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国内のe-Sportsを牽引する企業とプロゲーミングチームのリーダーが,その未来と可能性について語ったJOGA主催のセミナーをレポート
最初に登壇した鈴木氏は,SANKOがe-Sportsに取り組むことになった経緯から話を始めた。SANKOは1965年設立の老舗広告代理店だが,4年前に,自分達から何かを発信をしていきたいという思いから,得意とするイベント運営の部分を生かして,e-Sportsの世界へと参入したという。海外では既に数億円規模の賞金がかかる大会などが開催されていたe-Sportsの市場に注目し,それを日本でも文化として根付かせることを目指したとのことだが,その幕開けはかなり厳しいものだったという。
e-Sportsへの参入時,SANKOが最初に行ったのは国内初のe-Sports施設「e-sports SQUARE」を,千葉県の市川市の雑居ビルにオープンすることだった。もとは美容室だったフロアを改造し,各メーカーを駆け回って機材などを無償提供してもらい,晴れてオープン初日を迎えたが,当日の来客数はたったの1人で,その後2週間は客数0という厳しい日々が続いたという。
苦難の日々が続く中,駅前でチラシ配りをしてみたところ,客ではなく従業員への応募があり,雇った店員をデモンストレーターとして,ゲームプレイの映像配信を宣伝として行うと,それが口コミで広がり,約1年で毎週末e-Sportsのイベントが行われるほどまでに急成長したとのことだ。
国内とは対照的に,海外からの反響はことのほか大きく,LoLの開発元であるRiot Gamesの関係者が来訪したり,海外からの取材を受けたりと順調な展開を見せ,現在の活動の基礎となる人脈を作ることに成功したという。
e-sports SQUAREのオープン当初は格闘ゲームやFPSなどのジャンルを中心に扱っていたが,運営がある程度軌道に乗ってきたあたりで,利用客からのLoLに関する問い合わせが多くなり,2013年からLoLのイベントを積極的に開催するようになったとのこと。それ以降,来客数が飛躍的に増え,「Vプリカ」(ネット専用のVisaプリペイドカード)を発行するライフカードのスポンサードを受けるきっかけにもなったそうだ。
そのようにして成長を続け,市川の施設が手狭になってきたe-Sports SQUAREは,2014年1月に秋葉原に移転する。広さは5倍近くとなり,ゲームプレイはもちろんのこと,観戦や実況配信,さらにはカフェで飲食なども楽しめるリッチな施設となって,現在に至っている。
続いて鈴木氏は,ゲームを通してのスポーツマーケットへの取り組みとして設立した,プロのLoLリーグ「League of Legends Japan League」(以下,LJL)を解説した。
e-Sportsのプロリーグ設立にあたってのタイトル選定では,打診した国内のほとんどのゲームメーカーが興味を示さなかったという。ゲームメーカーがe-Sportsを事業の主力と捉えていて,さらにプレイヤーが真剣に取り組んでいるタイトルを選ばないと,日本にe-Sportsは広がらないと考えた鈴木氏は,施設が発展するきっかけにもなったLoLをチョイス。2013年のE3でRiot Gamesに直談判したところ,快諾を得て,同年末,ついにLJLが発足した。
それまでにe-sports SQUAREで開催した大会に出てくれていたチームに声をかけ,プロとして毎週必ずリーグ戦に出場してくれることを条件に正式契約し,2014年2月に6チームによるリーグ戦がスタート。初年度のリーグ優勝チーム,DetonatioN FocusMeが今年4月にトルコにて開催された公式大会「2015 International Wildcard Invitational」(以下,IWCI)に日本代表として出場するなど,日本のチームをe-Sportsの国際大会という大舞台に立たせたいという鈴木氏の思いが,ついに現実したのである。
現在リーグ所属の6チームには本格的なスポンサーが付き,毎日練習ができる環境を得て,プロ活動を行っている。各チームのメンバーも,もとは家でネットゲームを黙々とやり込むコアゲーマーで,アスリートとしてのイメージ作りをすることを嫌がっていたが,競争環境で揉まれていくことでその意識も少しずつ高まり,約2年で全員が大きく成長することができたという。
最後に鈴木氏は,SANKOのe-Sports事業の今後の活動内容についても説明した。
その一つは「e-Sportsプレイヤーの裾野拡大」。数あるゲームコミュニティと連携を取ることで,次世代のe-Sportsプレイヤーを育て,同時に若い頃からe-Sportsにふれ合える教育機関を作ることも視野に入れているという。
続いては「企業間を超えたe-Sportsの普及活動」。オーガナイザー,スポンサー,チーム,メディア,メーカーなどe-Sports関係者の垣根を取り払い,ビジョンを共有することで,e-Sportsを文化にできる環境作りを目指していく。
そしてもう一つは「スマホゲームのe-Sports化」だ。まだe-Sportsの種目として扱われることのないスマホゲームをどうe-Sports化していくかを,現在模索中とのことである。
東京ゲームショウ2015では,これらの一環として,LoLの大会「Logicool G CUP」を開催予定だ。この大会はLoLのプロではないプレイヤーを中心とした大会で,プロを目指すプレイヤーがe-Sportsに参戦する楽しさや,配信をする楽しさを伝えるという狙いがあるという。
また,SANKOは,発表時に大きな話題となった,東京アニメ・声優専門学校の「プロゲーマー学科」に,カリキュラム作りや機材・人材の派遣などで協力している。ちなみに同校のアニメ学科に来る資料請求が通常500前後なのに対し,この学科設立発表時の資料請求はなんと8000にもなったという。この7月からAO入試が始まり,既に20名前後の入学が決定しているそうだ。
最後に鈴木氏は「まだまだ本業である広告代理業を凌駕するほどではないが,e-Sportsの可能性は非常に感じています。今後もe-Sportsの発展のために,ぜひご一緒いただければと思います」と挨拶した。
続いてはプロゲーミングチームDetonatioN(デトネーション)代表の梅崎信幸氏が登壇。自身が率いるチームの活動と,自身が考えるe-Sportsの今後について語った。
15歳のときからオンラインゲームをプレイしていて,大学卒業後家電メーカーの営業職に就くかたわら,2012年にDetonatioNを結成した梅崎氏。現在は2014年に立ち上げたe-Sports関連会社Sun-Genceの代表兼DetonatioNチームCEOとして,e-Sportsの認知・促進に尽力している。
梅崎氏のゲームの腕前はかなりのもので,ゲームの国際大会「World Cyber Games」に日本代表として出場するほどだったが,そこで最下位に終わった悔しさからDetonatioNを結成したという。その時点で20代後半を迎えていたため,自身が選手となるのではなく,マネージメントや監督的な役割を担うなチームのまとめ役として立ち回ることを決めたそうだ。
彼がまとめるチームの中で,ひときわ大きな存在となっているのが,LoLのチーム「DetonatioN FocusMe」だ。彼らは日本初のフルタイム給料制ゲーミングチームを謳っており,メンバーは西船橋にあるゲーミングハウスで,共同生活を送っている。
現在の日本でプロゲーマーを目指すには,本人にやる気があっても,親の了解を得るのが難しい。梅崎氏はメンバー全員の両親に経緯を説明し,承諾をもらったとのこと。チームのエースはまだ18歳で,学業とプロゲーマーの両立を両親から反対されていたが,彼が大会に出場するようになってからは,両親から応援されるようになったというエピソードも紹介した。
DetonatioN FocusMeが,8月8日に開催されたLJL 2015シーズン王者決定戦「LJL 2015 GRAND CHAMPIONSHIP」にて,2連敗からの3連勝という劇的な勝利をおさめたことは,4Gamerでもお伝えしたとおりだが,このときは梅崎氏も号泣したそうだ。
優勝をおさめたDetonatioN FocusMeは,国際大会「International Wildcard Qualifier」へ出場するために,このセミナーの後にトルコへと飛び立っているのだが,梅崎氏は「今回は本気で勝ちに行く」と宣言した。現在LoLは,日本国内で正式サービスは提供されていないため,国内サーバのない国が優勝するという偉業をなすべく,最善を尽くしたいとも語っていた。
梅崎氏は今後の日本のe-Sportsについて,「まだ発展途上ではあるが,熱はゆっくりと高まっている」と語る。海外のe-Sports関連企業にとって,日本のe-Sports市場はブルーオーシャンであり,大きな注目を集めていて,実際に梅崎氏のもとにも海外から多くの問い合わせが入るそうだ。e-Sportsが発展途上ながらも,e-Sports向きのゲームを多く販売するSteamの売上が全世界で第9位になるという結果も出ていて,それだけでも展開していく余地はあるとしている。
そうした注目が集まる中で,日本主導のe-Sportsの世界大会を主催すれば,国内だけでなく世界の認知度も上がるのは間違いなく,「もしそうなれば,e-Sportsが2020年の東京オリンピックの競技になる可能性もゼロではない」という大胆な予測も披露した。
今後は梅崎氏は,自分の次の世代のリーダーを育てることに力を入れ,今後来るであろう,e-Sportsが発展した5年後,10年後の日本に向けて,業界を支えていくことを宣言し,セミナーを締めくくった。
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