業界動向
Access Accepted第453 回:GDC 2015で見えた,VRデバイスの課題
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2015年3月2日〜6日,サンフランシスコで開催されたGame Developers Conference 2015は,まさに「VR(仮想現実)元年」と呼ぶにふさわしいイベントになった。しかし,VRというワクワクするようなテクノロジーに隠れて,見過ごされた状態になっているのがVRデバイスのユーザビリティかもしれない。各ハードウェアメーカーは起こり得るアクシデントを想定して「商品」を生み出そうとしているのか。今回は,GDC 2015の数々のデモを見て筆者が感じたことをお伝えしたい。
重要なのはテクノロジーよりもユーザビリティ
2015年3月2日〜6日,世界最大のゲーム開発者会議,Game Developers Conference 2015(以下,GDC 2015)が,サンフランシスコのモスコーニコンベンションセンターで開催された。今年は,Blizzard EntertainmentやRiot Gamesが中心となった「E-Sports Track」という,eSportsにフォーカスした一連のセッションが新たに設けられたりしていたが,驚くべきは,昨年より200以上も多い640のセッションが,5日間でわたって行われたことだ。
これは,従来1時間枠だったセッションの多くを30分にすることで,中身が濃く,バラエティに富んだ話題を提供することを目的とした施策だったという。
閉幕後,イベントを主催したUBM Techは,過去最高となる2万6000人の参加者を記録したことを発表しており,この試みは狙いどおりになったようだ。
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それらのセッションを含め,GDC 2015は仮想現実(以下,VR)対応ヘッドマウントディスプレイや周辺機器(以下,VRデバイス)に対する,ゲーム業界の大きな関心を反映した,まさに「VR元年」と呼ぶにふさわしいイベントとなった。すでに開発キットが配布されている,現在進行形のプロジェクトが多く,技術的に安定した感のあるOculus VRの「Rift」や,2016年前半の発売がGDC 2015で発表されたSony Computer Entertainmentの「Project Morpheus」(開発コードネーム),Razorを始めとする複数のハードウェアメーカー連合体の標準規格となる「OSVR」に加えて,GDC 2015直前にアナウンスされ,しかも2015年内の発売を予定しているというValveの「Steam VR」などが,華々しく公開された。
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しかし筆者は,GDC 2015のエキスポ会場で,とある光景をみて「VRデバイスが避けては通れない課題」を強く感じた。それは,体感型の大型VRデバイスとして4Gamerでも何度かお伝えしてきた,Virtuixの「Omni」の横を通りかかったときのことだ。ちょうどデモを体験し終わったその大柄な男性は,運動したことで顔を真っ赤に紅潮させており,装着していた「Rift」を外した途端,大きくよろめいて,ブースにいた係員に支えられたのだ。
「Omni」ではリング状のサポーターで腰部分を支えているため,なんとか体勢を整え係員にもたれていたが,もしそのサポーターがなければ,彼は転倒し,ケガをしていたかも知れない。
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「Project Morpheus」はそのため,完全に目の周りを覆わないバイザー式になっており,必要に応じてはね上げることで外の景色を確認できる。体験者の反応も好評だったため,これに倣うメーカーも出てくるかもしれない。
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また多くの場合,VRデバイスからはケーブルがのびている。最低でも,PCやコンシューマ機とつながるケーブルと電源ケーブルの2種類は必要となるはずで,合わせれば,それなりの太さになる。足をひっかればバランスを崩すだろう。
GDC 2015で見たところでは,デモには必ず係員が付き添い,ケーブルに足や首が絡まないようにしていた。しかし,そういう人間が必須では,製品として成立しない。
ケーブルをなくすには,バッテリー駆動にし,映像はワイヤレスで転送させるか,プロセッサやメモリを内蔵する必要があるはずだ(当然,その分重くなってしまいそうだ)。Oculus VRのジョン・カーマック氏が,GDC 2015で行った基調講演では,スマートフォンを利用した「Gear VR」のようなデバイスが,より多くの消費者にアピールするとしていたが,こうしたケースも考慮すれば理解できる。
冷めた意見は“新しいもの”の通過儀礼
筆者が体験したヘッドマウント型のVRデバイスはいずれも,たとえ軽量化が謳われていたとしても,首を過度に動かすことで疲労を覚え,また顔面への圧迫感があるため,長時間のプレイには向いていないという印象だった。
ゲーマーやゲーム業界がVRデバイスで大いに盛り上がっているとき,冷めた意見ばかりを述べるのは申し訳ないが,少なくとも会場で見たVRデバイスは「VR」を満喫するものではなく,VR的なデモを体験するのに十分なもの,としか言えない。機器を揃えたところで,「元が取れた」と感じられるほどユーザーが満足できるかどうかも疑わしい。
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オランダのVertigo Gamesが開発中のスキューバダイビングゲーム「World of Diving」のような没入感の高いシミュレーションは,VRデバイスによくマッチしているように感じられたし,少ない操作でホラー要素の強いアドベンチャーが楽しめるRobot Invaderの「Dead Secret」も興味深い。自分で制作したミニチュアワールドをいろいろな角度から眺めるようなタイトルもあり,いずれもVRデバイスならではの体験が得られることは確かだろう。
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潜在的な危険などについてはメーカーもゲーム開発者も認識しているはずだが,VRデバイスが多くのユーザーに受け入れられるために超えなければならないハードルはまだまだ多いと筆者は思っている。VRデバイスのメーカーも,潜在的なアクシデントについて,さらに啓蒙していく必要があるだろう。「仮想現実」という言葉の持つワクワクした期待感を単なるギミックで終わらせないためにも,メーカーが,それぞれの製品でどのような答えを出してくるのかに注目したいところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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