ニュース
[AOGC#7]ガンホー堀氏が語る「オンラインゲーム開発」
2005/03/02 21:08
 ガンホー・オンライン・エンターテイメントは,国内で最大級の人気を誇る「ラグナロクオンライン」を擁するゲームパブリッシャ。その技術担当取締役である堀誠一氏も,AOGCのカンファレンスで講演を行った。お題は「オンラインゲーム開発に対するガンホーの取り組み」である。
 ガンホーといえば,2004年5月にゲームアーツと資本提携,業務提携を行ったり,2004年9月の東京ゲームショウでは自社開発タイトルプロジェクト「Codename:"GO"」(仮称),「Codename:"Rondo"」(仮称)を発表するなど,昨今"デベロッピング"方面への動きが活発なゲーム会社。メディアならびにユーザーサイドの視点で見ると,今回の講演では,堀氏の発言からそのあたりの新作の"香り"が感じられるかどうかが一つの注目のポイントであったといえるだろう。

 堀氏はまず,具体的な話をする前の前提として「国内のオンラインゲーム開発」の現状認識についての見解を語った。氏が言うには「市場の規模としては年々着実に上昇しており,他国に比べて遜色ないレベルになりつつある。しかしオンラインゲームの開発……要するにデベロップメントという面においては疑問が残る」とのことで,話を要約すると「日本はオンラインゲームの後進国である」ということになる。
 その理由として堀氏は,日本がブロードバンド後進国と呼ばれていた時代が遠い過去の話ではないことや,ゲームプラットフォームに恵まれているが故の開発体制の違いなどを挙げている。開発体制がうんぬんというのは,コンシューマゲームの開発が,開発工程の分業化をはじめとしたいわゆる"量産体制"へとシフトしてきているという部分を指摘しており,従来のモデルに則って効率化を求めた結果そういった体制へ移行しているところが,オンラインゲームの開発では不利に働いているという話であった。
 またゲーム開発者のソリューションについての知識不足も指摘しており,例えばIBMとHPではサーバーの管理方法が違う,ルーターなどの各種ネットワーク機器について……などなど,堀氏は,オンラインゲームではそういったソリューションの知識も欠かせないものだと説明している。

 講演の最初でいきなりネガティブワードを連発した堀氏だが,「ただ日本にも優位性はあり,今後十分に盛り返していく余地はある」として,緻密な品質管理体制のノウハウや,アニメや漫画などといった"メディアミックス"戦略がとりやすい点を,日本独自の優位性としてあげた。ご存じの通り,ラグナロクオンラインではアニメや漫画,グッズなど多角的な展開がすでに行われており,いわゆる「ワンソース・マルチユース」戦略の有効性を実証しているガンホーである。そのへんのビジネスロジックについては,ある程度ノウハウが出来ているのだろう。

 また堀氏は,「MMORPG」という単語についても苦言を呈した。世間一般では「オンラインゲーム=MMORPG」というイメージができあがってしまっている点を指摘し,「それだとオンラインゲームの可能性を狭めてしまうことになりかねない。アーケードの世界ではいち早くオンライン化が進行しているし,コンシューマでもスタンドアロンの補完としてオンライン化が進んでいる。オンラインゲームはもはや特殊な1ジャンルなどではなく,当然あるべき要素になりつつある。オンラインゲームという言葉の定義を,今後もっと押し広げていかなければならないだろう」とコメント。「我々パブリッシャもこの点については反省しなければならないかもしれないが」と苦々しく言いながらも,そろそろ"MMORPG"という単語は役目を終えたのではないか,という見解を語った。




 一通りの概念論を語ったところで,堀氏は,具体的なオンラインゲーム開発についての注意点に話を移した。氏はまず「オンラインゲームはゲームだが,それ以前に考えるべき要素が多くある」とし,総じて「オンラインゲームはシステムである」と元技術屋らしい見解を披露。「オンラインゲームでは,運営という要素が大きなファクターであり,"回していく"サービスであることを考慮すると,オンラインゲームがシステムであるという発想が必要なのではないかと」と続け,オンラインゲーム開発はシステム先行型の開発体制が重要なのではないか,という考えを語った。
 堀氏は,「例えば,ゲームサーバーをどうしようという話になったとき,これで本当に大丈夫かどうか,エミュレーションまでやって確かめようというところは少ないのではないだろうか。何となく"大丈夫だろう"というところで止まりがちなのではないかと思う。データベースなどについても,ゲーム開発者はそれほど親しみがないことが多いように感じる」とコメントしたうえで,「そのあたりをちゃんと考えて作らないと,いざ運営してみたときに痛い目に遇う」と,オンラインゲーム開発においては,制作の第一段階となるプリプロダクションが非常に重要であることを強調した。
 また堀氏は,ネットワークコストやサーバーコストについての問題も語り,サーバー/ネットワークコストは想像以上に運営費がかさみ,ひいては経営を圧迫するともコメント。「なぜなら,回線費やサーバーの設備などというのは,固定費として計上されてしまう。例えば,高価なサーバーが必要なシステムだとすると,故障したときの代替え機の用意も含めて,コストは一気に上がる」と,"システム"の設計があらゆる面で影響していくことを重ねて説明していた。
 一連の解説の中で,開発者の視点としてはもっともだと思ったのは,堀氏が「開発メンバーの入れ替えを想定した人員計画が必要だ」と解説していたところである。オンラインゲームは,商品寿命が非常に長いタイトルになることが多い。そんなオンラインゲームの開発において,一つのタイトルに同じ開発者を張り続けさせることは,その開発者がほかの技術から取り残される危険性があるばかりではなく,そもそものモチベーションを下げる要因にもなりかねないという。先進の技術者がサービスをローンチさせた後,後進の技術者にうまく引き継がせていくノウハウが重要になると説明していたのが印象的だ。


 堀氏は,開発に関する論理に加えて,さらにコミュニティ設計やゲームマスターの重要性についても言及。コミュニティ設計に関しては「公園の発想」が重要だと説明し,ガチガチにルールで縛り付けるのではなく,ゲーム内である程度の"余幅"を持たせるべきだとしている。この点に関しては,ラグナロクオンラインの実質上の"作者"であり,現在は「Granado Espada」を開発中のKim, Hakkyu氏も,以前同じようなことを発言している。そういった要素がオンラインゲームの重要なポイントであるという認識が,オンラインゲームデベロッパの間に強く認識されつつあることがうかがえる。
 実際の運営やゲームマスターについて,堀氏は「非常に大変」と言い,その説明として「ユーザーが増えていくことは単純に喜べる話ではなく,実はそれだけの人数に対応していかなければいけない辛さも産まれてくる」とコメントしていた点が,非常に印象深い。ここでまたシステム面の話に立ち戻るのだが,同氏は「運営ツールなどについてもよくよく考えなければならない。運営してみないとノウハウをもてないのがつらいところだと思うが,普通のカスタマーサポート的な要素だけではなく,不正への対処などは非常に重要だ」と話し,運営面も見据えたシステム開発を心がけるように促していた。
 ゲームマスターの重要性については,上記のようなユーザーへの対応のほかに,堀氏はユーザーをより楽しませるためのイベント開発や,"キャスト"ノウハウの構築を考えるべきだとしている。キャストの説明をするにあたって,堀氏はディズニーランドにおけるミッキーマウスの存在を提示。よりユーザーをゲームの世界に引き込むにあたり,生きたNPCとしての役割も小さくないのではないかとコメントした。


 さて今回の講演だが,基本的にはオンラインゲームを作るうえでの「大枠」についての話が中心であり,発表されている新作の開発話や,現状のラグナロクオンラインの問題点などを絡めた"ガンホーが今直面している課題"といった具体的な話が行われなかったのは残念なところ。ただガンホーは,IPO(株式公開)を直前に控えている時期。うかつな発言はできないという側面もあったのかもしれない。
 講演の最後に,堀氏は「今まさに小舟で出たところだが」と控えめな発言をしながらも,「まだ明確な手法についてお話できなくて申し訳ないと思います。我々が開発するオンラインゲームが世に出たとき,またお話ができればと考えています」と,内に秘める自信を匂わせるコメントで締めくくった。今後,ガンホーがデベロッパとして大きな成果を残せるのか否か,国内最大規模のパブリッシャ,ガンホー・オンライン・エンターテイメントの動向が注目される。
(TAITAI / Photo by kiki)



【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/news/history/2005.03/20050302210826detail.html