お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2011/04/25 18:05

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第301回:巨大ゲームメディアに躍進したGame Informer誌

奥谷海人のAccess Accepted

 最近,目にする機会が増えたアメリカのゲーム専門誌,「Game Informer」。新作タイトルの第1報を伝える"エクスクルーシブ記事"を毎月掲載するなど,パブリッシャからも別格扱いされている月刊誌だ。2010年にはなんと,定期購読者数を前年比で33%も増やすという急成長メディアでもある。紙メディアの衰退が叫ばれて久しい昨今,大躍進をとげたGame Informerに迫ってみよう。

第301回:巨大ゲームメディアに躍進したGame Informer誌

 

TIME誌よりも多い定期購読者を持つゲーム雑誌
image

数あるゲーム情報誌の中でも,もはやGame Informerは別格だ。ちなみに,4Gamerが以前掲載した稲船敬二氏のインタビューは欧米でも大きな話題になっており,「Mass Effect 3」の独占記事が掲載された5月号のGame Informerにも,日本のゲーム業界の現状を報告する記事で4Gamerの名前を出しつつ,氏のコメントが引用されている

 海外ゲームに詳しい人なら,「Game Informer」というアメリカのゲーム雑誌の名前をよく知っているはずだ。毎号のように,新作タイトルの第1報をエクスクルーシブで掲載しており,我々4Gamerでも「Game Informerの伝えるところでは」という形でゲーム情報を紹介する機会が増えている。2011月2月号では,Bethesda Softworksの「The Elder Scrolls V: Skyrim」の独占記事を,また3月号ではElectronic Artsの「Battlefield 3」を,さらに4月号ではTHQの「Saint's Row 3」,5月号では,Electronic Artsの「Mass Effect 3」と,多くのファンが待ち望む超大作の記事を独占しているのだ。

 北米の定期刊行物の購読者数をまとめている,Audit Bureau of Circulationsが2011年2月に発表した資料によると,Game Informerの定期購読者数は500万人に達しており,世界最大の発行部数を誇るゲーム雑誌であるだけでなく,アメリカで刊行される,すべての分野の定期刊行物の中でも第5位という,巨大な紙メディアへ成長した。現在の発行部数は「TIME」や「Sports Illustrated」より多く,しかも,2010年には前年の購読者数を33%も上昇させるという驚くべき実績を達成しているため,やがて全米トップに躍り出る可能性も少なくない。

 日本ではよく「雑誌が売れなくなった」とか「紙メディアの時代は終わった」という話を聞くが,その状況はアメリカでも同じだ。アメリカでは,2010年の週刊/月刊誌の定期購読者数が前年に比べて1.2%ほど下落しただけでなく,日本のキオスクに相当する“チョイ買い”向きのニューススタンドの売り上げが7.9%も落ち込むなど,ネットメディアの急速な発達と不景気の影響を受けたアメリカの雑誌販売は,下がる一方だ。
 それにも関わらず,Game Informer誌が昨年1年間で100万人以上の定期購読者を勝ち取っているのだから,ここには何かのカラクリがあるはず。事実,Game Informer誌は,これまでのゲーム雑誌とはかなり異なる販売手法を取っているのだ。

 Game Informer誌を出版しているのは,ミネソタ州という,どちらかといえば田舎にある出版社なのだが,実はGameStopという世界最大のゲーム小売チェーンが親会社だ。
 パッケージの販売に関していえば,「GameStopが3分の1,ウォルマートが3分の1,そのほかすべての店舗やオンラインストアが3分の1」と言われるほど,アメリカのゲーマーがお世話になるゲームストアであり,国外ではカナダのほか,イタリアやドイツ,スウェーデンなどのヨーロッパ地域,そしてオーストラリアやニュージーランドなどのオセアニア地域を含めて総計6500店舗を展開,6万5000人の従業員を抱える業界最大手のチェーン店だ。

 

Game Informerの背後に控える巨大ゲーム販売チェーン
image

Game Informerの大躍進を支えるのが,数々の特典で生き残りを図る世界最大のゲームソフト販売チェーン,GameStopだ。雑誌だけでなく,中古ソフト,オンライン販売,そしてダウンロード販売と,ゲーム販売でできそうなことに幅広く手を伸ばしている印象だ

 もっとも,本連載の第277回「ダウンロード販売がついに“主流”に」に書いたように,2010年前半には,オンラインのダウンロード販売がパッケージソフトの販売総額を抜くなど,店舗におけるパッケージソフト販売は,ダウンロード販売に急速に押されつつある。GameStopは,かなり以前からこうしたゲーム業界の変化に対応すべく,さまざまな分野に手を伸ばしているが,その中心となっている中古ソフト販売は,総額で今や全事業の48%を占めるという。

 Game Informerの前身は,Funcolandというゲーム販売店が独自に出版していたゲーム雑誌だ。初めて出版されたのが1991年というから,割と長い歴史を持っているが,店舗で販売されるゲームのサポートとして制作されていたため,それほど知名度の高い雑誌ではなかった。Funcolandは2000年にGamestopに買収されたが,それでも2000年代中頃までは,多数あるゲーム雑誌の1つにすぎなかった。

 にわかに発行部数を伸ばしたのは,GameStopで使える特典がサービスされ始めてからだ。Game Informer誌の年間購読料は15ドル程度で,北米のほかの月刊誌と同様,個別に買うより70%〜80%安くなる。これに加えてGameStopは,Game Informer誌の年間購読者に,中古ソフトの値段が10%程度オフになるといったサービスを付けたのだ。
 2010年には,このシステムが「PowerUp Rewards」という新たなサービスに進化した。これは,Game Informer誌を年間購読してGameStopの会員になれば,新作や中古ソフトを買うたびにポイントが得られ,それが溜まれば無料でゲームを購入できるもの。
 つまり,Game Informerが読みたいかどうかはともかく,GameStopをよく利用する人はGame Informer誌を年間購読したほうがお得ということになり,結果としてさらに読者層が拡大したわけだ。
 現在,500万人という膨大な読者――しかも,そのほとんどすべてがゲーマー――に一気にアピールできることから,冒頭にも書いたように各パブリッシャが先を争って独占記事を依頼し,それがまた新たな読者層を開拓するという良い循環を生み出しており,この勢いは止まりそうもない。また広告料も,かなり巨額になっているという。

 ちなみに,GameStopは2011年,Stardock Entertainmentが開発/運営を行っていたオンラインゲーム販売サービス「Impulse」を買収。今後は,パッケージ販売だけでなく,本格的なダウンロード販売も行っていく考えを明確にした。これに伴って,Game Informer誌にも何かの変化が起きる可能性もある。

 ともあれ,生き残りをかけてさまざまなサービスを展開する巨大ゲーム販売チェーン,GameStopが打ち出したGame Informer戦略は現在のところ大きな成功を収め,縮小する一方だと思われていた雑誌メディアに旋風を巻き起こしている。やりようによって,需要はまだまだあるということで,我々のようなWebメディアにとっても教えられるところは多い。いずれにせよ,海外タイトルの新情報が出てくるたびに,Game Informer誌の名前が目に飛び込んでくるという状況は,当分続きそうだ。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ