第二次世界大戦のグランドキャンペーンはストラテジーゲームの定番モチーフだが,規模が規模だけにどうしてもビッグゲームになりがちだ。それを気軽にプレイできる形にまとめているのが,今回紹介する「ゲリーグリグスビー ワールドアットウォー」だ。5〜6時間あれば,ドイツのフランス侵攻から終戦までのフルキャンペーンをプレイできるというのが,本作最大のウリである。
エリアで構成された世界マップで2陣営5勢力が衝突
シナリオは1940年〜43年に始まる4本。設定はすべて史実に準じており,フルキャンペーンといえる1940年春からのシナリオの場合,ドイツはフランス侵攻の準備を終えている |
プレイヤーが担当するのは,第二次世界大戦に参加した五つの勢力。その内訳は,枢軸側のドイツ,日本,連合側の西側連合国,ソ連,中国となっている。ドイツプレイヤーはイタリアやヨーロッパの枢軸諸国,フランス降伏後のヴィシー政権もプレイする。西側連合国は,米・英・仏・カナダ・そのほかの英連邦諸国(主にインドとオーストラリア)だ。ただし,これらの複数国で構成される勢力は,政治やユニット生産では国ごとの操作となる。
全世界は,陸上,海上,島嶼,すべて合わせて330余の領域に分割されている。基本となるシステムは,相手の支配している領域に自軍の軍事ユニットを送り込み,戦闘に勝てばその領域を取れるというもの。
1ターンは3か月で,各勢力が決められた順に,移動フェイズ(ここで随時戦闘も解決)→生産フェイズ(武器開発もここで行う)を終え,次の勢力の手番が来るという繰り返しだ。全体的にボードゲームライクで,とくに「Axis & Allies」と,基本的な骨格はよく似ている。
ヨーロッパ東部戦線付近のマップ。1国1エリアというわけではなく,ソ連やドイツ・フランスなどは,かなり細かく領域が区切られている | エリアで軍が衝突すると,決まった攻撃順序で陸海空の戦闘がまとめて解決される。戦略級ゲームだけに,一度戦闘に入ると細かい指定はできない |
戦闘結果の要約表示。民兵以外のユニットは1ヒットでダメージ状態,2ヒットで除去される。アニメーションを切ればゲームはスピーディに進む | 勢力としてのドイツの支配領域を見る画面。国家としてのドイツ領域(上半分)とイタリアの領域(下半分)が別に管理されていることが分かる |
補給と軍事拡張とのバランスを取るのが醍醐味
戦略マップでは軍隊の配置状況のほか,工場の支配数も見られる。これは補給ポイントや軍事ユニットの生産力に関わるだけでなく,勝利条件の一つとしても扱われる |
固有の兵器名は出てこないが,同じカテゴリの兵器でも勢力ごとに性能が微妙に異なることで,個性を出している。例えば日本の小型艦は雷撃能力が高い |
ただし,本作「ワールドアットウォー」では,生産や補給に関して,よりシリアスに再現している点で違いがある。軍事ユニットが敵領域に攻め込むときには,原則的に補給ポイント(上級補給ルールでは,補給ユニットが実際にマップ上を往来する)を必要とする。このポイントは,プレイヤーが前もって生産しておかねばならず,大規模な作戦のためには,大量の補給ポイントを備蓄しておく必要があるのだ。
しかし,補給ポイントと軍事ユニットは同じ資源ポイント・工場ポイントを消費して作るので,補給ポイント生産にかまけていると肝心の軍事ユニットが不足してしまう。さらに,歩兵や野砲がせいぜい2ターンで生産できるのに対し,戦車や航空機,戦闘艦はもっと長い期間が必要になる。
また,占領した領域の工場や資源を利用するためには,その地域のインフラを修復しなければならない。ここで必要なのが,またも補給ポイントなのだ。結果的に,連戦してどんどん占領地を広げていくことは難しい。軍事力と生産力のバランスをどう取るかが,「ワールドアットウォー」の要点なのだ。
短時間でプレイできてヒストリカルなゲーム
勢力の参戦や降伏/首都陥落といった大事件が起きると,モノクロニュース映画風のムービーが流れる。ナレーションは英語のままだが,雰囲気はよく感じられる |
本作ではさらに,国家間で開戦に至るまでの軍事的緊張や,当時の情勢もシステムに組み込まれている。ゲーム開始時に戦争関係にあるのは,ドイツと英仏,日本と中国だけだ。決められたターンが来るか,日独が既定の地域に侵攻することで,ドイツ対米ソ,日本対西側諸国・ソ連といった戦争関係が勃発する。ゲーム後半で爆発的に伸びるアメリカの生産力に対抗するには,枢軸側は早くから資源確保のため侵攻に動きたいところだが,それを行うと敵を増やしてしまうことにもなるわけだ。
国家間の関係は表の形で参照できる。資源や進撃経路の都合に合わせ,中立国への宣戦も可能だが,敵陣営がそれに呼応して進出してくると,敵の勢力を伸ばすことにもつながってしまう | 工場・資源・鉄道は,敵から奪い取るとその時点で2段階破壊される。修復には補給ポイント2が必要だが,すぐ奪還されればコストは無駄に。修復はタイミングを考える必要がある |
中国戦線の場合,日本軍が侵攻した地域には自動的に中国側民兵4ユニットが配備される。支配領域からの収益を阻害する「パルチザン」も発生しやすく,大陸支配はかなり困難 |
情勢再現のために,本作には特殊ルールが多数用意されている。たとえば日本軍の場合だと,早々に中国内陸部に陸上ユニットを進めてしまうと,中国の生産を活発にしてしまううえ,細々と続いているアメリカからの資源輸入を絶やしてしまう,といった具合だ。ミッドウェー海戦のような,本来偶発性の高いビッグイベントはルール化されていないが,現実の歴史から大きく逸脱しない展開が保たれるよう,個別にルールが用意されている。
ただ,その結果として破天荒に暴れまくることはしにくいし,陣営設定は変えられないので,「アメリカが中立を保った場合」「ソ連が枢軸側で参戦した場合」といった歴史if的な状況は設定できない。プレイバランスは,あらかじめ与えられる補給ポイント量の違いとして段階的に調整可能なので,ゲーム的なダイナミズムを求める場合は,もっぱらそれを活用することになるだろう。
英文PDFマニュアルの要点は必読
英文マニュアルのPDFファイルは章ごとの目次も備えており,必要な情報を探しやすい。「実際に使える工場ポイントは,時期や状況によって何倍かされる」といった重要なルールもあるので,ざっと目を通しておきたい |
この製品で少々残念なのは,日本語マニュアルが抜粋版で,前述した特殊ルールがほとんどが訳されていないことだ。英語版マニュアルは,ゲームがインストールされたフォルダの中にPDFの形で収録されているが,これを見ずに本格的に戦略を考えることは,ほぼ不可能だ。ゲーム本体はいたって手軽でプレイアブルなのだから,ぜひともすべて日本語で読めるようにしてほしかったところだが,ここはプレイヤー各自でどうにかするしかない。
ともあれ,歴史性を重視したうえで手短に第二次世界大戦キャンペーンを遊べるゲームというのは,ほかにあまり例を見ない。実際,Pentium 4/3.2GHzを搭載したPCで試してみたところ,AI率いる4勢力の思考/行動時間は長くて3分,短いときは1分で終わる。自分の手番にたっぷり10分かけても,5時間あればまず終わるのだ。
この一点だけを見ても,ウォーゲームファンならばプレイする価値のあるゲームといえるだろう。
視覚要素に関しては,全体として非常に地味であるものの,イギリスについてはちょっとした配慮がある。表示設定を変えるだけで,アメリカとユニットや支配領域の色を別にできるのだ |