業界動向
Access Accepted第620回:1億台を突破したPlayStation 4と小島秀夫氏の言葉
Sony Interactive EntertainmentのPlayStation 4が,累積販売台数で1億台を突破したことが明らかになった。北米などで2013年11月にリリースされてから4年8か月での1億台突破は,据え置き型のコンシューマ機として史上最速の快挙とのことだ。その一方で,ゲームソフトの収益が伸び悩んでいるという現実もあるようだ。今週は,サンディエゴで開催されたイベントComic-Con Internationalで小島秀夫氏が語った話と合わせてお届けしたい。
ハードウェア1億台到達と,低調なソフトウェア販売
ソニーは2019年7月30日,「2019年度 第1四半期 業績説明会」を開催し,同社ゲーム部門であるSony Interactive EntertainmentのPlayStation 4が,累積販売台数で1億台を突破したことを明らかにした。2018年末には9190万台と発表されていたので,そこから約半年で800万台以上の上乗せを達成したことになる。北米などで2013年11月(日本では2014年2月)に発売されて以来,4年8か月での1億台突破は,据え置き型のコンシューマ機として史上最速となる快挙だという。
これまで1億台を突破したコンシューマ機には,2000年3月に日本での販売を開始したPlayStation 2があるが,到達するまでにかかった期間は5年7か月だった。累積販売台数が1億249万台を記録したPlayStationや,1億163万台のNintendo Wiiを本年内に追い抜くのは確実視されており,PlayStation 2の累積販売台数である1億5500万台に到達するのか,するとすればいつになるのかが注目されている。
まだ正式には発表されていない次世代ゲーム機PlayStation 5(正式名称は不明)の登場までには,少なくとももう1回年末商戦があると思われ,2019年末には「DEATH STRANDING」や「FINAL FANTASY VII REMAKE」といった独占タイトルのほか,「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア」や「Cyberpunk 2077」といったマルチプラットフォーム向けの人気タイトルも発売を控えている。
ちなみに,高価な独自プロセッサを搭載しながら,エクスクルーシブタイトルの充実やインディーズゲーム対応といったトレンドに乗り遅れたPlayStation 3は,ビジネス的には失敗したと思われているものの,現在までの累積販売台数は8470万台を記録している。PlayStation 4の日本での累積販売台数は702万台(2018年8月時点)と発表されており,PlayStation 3の1027万台に追いついていない。少子高齢化の影響があるのかもしれないが,据え置き型コンシューマ機における日本の低調さが気になるところで,PlayStation 4がまず欧米向けに発売されたことが改めて理解できる数字だ。
PlayStation 3は24か国での発売だったが,PlayStation 4は倍以上になる59か国での発売となっており,ゲーム産業のグローバル化がPlayStation 4の好調さを後押ししているのだ。
さて,業績説明会のセグメント別に分けられた「Game&Network Services」を見ると,2019年第1四半期(2019年4月1日〜6月30日)のソフトウェアの業績は4575億円で,前年同期比でマイナスになっているだけでなく,税引前利益も前年の835億円から738億円に減っている。
この理由についてソニーは,ファーストパーティおよびサードパーティのタイトルに大きなヒットがなかったことを挙げているが,PlayStation 4が前年同期比で23万台も多く売れているのに,ソフトウェアの利益は伸び悩んでいるわけだ。細かくチェックしてみると,ソフトウェアの販売本数そのものは増えているのだが利益率が低下して,大型タイトルの欠如と個々のソフトの販売価格の低下が減益をもたらした形になる。
「San Diego Comic-Con International 2019」で小島秀夫氏が語ったこと
ソニーの業績報告にあるように,確かに最近,新たなジャンルを築くようなヒットタイトルが少ないという印象があり,それはPlayStationプラットフォームに限った話ではない。バトルロイヤルゲームのように急な人気を獲得するゲームジャンルはあるが,いったん人気になるとそこにゲーマーが集中し,ゲームメーカーもそれを追いかけてしまう。
とくに,その傾向が顕著なのは大手パブリッシャで,例えばElectronic Artsは「Battlefield V」に,Activisionは「Call of Duty: Black Ops IV」に,そしてBethesda Softworksは「Fallout 76」に,といった調子で看板タイトルにバトルロイヤルモードを投入している。
もちろん,二番煎じが面白くないと言いたいわけではない。どんなジャンルでも,より洗練され,発展していくためにフォロワーは欠かせないだろう。1つのものをいろいろな角度から見ることで,新しい発見もあるはずだ。とはいえ,大手パブリッシャで大型タイトルを手がけるゲームクリエイター達がこういった状況をどう感じているかは気になるところだ。
彼らは,自分の創造性を犠牲にして,メーカーの収益拡大のために粛々と仕事をしているのではないかと思えてしまうのだ。
7月18日から21日,サンディエゴで開催された世界最大のコミックファン向けイベント「San Diego Comic-Con International 2019」で,「DEATH STRANDING」を開発中の小島プロダクションの小島秀夫氏がパネルディスカッションに登壇した。そこで,「あなたはなぜ,多くの人がどんな内容なのか頭をひねるようなゲームではない,普通のゲームを作らないのか?」と尋ねられた小島氏は,次のように答えている。
「この世にすでにあるものを,ボクが作っても意味がありません。新しいものとか,これまでにないような刺激を与えたいのです。ハリウッド映画などもそうですが,今は心地良いエンターテイメントがはやっていて,体に残ることもなく簡単に消化されています。ボクは,皆さんが消化し切れないものを与えるといいますか,誰もがプレイしたことのない,見たこともないようなものを作りたいと思っています。それまでにないものを作るのは賛否もあるでしょうが,5年,10年が経過しても皆さんの心に残る,そういうものをボクは作りたい。ゲーマーを島に押し込めて撃ち合わせるようなゲームを作れば数多く消費されるのでしょうが,そんなことはしたくないのです」
小島氏の「DEATH STRANDING」だけでなく,大きなメーカーに籍を置いていたゲーム開発者が独立し,自分のクリエイティビティを重視した独自性の高い作品を生み出すケースは少なくない。Ninja Theoryの「Hellblade Senua's Sacrifice」や11-bit studiosの「Frostpunk」,そしてHazelight Studiosの「A Way Out」などがそうだ。Panache Digital Gamesが開発中の「Ancestors: The Human Odyssey」にも期待したい。
大手パブリッシャが作品作りを否定するような書きかたをしてきたが,「A Way Out」はElectronic Artsが採算を無視して開発者をサポートする「EA Originals」の支援を受けているし,「Ancestors: The Humankind Odyssey」のパブリッシングは,Take-Two Interactive傘下のPrivate Divisionが担当している。そうした点で,北米ゲーム業界は多様だ。
業績報告で「大きなヒットがなかった」と述べたSony Interactive Entertainmentだが,小島氏の作家性を重視した「DEATH STRANDING」や,成長したエリーの物語が描かれる「The Last of Us Part II」,日本のメーカーでも手を出さないようなマイナーなテーマを扱った「Ghost of Tsushima」の投入が予定されるなど,PlayStation 4時代の掉尾を飾りそうな新作が発売を控えている。こうした独自性の高いタイトルに対するプレイヤーの反応も楽しみだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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