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[TGS 2011]GREE田中良和氏による基調講演,「ゲーマー・田中」が目指す10億人規模のサービス
冒頭「なぜGREEがTGSに出展するのですか?」という質問を多く受けたと語る田中氏。初出展で最大級のブースというのは,確かにインパクトがある。気になる質問の答えについてだが,出展したのは,社内にどうしても出展したいという社員がいたからだそうで,「僕は若干ブースが大きすぎるんじゃないかと思ったけれど,彼の意向で大きくなりました」と意外な経緯を明かした。
TGSに出展した実感については,「アウェー感はちょっとありますね」としつつも,「やはりTGSは楽しいですね」「面白そうなゲームがたくさんあります」と続け,氏自身,多くのゲームが集まるゲームショウを楽しむ,一人のゲーマーであることを垣間見る場面も。そんな「ゲーマー・田中」氏が,GREEとソーシャルゲームの未来を大いに語る基調講演となった。
「ゲーマー・田中」
田中氏は,小学生1年生のころファミリーコンピューターが発売された世代であり,ファミコンとPlayStationで青春を過ごしたという。「大声で言うのは憚られますが,ドラゴンクエストの発売日には学校をズル休みして行列に並び,その翌日も学校を休んで徹夜でゲームしてました」とのこと。
中学生になるとゲームセンターで「ストリートファイターII」に夢中になり(CEDEC講演での情報によればザンギエフ使い),また,この頃PC-9801を買ってPCゲームにも触れるようになる。高校生の時期にPlayStationが発売され,ゲームセンターでは「バーチャファイター」にコインを投入,大学生でWindows 95の世界に飛び込んでいくことになった。
ザンギエフ使いというあたりを除けば,ある意味でわりと典型的なゲーマーとして歩んできたことが分かる。
ソーシャルゲームがもたらした3つの「変化」
氏が指摘する3つの変化とは,以下の3点だ
- 通信環境の変化
- 流通手段の変化
- 販売手法の変化
●通信環境の変化
田中氏によれば,一番大きいのは「スマートフォンを中心とした携帯電話のゲームでは,ゲームデバイスに通信機能が内蔵されて」いることだとする。携帯電話は「『たまに』通信できるでも,『近くにいると』通信できるのでもなく,『どこでも』『いつでも』『誰とでも』通信が可能」であり,これは従来型のコンソールゲームとは大きく違う環境だ。近年では携帯型ゲーム機をはじめ,コンシューマゲームも通信機能を備えているが,それは必ずしもユーザーに通信環境があることを保証するものではない。
田中氏はこれを指して「常時接続が当たり前の環境。コンテンツを作る側にとっても,通信環境がないユーザーも想定して作るゲームデザインと,100%全員が接続環境を有することを前提として作れるゲームデザインは,大きく異なりえます」と指摘する。
●流通手段の変化
2番目の変化として,「好きなときに始められる・いつでも購入できる」という点が挙げられた。
「今まではゲームをやりたいなと思っても,買いに行くのが面倒だったり,あるいは明日買いに行こうと思っても忘れてしまったり,といったことが起きていました」それに対し「ソーシャルゲームは,遊びたいと思ったとき,すぐに遊び始められます」。これは,流通そのものの姿が変化したことを示している。
●販売手法の変化
最後のポイントは,「いわゆるアイテム課金と呼ばれる方式」だと述べ,このアイテム課金(意味的にはマイクロトランザクション)という方式は,「好きなものを好きなだけ購入できるシステム」だと氏は語った。
田中氏は,「従来,パッケージゲームは一定の金額を払ってサービス全体を購入していました」「これはほかでもある方式で,例えばコース料理を中心に提供するレストランはこれに相当します」「アミューズメントパークでも,初めに入場料を払わないと園内にも入れません」と従来型のビジネスを分析しつつ,「しかし,世の中には自分が食べた分だけお金を払ったり,入場してから自分が使うものに応じてお金を払うという業態がいくつもあります」と指摘する。「これと同様に,ゲーム業界にもさまざまな販売手法が登場したのです」と語った。
これらの3つの変化が同時に訪れていることが,ソーシャルゲーム業界が大きく注目される原因になっているというのが,田中氏の考えだ。
ダウンサイジングの波とスマートフォン
しかし,ここで田中氏はソーシャルゲームの3つの変化というのは,すでに過去のことで,「今注目しなくてはならないのは,『この次に何が起きるか』です」と語る。これについては,氏は「ゲーム産業もまた,コンピュータ業界の一部」だと捉えており,要するに「コンピュータ業界がどのように変化してきて,どう変化していくのかも考えるべき」なのだという。
しかし,これは必ずしも,「専用機vs汎用機という対立構造ではありません」と氏は指摘する。「このようなダウンサイジングの流れの中で,専用機は専用機ならではの価値を提供することで大きなマーケットが作っていけますし,汎用機は汎用機でそういうマーケットを作っていけばいい」「対立ではなく,双方が存在することでよりマーケットが大きくなります」というのが田中氏の意見だ。
「AndroidやiOS,HTML5といった環境が今後のスタンダードになるかどうかは分かりませんが,スマートフォンを中心とした環境がゲームに限らず,さまざまな専用機の機能を取り込んでいくことが起きるのは確実でしょう」「実際,業務端末についても,(Apple Storeで使っているような)iPhoneやiPadにはクレジットカードリーダーがついていて,それで直接決済ができます。POS端末やクレジットカード決済機がスマートフォンの中でソフトウェア的にエミュレートされています」「このような変化が,新しい時代を生み出していきます」と氏は指摘した。
スマートフォンの低価格化がもたらすビジネスチャンス
このようなダウンサイジング化・統合化は,何を生むのか? 田中氏は「大量生産される度合が従来とは比較できないほどになり,強烈な量産効果が生まれます。これは劇的な高性能化も呼び込み,そういったコンピュータがタダみたいな値段で作られることになるでしょう」と考える。そして「そういう時代を前提としてサービスを作らねばなりません」と語った。
また,低価格化・高性能化が進むことで,マーケット自体が爆発的に広がることも氏は指摘する。「これは,いろいろなところで起きていることで,ファッションにおいてはファストファッション,医薬品ではジェネリック,車ではTATAのnanoといった例があります」と語り,ゲームでも同じ流れがくることを示唆した。
そして氏は「ゲーム産業においては,ゲームのためだけに何万円もするハードウェアを買わなくてはゲームができませんでした」と語った。「そのお金を払ってでもゲームをしたいという人はこれからも増えていく」,一方で「そこまでしてゲームをすることはないと思っていた人も世の中にはたくさんいた」と,過去のゲーム市場の問題点を指摘。
これに対し「スマートフォンというみんなが持っている端末では,すぐにゲームが楽しめます。これによって,ゲーム機を買うことに躊躇していた人もゲームを遊ぶようになりました」と,スマートフォンが普及したことによりゲーム人口は爆発的に増大したと氏は述べた。
「スマートフォンは,世界で最も普及するコンピュータ端末になるでしょう。この端末でゲームができるということは,ゲームのビジネスが何倍にも増えるチャンスです」と語った。
10億人に使ってもらうサービスに
「GREEは,SNS,プラットフォームビジネス,ゲームデベロッパーを垂直統合しており,さらにこれを,モバイル環境を中心として行っているという特徴があります」「ゲーム業界においては,プラットフォームビジネスとデベロッパーを兼ねるのは当然ですが,世界的に見ると,モバイル中心でこのような垂直統合を行っているというのがユニークな点です」と語る田中氏は,「このユニークなモデルを世界全体にいかに展開するか,が大きな命題です」とした。
GREEは,現在全世界で1.4億人ほどのユーザーを有しており,海外ユーザーが80%を占める。一方,売上で見ると日本国内のものが大きく,世界展開を拡大しつつ,日本市場でも急激な成長を維持している。「日本においてもソーシャルゲームのマーケットはまだまだ伸びていく」というのは,興味深い観測といえるだろう。
10億ユーザーとなると途方もない数に思えるが,GREE自体がすでに1億を超えるユーザーを抱えているほか,FacebookやTwitterは,すでに億単位でユーザー数を数えており,「これから数年の間に,10億ユーザーに達するサービスはいくつも出てくるでしょう」と氏は語った。そして「スマートフォンの急速な成長を考えると,次の3年〜5年を考えるにあたって,1億人,2億人といったところを目指している場合ではありません。5億,10億を目指すのが次のビジョンです」と意気込みを見せた。
「一人でも多くの人に使ってもらいたいというのが,サービスの作り手としての思い」と語る田中氏は,「だからこそ世界でもサービスを提供していきたいと思っているし,100万人より1000万人,1000万人より1億,1億より10億の人に使ってもらうチャンスが,スマートフォンの中にあります」「このチャンスを活かして,10億人のユーザーに喜んでもらう,10億人の人の生活を変えていく,そこを目指すのが次のビジョンです」と語った。
ゲームの面白さに触れる人を増やすために
これに対し田中氏は,「繰り返しになりますが,10億人に使ってもらうサービスというのは,大変な仕事だが不可能ではありません」と述べた。そして「ゲーム産業は世界最大のエンターテイメント産業で,もはや音楽や映画を規模で上回っています」と続け,「そしてスマートフォンの到来によって,ゲームビジネスの規模は何倍にもなります。そういうチャンスを掴みたいです」と語った。
また,田中氏個人としては,「南米やアフリカに進出したい」という。低所得地域では,日本円で何万円もするハードは買えない人が多い。場合によってはゲームビジネスをまったく知らない人もいるでしょう。だが,「スマートフォンが低価格化することで,ゲームの面白さに触れる人が爆発的に増大します」と田中氏は指摘した。
「これこそが社会のイノベーションなのです。それを実現することをイメージして,10億人と言っているわけです」
最後に,田中氏はこのような言葉で講演を締めくくった。
よく,ソーシャルゲーム対コンソールゲームということを言われますが,そうではないと感じています。今実現していることは,そもそもゲームマーケット・ゲーム人口というものが,スマートフォンを契機に爆発的に広がっているということです。
実際,僕らのサービスというのは,日本国内においても1本のゲームを1000万人に遊んでもらえる,というところにきています。その話を,あるゲームクリエイターの方にしたとき,『そう思うと何十万本という数でゲームを売るというのは,今まで多くの人にゲームを提供することだと思ってきたけれど,実はニッチな人にゲームを提供していたのだということに気づいた』と言われました。
僕もその言葉で初めて気がついたのですが,日本でマスメディアと呼ばれる媒体である新聞やテレビは,何千万人がメディアベースになっています。これが日本における本当に「マス」のメディアなのです。これが世界で言えば,いまからは何億,何十億というオーダーになります。
これまでゲームビジネスは,どうしても「ゲームなんて」「ゲームなんてやってるの」的なことをいわれがちでしたし,僕も子供の頃から,そういわれて育ってきました。しかしそれは,ゲームを遊んでいる人数が少ないからではないでしょうか。本当にみんながゲームを遊ぶことで,「俺もゲーム遊んでるけど,ゲームっていいよね」という変化が起こるのではないでしょうか。ゲームの地位向上とは,こうやってみんなが遊んで初めて,達成されるのではないでしょうか。
そういった意味で,ゲーム業界の裾野をスマートフォンを通じて広げながら,ゲーム業界自体がさらに活発なものにしていきたいです。また,IT業界において日本から世界に出ていける数少ないジャンルとして,ゲームというのは日本の宝だと思っています。その業界の仲間に入れてもらい,世界中で使ってもらえるサービスを作っていきたいです」
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