業界動向
オンラインゲーム関連各社の2011年第1四半期決算を見る
お約束ではあるが,まず記事を読む際の注意点を述べておこう。上場企業各社,決算時期が異なることから同期間での一律の比較は行いにくい。ここでは2011年4月1日〜6月30日の期間を「基準」として,それに近い各社四半期決算の内容を抜き出している。厳密には期間が揃っていない場合もあるので注意してほしい。また,事業の再編や合併などがあると,数字が大きく変動するが,業績の動向を表すものではない。利益が赤字になっていても,会社というのはそう簡単につぶれたりするものではないので,そのあたりを頭に入れておいてから以下の記事をご覧いただきたい。
ソーシャルゲーム関係各社の今第1四半期の決算を見る
https://www.4gamer.net/games/104/G010481/20110808043/
2011年第1四半期,コンシューマゲーム関連各社の決算を見る
https://www.4gamer.net/games/000/G000000/20110812030/
●ゲームオン
全体にほぼ安定していたものの微妙に下降傾向にあった売り上げが,ここにきて持ち直している。「A.V.A」の好調や「くろネコONLINE」のサービス開始などによるところが大きいようだ。最近はオンラインゲームタイトルを携帯電話用に展開するなど,新しい動きも始まっている。
既存タイトルだけでも売り上げは安定しているものの,やはり新タイトルは売り上げに大きく影響する。「PRIUS ONLINE」「ALLODS ONLINE」が不発気味だったので,最近サービス開始された「C9 [Continent of the Ninth]」に期待がかかるところだ。新作予定では,ブラウザゲームのほかにも,たくさんの弾を持っているので,それらの展開がいつになるのかにも注目しておきたい。
●ガンホー・オンライン・エンターテイメント
このところ安定した利益を上げているガンホー。「ラグナロクオンライン」と「エミル・クロニクル・オンライン」が好調とのこと。前四半期から「トイ・ウォーズ」なども加わっているのだが,今回の決算短信ではとくに触れられていない。一定の貢献はしていると思われるが,MMORPGほどの利益は出ていないようだ。
「ラグナロクオンライン VIOLET」や「ラグナロクオンライン Mobile Story」など,スマートフォン用アプリが好評とのことだが,モバイルコンシューマ部門はまだ黒字化していない。売り上げは大きく伸びているものの,損失も大きくなっていることから,かなり積極的に開発案件が動いているものと思われる。他社のスマートフォン戦略の多くが,利益率の高いソーシャルゲームを中心にしているのに対し,現状の同社では単発アプリが多い。ソーシャルゲームについては,FilMeeeをプラットフォームとしたものを展開していく予定となっており,FilMeee自体が普及するか否かで,今後の展開が大きく変わってきそうだ。
●アエリア
ゲーム部門は概ね好調で,とくにアクワイアの「AKIBA'S TRIP」が好調で増益。オンラインゲームでも,全世界で会員数2000万人を突破した。とはいえ,海外比率が高いので,このところの円高の影響もあって,こちらはあまり利益には結びついてはいないようだ。
アエリア本体では黒字を出しているのだが,持分法による投資損失などによって生じた特別損失で赤字となっている。これは,連結会社ではないものの,持ち株比率の多い関連会社分の赤字を分担したためのもの。アエリアという会社は,かなり前には,いろんな事業に手を出していたのだが,現在では組織整理してオンラインゲーム関連の専業になっている。とはいえ,なかなか身軽になりきれないようだ。今四半期の赤字が7900万円ほどだが,そのうち7700万円程度が持分法による投資損失なのでかなり足を引っ張っているといっていい。
●フェイス
ゲーム部分については動向がはっきりとしないが,コンテンツ事業自体の収益は悪化している。経費削減などで利益を確保しているものの,着メロを中心とした事業は縮小傾向だ。一方,電子マネー事業は絶好調なのだが,すでにKDDIへの売却が決まっている。
フェイスという会社自体は,コンテンツ配信を得意としており,日本初の商用音楽配信や着メロ配信システムを開発した実力を持ち,電子マネー事業の展開でも先見の明のあるところを示している。好調な電子マネー事業を切り捨てて,それを原資に同社が取り組むのが,次世代のコンテンツ配信基盤だという。「マルチコンテンツ&マルチプラットフォーム」ということで,かなり大規模なシステム作りを計画しているようだ。おそらく将来的にはゲームにも関係してくると思われるので,頭の隅には入れておきたい。
●ソネットエンタテインメント
ここもグラフだけではゲーム関連の動きが見えづらいのだが,ゲームポットなどを含んだメディア・エンタテインメント事業の数字を見ると,昨年同四半期と比べて売り上げで18.4%アップ,営業利益では実に86.9%のアップとなっている。
とはいえ,これは主に医療関連サービスを行っているエムスリーが好調だったことによるもの。エムスリーは独自に決算を発表しているので調べてみたところ,20社程度の合計と思われるメディア・エンタテインメント事業全体よりもエムスリー単体の営業利益のほうが大きいことが分かった。エムスリーを抜くと,前年比売り上げは19%増,オンラインゲーム部門については,構造改革で経費削減が実現されており,収益状況は好転しているとのこと。
●ベクター
昨年度末に落ち込みを見せていたベクターだが,今四半期は復調している。ベクターというと,なんとなく古くからお馴染みの会社という雰囲気もあるのだが,PCオンラインゲームでは,GAMESPACE24やベルクスの取得後に独自で展開していたものの,ベクター自体が始めたタイトルでは,これまで大型タイトルの取得というのはなかった。だが,「Finding Neverland Online -聖境伝説-」で30万人の登録を集めて状況は変わりつつある。決算資料によると,今後は,大型タイトルの取得を強化し,今四半期は売り上げを落としたモバイルゲームでも,今後は大型タイトルに力を入れていくという。
AmazonのPCソフトダウンロード販売参入で,ソフトウェア販売事業への影響は避けられないところ。今後は,ゲームの比重がさらに上がっていくかもしれない。
●サイバーステップ
サイバーステップは,この時期で会計年度末決算となる。動きの激しかった近年の流れを思えば,安定してきているようにも見えるのだが,内情は大変そうだ。実は,今四半期は赤字見込みだったのだが,北米でサービスが本格化した「ゲットアンプド2」と「コズミックブレイク」の売り上げが予想を上回り,国内売り上げも好調だったため,大きな上方修正となっている。半面,ライセンス料が控除範囲を超えてしまったため,税金で利益を落としている。海外売り上げ比率の高い会社だけに,今後は円高の影響なども懸念されるところだ。
●ガーラ
ガーラは海外でgPotetoを展開しており,日本よりも海外での売り上げ比率の高い会社だ。gPoteto以外でも自社版権のゲームを世界各地でサービスしている。
国内では「IL:Soulbringer」のサービスを開始したものの,まだ収益には貢献せず。しかし,アメリカでの展開が軌道に乗り始め,好調だった欧州ではさらに売り上げを伸ばす展開になっていることから,四半期での売り上げは過去最高を記録している。世界各地へのライセンス展開が続いているので,円高への懸念はあるものの,今後の展開に期待したい。
●インデックス・ホールディングス
たしか,昨年度末決算の記事のTweetでは最も注目を浴びていたインデックス。グラフ全体を見ると変動がもの凄いのだが,四半期で300億円の売り上げがあった時期(最近のディー・エヌ・エー並)と比較する形になっているから差が大きいのであって,現在でも軽くミクシィくらいの規模の会社であり,事業整理で規模自体は小さくなったが,それでもまだ相当大きな部類に入る。
それでもこのところ落ち着いてきたのかなと思っていたら,アニメ制作のマッドハウスが連結から外れたほか,ロッソインデックスの売却が発表されるなど,まだまだ再編の途上のようだ。
ゲーム関係では,「真・女神転生」「ペルソナ」のソーシャルゲーム化などで収益を上げており,アトラスを吸収した効果は出てきている。
ネット&ゲーム事業,モバイルデバイス事業,映像事業のうち,ゲームと映像は黒字。モバイルデバイスの赤字額も映像事業の黒字で相殺される程度であり,合計数値は黒字のはずなのに,ここまで利益が減る理由が実はよく分からない。会計方法が変更されたことで多少の影響があることは確認したが,さほど大きなものには思えなかった。
●サイバーエージェント
ジークレストを擁するサイバーエージェント。アメーバ関係も好調だが,ネット広告もいまだ成長中。前年同四半期と比べると,新しく始まったアメーバピグへの広告などで収益は大きく上がっている。
ゲーム関係を含むメディア事業も堅調で,ソーシャルゲーム事業の拡大により営業利益を47.4%伸ばしているようなのだが,PCオンラインゲームについては,最近ほとんど大きな動きがないのが寂しいところだ。
●ケイブ
今回,コンシューマとオンラインのどちらの分類にしようかと迷ったのだが,すでにオンライン関連が売り上げの8割近くになっているとのことで,今回はオンラインゲーム関連企業に分類している。今年度より事業再編も行われており,ソーシャルメディア・アプリ事業,インフォーメーションプロバイダ事業,オンライン事業,ゲーム開発事業の4つのセグメントに再編成された。そのうち3つはネットワーク系であり,主に「しろつく」のヒットによって,会社の体制はソーシャル中心に大きく変わっている。コンシューマゲームメーカーのソーシャル対応では,AQインタラクティブと並び,もっとも成功した例といえるかもしれない。
ちなみに,今四半期は震災の影響で全体に伸び悩んでいるものの,それでもすべての事業で利益を上げている。ゲーム開発部門の利益率も3割近くと決して悪くはないが,ソーシャルゲームの利益率は8割近くになっており,ソーシャルに力を入れるのも無理はないという感じだ。
さて,こういった決算発表は,各社まちまちに行われるものなので,今回の四半期決算では,全体が出揃うまで待つのではなく,3つの分野に分けて掲載してみた。この方法だとそれぞれの業界内での動向をつかむには問題がないのだが,業界の全体的な動きは少し見えにくくなっているかもしれない。今後の検討課題としておこう。日本のゲーム業界全体の動静をつかむには,3つの記事を横断的にご覧いただくのがよいだろう。
すでに関連各社の動向を1本の記事で独立させていることからも分かるように,昨今のソーシャルゲームの隆盛は,もはや一つのジャンルというよりも,新しいゲーム市場として広く認識されている。多くの会社が注目しているのは事実だが,対応に関しては各社まちまちといった感じだ。今回熱かったオンラインゲーム業界については,先日掲載したコンシューマゲーム業界ほどには,ソーシャルゲームの影響は出ていないといっていいのではないだろうか。引き続き,今後の推移を見守りたい。
ソーシャルゲーム関係各社の今第1四半期の決算を見る
https://www.4gamer.net/games/104/G010481/20110808043/
2011年第1四半期,コンシューマゲーム関連各社の決算を見る
https://www.4gamer.net/games/000/G000000/20110812030/
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