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Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
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印刷2011/07/30 10:30

レビュー

Corsair初のゲーマー向けヘッドセットを分析する

Corsair Gaming Audio Series HS1 USB Gaming Headset

Text by 榎本 涼


Gaming Audio Series HS1 USB Gaming Headset(国内製品名:CA-HS1JPAU)
メーカー:Corsair
問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店)
実勢価格:8000〜1万円程度(※2011年7月30日現在)
画像集#002のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 今回は,CorsairのUSB接続型ヘッドセット「Gaming Audio Series HS1 USB Gaming Headset」(国内製品名:CA-HS1JPAU,以下 HS1)を取り上げたい。2010年11月の国内発売後,レビューを求める声が何度か寄せられたので,機を逸しているのを覚悟のうえで,店頭購入した個体を用い,検証してみたいと思う。
 Corsairといえば,メモリモジュールなど,どちらかといえばPCパーツで知られるメーカー。HS1はそんな同社のゲーマー向けサウンド製品市場参入第1弾となるが,果たしてその実力やいかに。


しっかりした外観ながら軽めの本体

ケーブル周りの仕様には疑問も


画像集#003のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 例によって外観から入っていこうと思うが,HS1は,黒と銀のツートンが落ち着いた雰囲気を醸し出しており,しっかりした本格派といった印象。ただ,持ってみると意外に軽く,実測重量は392gで,ケーブルを重量計からどかした参考値では340g前後だった。

 50mm径のスピーカードライバーを内蔵した大柄のエンクロージャはかなりの大型。右エンクロージャ部にはブランドロゴが銀色で印刷されており,アピールは十分だ。

マネキンに装着した状態で左右から見たカット。Corsairロゴがけっこう目立つ
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エンクロージャ部のクッションは柔らかめ
画像集#006のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 エンクロージャに取り付けられたクッションは合繊で,長時間のゲームプレイだと蒸れやすく,その点で人を選ぶ。ただ,柔らかく,装着時に耳たぶに当たらず,これといってちくちくした感じもないので,装着直後の印象はよい。

 エンクロージャとヘッドバンドの接続部分は意外と凝っていて,ヘッドセット全体を小さく折りたたむことも,エンクロージャ部だけ90°以上回転させて,魚の“ひらき”のようにして置くこともできる。装着感だけでなく,持ち運んだり,片付けたりするときのことまで考えられているというわけである。

エンクロージャとヘッドバンド部をつなぐ部分の可動域は大きく,写真のように,コンパクトにたたんだり,安定して設置するよう“開いて”置いたりできる
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頭頂部のクッションは,見ためよりずいぶんと薄い
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 ツヤ消しされた合皮で覆われたヘッドバンドは,「合皮が覆う」というデザイン上,大きく見えるのだが,実際に装着してみるとそれほどでもなく,とくにクッションは薄め。ヘッドバンド長の調整次第だが,ゆったりめに調整すると,頭頂部への圧迫感は弱められるようだ。
 そのヘッドバンド長調整機能だが,調整時のクリック感が適度にあって,装着しながらの調整がしやすいのは好印象である。

ヘッドバンドは頭頂部にもCorsairロゴ入り(左)。ヘッドバンド長調整部が,金属剥き出しではなく,プラスチックで覆われているのも目を引くところだ
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 全体のデザインに合わせてか,マイクブームもやや大きめの作りなのだが,実際には(回転軸を除くと)ブーム中央,ゴムっぽい素材の一部分だけが稼働する仕組みになっており,装着してみると,マイクは口元の左端くらいまでしか寄らない。
 ただ,これは設計ミスではなく,むしろユーザーがマイクを“吹いて”しまい,ブローノイズになってしまうのを避けるための仕様と考えていいだろう。

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マイクブームの左右可動範囲。見た目に反してかなり狭い
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回転軸は上90°,下90°の計180°まで動くようになっている。装着時は下げすぎると身体に当たってしまうほどで,可動域に関する不満はない。使わないときは跳ね上げておくといった対応も可能

 で,このマイクだが,驚くべきことに,Corsairはスペック情報を一切公表していない。意図的なのか,ヘッドセット市場参入第1弾ゆえに情報を用意できていないのかは分からないが,ともあれ,マイクに関しては後ほど,テストを交えて語りたいと思う。

ヘッドセット本体とインラインリモコンとの距離がやたらと長い
画像集#017のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 というわけで外観チェックの最後はUSBケーブル。ケーブルはゲーマー向けヘッドセットで市民権を得つつある,布巻きタイプ。ケーブル長は実測約3mで,ヘッドセットのエンクロージャから同1.1mのところにインラインリモコンが用意されている。

 このインラインリモコンだが,まずエンクロージャから遠すぎるうえに,クリップもないので,非常に座りが悪い。リモコン自体は,音量の[+][−]ボタンとマイクミュートの3ボタンからなるシンプルなもので,ボタンも大きく使いやすいうえ,[+][−]ボタンの周辺に埋め込まれたLEDが,通常使用時は青く,マイクミュート時は赤く点灯するなど,使い勝手に配慮したものになっているだけに,全体のバランスを欠くのが余計もったいないところだ。

USBケーブルを含めたHS1全体(左)とインラインリモコン(中央,右)。リモコン上のボタン類は押しやすく,視認性も上々だ
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Dolby Headphone機能標準搭載

利用にはソフトウェアのインストールがほぼ必須


 USB接続ということで気になるのはドライバ周りだが,結論から先にいうと,2chヘッドセットとして使うならクラスドライバだけで問題ないが,HS1の全機能を使うには付属CD-ROMからのドライバインストールが必須だ。
 HS1は,Dolby Laboratoriesの認証を受けており,バーチャルヘッドフォン機能「Dolby Headphone」と,ステレオトゥサラウンド機能「Dolby Pro Logic IIx」(以下,DPLIIx)が利用可能になっているが,これらを利用できるのは,ドライバソフトウェアを導入したときだけである。

 で,下の画面がコントロールパネルだが,ぱっと見て気づいた人も多いのではなかろうか。そう,C-Media Electronics(以下,C-Media製コントローラを搭載した製品のコントロールパネルで共通して採用されるインタフェースだ。
 コントロールパネルも標準では2chステレオ出力になっているので,Dolby Headphoneを有効にするためには,コントロールパネルから「DSPモード」以下に並んだボタンの一番下,ヘッドフォンとDolbyのロゴが並んだボタンをクリックして,青く点灯させる必要がある。

C-Media製コントローラを採用したサウンドデバイスでお馴染みのコントロールパネル。HS1がC-Media製コントローラを採用するのは間違いない。Dolby Headphoneの有効化は,画面左中央くらいにあるボタンをクリックして行う仕様。設定内容はWindows側のサウンド設定と同期するので,こちらでだけ設定しておけば大丈夫だ
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ハンマーマークは,設定用ペインを呼び出すボタンになっている
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 ここで気になるのは,「DSPモード」というメニューの隣にあるハンマーマーク入りのボタン。さも,その下に並んだDolby HeadphoneとDPLIIx,そしてC-Media独自のサラウンド定位感カスタマイズ機能「7.1 Vertual Speaker Shifter」(以下,VSS)各機能のオン/オフを切り替えるようなボタンに見えるのだが,実のところこれは3機能のオン/オフではなく,3機能の設定変更を可能にするか不能にするかを決定するボタンだ。このボタンを押した状態にしておくと,Dolby HeadphoneやDPLIIxでは仮想的な部屋の大きさが変更になったり,VSSでは仮想的なスピーカー配置の変更が可能になったりする。

左はDolby Headphone,右はDPLIIxの設定メニュー。ハンマーマークのボタンを押すと,「メイン」タブ右側の表示ががらりと変わって,設定を弄れるようになるのだが,正直,分かりにくい
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プルダウンメニューから「6チャンネル(5.1)」を選択すると,PLIIxのアイコンが消える
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 また,標準で「2チャンネル(ステレオ)」となっている,メニュー最上部のプルダウンメニューも,少々ややこしい。
 というのも,DPLIIxはあくまでも「2chステレオのサウンドを5.1ch以上のスピーカーシステムで再生するための疑似サラウンドアルゴリズム」なので,入力が何chなのかを指定するこのプルダウンから「6チャンネル(5.1)」や「8チャンネル(7.1)」を選択するとDPLIIxは変更できなくなる。
 一方,ゲーム側がマルチチャネルサラウンド出力に対応していて,そちらを活かす場合は,意図的に「6チャンネル(5.1)」や「8チャンネル(7.1)」を選択する必要が生じるのだ。

 なので,ゲームを前提としたとき,コントロールパネルの設定は,下記1.〜2.が現実的なところになるだろう。

  1. ゲーム側が2chステレオサウンド対応(音声信号が2本)の場合
    プルダウンメニューから「2チャンネル(ステレオ)」を選択→PLIIxを有効化して7.1ch化(音声信号が8本になる)→Dolby Headphoneでバーチャルサラウンド化
  2. ゲーム側がサラウンドサウンド対応(音声信号が6本あるいは8本)の場合
    プルダウンメニューから「6チャンネル(5.1)」「8チャンネル(7.1)」のいずれかを選択→Dolby Headphoneでバーチャルサラウンド化

 理解できてしまえば単純で,また「分かっている人」からすると当たり前の挙動なのだが,コントロールパネルを一見しただけで理解するのが難しいのは事実。もう少し説明が欲しいところだ。

マイクの入力レベル(など)を設定できる「ミキサー」タブ
画像集#023のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 さて,HS1に用意されたマイクだが,これもコントロールパネルから設定する。「ミキサー」タブを開いて,下の段にある「マイク」をある程度上げておかないと,「君の声聞こえないよ」ということになってしまうので要注意だ。筆者の環境では,なぜか標準設定が最小音量になっていたのだが,これが筆者の環境依存でないとすると,かなり不親切な印象である。

 ちなみに,コントロールパネルから確認する限り,ソフトウェアのバージョンは下に示したとおりだった。

C-Mediaのコントロールパネル名物,詳細なソフトウェアバージョンリスト
画像集#024のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴 画像集#025のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴


低弱高低の周波数特性で音楽には不向き

ゲームのサラウンドサウンドではまずまずか


 PC用ヘッドセットを想定した筆者のレビューでは,ヘッドフォン部を試聴で,マイク部を波形測定と録音した音声の試聴とでそれぞれ評価するのを基本線としている。ヘッドフォン出力品質のテストでは,「iTunes」によるステレオ音楽ファイルの再生と,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)マルチプレイのリプレイ再生が主な判断基準だ。
 一方のマイク入力は,とくに波形測定方法の説明が長くなるため,本稿の最後にテスト方法を別途まとめてある。基本的には本文を読み進めるだけで理解できるよう配慮しているつもりだが,興味のある人は合わせて参考にしてほしい。

 テストに用いたシステムはのとおりで,HS1はマザーボードのバックパネル部に用意されたUSBポートと接続している。

画像集#029のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴

 まずは2chステレオの音楽試聴からだが,Dolby Headphoneを無効化し,純粋な2chヘッドセットとして聞いてみたところ,低域がドンと出てくるタイプではなく,むしろ高域を強く感じる,低弱高強の周波数特性なのが分かった。
 一般的な40mmドライバーではなく50mmドライバーを搭載しているため,しっかりした低音が再生されるのではないかと想像していたので,正直,かなり意外である。

画像集#030のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
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 ただ,重低域も「存在しない」というわけではなく,重低音で唸るようなシンセベースなども聞こえることは聞こえる。要するに,“すごい低音”だと人が感じるような,低域〜中低域――具体的には80〜250Hzくらいか――が弱いのではないか。
 また,このあたりの帯域が弱い分,2kHz付近と思われる中高域が妙に強い印象もある。この帯域はいわゆる「プレゼンス」(Presence)と呼ばれる帯域の一部で,ある程度強いと,輪郭のはっきりした,心地よい音に聞こえる一方,強すぎると耳当たりがきつくなって不快さにつながるという,調整の難しい帯域なのだが,ここが出過ぎていて,どちらかといえば不快なほうに寄っている。付け加えるなら,8kHz以上の高域も少し弱いように思う。

 USB接続の安価なD/Aコンバータ機器というか,一世代前のD/Aコンバータには,「低域がぺらぺらで,プレゼンスだけ強い」傾向がよく見られるのだが,HS1も残念ながらその部類に入るようだ。

HS1を使ううえでの筆者推奨イコライザ設定。見て分かるように,ブーストさせているのは60〜250Hzの3項目だ。コツは,なだらかな坂になるようにするところ。1バンド(=1つのスライダー)だけやたら強くしたり弱くしたりすると,とたんにバランスは崩れてしまう
画像集#032のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 あまりオススメしたくない方法だが,解決策がなくもない。HS1のコントロールパネルから「エフェクト」タブを開き,イコライザから,低域を補正するというやり方だ。具体的なターゲットは,右に例示したとおり。やり過ぎると本体を壊したり,音のバランスが極端に悪くなったりする危険があるので,あくまでもこの範囲に留めてほしい。これでも,音楽を聴くとき,低域はずいぶんと出てくるようになるはずだ。

 続いてはDolby Headphoneを有効にした状態でステレオ音源の試聴に移る。まずはDPLIIx,VSSをいずれも無効化した状態でチェックしてみると,左右いっぱいに定位した音がやや前方に移動し,結果として音場が狭くなったような印象になった。
 ここにDPLIIxを追加してみるが,正直なところ,Dolby Headphoneのみを有効にしたときと,聞こえ方に大きな違いはなく,むしろ,音圧が数dB下がることのほうが気になった。DPLIIxを有効化した場合,2本の音声信号をいったん8本にし,再び2本に戻すという処理を行う都合上,そのままだと歪みが出てしまうため,やむなく音質を下げているのだろう。

 そしてVSSは,有効化すると音圧が数dB上がる。音圧が上がるので,低音は強く聞こえるようになり,少し音場が広がったようにも聞こえるようになる。ただ,低域は,上で紹介したイコライザ設定により補正可能。低域補正に期待してVSSを有効化するのは,あまりメリットのある行為とはいえない。

画像集#033のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 以上を踏まえ,肝心のゲームにおける使い勝手に入っていくが,前述した音楽用のイコライザ設定から標準状態に戻して聞いてみると,どうしても低域は弱めながら,その分定位はすっきりし,横の移動がシャープだ。後方の音源定位もしっかり確認できた。
 初期反射音と残響音とを擬似的に付加することで“広がり感”を演出するDolby Headphoneでは,大なり小なりの残響感からは逃れられないが,その特性も健在。よいところもそうでないところも,実にDolby Headphoneらしいバーチャルヘッドフォン効果といったところだ。

 音楽だと相当気になった中高域は,BGMがなく,情報としての音を拾う必要があるようなゲームで聞く限り,意外と気にならない。銃声は多少耳に残るが,耳に痛いほどでもないのは,「中高域を強調している」のではなく「低域が弱い」ため,相対的に中高域が強く聞こえているに過ぎないからなのだろう。

 面白いのはVSSの効果で,5.1chを擬似的に7.1chへアップコンバートする機能を用いると,わずかながら後方の定位がよくなって聞こえる。劇的ではないので,「VSSはぜひ7.1chに設定すべき」とまでは言わないが,興味のある人は試してみるのもありだと思う。


謎に包まれたマイクの特性が判明

こっそりノイズキャンセリング機能付き?


 序盤で述べたとおり,スペックが明らかになっていないマイクだが,その周波数特性と位相特性をまとめたものが下のグラフだ。

 1.4kHzは,テストに用いているスピーカーの仕様によるクロスオーバー周波数なので無視してもらうとして,基本的には,低域(グラフ左寄り)ほど低く,高域(グラフ右寄り)ほど高くなっている,右肩上がりの波形だ。ピークは15〜16kHz付近。低域が強すぎると混戦の中で抜けが悪くなって,何を言っているのか聞き取りにくくなるので,この方向性自体はゲーマー向けヘッドセットとして正しい。

 ただ,そう見ると気になるのは低域の落ち込みが甘いことで,実際のところ,マイクの音質は,ゲーマー向けではない,一般PCユーザー向けヘッドセットのそれに近くなっている。最近のゲーマー向けヘッドセットは,低域をざっくり削ってプレゼンスを確保しようとしている例が多いが,それらと比べると,プレゼンスはあまり効いていない印象だ。

2つあるペインの上側に示した周波数特性は,グリーンがリファレンス。オレンジがDR-GA500のアナログ接続時だ。1.4kHz付近にある大きな落ち込みは,スイープ波形の出力に用いたADAM製モニタースピーカー「S3A」のウーファとトゥイータとのクロスオーバーポイント(※2つのスピーカーユニットが持つ周波数帯域の交わるポイント)である
画像集#034のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴

 また,周波数特性のグラフに現れにくい要素として,低周波ノイズの存在についても触れておく必要があるだろう。USB接続型ヘッドセットの場合,どうしてもPCによってノイズ量は変化するので確定的でないが,少なくとも今回のテスト環境では低周波ノイズが多い。グラフでも125Hz以下が下がりきっておらず,やけにしっかり残っているのを見て取れるが,これはノイズが付加されているためである。

マイク部の先端。左が内側(口に近いほう),右が外側だ。外側のマイクでフロアノイズを集音し,それを基にノイズキャンセリングしているようなデザインに見える
画像集#035のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴 画像集#036のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 もう1つ,下段の位相グラフで,波形が一定のズレ方をしているのも目を引くが,これはノイズキャンセリング機能が有効になっているからこそのテスト結果と考えられる。Corsairは何も説明していないので確証まではないものの,序盤で後述するとしたブームマイクが2マイク仕様のようなデザインになっていることと,アンチフェーズの領域にはまったく行く気配のない,一定の位相ズレが存在することからすると,ノイズキャンセリング機能がこっそり搭載されていると考えるのが自然なのだ。
 もっとも,「だとするとこの低周波ノイズは何?」ということになるのだが,ノイズキャンセリング機能自体に問題があるのか,ノイズキャンセリング機能で抑えられないほどマイクがノイズを拾っているのか,その両方が原因ということになるのだろう。

 誤解のないように付記しておくと,「だから全然ダメ」なのではなく,「Skype用」などと称して販売されている,一般的なヘッドセットと同等クラスのマイク入力品質は持っている。それが,ゲーマー向けヘッドセットの基準からすると,「そこそこ」と評さざるを得ない,ということである。


ゲーム用としてはまずまずの完成度

手軽にDolby Headphoneを利用したい人向けか


製品ボックス
画像集#037のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 総じて,高級感を感じるまではいかないものの,落ち着いたデザインと軽さ,しっかりした作りは好印象なのだが,いかんせん低弱高強すぎて,音楽やゲームのBGMを楽しむようなケースにはまったく向かないのが惜しい。これが,HS1に関する率直な感想である。

 そんなわけでHS1は,サウンドカードに投資することなく,ゲームで手軽に使えるUSB接続のバーチャルヘッドフォン対応ヘッドセットを手に入れたいという人向けになるだろう。実現されている内容からすると,店頭価格は強気すぎるきらいもあり,せめてもう一声二声ほしいところもあるのだが,まあ,少なくとも悪い製品ではない。
 また,購入済みの人には,上で紹介したイコライザ設定をぜひ試してもらうよう,重ねてオススメしておきたい。やり過ぎは禁物なので,その点だけはご注意を。

エンクロージャ部のクッションは簡単に取り外して掃除できるなど,使い勝手への配慮は上々。その配慮を,もう少し音質面と製品紹介にも振り分けてくれればよかったのだが
画像集#038のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 ……とにもかくにも,今回評価していて一番驚かされたのは,実際の製品と,Corsairが謳っている内容がえらく異なっていたことである。同社の言い分を要約すると「50mmドライバーを積んで低音も出るし,歪みもないよ。だから映画や音楽にも最適だよ」といった感じなのだが,結果はご覧のとおり。映画や音楽にも向くゲーマー向けヘッドセットなら,ほかによいものがたくさんあるわけで,かなり苦しい印象だ。
 もちろん,サウンド&オーディオ系の製品に限らず,こういう例はないこともないが,それにしても,俗にいうマーケティングワードというのは恐ろしいものである。

Corsair公式WebサイトのHS1製品情報ページ


マイク特性の測定方法

PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
画像集#039のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。入力用PCに取り付けてあるサウンドカード「PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium」とヘッドセットを接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。

 測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
 またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
 結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。


 用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。

周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
画像集#040のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴

 上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
 ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。


位相特性の波形の例。こちらもリファレンスだ
画像集#041のサムネイル/Corsair製のゲーマー向けヘッドセット「HS1」を試す。謳い文句と異なる特性が特徴
 位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
 ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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