オススメ機能
Twitter
お気に入り
記事履歴
ランキング
お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
Access Accepted第436回:デジタル配信時代に求められる“ディスカバラビリティ”
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2014/09/29 12:00

業界動向

Access Accepted第436回:デジタル配信時代に求められる“ディスカバラビリティ”

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第436回:デジタル配信時代に求められる“ディスカバラビリティ”

 Steamを運営するValveが,「Steam Discovery」という新機能を追加した。Eコマースにおいて,「商品やサービスを消費者に知ってもらう」「消費者が商品やサービスを知る」ことは非常に重要な意味を持つが,商品やサービスが発見される確率は,それらが増えるほど低くなってしまう。こうした問題に対して,メーカーはどのように対処しているのか。今回は,ValveのSteamと,Yelpに反旗を翻した個人経営のレストランを例に,この話題を進めてみよう。


Steamが目指す,個々のソフトに平等なディスカバラビリティ


 過去9か月だけで1300タイトルが追加され,現在は3700本ものタイトルをラインナップに抱えるオンライン配信サービス「Steam」。しかしこれだけの数になると,もはや1つ1つの作品が自分の好みに合うのかどうかを,じっくりとページをクリックしながら確認していくことが不可能になりつつある。
 そのため,多くのユーザーは自分がひいきにしているゲームのコミュニティページに常駐するか,セールスになったソフトのみを調べるといった限定的な使い方をするようになっているのではないだろうか。Steamにとっても,すべてのゲームをリリースやセールスの時にプッシュ広告などでカバーするのは難しい状態だ。

 PCゲーマーに圧倒的な支持を受けながらも,こうした問題点が徐々に表面化しつつあるSteamを運営するValveは,先週の2014年9月22日に行われたアップデートで,ゲームの“ディスカバラビリティ”を改善するための新たな機能となる「Steam Discovery」をローンチした。ディスカバラビリティとは,売り手が大きく広告を打ちたいと考えた時に,その商品広告がどれだけ嗜好にあったユーザーや,潜在的な購買層になり得る消費者に“発見”されることができるのか,ということを意味するマーケティング用語である。

「Steam Discovery」システムにより,まるで自動制作されるブログサイトのような感覚で,フロントぺ―ジが表示されるようになったSteam。まだちょっと使い慣れない感じだが,サーチ機能は大きく改良されている印象で,ページ下部には筆者の知らないソフトも多く表示されていた
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第436回:デジタル配信時代に求められる“ディスカバラビリティ”

 このディスカバラビリティを日本語に直訳すると,「可発見性」といったところであろうか。Steamのようなオンライン販売サイトは,確かに無限に近い商品をバーチャルな棚の上に陳列できることが大きな魅力であるものの,1ページに表示できる商品は非常に少ない。そのため,トップページにない多くの商品は,実際の商店における「在庫品」に近い扱いになってしまう。
 消費者は,ページを何度も能動的にクリックしながら自分の求めているものを探していくことになり,その結果,販売サイトの仕組みや,もしくは商品やサービスそのものがこの“ディスカバラビリティ”を備えていなければ,目的のものが消費者の目に留まらないというわけである。


資本の少ない“インディーズレストラン”の反逆


 少し話が脱線してしまうかもしれないが,ディスカバラビリティ絡みで,筆者の住むカリフォルニア州で最近起きた,面白い騒動のことをお伝えしよう。

 一般のユーザーが,自分の訪れたレストランやバー,さらにはヘアサロンや自動車修理工場をレビューできる,ローカルビジネスのディレクトリサービス「Yelp」は,今ではヨーロッパやオセアニア圏を含めて1億人ものアカウントを持つという超人気サイト。日本でも,アジアではシンガポールに続いて2014年4月からサービスが行われている。

 いわゆる“ユーザー・クリエイテッド・コンテンツ”の力と豊富なデータにより,マイナーな地域の店やサービスでもカバーしている優れものだが,一般人によるユーザーレビューだけに問題も抱えている。つまり,第三者に金を払って良い評価を付けてもらったり,もしくはちょっとしたことで最低評価を受けたり,ライバル店に対して悪意に満ちたレビューを書き込んだりといったことが起きてくるわけだ。
 もちろん,Yelp側もそうした違反行為に対しては厳しく対処しているものの,不当な評価を受けたと主張するローカルビジネスから不評を買ったり,中には裁判沙汰になったりするケースもある。

 そんなYelpに対して,とある個人経営のイタリア料理店が反旗を翻した。報道によると,このレストランのオーナーは,元々Yelpに出していた広告の継続をキャンセルしたところ,良いレビュー評価が次々と消失していったことによって,店の評価が半分ほどに落ちたと抗議。これに対し,Yelpは「卑語を使ったものや,レビューとみなせないものは削除する権利がある」と返答したという。

 それに怒ったレストラン側は「料理の匂いをかいだ人には3ドルを請求します。うちはソースに氷はお付けしません。店で流しているチャンネルを変えろという要求には応じません。我々が嫌いになったなら,どうぞYelpで最低評価をお付けください。悪いサービスの代償に,次にお越しの際はピザを25%引きでサービスします」という警告文を店内に表示。「Yelp上で最低評価のレストラン」を目指した,反Yelpキャンペーンを始めたのだ。

今,「Yelp上で最低評価のレストラン」を目指して奮闘中のカリフォルニア州にあるイタリア料理店。ソーシャルメディアなどで世論を突き動かし,同調したユーザーやメディアによってYelpの方針にまで影響を与えるようなキャンペーンへと膨れ上がっている。「平凡な評価を受けるより,最低評価で話題になる」ことを選んだわけだ
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第436回:デジタル配信時代に求められる“ディスカバラビリティ”

 上述したように,良い評価を付ける代わりに金銭やサービスを享受するのは許されないが,悪いサービスに対する代償なのだから,文句を言われる筋合いはないというのがレストラン側の言い分だ。
 こうした,ジョーク混じりの抗議を面白半分で後押しするユーザーも少なくなく,「この店でミートボールをオーダーしたら,全部逆さまで皿の上に乗せられていた」とか,「店が綺麗すぎて,汚い格好で入ったオレを辱めやがった」「テキサスにピザの宅配を頼んだら断られたよ」など,あることないことを書き込んで最低評価を付ける人が続出,大きく盛り上がっている。
 皆,一様に「Was this Review...?」(これはレビューだったのかな?)と最後に加えているのは,レビュワー達によるYelpへの暗黙のメッセージなのかもしれない。

 メディアの中には,こうしたキャンペーンを擁護する形で,Yelpのようなレビューサイトに対して透明性を要求する主張も増えてきている。それはともかく,レビュー数は1週間ほどで以前の10倍を遥かに超える数に増加しているのだから,それまでは中途半端な評価がたたって多くの人に見向きもされなかったレストランにとっては,この一件でディスカバラビリティが大きく向上しているのは間違いない。日本で言う,「炎上商法」の一種と呼べそうだ。


キュレーターでSteamの問題は解決できるのか?


 こうした,奇抜なマーケティングでユーザーの気を惹きつけるというのは,ゲーム業界でも頻繁に行われている。例えば,「気が狂うほどイライラさせられる難度の高さ」などと評されたベトナム産モバイルゲーム「Flappy Bird」や,「究極のヤギゲー」というキャンペーンで火が付き,デモ版として企画されたものを大ヒットさせた「Goat Simulator」などは,そのゲームが本当に面白いのかどうかはともかく,うまくゲーマー層に発見してもらえた事例だろう。

 宣伝力に乏しいインディーズゲーム開発者達は,苦労の末に完成した作品を販売しても,パブリッシャの付いたゲームやアプリと同じスタートラインにさえ立てない場合もあるわけで,そのうえに数少ないレビューが不当と思える評価になってしまえば,商業的に成功する望みが絶たれてしまう。件のイタリア料理店とインディーズゲーム開発者は,言ってみれば同じような境遇にあるわけだ。

画像集#007のサムネイル/Access Accepted第436回:デジタル配信時代に求められる“ディスカバラビリティ”
 Steamの場合,元々は「パブリッシャタイトルとインディーズタイトルを同列に扱う」というスタンスにより,ゲーム業界内外から大きな支持を得てきたものの,ライブラリや実装されているサービス機能が増えることにより,その公約が半ば自然と崩壊しつつあった。
 “New Releases(最新リリース)”のタブなどは,新たに販売が開始されるソフトが多過ぎるために半日ほどでガラリと替わってしまうような状態で,ほとんど役に立ってはいなかった。

 近年では,Valveに代わってファンがSteamで販売してほしいインディーズゲームに投票する「Steam Greenlight」に対して,「規定に違反しないソフトはすべてSteamで販売するべき」という開発者側の要望が増えていた。Valveもそれに押される形で同サービスの早期中止を表明していたが,未だに機能としてしっかりと残っているし,最近ではYelpやAmazonのように,発売前からファンやアンチによって操作されやすいファンレビューそのものを廃止することを求める声も少なくない。

 当然ながら,Valveはこうした数々の問題を解決すべく改良を続けており,そのための新たな機能が「Steam Discovery」というわけだ。Valveの勧める作品群ではなく,プレイヤーが自分の嗜好に合わせてカスタマイズした作品群が自動的に表示されるという「Steam Discovery Queue」など,サーチ機能が大幅に向上している。
 また,コミュニティからの推薦を受ける形で,より多くのゲームに興味を持ってもらおうという趣旨で追加されたのが「Steam Curators」である。これは,プロのレビュワーを擁するメディアやゲームコミュニティの中心人物,有名人を中心に構成される推薦者達のことで,現在までに7000人を超えるキュレーターが登録されている。

海外メディアで問題にされたキュレーターの1人が,日本語で「皮肉なたわごとの投稿」と書かれたアイコンを使っていたが,どうやら日本人ではないらしい。モノを売りつけるようなサイトへのURLを表示するキュレーターも出没するなど,導入直後から混乱が見られた
画像集#005のサムネイル/Access Accepted第436回:デジタル配信時代に求められる“ディスカバラビリティ”

 しかし,これらのキュレーターの中には,まだ発売されていないソフトについても,話題性を優先してコメントするものがあとを絶たない様子で,現時点でValveはそうした評価を削除するのに大忙しになっている。中には粗暴で不適切なコメントを書き込む人もいるようだが,キュレーターは投稿したコメント数が多いほどリストの上位に来るようになっているので,ユーザーが自分の嗜好に合ったキュレーターを“発見”するのもままならない状態だ。

 Steamの運用が始まったのは,2003年11月。Yelpのスタートは,その1年後となる2004年10月のこと。今や,気になるゲームやレストランについての評価を調べることは,すべてPCやスマートフォン,テレビからできるようになった。Steamは7500万人,Yelpは先に述べたように1億人ものユーザーを保有する巨大サービスだが,それだけに軋轢も多く生じているのである。
 ユーザーにとっては,やはり知らないソフトやサービス,オリジナルの情報を与えてくれるテイラーメイドなサイトや普通とは違うアプローチで商品を販売しているメーカーほど応援したくなるもの。Steamに限らず,さまざまなサービスにおいて今後いっそうのディスカバラビリティの向上に期待していきたいところだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
  • 関連タイトル:

    Steam

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:03月18日〜03月19日