お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2010/01/22 12:48

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第249回:ソーシャルゲームの落とし穴

奥谷海人のAccess Accepted

 ここ2〜3年のうちに盛り上がってきた「ソーシャルゲーム」は,欧米のゲーム業界や,ITビジネスの新たなフロンティアと考えられている。世界的な不況にも関わらず,ベンチャーキャピタルからソーシャルゲーム関連企業への投資は数十億円規模が当たり前になっており,運営元を大手ゲームメーカーが巨額買収するといった話題にも事欠かない。だが,そんなソーシャルゲームの勢いを象徴するメーカーと思われていたZyngaが,集団訴訟されるなど,新しいジャンルであるがゆえの問題も数多くあるようだ。今回は,そんな欧米ソーシャルゲーム事情をレポートしてみよう。

第249回:ソーシャルゲームの落とし穴

 

ソーシャルゲームという新たな流れ
image

2009年11月にZyngaがリリースしたばかりの「FishVille」は,6300万人のアクティブユーザーがいるといわれる「FarmVille」の姉妹品。このFishVilleも,開始からたったの2日間で87万5000人のアクティブユーザーを獲得したと発表されている。だがローンチ直後,違法広告が原因でサービスが一時停止するということも起きている

 “ソーシャルゲーム”というキーワードが欧米ゲーム業界に現れたのは,わずか2〜3年前のことだ。2003年に始まった「MySpace」と,それを追うように2004年にローンチされた「Facebook」などのソーシャルネットワークサービス(SNS)がコミュニケーションツールとして一般化し,2007年頃からこうしたSNSをプラットフォームとして簡単なカジュアルゲームが公開され,人気を高めてきたのだ。
 後発ながら,MySpace以上の人気を獲得したFacebookは,2009年4月に2億人目のアクティブユーザーを獲得したと思ったら,2009年末にはそれが3.5億人に増えるなど,驚くほどの成長を見せている。日本を含む世界60か国でのサービスが行なわれており,このうち50%程度が毎日Facebookにログインするアクティブユーザーだという。

 Facebookの2008年の売り上げは3億ドル(約275億円)ほどだったというが,このうちの10〜20%が,ソーシャルゲーム関連の収入になっている。ソーシャルゲームは,この2年の間に,Facebookにとって一番のドル箱になったようだ。
 もちろん,これまでにもいわゆる「カジュアルオンラインゲーム」と呼ばれるポーカーゲームやボードゲームなどは数多くあった。しかし,ここでいうソーシャルゲームとは,「SNSという枠組みの中で,チャットなどによるコミュニケーションや,コミュニティの特性を上手く拡張/応用したゲームジャンル」という感じになるだろう。これ以外に「ブラウザゲーム」という呼称もあるが,いささか範囲が広すぎるような気がする。いずれにしろ,すべてのソーシャルゲームは他者とのコミュニケーションを前面に打ち出しており,一人で楽しむFlash系ミニゲームとは内容が異なる。

 2007年以降,ZyngaやPlayfish,RockYou!,Playdom,そしてSocial Gaming Networkといったゲーム企業がソーシャルゲームの旗頭として次々にスポットライトをあび始めた。
 業界2番手とされる,Playfishを例に挙げてみよう。ご存知のように同社は,2009年11月にElectronic Artsがカジュアルゲーム部門強化を目的として,3億ドル(約275億円)プラス出来高払いの1億ドル(約92億円)で買収したメーカーだ(関連記事)。
 資本金などほとんどない,文字どおりの裸一貫で始まったPlayfishが,わずか2年という短期間で300億円もの価値のある企業になったのだから,このジャンルがどれだけ急成長を遂げているのかが分かるだろう。

 

2年で業界トップを達成したZyngaに批判の声が

 ソーシャルゲームはあまりにも新しいビジネスモデルであり,規則や慣習などが十分に整っておらず,無法な「大西部開拓時代」に例えられることがある。資産価値に疑問を呈したり,ビジネスのやり方を問題視したりする人も少なくなく,最近,Zyngaの周辺が非常に騒がしくなっている。

 サンフランシスコに本拠を置くZyngaは,2007年7月,現CEOであるMark Pincus(マーク・ピンカス)氏らによって設立されたメーカーだ。初めの頃は,専用のゲームキャッシュによるポーカーゲームなどを看板にしていたが,2008年7月に2900万ドル(約27億円)の投資を受けたのちに急成長し,Zyngaの名を一躍有名にした「Mafia Wars」や「FarmVille」,そして子供向けのサービスである「YoVille」の買収などで大成功を収めた。同社の発表によれば,毎月1億人ものユニークユーザーがZyngaのゲームにアクセスしているとのこと。業界2位のPlayfishのアクティブユーザーが6000万人といわれているので,Zyngaは押しも押されぬトップメーカーである。

 Zyngaのビジネスモデルは,ゲーム内マネー(いくつかのZyngaゲームでは,“エナジー”と呼ばれている)を主体にしたマイクロトランザクションと,広告の2本立てで,こういったソーシャルゲームやブラウザゲームでは一般的な手法ではあるのだが,Zyngaの場合,彼らの強引すぎる商売を問題視する声が,2009年夏頃から聞かれ始めたのだ。

 これを最初に報じたのは,オンラインメディアの「TechCrunch」である。マイクロトランザクションと広告をタイアップさせたようなオファーを行なうことが多いZyngaだが,TechCrunchには,例えば「IQテストを受ければ, Farmvilleキャッシュを47ポイントさしあげます」というようなオファーがあり,これに了承すると,なぜか知らないうちに会費が月々チャージされたといった例が挙げられている。
 こうした被害は以前から報告されており,ゲームキャッシュを購入するために登録していた銀行口座や,PayPalアカウントから覚えのない金額が引き下ろされていたという事例もTechCrunchは伝えている。

 TechCrunchのレポートが発表されたあと,Zyngaがアグレッシブな広告で知られるTatto Mediaとの関係を打ち切ったり,FacebookがZyngaの広報を一時的に差し止めるといった処置がとられたが,2009年11月には,被害にあったというユーザーが,ZyngaとFacebookを集団訴訟したという報道が行われている。
 Facebookまで俎上に乗せられているのは,上記したようにFacebookの最大の収益源がソーシャルゲームであるところから来ているらしく,両社は一心同体だと捉えられているようだ。2009年末,Facebookに2億ドル(約185億円)を出資した,あるロシアの投資家が,直後にZyngaに1億8000万ドル(165億円)を出資したということも,同一視に拍車をかけているのかもしれない。

 「新しく始まったゲームの招待状を,フレンズリストの70%の人に送れば,ゲームキャッシュやアイテムを贈呈いたします」と謳いつつ,ゲームキャッシュが届かなかったり,インゲームでアイテムが利用できなかったりという話は,Zyngaに限らずよく聞く。現在のところ,事実関係が明らかになったわけではないので性急な判断は危険だが,急成長を続ける欧米のソーシャルゲームの一つの側面が見えるような気がする話だ。

 

あっちの水は……,それほど甘くない?
image

「MetaPlace」が,2010年の始まりとともに,その幕を閉じてしまった。子供っぽいグラフィックスだったことや,制作できるゲームがあまり魅力的でなかったこと,さらにはハロウィーンやクリスマスといったイベントでの盛り上がりの乏しさなど,いろいろと理由は挙げられるだろう

 Areaeの「MetaPlace」が,2010年の1月1日をもってサービスを終了した。
 MetaPlaceはブラウザ上に展開する仮想空間で,ユーザーがアイテムを制作して自分の世界をデコレーションしたり,スクリプトによってゲーム制作したりできるというものだ。さまざまなツールを提供することで,UGC(ユーザージェネレーテッドコンテンツ)に強くフォーカスしており,ローンチ前には大きな話題になっていた。閉鎖時点で,7万人ほどのユーザーがいたといいう。

 仕掛け人は,オンラインゲーム業界の論客として知名度の高いRaph Koster (ラフ・コスター)氏で,同氏はMMORPGの草分け的存在である「Ultima Online」のリードデザイナーを担当して以降,Sony Online Entertainmentで制作サイドの副社長を務めつつ,開発者会議の講義などを通して,オンラインゲームやソーシャルゲームのデザイン,ビジネスの可能性などについて啓蒙してきた人物だ。

 Ultima Online時代から何度かインタビューした経験があり,彼の著書「Theory of FUN」を読んだ筆者としては,ビジネスモデルを前面に押し出してMetaPlaceの企画を進めていた彼の姿に違和感を覚えないわけでもなかったが,プレイヤーを能動的にサービスに関わらせ,クリエイティビティを充足させることで新たなものを生み出すという,UGCのアイデア自体は間違ってないと思う。

 しかしMetaPlaceは,ゲーマーやゲーム業界に大きな影響を与えることもないまま,1年半ほどの短い生涯を終えることになった。Facebookや「セカンドライフ」よりはるかにユーザーフレンドリーな作りになってはいたものの,多くのファンベースを獲得できなかったうえ,プレミアアカウントとして月額10ドルを徴収する以外のビジネスモデルを育てられなかったのだ。

 ゲーム産業はシビアなビジネスであり,成功するメーカーもあれば,失敗するメーカーもある。Sid Meyer (シド・マイヤー)氏の率いるFaraxis Gamesが,Facebook向けの「Civilization」を開発中であるなど,ソーシャルゲームという未踏の原野に進出しようとするメーカーは,今後さらに増えるだろう。このジャンルが,今の欧米ゲーム産業の大きな部分を占めているのは間違いなく,現在の混沌の中から次にどのようなイノベーションが出てくるのか,どのようなことが起きるのかについては,十分に注目しておきたい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:05月06日〜05月07日