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西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」
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印刷2012/08/04 00:00

連載

西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

第九章「水神クタアト」


 「水神クタアト」を読み終えた岡和田は,ついに理解した。
 かの呪文によって〈クトゥルフの星の落とし子との接触〉が果たされた場合,そこには異次元との門ができる。その門はさらなる儀式を経て,やがて次元を超え,太平洋の海底,邪神クトゥルフが死を超えて眠るルルイエの都につながってしまうのである。

 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるー るるいえ うがふなぐる ふたぐん
 ――ルルイエの館にて,死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり
 (大瀧啓裕訳「クトゥルフ神話TRPG」掲載「クトゥルフの呼び声」より)
 
 確か,それは1907年,ニューオーリンズ郊外の沼沢地で逮捕された,出自不明のヴードゥー系カルトの信徒達に関する記述に通じるものがある。
「このままでは,新宿は南太平洋のルルイエとつながってしまう」
 それを防ぐためには,あの儀式を逆回しして呪文を唱え直すしかない。
 この魔道書とあの時,使った水晶髑髏が必要だ。
 呪文を唱えるためには,霊力を引き出す古代の蜂蜜酒も必要なのだ。今なら,分かる。あの霊酒を飲まねば,〈星の落とし子〉と接触し,生きて帰ることは叶わなかった。ああ,十二社にいかねば――
 はっとして,時計を見ると十二時を回っていた。
 途中の記憶がない。
 携帯を見ると,瀬尾から電話があったようだ。

 一方その頃,発狂中の岡和田は,魔道書「水神クタアト」から,インスマス人の秘密の儀式に関する知識を得ていた。


岡和田:大変だ。このままでは,新宿は南太平洋のルルイエとつながってしまう!

瀬尾:な,なんだって〜。

マフィア梶田:いや,そういう重要な情報は,家でブツブツ言ってないで,こっちへ流してください。

岡和田:しかたない。瀬尾さんに電話しよう。

画像集#026のサムネイル/西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

瀬尾:ゲーゲーやってる最中に岡和田さんから電話が。でもこれ取ると,また正気度が下がっちゃうんじゃ。……状況が状況だし,仕方ないか。よし,「もしもし岡和田さん! 今こっちは大変なんですけど!」

岡和田:「大変だ! 新宿がルルイエに!」

瀬尾:「は? 何を言っているんです?」

岡和田:「南太平洋の底と十二社がつながって,邪神クトゥルフがですね……」

瀬尾:……岡和田君が「新宿が海底に沈む」とか言ってますけど?

マフィア梶田:さっきまでの「イア! イア!」と変わんないじゃないですか!

田中:「ああ,また肉が食いたいなあ。虚さん,おかわり。」

桜木(キーパー):「はいはい。ちょっと待ってくださいね。」

瀬尾:ああ,田中さんが取り返しのつかないことに! 「岡和田さん! とにかく大変なので,急いで来てください!」


 瀬尾と岡和田が電話している間にも事態は進む。桜木 虚と弔問客は祭壇を整えつつ,何やら儀式の準備に取り掛かっている。


マフィア梶田:宗教的には一体,何の宗派なのですかね?

キーパー:密教をベースにしつつ,世界各地の淫祠邪教が入り混じった雰囲気で,水晶髑髏に数珠がかかるあたり,真言立川流あたりかな?

岡和田:鎌倉時代に流行した呪術ですね。髑髏の上で男女が交わって,和合水を髑髏に塗るなど,宮廷内でも流行したとか。

キーパー:そうして,虚さんがあなたを振り返り,艶然と微笑む。

マフィア梶田:あら,いいですねえ,ってこれヤバくないですか?

桜木(キーパー):「大丈夫です。あなたの内なる声に従えばいいのです。大いなる教えがあなたを導きます。すべての源に帰りましょう」

マフィア梶田:あばばばば……


 ここでPOWの対抗表ロールに失敗したマフィア梶田は,前夜の出来事を思い出し,桜木 虚の誘惑を振りきれない。虚さんの背後にみえる触手が,マフィア梶田の手足を操り,虚さんを祭壇に押し倒してしまう。


キーパー:CONの3倍ロールをしてください。で,失敗したら,1D6。

マフィア梶田:失敗しました。1D6の結果は3です。

キーパー:3点のMP(マジック・ポイント)を吸われました。

マフィア梶田:すわ,このまま腹上死か。

画像集#020のサムネイル/西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」


 一方,田中はふたたび食堂に戻って肉を食べ始める。見るに耐えない瀬尾は,和室を飛び出し,編集長とデスクがいる書斎に飛び込んだ。


瀬尾:「編集長,もう帰りましょう!」

キーパー:しかし編集長は,原稿用紙の束を掴んだまま。口からよだれを垂らし,何かをブツブツ言い続けている。「傑作だ。傑作だ。傑作だ……」

瀬尾:「編集長! しっかりしてください。」

編集長(キーパー):「これはこのまま世に出さねば……。傑作だよ,傑作(ブツブツ)」

瀬尾:よだれが。あ,デスクは?

キーパー:部屋の隅で胎児のポーズを取ったまま,動かない。いや,ときどきビクッと痙攣するように動くが,瀬尾さんの声にも反応しない。

瀬尾:「駄目だ〜(と和室へ駆け戻る)」

岡和田:そこに到着。バーンと登場して一言。「謎はすべて解けた!」

マフィア梶田:「触手,触手……」

田中:「美味い,美味い……」

瀬尾:「おえぇ」

岡和田:あれ,何この大惨事?


 かっこよく登場してはみたものの,すでに混沌と化していた沼田邸。
 まったく話が噛み合わない4人だが,なんとか瀬尾が説明を試みる。


岡和田:「なるほど,分かった。だが重要なのは,新宿が海底に沈んでしまうということだ!」

瀬尾:ぽかーん。この人は何を言っているの?

岡和田:「今進行しているのは,この魔道書に書かれた,異教の儀式に違いない! 奴らは大いなる邪神の眷属なのだ!」

マフィア梶田:いや,もっと早く言ってくださいよ。

岡和田:「分かるだろう? この事態の異常さが!」

瀬尾:それは分かる。どうすればいいの?

岡和田:「儀式をやめさせるんだ。さもないと新宿は!!」


 そこでまた呼び鈴が鳴る。玄関を見ると,虚さんと先に来ていた弔問客達が,新たな弔問客を迎え入れようとしている。放っておくと,どんどん増えていきそうだ。この隙に,瀬尾と岡和田は,狂気に陥っている梶田と田中を正気に戻そうと試みる。


岡和田:「田中さん,もう肉を食べちゃ駄目だ」

田中:「お前達も,私から肉を取り上げるのだな。うちの妻と同じか!」

瀬尾:いや,そんなコレステロール対策じゃありませんから。「それ以上その肉を食べたら,あんな姿(と弔問客を指さす)になってしまいますよ!」

田中:イケメンになるなら,いいじゃない?


第十章「幻の水面」


 梶田は快楽の中,死の境界に近づいていた。
 瀬尾の叫びがなければ,さらに果て続け,生命を吸い取られて死んでいただろう。
 目を開けると,もやもやとした半透明の霊的な触手に捉えられ,少しずつ,何かを吸い取られていた。
「虚(うつろ)」
 梶田の声に,喪服姿の桜木が微笑み返す。
「私とあなたは永遠に一緒よ」

 そして,岡和田は祭壇の上の水晶髑髏が奇妙な燐光を放ち始めていることに気づく。
「あの髑髏が目覚めてしまったら,新宿は終わりだ!」


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 正気を失った田中には,異形の弔問客や虚さんの,平べったくて目と目の間が離れた顔が,美しいものとして見えているのである。ここでやっと岡和田が〈精神分析〉ロールに成功し,田中は正気に戻る。


岡和田:で,梶田さんは?

瀬尾:「(顔を伏せ小声で)……奥に」

マフィア梶田:空気読んでくださいよ。

岡和田:「そ,それは真言立川流,和合水薄濃(はくだみ)の秘儀ですね。分かります。でも,そのままだと死にますね」

マフィア梶田:ええ,気持ちいいのに〜。

瀬尾:助けるの,止めましょうか。

岡和田:いや,見捨てる訳にはいきません。この儀式を止めなければ,新宿が海底に沈んでしまいます!

瀬尾:正気を取り戻してください,梶田さん!

マフィア梶田:〈正気度〉ロールは……成功! 「俺は正気に戻った!」

瀬尾:いや,その台詞は多分,正気じゃないから。

キーパー:正気を取り戻したはいいけど,まだ半透明の触手に絡みつかれている状態だよ。

マフィア梶田:必死にもがいて逃れ出よう。

桜木(キーパー):「もう,終わり? お前も行ってしまうの?」

マフィア梶田:「(格好を付けて)いつか,またな。」

桜木(キーパー):「今,あなたの力が必要なんです」

マフィア梶田:「……」


 梶田はなんとか桜木の誘惑を振りきって和室から飛び出し,瀬尾,岡和田,田中と合流する。編集長とデスクを救うべく,書斎へ向かうが,二人とも正気に戻っていない。編集長に至っては,白紙の原稿用紙を読みながら,「傑作だ,傑作だよ」と繰り返している。
 岡和田と田中が〈精神分析〉を試みるが,失敗。正気を失ったままの2人を連れて脱出しようとするが,書斎からのぞいてみると,異形の弔問客達が桜木とともに玄関に近い居間に出てきてしまい,玄関からは脱出できそうにない。

「誰かが,呼んでいる」
 田中が酒の杯を落として呟いた。
 揺れながら,指差す先は裏庭だった。だがここは,西新宿の古い路地の奥にある個人邸宅。数メートルも歩けば,隣の敷地との境となる塀か,ビルの外壁に視線は遮られてしまう。しかし彼の見る景色は,広大な水面につながっていた。池には美しい滝が流れ落ち,岸辺には華やかな料亭が並ぶ。
「これは,弁天池の風景か」
 古地図にも詳しい岡和田が呟く。
 もう何十年も前に埋め立てられ,消えてしまったはずの弁天池。かつての景勝地,十二社の風景である。
「ふんぐるい むぐるうなふ」
 田中の口から,奇怪な呪文が流れだす。
「くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
 それは昨夜,岡和田が読んだ「水神クタアト」にある呪言。クトゥルフの星の落とし子と接触するための儀式の言葉である。
 それに答えるかのように,湖面に巨大な一本の触腕が姿を現した。

 書斎から逃げる前に,黄金の蜂蜜酒を見つけた田中は,思わずそれを飲み,庭先に押し寄せる海の景色を見てしまう。


キーパー:田中の目には,庭の先に美しい湖面が広がっているのが見える。岸辺には多くの料亭が軒を連ね,かなり賑やかな様子だ。

画像集#023のサムネイル/西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

岡和田:そう言えば,昭和30年代まで,このあたりには弁天池という広大な池があって,景勝地として栄えたらしいですね。それが埋め立てられ,後の淀橋浄水場になったとか。

キーパー:その淀橋浄水場も,戦後に移転してなくなってしまったけどね。そして田中の口からは,奇妙な呪文が,堰を切ったように溢れ出す。自分でも意識しないうちに。

田中:「ふんぐるい むぐるうなふ……」

岡和田:「(〈ラテン語〉ロールに成功)あっ,あれは昨日の呪文! このままでは〈クトゥルフの星の落とし子〉が新宿に顕現してしまう!」

瀬尾:田中さんを殴って止めよう!(ポカリ)

田中:きゅう。


 岡和田によれば,「クトゥルフの星の落とし子」を退散させる呪文を唱えるためには,昨夜の儀式を再現する必要があるという。水晶髑髏は葬儀場の祭壇にあった。蜂蜜酒は田中が抱えている。魔道書は岡和田が持っていた。
 あとは葬儀場まで行けばいいのだが,書斎から葬儀場に続く居間には,弔問客達が集まっているのだった。


瀬尾:梶田さん,ショットガン持っているって言ってましたよね?

マフィア梶田:ええ。あ,しまった! さっき服脱いだときに,祭壇のところに荷物置いてきたんだ……。

岡和田:気付かなくてもいいことに,気付いちゃいましたね。

瀬尾:じゃあサンルームから庭に出て迂回しましょう。庭から葬儀場に回れるハズです。

キーパー:ちなみに庭は今,幻の弁天池とつながって,庭先まで波が打ち寄せているよ。

一同:〈水泳〉技能なんて取ってない!


 新宿が舞台のシナリオと予告したので,まさか泳ぐはめになるとは思っていなかったプレイヤー達。やむなく建物沿いに波打ち際を走り抜けようとするが,岡和田はここでDEXの2倍ロールに失敗。波にのまれそうになりながらも,瀬尾にすくい上げられて九死に一生を得る。そうして一行は,なんとか葬儀場に飛び込んだ。


田中:ドアは2つですね。バリケードを築いて,開かないようにしよう。

キーパー:残念ながら,バリケードを組む暇もなく,ドアがきしみ始める。異形の弔問客達が,ドアの外に押し寄せているようだ。

瀬尾:田中さん! 2人でドアを抑えましょう!

マフィア梶田:よし,ショットガンと服を見つけたぞ。これで服が着られる。

瀬尾:え,もしかして全裸だったの?

田中:いいから梶田さんは,もう一方のドアを!

岡和田:では私はその隙に,水晶髑髏の前で呪文を唱え始めます!


 熟練したD&Dプレイヤーである田中が,生き生きとし始める。どうやらモンスターに追われて部屋に逃げ込む,なんてシチュエーションには慣れているようだ。
 さてここからが,今回のシナリオの正念場だ。
 詠唱が間に合うかどうかが重要な局面であるため,戦闘システムを用いてシーンを解決することにする。クトゥルフ神話TRPGにおける戦闘システムでは,1ラウンドは「数秒から12秒くらい」とされている。1ラウンドの間に,DEXの値が高い順にそれぞれ最低1回ずつ行動を行える。ただしショットガンのような銃器の場合は,接近戦より先に1発撃つことができる。
 なお儀式の呪文を唱えるには,3回の〈ラテン語〉ロールに成功しなくてはならず,1回の判定には1ラウンドを要するものとした。


岡和田:〈ラテン語〉は50%ありますから,余裕ですよ。

マフィア梶田:いやいや。今までの失敗ぶりを見ていると,全然信用できねえ!

【ラウンドの行動の順番】

○探索者側のDEX値
  • 田中:14
  • 瀬尾:12
  • マフィア梶田:11
  • 岡和田:10

○NPC側のDEX値
  • 桜木 虚:13
  • 異形の弔問客(×3人):10

【1ラウンド目】


田中:ドアを全力で押さえます。

キーパー:DEX13で虚さんがドアの向こうから呼びかける。「開けて! 開けなさい!」

一同:ぎゃあ。

キーパー:ドアを押さえている梶田と田中は〈正気度〉ロールを。失敗すると,彼女の声に従わなくてならないような気がしてくる。

マフィア梶田:成功!

田中:失敗! 「こ,これは開けたほうがいいんじゃ?」

瀬尾:次,私のターンですね。「田中さん,しっかりしてください!」と〈説得〉ロール……成功。

田中:「は。扉を押さえなきゃ」

マフィア梶田:〈ショットガン〉を構えて,扉に向けて狙いをつけます。

キーパー:構えると,次に撃つ場合の命中率にボーナスが入ります。

岡和田:〈ラテン語〉ロール1回目,行きます! 43で成功!

キーパー:岡和田は,怪しい呪文を紡ぎはじめた。続いてNPC達の行動だ。扉の向こうから,異形の弔問客達3人(合計STR27)がドアを破ろうとしてくる。ドアの強さはSTR10相当。抑えている2人のSTRは?

画像集#008のサムネイル/西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

田中:6。

瀬尾:7。

キーパー:扉のSTRも合わせて合計23だね。では抵抗表ロールをしてください。向こうが4点多いので,成功率は30%。どちらかが代表して振ること。

※前回も登場した抵抗表ロールだが,表を使わなくても次の式によって成功率を導くことができる。[判定の基本成功率]=50+([能動能力値]×5)−([受動能力値]×5)。

田中・瀬尾:どうぞどうぞ!


 両者が譲りあった挙句,結局は瀬尾が振って出目は29。なんとか成功で,ドアはまだ破られずにいる。


【2ラウンド目】


 2ラウンド目,このままではマズいと,扉に押し寄せる弔問客達を減らすべく,一行は恫喝を試みる。


田中:な,なんとか人数を減らさなければ。「下がれ! 下がらないと部屋をめちゃくちゃにするぞ〜!」

キーパー:それは〈言いくるめ〉だね。しかもかなり苦しいので成功率は半分で。ついでに虚さんの誘惑に耐える判定もやっちゃおう。

田中:き,厳しいなあ。〈言いくるめ〉は……(コロコロ)失敗。〈正気度〉ロールは成功。

マフィア梶田:ではこっちのドアも。〈ショットガン〉を天井に向けて撃ち,「入ってきたら撃つぞ!」と威嚇。

キーパー:基本は〈言いくるめ〉の半分ですが,銃声のぶん,+20%のボーナスをあげましょう。

マフィア梶田:よし! 〈言いくるめ〉と〈正気度〉ロール,どちらも成功!


 銃声にビビったのか,梶田の担当するドアは静かになった。
 田中と瀬尾が抑えているドアも,まだギシギシと音を立てているものの,今のところなんとか保っている。


岡和田:〈ラテン語〉ロール,2回目です。

マフィア梶田:大丈夫ですよね?

岡和田:大丈夫,これはマイダイスですから。ほうら成功!


【3ラウンド目】


画像集#009のサムネイル/西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」
 〈ラテン語〉ロール連続成功に気をよくする岡和田だが,ピンチは続く。3ラウンド目,田中が再び,虚さんの声に絡め取られてしまった。

田中:「と,扉,開けないと」

瀬尾:田中さん,落ち着いて〜。ぎゃあ,〈説得〉に失敗!

マフィア梶田:しかたない。俺もそっちを押さえましょう。STRは14です。

キーパー:それなら扉を抑える成功率は,70%まで上昇するね。

瀬尾:これなら行ける。55で成功!

岡和田:よし,じゃあ3回目。これが最後の〈ラテン語〉ロール……成功!

一同:おおおお。

マフィア梶田:汚名返上ですね。

キーパー:ではMPを1D6点消費してください。

岡和田:(コロコロ)5。はは,気絶しちゃいました(汗)。

キーパー:岡和田が意識を失い,倒れ込むと同時に,ドアの向こうから悍ましい悲鳴がいくつもあがる。それもやがて静かになると,扉の向こうから,この場を去っていく幾人もの足音が聞こえだした。

マフィア梶田:助かったようですね。


 足音が去った後,おそるおそる部屋を出た一行は,屋敷の中を見て回る。庭に見えていた湖面の幻影は,すでに消えていた。広間をのぞくと,そこはもうすでに無人。もはや誰もおらず,桜木 虚の姿もない。


田中:この家,こんなにボロっちかったかな?

瀬尾:なんだかカビ臭くて誇りっぽいし,天井もなんだか傾いているような。

マフィア梶田:もしかして,この屋敷は今までなにか別の力で保たれていたのかも。


第十一章「沼田家の崩壊」


 なにやら急かされるような気分がして,三人は,気絶している岡和田,おかしくなってしまった編集長とデスクを路地まで連れ出し,救急車を呼んだ。
 振り返ると,沼田阿吽の家はもはや見る影のない,廃墟と化していた。今朝,来た時には,古くはあるものの,趣のある和風住宅に見えたが,今見ると,崩れかけた安物の廃屋に過ぎない。屋根は傾き,壁はひび割れ,いつ倒壊してもおかしくない様子だ。
「君達,そんな廃屋の前で何をしているのかね?」
 救急隊員は朽ち果てそうな家を見ながら,そう言った。
 つい先日まで人が住んでいた家には見えなかった。もはや廃材の塊にしかすぎない沼田邸がそこにあった。

 救急車に編集長やデスクを乗せて病院に送り出した。警察を呼ばれそうになったが,ショットガンを隠し持っていた梶田が〈言いくるめ〉を使ってごまかして,救急車を送り出す。
 その背後で沼田邸は崩壊し,廃材の山に変わっていた。


岡和田:そう言えば,虚さんは?

マフィア梶田:また,きっと会えるさ。オレが信じている限り。

田中:実は,家に帰ったらまだいたりして。

マフィア梶田:そのオチはちょっと怖いなあ。


 かくして,沼田阿吽の生前葬に始まる奇妙な事件は終わりを告げたのであった。最後に,各人がその後どうなったかについて,分かる範囲で記しておくことにしよう。

○元編集者 瀬尾亜沙子の場合

 エログロ・ジャパン編集部の編集長とデスクが入院したことで,雑誌は休刊。ベテラン作家・沼田阿吽の死は業界に波紋をもたらし,エログロ・ジャパンに遺稿が託された,という噂も流れたが,社長の英断により,沼田の遺稿が公開されることはなかった。
 瀬尾亜沙子は,沼田のことに再び関わらないことを決意した。

瀬尾:印税も放棄します。もう二度と読みたくない。

キーパー:だけど半年後ぐらいに編集長が病院から出てきて,「これだ!」とか叫んで出版されそうな気がしますね。

田中:「関係者が次々と消えた問題作」とか,逆に箔がついたりして。

岡和田:「ドグラ・マグラ」みたいに。

○文筆家 岡和田 晃の場合

 岡和田は,結局あの事件の後も,魔道書「水神クタアト」を手放すことはできなかった。
「いとしいシト」
 「指輪物語」のゴクリのように,傍らに置いた魔道書にささやきかけ,人の皮で装丁された表紙を愛でては,本をむさぼり読む日々が続く。
 それは,彼なりの幸福かもしれない。

岡和田:「水神クタアト」が手に入ったので,個人的にはもうホクホクですよ。

キーパー:そして,また〈正気度〉ロールに失敗して大変なことに。

瀬尾:たまに奇声を発しているところを隣人に目撃され,通報されたりするわけですね。

マフィア梶田:気がつくと,死体で発見されそうですね。

岡和田:実は,水晶髑髏もここに(ニヤリ)。いつかもう一度儀式をしたいなあ,とか思いつつ,まだ正気が残っているので,その直前で踏みとどまっているという。

○マンガ家 田中としひさの場合

 あれからも時々,無性に生肉が食べたくなる時がある。
 梶田も同じらしいので,時々2人で焼肉屋に行っては,ユッケなどを食べる。
「あれはうまかったねえ」
 2人でそう言って,また酒を呑むのだった。

 2人で店を出て,新宿の大ガードをくぐる。新宿駅に向かう途中,ふと誰かとすれ違った気がした。
 振り返ると,交差点に,喪服の女が。
 田中は,女がこちらを振り返るのではないかと期待した。しかし交差点を渡る人の群れに埋もれ,すぐに姿が見えなくなった。
「まさかね」
 追いかけようかという考えも浮かんだが,それも一瞬のこと。田中は走っていく梶田を見送りながら,また新宿駅に向け,歩を進めるのだった。


画像集#006のサムネイル/西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」

田中:焼き肉屋での話のタネに,スケッチブックに虚さんを描いてみることにする。

キーパー:では〈マンガ製作〉で判定を。

田中:時間をかけて……でも失敗。

キーパー:途中までは描けたのだが,虚さんの顔がどうもうまくいかない。

田中:こんな感じだったはずなのに。

マフィア梶田:ちゃんと描けたら,夏コミで同人誌にで出してくださいよ。

田中:時間がかかりすぎるから無理でしょうね。そもそも申し込み,もう間に合わないし。

キーパー:では焼肉屋から出たところで,〈目星〉ロールを。

田中:成功です。

マフィア梶田:俺も。

キーパー:では二人は,雑踏の中に桜木 虚を見た……気がした。

マフィア梶田:ええっ。追いかけなきゃ。

キーパー:と言っているうちに,雑踏に消えてしまう。

マフィア梶田:田中さんは,追いかけないんですか?

田中:うーん,止めておきましょうか(笑)。

○ゲームライター マフィア梶田の場合

「虚!」
 梶田は叫んで走りだしたが,彼女の姿は,夜の新宿の雑踏の中に消えてしまった。
 ただ,あの館で感じた,潮風の匂いを感じたような気がしたのだ。

 そして,思った。
「あゝ,海に行きたい」と。

画像集#007のサムネイル/西新宿に浮上するルルイエを,探索者達は止めることができるのか。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,最終回「恐怖の館〜承前・新宿生前葬」


マフィア梶田:お,なんかいい感じの恋愛物に。

キーパー:ただし,クトゥルフ神話はここで終わらないことが多いのですよ。多分,あなたは思う。「海に行きたい」。

マフィア梶田:じゃあ,お台場あたりで海を見ながら,桜木 虚のことを思うとしましょうか。

瀬尾:そして,梶田さんの姿を見ることは二度となかったのであった。マル。

キーパー:そこは明らかにしないほうがいいでしょうね。


 今回の「クトゥルフ神話TRPG 新宿生前葬」は,これにてお終い。ご拝読いただいた読者には,万の感謝を送りたい。
 なお,お気づきの方も多いと思うが,今回のシナリオはラヴクラフトの代表作「インスマスの影」から始まる,いわゆる“インスマス物”の変奏曲となっている。インスマス物では,人間が宇宙的恐怖に触れることで,やがて「深きものども」と呼ばれる怪物へ変異していくストーリー展開が定番である。今回のシナリオもその可能性は十分にあったのだが……全員が(一応は)五体満足で帰れたのは,幸運(主にダイスの神)のお陰かもしれない。
 ちなみに「インスマスの影」は,ラヴクラフト作品の中でもとくに傑作なので,興味が湧いた人はぜひご一読を。

 また「クトゥルフ神話TRPG」については,エンターブレインよりサプリメント(追加ルール集)を含め,さまざまなものが出版されている。TRPG自体が初めてという人には,ゲームの様子を読み物としてまとめたリプレイ(今回の連載もその一つだ)もある。
 中でも内山靖二郎著による「るるいえ・あんてぃーく」がお勧めなので,そちらもチェックしてみてほしい。

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「テーブルトークカフェ Daydream」とは


 今回のセッションは,東京・神田にあるプレイングスペース「テーブルトークカフェ Daydream」にて行われた。この店舗は,テーブルトークRPGやボードゲームなどを遊ぶためのスペースを低価格にて提供してくれるもので,テーブルトークRPGを遊びたいけど,遊ぶ場所がないという人には,うってつけの場所となっている。
 一人での参加もOKなので,都内近郊の読者は,ぜひ足を運んでみよう。

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●営業時間
平日 18:00〜23:00
土日祝日 11:00〜22:30
定休日:第2木曜日

●利用料金(一般会員)
1名あたり,300円@30分(税込)
もしくは
平日:2250円@1日(税込) / 休日:4500円@1日(税込)
会員サービス,および利用料金についての詳細は「こちら」

●問い合わせ先
電話番号:03(5204)3156
メールアドレス:rep@trpgtime.dnsalias.net
公式サイト:http://trpgtime.hobby-web.net/first/

アクセスは,JR神田駅から徒歩6分。線路の高架沿いに歩いて,この路地(写真左)を左に入れば無事到着(地図は「こちら」
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飲食物なども店内で購入できる。一部の例外(匂いのきついものやお酒)を除いては,持ち込みも可能だ
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店内の本棚には,古今東西のボードゲーム・TRPGのルールブックなどが並んでいる。もちろんこれらのルールブックを借りて遊ぶことも可能だ
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ダイスやミニチュアなども利用可能。重たい本やフィギュアセットを持ち運ぶ手間も省けるというもの


「STUDIO CROSS TOKYO」とは


 今回の記事で使用した写真は,東京・水道橋のハウススタジオ「STUDIO CROSS TOKYO」にて撮影を行った。水道橋駅から徒歩5分という立地で,撮影に必要な小物なども揃っているので,プライベートな撮影会なども気軽に行える。普段はコスプレなどの撮影会に利用されているとのことだ。

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●営業時間(予約制)
9:00〜21:00

●利用料金(個人用途)
平日:7000〜8000円@約3時間
休日:平日料金の20%増
利用料金についての詳細は「こちら」

●問い合わせ先
電話番号:03(6273)7957
FAX:03(6273)7958
メールアドレス:girls-cross-tokyo@knowledge-next.jp
公式サイト:http://www.cross-tokyo.jp

■■朱鷺田祐介(ライター)■■
TRPGデザイナー。スザク・ゲームズ代表(BLOG:黒い森の祠)。ダーク・ファンタジー「深淵」を筆頭に,「霊障都市捜査ファイル 罪の街新宿」 「クトゥルフ神話TRPGサプリメント:比叡山炎上」など独特の作品を送り出す一方,サイバーパンク&ファンタジーRPG「シャドウラン 4th Edition」の翻訳に取り組む。「クトゥルフ神話ガイドブック」 「超古代文明」 「海の神話」 「図解 巫女」 「酒の伝説」などの著作があり,2011年よりPHP社のクトゥルフ・コミック「ダゴン」 「ニャルラトホテプ」で解説を担当している。


 
  • 関連タイトル:

    クトゥルフ神話TRPG

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