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アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから
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印刷2013/01/08 00:00

インタビュー

アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから

手描きアニメとCCアニメの今後


4Gamer:
 アニメーション業界の歴史を紐解くと,ディズニーなどが作っていた一秒24コマ(24枚)のフルアニメーションに対して,日本のアニメは,主に制作コスト的な問題から,1秒8枚程度のリミテッドアニメーションが主体になっていったという経緯がありますよね。

松浦氏:
 はい。手塚治虫さんの発明ですね。

4Gamer:
 そしてそれが洗練されていった結果,日本のアニメーションでは,独特の表現手法が発展していったと思うんですけど,日本のアニメーションが世界市場で戦っていくにあたって,そうした“独特の技術”の価値ってどうお考えなんですか?

画像集#018のサムネイル/アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから
松浦氏:
 動きの面白さってやつですよね。

4Gamer:
 はい。スタジオジブリの鈴木敏夫さんが言うところの「漫画映画」的な表現って話だと思うんですが,そういう表現って,日本のアニメ業界の“強み”なのかなと,端から見ていて感じられるのですが。

松浦氏:
 そうですねぇ……。まず手描きアニメの良さ,手描きアニメーターの凄さみたいな話でいうと,やっぱり,真っ白い紙にですね,その人の人生をかけて線を引く,絵を描く,そしてそれが“なんかかっこいい”というのは,クリエイティブな価値として,3DCGにはない歴然としたものがあるなと思っています。

4Gamer:
 それはそうですよね。

松浦氏:
 それにアナログで,なんかワンオフの特別な一枚という感覚って,それ自体が価値になりますよね。ただ,一方では,それが手描きアニメの“難しさ”につながってしまうところでもあって。

4Gamer:
 どういうことですか?

松浦氏:
 つまり,ある程度は特殊な技能を持った人じゃないと,アニメを作れないというんですかね。そういう問題があるんですよ。

4Gamer:
 ああ……。

松浦氏:
 例えば,手描きの作画マンっていうのは,まず絵が書けて,綺麗な線を引けなきゃいけなくて,さらにそれを動かさなきゃいけないわけですよね。しかも描く絵は,人の描いたキャラクターに似せるであるとか,時には演出も込みでコンテを考えなきゃいけないだとか,いろいろなものが求められます。

4Gamer:
 うまい作画マンに仕事が集中してしまうって話は聞いたことがあります。質の高い絵/動きを求めると,どうしてもそういう職人に頼らざるを得ないってことですよね。

画像集#035のサムネイル/アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから

松浦氏:
 はい。一方で,CGのアニメーションというのは,モデラーがモデルを作ってしまえば,アニメーターは“動き”を作る作業に専念できるんですね。つまり,手描きの作画マンのように「あらゆる能力を求められる」ということがなくなって,分業が成り立つわけです。業界のシステムというか,構造として考えると,これって作業者の間口が凄く広くなるって意味でもあって。

4Gamer:
 産業としての規模を保つためには,そうした部分も重要ということですよね。

松浦氏:
 だから,作業としてのやりやすさだったり,スタッフの揃えやすさ,教育のしやすさみたいな面では,CGアニメの方が有利なんです。

4Gamer:
 なるほど。ただ,やはり個人的に気にかかるのは,日本のアニメの良さ――すなわち,先人達が数十年かけて培ってきた独特の表現だったり手法だったりが,CG主体になっていくことで失われていくんじゃないか,というところなんです。

松浦氏:
 分かります。

4Gamer:
 いわゆるベテランのアニメーターが,ここ10〜20年ぐらいで激減してしまったみたいな話を聞きますけど,彼らの技術だったり知見っていうのは,業界内でちゃんと受け継がれているものなんですか?

松浦氏:
 うーん,そういう技術は人にしか蓄積されないものですから,基本的には残ってないんじゃないですか。ベテラン,大御所と言われる方達の技術は,その方が辞めたら失われてしまうものだと思います。

4Gamer:
 やはり,そういうものですかね。

松浦氏:
 とはいえ,日本のアニメ業界には,「作品」という形でたくさんリファレンスが残っています。それらを研究することで,ある程度は習得することが可能ですよね。個人的には,それで十分なのかなという気はしています。

4Gamer:
 教わるのではなく盗めと。

松浦氏:
 なんにしても,生産の効率性って意味で言えば,今後はCGアニメーションがより主流になっていくと思います。DisneyやPixarにしたって,もう手描きでやっているところなんかないわけですから,そこは時代の流れなんだろうなと。ただ,おっしゃるように,偉大な先輩方が積み上げてきた素晴らしい表現手法がたくさんあることも確かで,僕達は,もっとそれを盗まなきゃいけないってことなんでしょう。

4Gamer:
 しかし,そういうお話ですと,いわゆる「手描きアニメ」というものは,将来的にはなくなってしまうんでしょうか。

松浦氏:
 いや,僕はそこは使い分けになっていくと思っています。やっぱり顔のアップだったり,ワンカット/ワンシーンしかないような表現は,手描きの方が得意だし,コストも掛かりません。フルCGだと,たとえワンカットしかないシーンでも,すべてのモデルを作らないといけませんからね。そこは実際,「009 RE:CYBORG」で僕ら自身がかなり苦労した部分でもあります(苦笑)。

4Gamer:
 従来は,戦闘シーンや変形シーンなど,「特殊な場面だけ」をCGで作って,基本は手描きでやるみたいな使い分けでしたが,今後はむしろそこが逆転したりするんでしょうか?

松浦氏:
 十分あり得ると思います。手描きじゃないと出来ない,やりづらい表現って実際ありますし,逆にそういう使い方になってくれば,手描きの部分は,今よりもずっと濃密なものにできるはずです。であれば,むしろ作画マンの価値は高まっていくんじゃないかなって感覚もありますよね。作画マンの人数って意味では絞られる(うまい人のみが生き残る)のかもしれないけど,そういう特別な使い方であれば,単価が2〜3倍になってもいいわけですから。

4Gamer:
 むしろ価値を生みやすくなると。

松浦氏:
 ええ。繰り返しになりますけれど,やっぱり絵を描ける人って特殊なんですよ。特殊な能力だし,とても貴重なものです。それは絶対に活かしていくべきだと思いますよ。

画像集#004のサムネイル/アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから


サンジゲンから見た「ゲームのアニメーション」


4Gamer:
 話は変わりますけど,松浦さんから見て,ゲームのCGムービーとかってどう見えているんですか?

松浦氏:
 「ファイナルファンタジー」とか「アーマード・コア」みたいな作品のムービーは,とてもクオリティが高くて「凄いな」って思いますけど,やっぱり「あくまでゲームムービー」だって感覚はありますね。

4Gamer:
 「ゲームムービー」ってどういう意味なんでしょう……。

松浦氏:
 いや,悪いとかって意味ではなくて,やっぱりああいうリアルめの質感っていうのは,「ゲームのムービー」として見てもらった方が違和感がないといいますか,すんなり受け入れてもらえるんだなって意味です。例えば,あれがゲームから離れて,普通の映画だったり,普通のアニメって枠組みから見られると,やっぱり“ちょっと違う”ものとして見えますよね。そういうことです。

4Gamer:
 なるほど,確かにそうですね。

松浦氏:
 あと,ゲームのアニメーションという意味でいうと,最近,セルルックなモデルを使ったゲームも多いじゃないですか。

4Gamer:
 とくに国産のゲームでは,トゥーンレンダリングを使った作品は増えてきました。

松浦氏:
 ああいう作品とか,キャラクターのモデルとかは凄くよく出来ているんですけれど,僕らからすると,動きがちょっと中途半端に見えるっていうのはあるかもしれません。ちょっと偉そうに聞こえたら申し訳ないんですけど,「もっとリミテッドの動きを追求してもいいんじゃないか」っていうのはよく思っています。

4Gamer:
 それは面白い視点ですね。

松浦氏:
 ゲームのキャラクターの動きって,例え見た目がセルルックでも,動きは60フレームで動いていたりするじゃないですか。でも本来,セルルックな表現には,リミテッドなアニメーションが一番合うんですよ。僕らもいろいろ試行錯誤を繰り返しましたが,そこは絶対にそうで。ゲームの仕様上なら,60フレームで動かすのが一番いいと言うのは分かるんですけれど,純粋に動きだけを見た場合,それはやっぱり不自然には見えるんですよね。

4Gamer:
 あまりそういう視点で考えたことがありませんでしたが,言われてみれば確かに……。

画像集#005のサムネイル/アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから
松浦氏:
 だから,僕からすると「もっと追求すればいいのに」って思うんですね。今でも,アニメ風のキャラクターモデルで,動きもそれらしくは作ってあるのかもしれませんけれど,絶対にもっと追求した方がいいと思うんです。まぁ全部のゲーム会社がそれをやる必要はないとは思いますが,もっとアニメの動き(リミテッドの表現)を突き詰めた作品が出れば,それはそれで結構需要がある気がしますし。

4Gamer:
 でも,動きの表現ってかなり難しい分野ですよね。


松浦氏:
 そうですね。僕らもCGアニメをやるうえで,一番苦労したところがまさに“動き”ですからね。というか,CGでセルアニメ風の表現をやるにあたって,みんな絵の質感まではやるんですよね。ほかのアニメ会社さんもそうなんですが,そこまではみんなそれなりのレベルでやってくる。だけど,アニメーションの表現というのは質感と動きがセットなものですから,それがマッチしていないとぎこちなく見えてしまうんです。リアルな質感にはリミテッドは絶対合わないし,セルルックな質感にフルアニメーションは合いません。

4Gamer:
 そういう部分って,サンジゲンさんではかなり研究されたんですか?

松浦氏:
 もちろん,いろいろな試行錯誤を繰り返しましたよ。実際,リアルな質感でリミテッドアニメーションを作ってみたこともあったんですが,もう全然駄目でした。止まって見てるというか,死んでるように見えてしまう。カクついているというか,もう単純にコマ落ちしているだけに見えてしまうんですよね。

4Gamer:
 しかし,なんでセル画調だと,リミテッドな動きでもおかしく見えないんですかね。

松浦氏:
 それは単純に“情報量が少ない”からだと思います。情報量が少ないぶん,逆に脳内で動きが補完されるというか,そういう現象みたいで。

4Gamer:
 なるほど。

松浦氏:
 とくに日本人は,昔からリミテッドアニメを見ていて刷り込まれてますから,ますます違和感を感じないんですね。これがアメリカ人とかになると,「日本のアニメは止まって見える」みたいな話になるわけですが。

4Gamer:
 これは純粋な疑問なんですけど,海外ではCGを使ったフルアニメーションが主流になってきているのに,日本では主流になりきれない理由ってその辺りにもあるんですかね?

松浦氏:
 どうでしょう。まぁ確かに今の日本の視聴者は,セルアニメの刷り込みがあるかもしれませんが,これからは海外アニメやゲームCGを見て育っている世代が中心になっていくでしょうし,今後も今のままかどうかっていうのは分からないですよね。

4Gamer:
 お話が繰り返しになってしまうんですが,海外市場で成功するためには,やはりそういう部分の壁を突き崩さないといけないんでしょうか。

松浦氏:
 僕としては,そこは無理に突破するというよりは,結果として「そうなればいい」ぐらいの感覚ですね。僕らに求められているものって,時代や市場のちょっと先を行く映像というか,そういうものだと思うので。それがリアル調なのかセル画調なのかっていうのはまだ分かりませんが,僕らはそれを追い求めていけばいいだけの話だと思っています。


誰もやってないことに挑戦する


4Gamer:
 松浦さんが業界に入ったキッカケを最初にお聞きしましたけど,そもそもアニメーション業界っていうのは,どういう人が集まっている業界なんですか?

松浦氏:
 そうですねぇ。手描きのアニメーターって意味で言えば,まず「絵が描きたい」「絵を動かしたい」って人達ですよね。

4Gamer:
 CGのアニメーターはどうなんですか?

松浦氏:
 CGの方は,またちょっと違いますね。それにまだ新しい分野ですから,考え方もいろいろで。むしろ,今後のために“先の形”を模索していかないと駄目だなとは考えていたりしますが。

4Gamer:
 先の形とは?

松浦氏:
 簡単に言えば,将来に向けた「キャリアパス」みたいなものです。例えば,3DCGのモデラーやアニメーターが,より個性を出していける環境だったり,ステップアップしていけるルートといったものを,ちゃんと整備していかなければということです。

4Gamer:
 具体的には,どういうものなんでしょう。

松浦氏:
 最近取り組んでいる例で言えば,3DCGの技術でフィギュアの原型を作ったりだとか,そういう方面へも投資をしています。これは,3DCGのモデラーのキャリアパスの一つに「原型師」っていうものを作りたいなと考えてのことなんですが。

4Gamer:
 クリエイターの地位向上,みたいな話ですか。

松浦氏:
 はい。「CGモデラーの仕事」っていうことでは,結局はモデル(形)を作ること以外にないわけですけど,自分の作ったモデルがちゃんと名前入りで世の中に出る,ちゃんとした形になるという道筋はあっていいし,やるべきなんじゃないかと思うんですよね。それに,アニメで出てきたキャラクターがそのままフィギュアになってるというのは,ファンの方のニーズとしてもあるんじゃないかと思って。

4Gamer:
 3Dプリンターみたいな技術も出てきていますしねぇ……。

画像集#017のサムネイル/アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから
松浦氏:
 そもそも,グッドスマイルカンパニーの安藝さん()とのつながりも,実はそこからでしたからね。いきなり安藝さんに「フィギュアの原型はCGでやるべきだと思う!」って言いに行ったのが最初の出会いで。……きっと,こいつは変な奴だと思ったでしょうね(笑)。

※安藝貴範(あきたかのり):グッドスマイルカンパニー代表取締役

4Gamer:
 しかしキャリアパスって意味でいうと,アニメ業界って,監督やプロデューサーになる経緯はどういった形が一番多いんですか?

松浦氏:
 そこはもう,「人それぞれ」としか言いようがないですよね。極論,「僕が監督をやる!」と言えばいいだけの話なんですけど,スタッフが付いてくるためには何をすべきだとか,お金をどう集めればいいのかとか,いろいろとクリアすべき問題は多いですから。

4Gamer:
 「社長になるには?」みたいな話なんですね……。

松浦氏:
 アニメ業界には,フリーランスの人を多く抱えている会社や,フリーランスの人にたくさん仕事を発注して回している会社がかなり多いんですが,先ほども少し話題に出たように,やっぱりうまい人に仕事が集まっていくんですね。そうなると,力がある一部の人達がさらに実力を付けていくし,制作会社やメーカーさんとも仲良くなっていくって構造はあります。

4Gamer:
 フリーランスのアニメーターが監督に,みたいなケースもあるんですか?

松浦氏:
 仲良くなれば,「次,こんな事やりたいね」みたいなコミュニケーションが生まれます。で,その人の名前が売れ出したあたりで,「あの人でやってみたいね」って話になって,監督を任されるパターンというのは,実際あります。というか,「誰かに拾ってもらったときにはじめて監督になれる」というのが,実はかなりリアルなところかもしれない。

4Gamer:
 なるほど。……でも,なんでもそういうものって感じもしますよね。

松浦氏:
 そうですね。常に頑張り続けるしかないんだけど,何をやったら次にこうなるってものでもないですし,チャンスを掴むのって本当に難しいです。まぁ,実は弊社で制作している「うーさーのその日暮らし」では,ウチの撮影監督を監督に抜擢したんですけど,こういうチャンスの与え方は,むしろアニメ業界では珍しいのかもしれません。

画像集#038のサムネイル/アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから
うーさーのその日暮らし
2012年10月よりテレビ東京およびニコニコ動画で放送されているテレビアニメーション。一見するとラブリーなキャラクターながらも,性格は「それなりに邪悪」で「俗物的」という,シュールな内容が特徴。ニコニコ動画で2013年1月12日に全話一挙放送が予定されているので,興味がある人は見てみるといいかも?
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4Gamer:
 「うーさーのその日暮らし」では,どうしてそういった試みをしたのですか?

松浦氏:
 サンジゲンの中から,そういうスタッフ(監督にキャリアアップする)を出したいなって思っていたんです。もちろん,彼は絵作りにしても,演出にしても,まだまだ至らない点があるのかもしれませんが,そこはサンジゲンが組織としてバックアップできますし,原作者も関連会社の方だから,なんとかやれるだろうという算段で(笑)。

4Gamer:
 任される方もドキドキなんでしょうが,任せる方もドキドキもんですよね。そういうのって(笑)。

松浦氏:
 結果としては,凄くうまくいったと思っていますし,作品としても良いものになったと感じています。コストも抑えられましたし,それでいて,がっつりと作り込んだ回もあったり。いろいろな挑戦をしながら進められたプロジェクトだったので,かなり有意義だったなと思います。

4Gamer:
 じゃあ今後は,サンジゲン出身の監督を意識的に育てていくんですか?

松浦氏:
 もちろん,サンジゲンとしてそういう方向も意識はしていきますが,一方で,アニメ業界には優秀な監督さんがいっぱいいらっしゃって,彼らがサンジゲンというリソースを使って作りたいものをキチンと作れる――そういう環境を提供することも,僕らの重要な役回りだと思います。それにサンジゲンの表現が,セル画側に寄っていったこともあって,CGアニメでありながらも,既存のアニメ監督の方々が持っているノウハウをそのまま活かした作品作りができる。そんなスタジオにサンジゲンはなっているんですね。

4Gamer:
 「009 RE:CYBORG」なんて,まさにその実例ですよね。

画像集#015のサムネイル/アニメ制作会社サンジゲンが目指す日本流のフルCGアニメーションとは?――サンジゲン代表取締役・松浦裕暁氏に聞くアニメ業界の現状とこれから
松浦氏:
 はい。神山監督とやれたのもそういう背景があってのことですし,今後も,いろいろな方と一緒にアニメを作っていきたい。たくさんの優秀な方と一緒に仕事をしていくことで,サンジゲンのスタッフもレベルアップしていってほしいですしね。むしろサンジゲン出身の監督も,ウチだけでやるんじゃなくて,フリーランスにして外に出してしまうかも(笑)。

4Gamer:
 えっ?(笑)。

松浦氏:
 うちだけで監督をやってても,いい監督にはならないと思うので。色んな事をやれるポジションの方が成長すると思うんです。だから,会社に縛っておくのが得策かどうかは分からないですよね。会社に属していると,ハングリー精神もなくなるだろうし。

4Gamer:
 なるほど。そのあたりのクリエイターのあり方って難しいですよね。そろそろお時間ですので,最後に4Gamerの読者……とくにクリエイティブな仕事をしたい人に向けて,何かコメントを頂けますか。

松浦氏:
 え……と,それだとちょっと説教臭くなっちゃうんですけど,いいですか(苦笑)。

4Gamer:
 どうぞ!

松浦氏:
 僕は,クリエイティブな業界を目指す,あるいは,ほかのどんな業界を目指す場合でも同じだと思うんですけど,例えば,アニメ業界ならアニメ業界で,やるからには「30年やるつもり」で頑張るべきだと思っています。そしてそのうえで,常に「10年後」を見据えてほしいなと。自分は10年後に何をやっていたいだとか,どうありたいっていうのは,正直なかなか想像しづらいことだとは思うんです。だけど,その10年後に向かって「今,何をすべきなのか」っていうのは,これからの時代,もっとちゃんと考えた方がいいと思います。
 それに,今はもう「ただ飛び込めばいい」みたいな時代は終わっていると思うんですよね。その意味でも,これからの時代は,他の誰もやってないこと,誰もやろうとしていないことを探しながら,「誰もやってないことに挑戦する」という心づもりを常に持つべきだと思います。

4Gamer:
 まったくおっしゃる通りですが,実際にそれを行うのは難しいですよね……。

松浦氏:
 でもそれが,10年,20年,30年って仕事をやり続けられるコツだと思います。

4Gamer:
 そうですよね。本日はありがとうございました。

松浦氏:
 ありがとうございました。

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株式会社サンジゲン公式サイト

「009 RE:CYBORG」公式サイト

「うーさーのその日暮らし」公式サイト

 
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