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印刷2010/04/02 15:32

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第258回:欧米ゲーム業界,不正コピー対策の最前線

奥谷海人のAccess Accepted

 ソフトウェア産業が成立して以来,果てしなく続いてきたメーカーと不正コピーとの戦い。インターネットの発達によって,さらに広がってきた不正コピーに頭を痛める欧米ゲーム業界は,さまざまな対策をとってきた。その一つが,「DRM」(Digital Rights Management:不正コピー防止)ソフトウェアだ。このDRMソフト,海賊版に対して一定の効果は認められるものの,正規ユーザーがうまくゲームを遊べないケースが報告されたことから,ゲーマー達の評判は良くない。そこで,最近はオンラインを使った新たなシステム取り入れられているのだが,それらもまた,さまざまな問題や騒動を生み出しているようだ。

第258回:欧米ゲーム業界,不正コピー対策の最前線

 

ゲーム産業に影を落とす,不正コピー問題
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北米で3月9日にリリースされたPC版「Assassin's Creed 2」。すでに発売されて評価の高いコンシューマ機版だが,PC版では細かい部分がさらに調整されており,UbisoftのPC版に対する意気込みが感じられる。とはいえ,オンライン認証システム不調のため,リリースから一定期間プレイできなかったという問題も起きている

 ゲームを販売する側にとって,「海賊版」の存在は大きな問題だ。
 もっとも,ゲーム業界が産業として立ち上がり始めた1980年代には,せいぜいプレイヤー同士でコピーしたゲームのフロッピーディスクをやりとりする程度で,海賊版被害が大きく問題になることは少なかった。
 しかし,インターネットが発達した1990年代末以降,P2Pサービスの登場などによって大規模に不正コピーをばら撒けてしまう土壌が出来あがり,被害は大きく拡大した。

 PC向けのゲームだけでなく,コンシューマー機や携帯ゲーム機市場も大きな被害を受けており,業界がこうむる被害総額は,世界全体で5兆円,つまりゲーム産業全体に匹敵するという推測さえある。
 そうした「海賊版市場」に関しては「もともと,そうしたマーケットは存在しない」という考えた方も根強くある。つまり,不正コピーの使用者は不正コピーの使用者でしかなく,たとえ何らかの方法で不正コピーを根絶したとしても,正規タイトルの販売規模が大きくなるわけではないということだ。しかし,それを拡大して「海賊版の利用者は,お金がないから不正コピーを入手しても仕方ない」(ゲームが高すぎるから海賊版が出回るのが当然)という考え方には無理がある。

 任天堂やElectronic Arts,Valveといった大手だけでなく,独立系ゲーム開発会社の2D Boyなど,大小のメーカーがさまざまな形で海賊版対策を行っていることは,本連載でもたびたび紹介してきた。そんな中,PCゲームのパッケージ販売事業において,ここ10年ほど不正コピーと激しい戦いを繰り広げてきたのがUbisoft Entertainmentだ。
 これまで,Ubisoftが使ってきたDRM(不正コピー防止)ソフトといえば,「FarCry 2」などで利用された「SecuROM」だった。これはイギリスのSony DADCが開発したもので,現在でもElectronic Artsや2K GamesなどのPCタイトルで利用されている,不正コピー防止ソフトウェア分野では,事実上のスタンダードといえるだろう。
 ところが,このSecuROMに対し,「システムやゲームを不安定にさせる」といったウワサが広まり,SecuROMを利用したゲームに対してネガティブキャンペーンが繰り広げられるといった事例が増えてきた。例えば,2008年にElectronic Artsがリリースした「Spore」では,3300件あまりあるAmazon.comでのユーザーレビューのうち,2600件以上で1つ星(最低点)が付けられており,そうしたレビューのほとんどが,SecuROMの使用を1つ星の理由に挙げている。
 こうした状況もあってか,新たな不正コピー対策を模索するメーカーが増えてきたようだ。

 Ubisoftは,フランス最大手にして,欧米ゲーム業界でも古参メーカーの一つだ。北米に比べてPC市場の大きなヨーロッパをベースにしているため,多くのタイトルがPC向けに販売されている。そのため,不正コピーの防止は同社にとって大きな問題だ。
 2010年,Ubisoftは利用してきたSecuROMと決別し,自社開発の不正コピー防止スキームを新たに採用。「Assassin's Creed 2」や「The Settlers 7: Path to a Kingdom」など,この春発売されたタイトルで使用を開始した。
 これは,シングルプレイモードであっても,常時ネットに接続していることを利用者に要請するオンライン認証システムで,再インストールの回数制限はなく,また起動時にディスクが不要になるというもの。さらにセーブデータをネット上のサーバーに保存することも可能だ。

 

オンライン認証システムは不正コピー対策の奥の手になるか
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Electronic Artsの最新RTS「Command & Conquer 4: Tiberian Twilight」は,2010年3月16日に全米で発売された。C&Cユニバースの本編であるTiberiumシリーズの中でも最終章として位置づけられている本作は,ゲームシステムにRPG的な要素を取り入れた意欲作だ。ところが,評価はシリーズ最低。オンライン認証システムの不具合が低評価の大きな理由とされている

 もちろん,オンライン認証システムにも問題点はある。そもそもネットに接続していなくてはゲームが起動できないため,何らかの理由でプレイヤーの利用しているサービスプロバイダのサーバーが落ちた場合,シングルプレイのキャンペーンモードさえ遊べなくなる。Ubisoftのオンライン認証用サーバーがアクシデントを起こす可能性だってあるだろう。
 欧米の消費者の多くには「一度買ったものについて,メーカーといえど干渉すべきではない」という意識があるため,購入しても遊べない可能性があることには強い抵抗感を覚えるのが普通である。実際,この原稿を書くにあたってAssassin's Creed 2やThe Settlers 7といったタイトルのAmazon.comでのユーザーレビューを見てみると,Sporeより規模は小さいとはいえ,オンライン認証システムに由来する1つ星攻撃にあっているようだ。

 さらに,こういったDRMシステムを快く思わない人による,過激な行動(というより犯罪行為だが……)も発生している。3月9日,Ubisoftのオンライン認証用サーバーへのアタックが行なわれ,Assassin's Creed 2および「Silent Hunter V: Battle of the Atlantic」のプレイヤーが,およそ8時間近くプレイ不可能になるという事件が起こったのだ。この8時間というのはUbisoftの公式発表で,サーバーの混乱は丸一日続いたという報道もある。
 Ubisoftは,公式Twitterにおいて「この間,二つのソフトの所有者の5%に被害があったが,95%は問題なかった」としているが,Assassin's Creed 2のPC版がリリースされた初週に起こった事件ということもあり,公式フォーラムを見る限り,相当のクレームが発生している。Ubisoftにとっては,望ましくない出来事だったといえるだろう。

 これに加えて,Assassin's Creed 2やSilent Hunter Vなどで,オンライン認証を必要としない海賊版が出現してきた。Ubisoftは,「海賊版は作動しないと」公式声明を出しているものの,フォーラムなどでは「ちゃんと動く」という報告も見られ,どちらが正しいのかは分からない。
 ただ,もし認証サーバーのダウンによって,正規購入者がゲームを遊べない状態にある一方,海賊版の使用者がゲームを楽しんでいるということになれば,それこそ本末転倒であり,Ubisoftは抜本的な対策を行なう必要に迫られるだろう。

 オンライン認証システムは,Electronic Artsも採用しているが,同社が3月に発売した「Command & Conquer 4: Tiberian Twilight」でも問題が起きている。
 発売直後から,ファンの間で不安定さが指摘されていた同作だが,EA.comの編集長という役職にあるJeff Green(ジェフ・グリーン)氏が,発売されたばかりのCommand & Conquer 4を自宅でプレイしようとしたところ,何度かのリブートのあと,前日までのセーブファイルがすべてなくなってしまったとTwitterで公表した。その夜は,彼が利用するプロバイダーも不安定で,EAのサーバーにつながったりつながらなかったり,とてもじゃないがゲームを楽しめる状況ではなかったと続けている。

 グリーン氏は,これがソフトの認証に問題があったのは間違いないと判断し,別のコメントの中で「これなら(オフラインでもプレイできる)Steamのほうが明らかにファンのためになる」と話しており,Electronic Arts社内での話し合いを進めていくと続けている。

 UbisoftもElectronic Artsも,SecuROMというディスクベースのDRMソフトウェアから,オンライン認証型へと切り替えてはみたものの,初動で大きなトラブルと対峙することになってしまった。
 ここで紹介したタイトルは,いずれもプレイヤー数が多いだけに,購入したのにちゃんとプレイできなかったり,そうした評判が立って新規ユーザーが減ったりしたとすれば,とても残念なことだ。メーカーと不正コピーの激しい戦いの中,真ん中にいる正規ユーザーが一番損をした,ということだけはないようにしてほしい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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