Prince of Persia® created by Jordan Mechner. Ubisoft and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries.
Prince of Persia and Prince of Persia Warrior Within are trademarks of Jordan Mechner in the US and/or other countries used under license by Ubisoft Entertainment.

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http://www.4gamer.net/review/PoP2/PoP2.shtml