「シティーライフ」とはどんなゲーム?
「シティーライフ デラックス」は,2006年7月に発売された都市開発シミュレーション「シティーライフ 日本語版」に,新マップや建造物などの各種データを追加したパッケージ。本作は拡張パックではなく,シティーライフ本体に新データが追加されたもので,単体での起動が可能だ。
シティーライフは,プレイヤーが市長となって,道路や電気などのインフラを整備したり,住居や企業,ランドマークなどのさまざまな建築物(施設)を建てたりしながら,住民のニーズに応えて都市を発展させていくゲームだ。そう聞くと,都市開発シミュレーションの金字塔「シムシティ」シリーズを思い描く人も多いだろう。だが本作はシムシティのような都市開発だけでなく,都市に住まう“住民”達にもスポットを当てているのが特徴だ。
相性関係のある六つの階級の住民を共生させて,
都市を発展させよう
都市を発展させよう
存在する六つの階級の位置付け(上)と,相互の関係(下)について。エリートとロークラスには,収入が同じで価値観の異なるグループが存在しないが,ホワイトカラーとラジカル,ブルーカラーとフリンジは,それぞれ同程度の収入ながら価値観の違いで対立している |
都市の住民は,その所得レベルや価値観の違いをもとに,「エリート」「ラジカル」「ホワイトカラー」「フリンジ」「ブルーカラー」「ロークラス」の6階級(階層)に分かれている(以下,あくまでゲーム内用語として使用しているのでご了承を)。プレイヤーは「住居」を建設できるが,そこにどの階級の人々が住むかは直接選択できず,周辺の環境(娯楽施設や職場の種類など)によって住民が決まっていく。
そして,それぞれの階級間には相性関係がある。例えばブルーカラーの住民は,ロークラスとホワイトカラーに対しては友好的に接する一方で,フリンジとエリートを敵視しており,ラジカルとはあからさまに対立し合っている,などなど。
こういった相性の悪い者同士が近くに住んでいると,両者はやがて殴り合いや暴動などのトラブルを起こしてしまう。いうまでもなく,これらのトラブルは都市が発展する妨げとなるため,市長たるプレイヤーは,何らかの対処を行わねばならない。そんな,ちょっとドロドロした要素を持った箱庭シムなのである。
エリート(所得レベル:最高)最も裕福なグループ | ホワイトカラー(所得レベル:高)高い収入と伝統的価値観のグループ | ラジカル(所得レベル:高)高い収入と先進的価値観のグループ |
ブルーカラー(所得レベル:中)平均的な収入と伝統的価値観のグループ | フリンジ(所得レベル:中)平均的な収入と先進的価値観のグループ | ロークラス(所得レベル:低)最も低い収入のグループ。なんてあからさまな描写だろう |
オペラ座や高級ブティック,アクセサリーショップが建ち並んでいる。エリートはこのような場所で余暇を楽しむらしい |
住民同士の争いを排除する最も簡単な方法は,各階級の生活エリアを完全に遮断することだが,住民が求める多種多様な施設を正常に運営するには,それぞれ別の階級の住民を必要とすることも多い。例えば都市の維持に欠かせない「病院」は,その運営に「ロークラス」「ブルーカラー」「フリンジ」がそれぞれ一人ずつ必要とされる。つまり病院へ通勤可能な範囲内に,それぞれの階級の住民が労働力として必要なのだ。
逆に,彼らが求めるサービス(施設)の配置次第で,集まってくる住民の階級をある程度コントロールできる。プレイヤーは,住民同士が揉め事を起こさないように気を配りながら,計画的に各施設を建設し,都市を開発していくのだ。
多くの住民が集まれば,彼らからの税収によって都市は潤う。エリートのような所得レベルの高い階級の住民が増えれば,税収入はさらに伸びる仕組みだ。さまざまな階級の住民を共生させつつ都市を発展させていく,そこがほかの都市開発シムにはない,本作ならではの醍醐味といえるだろう。
本作の中では平均的な階級層に位置づけられるブルーカラーが,雑談しているところ。至って平凡な風景である | ロークラスがバスケットコートで遊んでいるところ。余暇の過ごし方ひとつを取っても,階級によってその内容はまったく異なる |
追加データでは企業やランドマークなどの
建造物が多数追加
建造物が多数追加
世界を代表するランドマーク(?)の,”自由の女神像”。残念ながら日本のランドマークは収録されていないようだ |
「デラックス」最大の特徴は,建築できる建物(施設)が100種類以上も増え,都市計画のバリエーションが広がったことだ。
追加された建築物の中でひときわインパクトあるのが,「自由の女神」「ホワイトハウス」「エッフェル塔」「タージ・マハル」「クレムリン宮殿」などといった,世界中の有名建築物(ランドマーク)だろう。これらは通常の施設と比べ,かなり特殊な性質を持っており,そしてそのほとんどが巨大だ。例えば自由の女神は従業員を必要とせず,膨大な維持費は掛かってしまうが,周囲に住む人の生活の質を大きく向上させる効果を持つ。都市の発展に必要な重要施設というよりは,見た目を華やかにさせることが主目的の施設ではあるが,こういった個性的なランドマークをうまく都市に同化させるのは,大きなやりがいとなるだろう。
ランドマーク以外にも,さまざまな施設が追加されている。その主たるものは職場で,前作では「企業」「大企業」といったシンプルな構成だったが,これに「ビール工場」「賞金稼ぎ」「ゴーストハンター」「地球外生物着陸場」などなど,名称や見た目のユニークなものが追加された(効果としては普通の職場と大差ないが)。ほかにも「余暇」の娯楽施設などが追加されている。
写真はドーム型の巨大スタジアム。建設できる施設が増えたことにより,市長としての選択肢の幅がさらに広がった | こちらはフリンジの余暇施設の“幽霊屋敷”。各階級の好みがより強く現れる(?)ような施設が加わったといえる | 空港を建てたものの,ホワイトカラーの従業員がおらず機能していない。どうやって,この場所に彼らを呼び寄せるか |
マップも27種類に増加
シティーライフには,与えられた目標の達成を目指す「シナリオモード」と,目標を設定せず好きなように都市を開発できる「フリーモード」の,2種類のゲームモードがある。シナリオモードで目標をクリアすることで銅/銀/金のメダルを獲得し,それによって両モードで使用可能なマップがアンロックされていく。最初は4マップのみだが,最終的には22マップが使用可能になる。
そしてデラックスでは,フリーモードでのみ使用可能な五つの新マップ「ミラー・レイク」「バリアリーフ(サンゴ礁)」「川の上」「アルゴナウテス海岸」「砂漠のオアシス」が追加され,計27マップが使用可能になった。
ミラー・レイク | バリアリーフ(サンゴ礁) | 川の上 |
アルゴナウテス海岸 | 砂漠のオアシス |
たまにはこんなドロドロした箱庭シムも
対立する階級同士の摩擦は,こんな乱闘に発展してしまうことも |
シティーライフは,カメラの拡大機能を使うことで,住民一人ひとりの顔を覗いたり,街並みを道路上から人の視線で眺めたりといったことが可能だ。そして異なる階級同士がいがみ合う現場などを,直に確認できる。まさに,人にスポットを当てた都市開発シムなのだ。
本作が開発されたフランスなどに比べると,日本で本格的な階級問題を意識することは実際まだまだ少ないのではなかろうか。本作は,異なる収入や価値観の住民同士が,一つの街の中で共生していくというのはどういうことか,少し考えさせられる作品でもある。純粋な都市開発シム好きはもちろん,そういった社会問題に興味があるという人も,「シティーライフ デラックス」を一度プレイしてみることをお奨めしよう。