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印刷2012/08/04 00:00

連載

西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」


 探索者の諸君。ようこそ,「クトゥルフ神話TRPG」の世界へ。今宵も,「宇宙的恐怖」を共に楽しもうではないか。

 連載第2回で,新宿十二社に住むエログロ小説の大家,沼田阿吽(ぬまたあうん)の生前葬に招かれた4人の男女,ゲームライターのマフィア梶田,元編集者の瀬尾亜沙子,マンガ家の田中としひさ,文筆家の岡和田 晃は,沼田の遺産を分けてもらう約束の代わりに,深夜の新宿中央公園で奇怪な儀式を行う羽目となった。
 黄金の蜂蜜酒を飲み,水晶髑髏を掲げ,呪文を唱えると,空に奇怪な何かが出現し,瀬尾と岡和田が一時的な狂気に陥ってしまう。

 なんとかその場を逃れて沼田邸に戻ると,沼田はすでにこの世を去っていた。
 沼田の弟子で,愛人とも言われる謎の美女,桜木 虚(さくらぎうつろ)と話し,沼田の遺産をもらう一同。瀬尾は沼田の未発表原稿を,岡和田は儀式で使った謎の魔道書ほか何冊かの稀覯書を,田中は珍しい酒を何本も持って帰ることにした。
 マフィア梶田は沼田の短剣コレクションを受け取った上,行きがかり上,沼田の愛人とも言われる桜木を連れ帰ることとなり,狂気に満たされた一夜を彼女と共に過ごしたのであった。

 最終回となる今回は,その解決編だ。
 さて,その彼らの顛末について,そろそろ語り始めよう。

■「クトゥルフ神話TRPG」とは

西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」
 『クトゥルフ神話TRPG』とは,1920〜30年代にアメリカで活躍したホラー作家,H・P・ラヴクラフトとその友人や弟子の作家たちが創り上げた「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」である人工の神話体系「クトゥルフ神話」の世界を,テーブルトークRPG(以下,TRPG)で遊ぶものである。

 本稿では,クトゥルフ神話の雰囲気を伝えるべく,各シーンを小説風の状況描写とキーパーからの補足,さらにプレイヤー達の会話を交えつつ,実際のプレイの様子をお伝えしていこう。
 ちなみにキーパーとは,ほかのTRPGでいうところのゲームマスター(GM)にあたるもので,ルールの裁定と物語の進行を司る役割のこと。実際のゲームは,基本的にこのキーパーとプレイヤーの会話――おしゃべりやツッコミ,あるいは,キャラクターの演技を交えつつ進んでいく。

 なお今回は,連続3回の連載の最終回にあたる。第1回,第2回をまだ読んでいない人は,ぜひそちらから読み進めていただければ幸いだ。

■関連記事:

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第六章「ワタシはもつとサカナが食べたひ」


■マフィア梶田の場合


「もっとサカナが食べたひ」
 桜木が新宿十二社の家へ向かった後,梶田は唐突にそう思った。
 不思議なことに,腹が減っているのかといえば,そういうわけでもない。なにせ寝起きの梶田に桜木が朝食を振る舞ったのは,ついぞ1,2時間前のことである。
 にもかかわらず,自分はこんなにも食を求めている。否,求めているのではない。これはつまり,渇いているのだ。

 何に? 魚に。いや,そんなことが本当にあるだろうか。渇いているのは魚にではなく,桜木 虚に,ではないのか。そのほうがいっそ,分かりやすい。だが前夜の桜木を思い出そうにも,記憶は霞がかったようにハッキリとしなかった。ただ享楽の余韻だけが,今も残っている。
 自分の感情であるはずなのに,理解が及ばない。外見とは裏腹に,まだ若い梶田にとって,それは許せないことだった。なんとしても,理由を明らかにしなくてはならない。


西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

マフィア梶田:つまり,こういうことですね。「桜木 虚は、オレの嫁!」

キーパー:そう,君の中で虚さんの存在はどんどん大きくなっていく。そして唐突に魚が食べたくなる。まるで「孤独のグルメ」の煮魚の回を見た直後のように(笑)。

マフィア梶田:ああ,アームロックがしたい。いや,十二社へ行って,虚さんの手料理を食うんだ。あ,でもなんかヤバい予感がするので,念のためショットガンを鞄に突っ込んでいきます。「ヘイ,タクシー!」


 現代日本だというのに,銃器を鞄に入れていく梶田。ゲームで鍛えた銃器の腕が炸裂するのか?


■岡和田の場合


 その古めかしい本は,何かの皮で装丁されており,表紙はまるで生きているかのようにしっとりと湿っていた。岡和田は,吸い付くような手触りに震えながらも,その本を舐めるように読んだ。古風なラテン語の,変質した奇妙な文字が,目眩のような描写を語り出す。
 本の題名は「クタアト・アクアディンゲン」。
 日本語に訳すならば,「水神クタアト」。人類が生まれる遥か超古代から,大洋の海底,ルルイエの都に封じられた,忌まわしき水の精霊・クトゥルフと,その信仰についてが書かれた魔道書であった。そして昨夜の呪文は,邪神クトゥルフに仕える《星の落とし子》を招来する儀式の呪文であったのだ。
「私は,この世ならざる者を呼び出してしまったのか!」
 その絶望は,魔道書に描かれた禁断の知識とともに,岡和田の正気を打ち砕いた。
「イア,クトゥルフ,イア!」
 正気を失ったまま,彼は古代の悍ましい呪文を口走り続けた。

 前日の夜,謎の儀式に使った魔道書のほか,貴重な稀覯書を家に持ち帰った岡和田は,ついに〈ラテン語〉ロールに成功して,魔道書の「斜め読み」に成功する。

 本来,魔道書をきちんと読み,内容を研究するためには,もっと長い時間がかかるものだが,「クトゥルフ神話TRPG」では,斜め読みで本のおおまかな内容を把握することについても,きちんとルール化されている。今回の「水神クタアト」の場合,ゲームデータとしては研究に平均46週間,流し読みに92時間と設定されているが,さらに前回行った儀式のために,重点的に読むべき箇所が指定されていることを加味して,キーパーは,それをさらに1/10に短縮できると判断。これで流し読みに必要な時間は約9時間。岡和田は,徹夜で魔道書を読み込んで,これを達成したことになる。

 その結果,岡和田は持ち帰った稀覯書が,悪名高き魔道書「水神クタアト」であること,そして昨夜の呪文が「クトゥルフの星の落とし子との接触」の呪文であることを理解した。ここで魔道書を読んだ代償として,〈正気度〉ロールが課されることとなった。
 岡和田はこの〈正気度〉ロールに成功したが,「水神クタアト」のラテン語版を読んだ場合の正気度喪失は,成功しても1D8(8面ダイス1個)である。結果5点の正気度を失い,岡和田は再び狂気(反響言語)に陥る。


岡和田:「イア! イア! イア!」※編注:イアは古代の言語で「讃えよ」の意

瀬尾:しかしそのとき,彼がすでに正気を失っていたことを,我々は誰一人として知らなかったのである。

(コラム)魔道書と書誌

 クトゥルフ神話を彩る魔道書の数々は,ゲームの雰囲気を盛り上げ,シナリオにコズミックホラーの香りを添えてくれる,最高のガジェットである。「ネクロノミコン」に代表されるこれらの魔道書は,もちろん架空の存在ではあるが,ラヴクラフトとそのフォロワー達によって小説に登場するたびに,その書誌や由来が加えられていった。後には遊び心のある作家やファン達が,その魔道書を実際に書いて出版したり,古書として流してしまったりと,今や半ば実在の存在にもなりつつある。

西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

 今回のシナリオ中に登場した「水神クタアト」(クタアト・アクアディンゲン,Cthat Aquadingen)も,そんなクトゥルフ神話の魔道書の一つで,イギリスの作家 ブライアン・ラムレイの処女作「深海の罠」に登場するもの。
 内容は,邪神クトゥルフとその眷属「深きもの」など,忌まわしい水の精霊達についてを研究したものとされており,700以上にも及ぶページは,彼らについてのグロテスクな描写や,詳細かつ難解な研究著述,そして見るも忌わしい版画などで満ちているという。

 11〜12世紀にラテン語で書かれたものが原典とされるが,この版は現時点では3部しか現存しておらず,1部は大英博物館の奥にしまいこまれ,残りの2部はイギリス国内のコレクターがそれぞれ秘匿しているとのこと。イギリス最高の数秘術師タイタス・クロウが所持していたとも伝えられているが,クロウがその館ごと消え去った後は,行方しれずとなっていた。
 そのほかラテン語版とは別に,北欧の魔術師達の間に流布していたゴート語版もあり,この版にはルルイエ文字による記述が混じっているともいわれる。また不完全な中世英語版や,近代のオカルティスト,ジョアキム・フィーリーの注釈版なども存在するという。

 沼田家のそれがクロウの物なのか,あるいはどこからか写本された不完全な物かは分からない。しかしオリジナルのラテン語版は人皮で装丁され,温度や湿度によって,うっすら汗をかくと言われているので,その可能性は高そうだ。

 なお「水神クタアト」のタイトル表記は出典によって異なり,TRPG版のルールブックでは「クタート・アクアディンゲン」とされているが,ここでは発音の奇妙さを強調するため,翻訳小説での表記「水神クタアト」を用いている。


■瀬尾の場合


 その原稿を焼き捨てたい,と瀬尾が思わなかったといえば,嘘になる。
 沼田の遺稿「弁天池縄崩し」は確かに傑作であったが,昨夜以来の悪夢は,瀬尾にこの原稿を世に出してはならないという気持ちを強くさせていた。読んでいる間は,ぐいぐいと物語に引き込まれ,その世界に耽溺したものだったが,同時に自らがこの世にあらざる魔術の世界に取り込まれていくような感覚を拭えずにいたのだ。
 この,自らの世界が浸蝕されていくような不安は一体何なのか。瀬尾は原稿を読みながら,体中にじっとりと熱い汗を浮かべている自分を発見して,我に返った。
 この汗は何を意味するのだ?

「女は匂い」

 沼田阿吽は,そう書き出していた。
 沼田は匂いや手触りにこだわる。視覚や聴覚よりも,臭覚や味覚,触覚を鮮明に描き,読者を引き寄せた。
 汗。
 以前,沼田の本を一冊手がけた後,編集長に担当替えを願い出たのは,おそらく,畏れからだ。物語の中のような出来事が,いつか自分にも起こりえるのではないか?
 そんな恐怖があった。
 それでも瀬尾は,その恐怖を抑えこみ,古巣であるエログロ・ジャパンの編集部を訪ねた。沼田が死に,その遺稿を瀬尾が受け継いだという事情は,編集部をひっくり返すような騒ぎになった。
 何しろ,エログロ・ジャパンとしては,看板作家の一人である。
 早速,編集長とデスクが瀬尾とともに,十二社へと向かうことになった。まだ,遺稿があるかもしれないのだ。それが今後十年の商売につながるかもしれない。

西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

 瀬尾は手にした遺稿を古巣の編集部へ持ち込み,それを出版することにした。自分を遺構の所有者として認めてもらえば,莫大な印税が手に入るハズ。そのために,瀬尾は編集長との交渉を試みる。


瀬尾:〈説得〉ロールに成功。やった,これで夢の印税生活!

キーパー:版権ゲットだぜ!

マフィア梶田:版権は重要ですよねえ(しみじみ)。


 実際,遺稿の出版は大きなビジネスチャンスだ。沼田阿吽ほどの大家となれば,その遺作はかなりの値がつけられることになるだろう。シナリオの主旨とは少し外れるが,クトゥルフ神話のファンとしては,こうした話はラヴクラフトの遺稿に関する経緯を思い起こさずにはいられない。
 初回のコラムでも書いたように,生前のラヴクラフトは,一部のマニアにしか注目されない,パルプ雑誌の一作家に過ぎなかった。作家として恵まれないまま,腸がんによって亡くなったあと,その死を知って駆けつけた文通仲間の作家,オーガスト・ダーレスとドナルド・ワンドレイらが遺稿を整理し,後に出版したことで,ようやく陽の目を浴びた。
 80年近く経過した今日,ラヴクラフトの著作の多くを,こうして読むことができるのは,彼らのおかげなのである。


田中:一方その頃,すでに十二社で酒を飲んでいる男が一人。

一同:早っ!


■田中の場合


「迎え酒」という言葉がある。
 酒を飲んだ翌日,二日酔いを抑えるために,軽く酒を飲む民間療法のことで,それなりの効果はあると思える。
 昨夜,沼田阿吽の家から田中が持ち帰った酒は,なぜか翌朝には空になっていた。
「もう少し飲みたいな」
 そんな言葉が素直に口から出た。
 そのまま,自転車に乗って新宿を横断し,十二社へ向かう。
 途中,中野と新宿の間を抜ける青梅街道の淀橋を渡る。

 西新宿のあたりを指す古い地名でもある淀橋は,かつては「姿見ずの橋」と呼ばれた橋である。これは室町時代,中野に栄えた中野長者伝説に基づく呼び名で,この橋を渡った者は,二度と姿を見ることができないという言い伝えがあった。なんでも,中野長者の隠し財産を十二社の池の周辺に隠した人足達が,その秘密を守るために殺されてしまったのだとか。これが現在の淀橋へ改められたのは江戸時代,伝承を聞いた徳川家光が,大阪の淀川を思って淀橋と名付けた,といわれている。

「新宿というと,新しい街みたいだけれど,そんな話もあるのだな」
 田中はそんなことを思いながら,十二社まで自転車を走らせ,沼田の家の前に立った。昨日は気づかなかったが,ずいぶん古びた家だ。昭和の時代から残る和風住宅だ。もう屋台骨が傾き,屋根もひしゃげたように見える。
「いらっしゃい」
 呼び鈴を押すと,喪服の美女が玄関から顔を出した。
 桜木であったが,何やら,昨日より美しく見えた。

キーパー:ちょっと顔が平べったくて,目と目の間が離れているのだけど,君の目には,虚さんが絶世の美女に映っている。

田中:顔が似てくると,他人とは思えませんね。

桜木(キーパー):「ええ,同じものを共有していますから」

瀬尾:いきなりイイ感じですねえ。

マフィア梶田:オレの嫁なのに!


 「クトゥルフ神話TRPG」は,雰囲気が重要なTRPGだ。ときにキャラクターが破滅へ向かうことも少なくないがゆえに,ホラーのテイストは大切にしたい。キーパーはそんな思惑から,今回のシナリオのキーキャラクターである桜木 虚を丁寧に描いている。できるだけ色っぽく,艶やかに。
 田中は桜木の色香に惑わされつつも,またも沼田の酒の棚をあさって,裏庭に面したサンルームで,黄金の蜂蜜酒や古代の霊酒をぐびぐびと飲み出した。



キーパー:酒を飲んでいると,一瞬,庭の向こうに広大な海原が見えたような気がした。

田中:海岸でお酒ってイイですよね? ああ,ハワイ気分。

マフィア梶田:ピンポーン!

キーパー:「あら,誰か来たようですね」 喪服の桜木が出迎える。

マフィア梶田:アラ,いいですねえ。


 再び手料理をごちそうになろうとやってきたマフィア梶田だったが,食欲そっちのけで桜木 虚にちょっかいを出し始める。田中も同じ場所にいるのだが,酔っ払いの演技(これをロールプレイと言う)が楽しくなってしまっている田中は,その光景をニコニコしながら眺めるばかりだ。そんなこんなしているうちに,エログロ・ジャパンの編集長とデスクを伴った瀬尾も沼田邸に到着。続々と探索者達が集結をはじめた。


キーパー:編集長は「ほかの社には知られてないのだろうね?」とか言いつつズカズカ入ってきくるが,喪服の美女に迫っているスキンヘッドを見てギョっとする。「なにこれこわい」

マフィア梶田:ちょ,ちょっと空気を読んでほしいなあ。

瀬尾:「いえ,沼田さんの知人のライターさんです。こちらはうちの編集長」

マフィア梶田:「(シャキッ)初めまして,マフィア梶田です」


 お約束のように,マフィア梶田を危ない人と勘違いする編集長とデスクだが,両者とも冷静になって,名刺を交換。その隙に桜木 虚はするりと梶田の腕から抜けだして,瀬尾を沼田の書斎に案内する。瀬尾はここで〈目星〉ロールに成功し,さらなる沼田の遺稿を収めた文箱を発見した。


キーパー:題名は「夏王縄記」。古代中国の王宮を舞台にした神仙伝奇物語で,「封神演義」の妲己がヒロインだ。

瀬尾:タイトルにがっつり「縄」って書いてあるし。

編集長(キーパー):「よくぞ見つけた。担当は頼むぞ。」

瀬尾:「へ,編集長〜」 これ読んだら,また正気度が減りそうな気がするんだけどなあ。

編集長(キーパー):「それよりも,君達はほかにも未発表原稿がないか探すのだ(と言いながら,原稿を読み始める)」

瀬尾:「は,はいはい」


 むさぼるように,「夏王縄記」を読み耽る編集長の目は,どんどん血走ってくる。瀬尾は,さらに古代中国語で書かれた文献を見つけるも,中国語の技能がないので,読むことができない。


瀬尾:こんな時に便利な岡和田さんが来ないですねえ。ちょっと電話してみましょう。

岡和田:「(電話口で)イア! クトゥルフ! イア! イア!」

瀬尾:「な,何これ気持ち悪い!(と電話を投げ出す)」

キーパー:さあ〈正気度〉ロールをしようか(笑)。


 〈正気度〉ロールに失敗し,さらに2点の正気度を失う瀬尾。ただ家で叫んでいるだけで仲間にダメージを与える岡和田,恐るべし。
 この一件で興を削がれた梶田と田中は,ようやく桜木 虚に食べ物をねだりはじめた。母のような微笑を浮かべ,喪服のまま桜木はキッチンに立つのだった。


マフィア梶田:キッチンに喪服!

田中:昨日は生前葬,今日は死後葬で宴会だ。



第七章「奇妙な昼食」


 ややエキゾチックな顔つきにも関わらず,桜木の作る料理は純和風だった。
 白いご飯に,赤身の刺身,海藻の酢の物に,貝の味噌汁。
「これは生前,沼田が愛した故郷の食べ物です」
と,差し出されたのは,緑色のゼリーのようなものだった。上に鰹節とネギが乗せられ,わずかに醤油が差してある。
「煮こごりですかね?」と梶田が問う。
「いいえ」と桜木が首を振る。「千葉県の九十九里沿岸で食べられている郷土食のひとつで,さまざまな海藻を煮てゼリー状にまとめたものです。現地ではただ「かいそう(海草)」とのみ呼ばれています」
「おきゅうと,みたいなものですね」と田中が福岡の郷土食を挙げる。そちらは小判型が多いが,これは四角い。
「ああ,日本酒が欲しい」
 田中の言葉に,桜木が「冷やでよければ」と,台所の隅にあった一升瓶からコップに酒を注いだ。

 食は,その人物の生き方がもっとも現れる瞬間である。
 何かを食べる。何を食べるか,どう食べるか,なぜ食べるか,いつ食べるか,どこで食べるか,誰と食べるか……。食は,その人の真相を示す。ゆえに食事の場面はフィクションにおいて重要な意味を持っている。

 桜木 虚は,そのエキゾチックな顔つきに反して純和風な食事を提供する。海産物が多いことには,もちろん意味がある。
 クトゥルフ神話を生み出したH・P・ラヴクラフトは,アメリカ東海岸北部のマサチューセッツ州プロヴィデンスという沿岸の街に生まれながら,魚介類が大嫌いであった。普段,穏健で過激な言い方をしないラヴクラフトだったが,魚介類に関してだけは,忌々しい存在であるとして,口にしなかったのだという。
 この偏食こそ,「インスマウスの影」や「クトゥルフの呼び声」といった彼の代表作でクトゥルフやその眷属であるダゴンなど,海にまつわる怪物達がたびたび登場し,そのおぞましさが繰り返し描写される理由と言われることも多い。

西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

 桜木 虚の出す魚介料理――それも生に近い刺身や酢の物ばかり――は,そういったクトゥルフ神話のニュアンスを連想させるギミックでもある。それにクトゥルフ神話を知らずとも,見知らぬ食べ物というのは,不安をかき立てるものだ。異常なシチュエーションで,見慣れぬ郷土料理を出す謎の女。その理由を想像するだけでもホラーである。

「しかし,何でまた魚ばかりなのですか?」
 梶田はずっと感じていた疑問を口にした。
桜木はそれに答えず,「美味しいでしょ?」と微笑むばかり。
「魚も美味いですが,肉も欲しいですねえ」と,若い梶田は呟いた。
「肉が食べたい……」
 桜木はそう繰り返し呟いてうなずき,皿を持って台所を出ていった。
 片手にむき身の包丁をぶら下げつつ。

 しばらくして台所から聞こえてきたのは,「ダン,ダン」というリズミカルな打撃音。
 切る,ではなく,たたく。
 やがて梶田と田中の前に,大皿がやってくる。
 薄紅色の花びらのように並べられた生の肉の上に,レモンが絞られ,香菜が散らされている。魚醤に生卵の黄身を落とし,おろし生姜とおろしニンニク,胡麻油を垂らしたタレが添えられていた。

 そして,肉だ。
 もちろん肉も,生である。このところニュースなどで話題の肉の生食だが,通常は焼いたものが多いので,これも違和感がある。それに昼間から生肉料理というのは,やはり奇妙と言って良いだろう。
 さらに魚醤は,塩漬けの魚を発酵させた調味料で,醤油のように見えるが,魚特有の発酵臭がある。しょっつる,ニョクマムなど,日本を含むアジア各地で作られており,アンチョビにも似ている。海の香りを感じさせる素晴らしい食材ではあるものの,このシチュエーションでは,やはり不穏なものを感じずにはいられない。

 さて,キーパーはこの食事シーンを,微に入り細で穿ち描写していく。桜木 虚と探索者達の会話は静かに,しかし少しずつズレを生みながら進行する。


キーパー:肉が食べたいと聞いた虚さんは,「肉ですね」と呟きつつ,台所ではなく家の奥へと向かっていった。

マフィア梶田:あれ,どちらへ?

キーパー:虚さんは食堂から出るところで立ち止まって振り向くよ。「どれだけ生がいい?」

マフィア梶田:え,いや聞き方がおかしいでしょう。生一択? 

桜木(キーパー):「生にも色々ありますから。あぶるとか,たたくとか……」

マフィア梶田:「食べられる肉,ですよね?」

桜木(キーパー):「もちろん……食べられる肉ですよ」 そうして,彼女は食堂を出ていった。

マフィア梶田:そっち,台所じゃないですよね?

キーパー:家の奥の方向だね。サンルームとか,庭とか,あと葬儀場になっている沼田の和室とか。

瀬尾:棺桶の蓋が開いていたりして……。

一同:……。

キーパー:そうして肉の塊を持ち帰った桜木は,台所で調理を始める。包丁のリズミカルな打撃音が響き続け,やがて大皿を持って虚さんが帰ってくる。

マフィア梶田:肉のたたきか。何の肉です?

桜木(キーパー):「ちょっと特殊な羊の肉です。」

マフィア梶田:俺,ラム肉好きなのよね。

田中:一見,美味そうですし,私,酔ってますから食べますよ。

瀬尾:途中経過を知らないので,「昼食ですか」とか入ってきて食べます。もきゅもきゅ。美味しい!

キーパー:そこに来客を告げる呼び鈴が鳴った。お客さんの登場だ。


第八章「来客」


 桜木は艶然と微笑んだ後,呟いた。
「あら,またお客様が……」
 一瞬の後,入り口の呼び鈴が鳴った。

 黒っぽい服を着た数名の男達が家に入ってくる。
 葬式らしい地味な背広の下は,白いシャツに黒いネクタイだが,どことなく,歪な感じがする。やや太った……いや,ふくれた感じのする体型を無理やりシャツの下に押し込めるように,背中を丸め,首を前に突き出すように歩く。末端肥大症なのか,足がやたら大きく,べたりべたりと歩いていく。
 みな顔つきは平たく,目と目の間が開いた様子は,どことなく桜木と似ている感じがした。
「沼田さんがお亡くなりになったと聞き,ご挨拶をば」
 一人がくぐもった声でぼそぼそと言った。


西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

 物語は進み,奇妙な訪問客がやってくる。
 ここでキーパーは,クトゥルフ系ボードゲーム「マンション・オブ・マッドネス」の箱を開いて,テーブルの上に沼田邸を再現しはじめる。


キーパー:平たい顔族のお客人が数名やってきました(といいつつ,同じくクトゥルフ系ボードゲームの「インスマスからの脱出」から,「深きもの」のフィギュアを取り出して,広げたマップに配置)。弔問客だと名乗る彼らを,虚さんは奥の間へ案内する。

田中:これはイケメン軍団ですね。

瀬尾:え,イケメン?

田中:だってほら,顔が平たくて,目と目が開いていて……虚さんに似ているのでしょう?

マフィア梶田:うむ,ちょっとアイドル顔負けの美男揃いですね。

瀬尾:ええっ。「そ,それはどうかなあ」

西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」


 異形の弔問客はぞろぞろと和室に入っていき,棺桶の前で焼香をしているようだ。
 昨夜の生前葬のまま,沼田の飾ったおかしな祭壇が和室の奥に据えられ,水晶髑髏もそこにある。祭壇の前には,沼田の入った棺桶がある。


キーパー(桜木):「故人の遺志により,すでに生前葬を済ませました。故人はおのれの趣味に殉じて自由に生きた者です。弔問に来ていただいた皆様も,それぞれ,ご自身の信仰に従い,自由な方法で故人への弔意を示していただければ,沼田も喜ぶでしょう。なお遺体につきましては……」 

キーパー(弔問客):「約定に従い,ご遺体は私どもでお引き受けいたします」

田中:よく考えたら私,線香あげてないや(最初に来たけれど,ずっと酒を飲んでいた人)。焼香します。ああ,いい葬式だなあ(〈目星〉ロール失敗)。

瀬尾:あ,私も。香典は編集長が渡したけれど(書斎に直行した人)。あらら,棺桶が少し開いている〜(〈目星〉ロール成功)。

マフィア梶田:そういえば俺も忘れてた(女と飯しか考えてなかった人)。「棺桶,開いてますけど?」

桜木(キーパー):「梶田さんも先生にお別れのご挨拶をしますか?(ニッコリ)」

マフィア梶田:「ああ,そうですね(と棺桶の蓋を開ける)」

 沼田阿吽は,昨夜の生前葬で着流していた服装のまま,棺桶の中に横たわっていた。死体の肌つやはよく,まるで眠っているようにも見えた。生前の沼田を知る者であれば,この老人が「実は生きていたのだよ」と飛び出すタイミングを図っているようにも感じられるほど。
 ただひとつ,違和感がある。
 服に血がついている。
 胸と太もものあたりに,血が滲んでいるのである。

マフィア梶田:ん,この血は?

キーパー:慰問客と虚さんがなにやら相談しているのが聞こえる。「もう始まっているのですね?」「ええ,来客も来ておりますし。」「一族の者が集まるまでは待ってほしかったですね」「(田中と梶田を振り返り)彼らはもう一族のようなものですから」

瀬尾:一体,何を始めてしまった?

田中:宴会じゃないですかね。

弔問客(キーパー):「あなたがたも,お迎えに加わっていただけるのですね?」

瀬尾:お迎え? 一体,何の話?

キーパー:桜木は珍しくためらいを見せるが,弔問客達が頷いたので話始める。「沼田が秘せと言っておりましたが,もう皆さんならば,隠す必要もないでしょう」

 彼女が沼田の屍衣に手をかけ,胸のあたりを開くとそこにはぽっかりと穴があき,心臓が無くなっていた。
 屍衣を剥いでいくと,腹にも傷が開き,何か取り出した後がある。

 さっき出されて肉を食べてしまった三人は,ここでキーパーから,POWの4倍ロールを要求される。瀬尾は成功したが,失敗した梶田は2点の正気度を失った。そして田中の出した目は99。これは大失敗に相当する。


田中:99で大失敗しました!

キーパー:あなたはこの肉を,この世のものならざる美味と感じる。まるで,故人と一体化したような気分だ。正気度を1D10減らしてください。

田中:6点失って「一時的狂気」に。そして〈アイデア〉ロールも成功。……こ,この肉はもしや?

キーパー:田中は「三国志演義」のある一節を思い出した。曹操から逃亡中の劉備玄徳が狩人の家に逃げ込んだ際,貧しい狩人は劉備をもてなすため,自らの妻を殺して羊料理をふるまう。これを二本足の羊――「双脚羊」という。

岡和田:当時の中国では,高貴な客人が来たならば,そこまでしてでも客人を歓待するのが「美徳」とされていました。

田中:これはつまり……何か分かっちゃった?

キーパー:ええ,あなたは気付いてしまった。これこそは双脚羊――人肉です。

田中:でも困ったことに美味しいぞ。止まらない。


 田中の一時的狂気の症状は「感情の爆発」。大笑いしたり,大泣きしたりといった,情動失禁と呼ぶべき感情の暴走である。すでに双脚羊の魅力にとりつかれた田中は,人肉と知りつつも食を抑えられない。


田中:「もっとありません?」

桜木(キーパー):「まだまだたくさんありますよ」

マフィア梶田:僕等はどうなっちゃうんです?

キーパー:梶田くんも瀬尾さんも,どこかオカシイことに気づく。これは何か,変だ。そして皆も虚さんがどんどん美人に見えてくる。

田中:「ああ美味い,美味い」(正気度がさらに1点減少)。

瀬尾:いやああ。玄関まで走って行って,ゲーゲー吐きます(正気度2点喪失)。

マフィア梶田:地獄絵図ですね。

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NieR:Automata (PS4)
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FINAL FANTASY XV (PS4)
2016年09月〜2017年03月