― 連載 ―


アロンダイト(Alondite)
 アーサー王伝説とランスロット 

Illustration by つるみとしゆき
 アーサー王と円卓の騎士といえば,ファンタジーを語るうえで欠かすことのできない存在である。アーサー王が石から剣を抜く話や,円卓の騎士による聖杯探索など,有名なエピソードも多い。本連載の第1回でもアーサー王とエクスカリバーを紹介したが,円卓の騎士についても知りたいという声を聞くので,今回は円卓の騎士の中でも最も実力があり,物語に大きな影響を与えたランスロット(Lancelot)と,彼が使ったとされるアロンダイト(Alonedite)について紹介しよう。
 アーサー王伝説に登場するランスロットは,ベンウィックのバン王とエレインの間に生まれた。あるとき,バン王はクラウダス王に攻められていた。バン王は抵抗したがクラウダス王の戦力は圧倒的で,ついにバン王のトレベス城は落城してしまう。そこでバン王は,妻のエレインと赤子のランスロットを連れて落ち延びることにしたが,逃げる途中で落城するトレベス城を見たバン王は,悲しみのあまり倒れてしまった。エレインは赤子のランスロットを置いて王に駆け寄ったが,王はすでに息絶えていた。しかし,悲劇はこれだけではなかった。エレインが振り向くと,そこにはランスロットの姿はなかったのである。なお,一部にはエレインが湖の畔にランスロットを置き去りにしたという説もある。

 湖の騎士ランスロット 

 落城とともに姿を消したランスロットは,湖の貴婦人ヴィヴィアンによって彼女の城へと連れ去られていた。ヴィヴィアンの城は魔法の力でカモフラージュされており,知らない人間には湖に見えるという不思議な城で,ランスロットは18才まで,この城で騎士として武術や作法を学んだ。こうした事情もあって,人々はランスロットのことを湖の騎士と呼んだという。
 ランスロットは,18才になるとキャメロットへ行きアーサー王に仕えた。彼は華麗で馬上試合でも負け知らずということもあって,多くの女性から熱い眼差しが注がれることになった。ただし,その中にはアーサー王の后であるギネヴィアも含まれており,これが後々,円卓の騎士に災いをもたらすことになる。

 アーサー王への忠誠と,王妃ギネヴィアへの愛で板挟みとなったランスロットは,アーサー王の右腕として数々の武勲を立ててはいたが,王妃ギネヴィアとの密会を続け,それは宮廷中の噂になっていった。さらにランスロットの失脚を狙うアグラヴェインとモードレッドの企みによって,密会の現場に踏み込まれたランスロットは追われる立場となり,結局自らの領土であるフランスへと逃げた。
 アーサー王は兵を集めてランスロットを追撃したが,ランスロットは防戦ばかりで反撃しようとしなかった。しかし,この戦いは長くは続かなかった。それはモードレッドがアーサー王の座を我がものにしようと反乱を起こしたからである。アーサー王はモードレッドを倒すために軍を戻したものの,苦戦してしまう。これを見た円卓の騎士のガウェインは,ランスロットにアーサー王を助けてほしいと手紙を書き,ランスロットは全軍を率いて加勢に向かう。だが間に合わず,アーサー王はモードレッドを討ち果たしたものの,戦いで致命傷を負って死んでしまった。
 アーサー王を失ったショックからかランスロットも伏してしまい,やがて息を引き取ってしまうのである。

 アロンダイト 

 かなり駆け足でランスロットの一生を紹介したが,アーサー王伝説の中には聖杯探索,巨人との戦い,嘆きの姫の救出劇,モルガン・ル・フェイによってギネヴィアへの愛を確かめられる話など,彼のエピソードは多い。また数々の戦いの中で,ランスロットを始めとする円卓の騎士が活躍するシーンには心躍らせられることだろう。
 ランスロットは戦場でも大活躍したわけだが,彼が振るったとされる剣がアロンダイトだ。実はランスロット個人の実力がめざましいということもあって,剣のほうにスポットが当たることはなかった。おそらく当時の歴史を考えると,形状は両刃の片手/片手半の剣だったのだろう。しかしどこで作られたのか,何かしらの力を持っていたのか不明である。
 とはいえ,アーサー王との戦いでもエクスカリバーを受け止めているどころか,王の身を案じて打ち込まないほどの余裕があったわけだし,ギネヴィアとの関係が明るみに出てしまったときも,追撃してきた円卓の騎士であるガレス,ガヘリス,アグラヴェインを斬り殺している。さらに記述の中には刃こぼれしないと書かれていることもあって,どう考えても超自然の力が作用しているように思えてならない。
 これは勝手な憶測だが,ランスロットの育ての親であるヴィヴィアンが持たせたものなのかもしれない。ヴィヴィアンはアーサー王の助言者として活躍した魔術師マーリンを,塔に幽閉するほどの魔力の持ち主。その彼女からの贈り物であれば,かなりの名剣であってもよさそうだ。

 当時の騎士道では見返りを求めず,愛する女性に勝利を捧げることが崇高だとされていたそうだが,一線を越えてしまったうえに円卓の騎士を崩壊に導いてしまったことを考慮すると,ランスロットは優秀だったが完璧な騎士ではなかった。
 ギネヴィアの危機には誰よりも先に駆けつけて戦い,ときには自らの命を賭けて決闘に勝利し,ギネヴィアの無罪を主張。今日もランスロットの人気があるのは,騎士道よりも愛に生きる人としての道を貫いたからなのかもしれない。



■■Murayama(ライター)■■
Murayamaが酒飲みだという話は過去にも何度かしてきたが,このたび家にあった酒の空き瓶を一斉処分することにしたらしい。なんと50本以上もあった酒瓶は,簡単に持ち運べるような代物ではなく,しかもエレベーターがない5階建てマンション(それって合法建築物?)の5階に住んでいるMurayamaにとっては,まさに地獄。でも早まってベランダから投げ捨てたりしてたら,今ごろおポリス沙汰でしたね。