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Access Accepted第491回:Xboxのキーパーソン,アーロン・グリーンバーグ氏インタビュー
日本では“売れていないゲーム機”という印象の強いXbox Oneだが,フィル・スペンサー氏がXbox部門のリーダーとなって以来,その戦略が徐々に1つにつながり,2016年2月末にサンフランシスコで開催された「Xbox Spring Showcase 2016」では,そのことがUniversal Windows Platformの一環であると明確に定義された。今回は,その戦略について,同部門のマーケティングを担当するアーロン・グリーンバーグ氏に話を聞く機会を得たので,日本市場の動向を含めて質問をぶつけてきた。
ひょっとしたら新ハードもあり得る?
モバイルゲーム市場の隆盛により,旧来のコンシューマゲーム機が売れにくくなっているというのは,本連載の第486回「SCEからソニー・インタラクティブエンタテインメントへ。新会社発足に見るゲーム産業の欧米シフト」でも紹介したとおりである。いわば“お膝元”であるPlayStation 4以上に苦戦しているXbox Oneの日本における累計販売台数は,海外のリサーチサイトVGChartzによると7万台という,驚くべき数値になっている。
だからと言って,海外でもXbox Oneが売れていないかといえばそうではなく,北米では1245万台と,同じ市場でのPlayStation 4の1423万台と拮抗している。また,ヨーロッパでは511万台が販売されており,その他の地域を含めると現時点で1988万台と――PlayStation 4にはかなり差を付けられてしまっているものの――ゲームハードウェアとしては十分に成功している。事実,前世代のゲームハードウェア市場で優位を保ったXbox 360よりも速いペースで売れているのである。
しかし,やはり販売台数でPlayStation 4と直接的に比較されるのは忍びないのか,Microsoftは2015年に入ってからは公式の販売台数を発表しておらず,「MAU」(Monthly Active Users)の数字へとシフトしている。これは,2016年2月25日に開催された「Xbox Spring Showcase 2016」で,MicrosoftのXbox部門を統括するフィル・スペンサー(Phil Spenser)氏が使った表現を借りれば,同社がプレイヤーの「エンゲージメント」(人を惹きつけ続ける,といった意味)を重視していることとも関係しているようだ。
さらに,Microsoftは「Windows 10」を基軸に異なるプラットフォームを統合するというUniversal Windows Platform(UWP)戦略を前面に打ち出しており,このあたりのスペンサー氏の発言については,3月1日に掲載した記事で詳しく紹介している。
この中で,とくに気になるのが「スマートフォンやPCが継続的に進化するプラットフォームであるのに対し,コンシューマ機は何年も前にデザインされたものが進化することなく使い続けられます。これまでのコンシューマ機は,リリース時点でテクノロジーをロックしてしまっていたのです。しかし,UWP向けに開発されたアプリケーションならば,新しいプラットフォームにも対応でき,古いゲームであっても好きなときにプレイできるようになります」というくだりだ。
これは,UWPというエコシステムの理想を語るくだりでの発言であるが,近い将来にXbox Oneのハードウェアがアップグレードされる可能性があることを示唆しているようにも聞き取れる。ゲームがハードウェアに依存しなくなれば,新機種でもXbox Oneの過去作品をすべてプレイできることになるわけで,今後はまさにスマートフォンのように頻繁にハードウェアが更新されていってもおかしくはない。現状では推測の域を出ないが,このことは現在海外メディアでも大きな話題になっており,続報に期待したいところだ。
なお,今回のXbox Spring Showcase 2016では,MicrosoftのXbox部門で「Global Product Marketing」チームを率いるアーロン・グリーンバーグ(Aaron Greenberg)氏に短い時間ではあったもののインタビューする機会を得たので,UWPを軸とする同社の新しい戦略について,日本のゲーム市場に対する見方も含めて質問をぶつけてきた。ゲーマーにも分かりやすい形で,Windows 10で統合されたPCとXbox Oneというエコシステムの在り方が説明されているのではないだろうか。
UWPというプラットフォームの素晴らしさ
それではまず,2015年の総括からお願いできますか。
アーロン・グリーンバーグ氏(以下,グリーンバーグ氏):
我々にとって,2015年は非常に良い年だったと思っています。2015年度後半にリリースされた「Rare Replay」「Gears of War: Ultimate Edition」「Halo 5」「Forza Motorsport 6」,さらには「Rise of the Tomb Raider」のようなサードパーティタイトルも非常に評価が高く,おそらく年末のラインナップとしてはXboxプラットフォーム史上でも最も良いものだったのではないでしょうか。
この2年間のXbox Oneの販売台数は,Xbox 360がローンチされてからの2年間よりも速いペースで伸びていますし,ユーザーがXboxプラットフォームでプレイしている時間もさらに長くなっています。
4Gamer:
そうした「エンゲージメント」が強みであるということは,今回強調されている部分ですね。
グリーンバーグ氏:
ええ。2016年1月には,Xbox Liveでのユーザーのプレイ時間が10億時間を超えたのです。2015年末には200種以上のフィーチャーを新たにXbox Liveに加えていますし,Xbox 360タイトルへの後方互換性対応なども行いましたから,Xboxユーザーの皆さんにとっても非常に満足のいくものだったのではないでしょうか。今年は,そうした改革が実を結んでいく1年になると思っています。
4Gamer:
スペンサー氏のキーノートスピーチでも,そうした「実行の1年」としての2016年が語られていました。その核になるUniversal Windows Platform(UWP)という戦略についても,今一度ご説明ください。
グリーンバーグ氏:
UWPは,Windows 10というオペレーティングシステムを基盤にして制作された対応アプリケーションを,異なるデバイスでも動作できるようにするという仕組みのことですが,ゲーム市場においては「アプリケーションの利便性をゲーマーを中心にして考えたもの」であると考えていただければ分かりやすいと思います。
我々は,1人でも多くのゲーマーの皆さんが,どんなデバイスを持っているかに関わらず,共通したゲーム体験を楽しめ,共通した仲間達とのコミュニケーションが続けられる環境を構築したいのです。Xbox部門の我々としては,今後もXbox OneならびにXbox Liveの改善に全力を傾けていくことは間違いありませんが,Xbox OneがWindows 10で動作している以上,今後はそれぞれに分け隔てなく,サービスを提供させていただくことになるわけです。
4Gamer:
ゲーマーだけでなく,開発者にとっても有意義なコンセプトですね。
グリーンバーグ氏:
そのとおりです。Xbox OneとWindows 10を搭載したPC向けにゲームを同時発売できるのは開発者にとって大きなメリットになりますし,そうしたUWAの特性をうまく活かした機能も利用できるのです。
例えば,「Quantum Break」(PC/Xbox One)では,Xbox Oneでプレイしていたゲームをクラウドセーブし,その続きを別の部屋にあるPCでプレイするといったことが可能になります。Xbox One版をプレオーダーしていただいたゲーマーには,Windows 10版を無料配布するというキャンペーンを行っていますが,それもUWPのコンセプトの1つを皆さんに直に感じていただくためなのです。
4Gamer:
昨年,「Fable Legends」(PC/Xbox One)がアナウンスされたときにも,そうした方向性を感じていました。
グリーンバーグ氏:
そうですね。音楽であれ電子書籍であれ,今は1度買えばいろいろなデバイスで楽しめます。我々は,それをコンシューマゲーム機というビジネスでもやろうとしているのです。
4Gamer:
その線で言えば,「Forza Motorsport 6: Apex」がFree-to-Playタイトルとしてリリースされるのも納得できます。
グリーンバーグ氏:
はい。ただ,ご理解していただきたいのはWindows 10向けにF2Pタイトルをリリースするからと言って,我々にはマイクロトランザクション(少額課金)による新しいビジネスモデルを開拓しようという意図はないのです。「Forza Motorsport 6: Apex」は「Forza Motorsport 6」から厳選したアセットを利用してローンチしますが,その目的はWindows 10やWindowsストアなど,ひょっとしたらまだゲーマーが気付いていないかもしれないことを,より広く知ってもらうことにあります。
また,レーシングゲームは最新プラットフォームのショウケースとして披露されることがありますが,「Forza Motorsport 6: Apex」をリリースする目的はまさに,DirectX 12と4K解像度によるグラフィックスの進化を1人でも多くの人に味わってもらい,Windowsプラットフォームの優位性を体験してもらうことにあるわけです。そのための無料リリースなのであって,一種の広報活動と考えていただくと良いかと思います。
グリーンバーグ氏が考える日本市場とXboxプラットフォームの今後
4Gamer:
UWPの枠内には「HoloLens」も入っていますが,そろそろ開発者向けにリリースされる頃ですよね(※)。今回はどうして「Minecraft」のAR版がプレイできないんでしょうか?
グリーンバーグ氏:
ははは(笑)。HoloLensは,確かに開発者向けのローンチを進めているところですが,消費者の皆さんに具体的な紹介ができるのはもう少し先であることをご了承ください。「Minecraft: Windows 10 Edition」も,Windowsプラットフォームの素晴らしさを強調しつつ,Oculus VRの「Rift」が提供するバーチャルワールドに,Minecraftの雰囲気をうまく溶け込ませたキラーアプリになっていると思いますよ。
※このインタビュー直後の2月29日,「HoloLens」の開発者向けキットのプレオーダーが開始された(関連記事)
4Gamer:
話は変わりますが,今のところXbox Oneは日本市場でかなり苦戦しています。グリーンバーグさんはどのように考えておられますか?
グリーンバーグ氏:
そうですね。私は何回も日本に足を運んでいますし,日本のゲーム産業には多大なリスペクトを感じています。これまで,我々は日本のゲーム業界とは良い関係を築いてきたと考えていますし,日本のゲーム開発者の皆さんにも,我々のゲームプラットフォームとしてのコンセプトはご理解していただいていると思います。運良く,我々はプラチナゲームズの「Scalebound」,comceptとArmature Studioが手掛けている「ReCore」といったプロジェクトを抱えています。今後も,こうした関係は保っていきたいですね。
4Gamer:
そこからXbox Oneへの興味につながっていくと?
グリーンバーグ氏:
そう期待しています。結局,モバイルやコンシューマゲーム機,そしてPCに関わらず,どのプラットフォームでゲームを遊ぶかというのは消費者の皆さんが決めることですが,UWPというコンセプトで日本市場を見ると,決して日本のユーザー層が薄いということではないと思います。ファーストパーティタイトルを始めとするXbox OneのAAAタイトルは,今後も日本市場に向けてリリースしていくという我々の方針は変わりません。それを続けることで,徐々にUWPでプレイするゲーマー層も増えていくのではないでしょうか。
4Gamer:
Microsoftのマーケティングチームは,2009年の「Call of Duty: Modern Warfare 2」で“エクスクルーシブ・マーケティング”という革命的な手法をゲーム業界にもたらしました。しかし,これは今ではかなりの部分でSony Computer Entertainmentにお株を奪われているのではないでしょうか。そのあたりを,グリーンバーグさんとしてはどのようにお考えですか?
グリーンバーグ氏:
我々は,コンシューマゲーム機のローンチやサービスの運営に際して,日々,さまざまなビジネス面での決定を行わなければいけません。そういう判断の中で我々が行ったのは,Electronic Artsとの関係を強化することであり,例えば「FIFA」や「Plants vs. Zombies: Garden Warfare」のような作品で良い関係を築けたと思います。また,昨年もBethesda Softworksの「Fallout 4」やCD Projekt REDの「The Witcher 3: Wild Hunt」,そしてSquare-Enixの「Rise of the Tomb Raider」などで大きな成功を収めています。今後も,1つ1つの作品をじっくり吟味しつつ,UWPのエコシステムをさらに大きく,良いものにしていこうと思っています。
4Gamer:
では最後になりますが,グリーンバーグさんが最も期待している新作は何ですか?
グリーンバーグ氏:
(着ているロゴ付きTシャツを見せつつ)やはり「Quantum Break」ですね。これまでにも映画的と呼ばれたゲームはいくつも存在しましたが,このゲームほど映像の素晴らしさを見せつけてくれる作品は,かつてなかったのではないでしょうか。3Dグラフィックスもライブ映像も非常に作り込まれていて,Remedy Entertainmentは良い仕事をしているなあと感じさせますね。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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