― 連載 ―

5人の問題児を無事卒業まで導く育成ゲーム「卒業」。授業の結果はこのような形で切り替わりながら表示される。ちなみにこの画面が中本伝説の(?)「眼鏡半ずらし」
 前回に引き続いて,キャラクターゲームの里程元標となった作品を取り上げよう。お題は「卒業 復刻版」,次回からは今日的な作品に戻る予定なので,すでに詳しくご存じの方も今しばしお付き合い願いたい。
 本作はもともと,前回紹介した「プリンセスメーカー」に端を発する「育成ゲーム」の一つとして1992年に産声を上げた。私立清華女子高校の教員として問題児5人の指導に当たり,無事に全員を卒業させるゲームなのだが,好評を博して当時の主要PCプラットフォームのほぼすべてに移植され,さらにコンシューマ移植版のブレイクでその地位を不動のものとした。
 その後,続編の「卒業II Neo Generation」,実写版の「卒業R」,アドベンチャーゲームの「卒業クロスワールド」と「卒業バケーション」,さらには育成+アドベンチャーになった「卒業III ウェディングベル」など関連タイトルも多数ある。
 本シリーズと舞台を共有する作品というところまで広げれば「お嬢様捜査網」や「センチメンタルグラフィティ」(ヒロインの一人が清華女子高校の生徒)がそうだし,卒業のキャラクターを使って社会人の恋愛を描いた「結婚〜〜Marriage〜」,女性向けゲームにした「卒業M」など,いくつあるんだと言いたくなるほど派生作品の多いシリーズなのである。

 で,なぜこのゲームが今になって復刻されたかというと,1998年の卒業IIIを最後にリリースが途切れていた本シリーズに,今年(2005年)6月に新作「卒業 Next Graduation」が加わることになっているのだ。この作品には初代「卒業」のキャラクター5人の子供(中学生)を,過去の実績を買われた同じ教員が指導するという,なかなか破天荒な設定になっている。……高校教諭と中学教諭って資格別じゃなかったっけ?
 なお今回紹介する復刻版は,PC-98版をWindows上でエミュレーションする形で動作するようにしたもの。後述する"あの"キャラクターボイスもそのままなので,ある意味お楽しみである。


夏休みは各生徒とも海に出かけて休みを満喫したりする……のだが,生徒によっては夜の街でアルバイトをしたり,陰でタバコ吸ったりということもある
 先生ことプレイヤーが指導するのは,気が強く何かと反抗的な新井聖美,タカビーなお嬢様の高城麗子,ちょっと頭の弱いミーハー娘の志村まみ,体力が取り柄の体育会系娘加藤美夏,秀才だが堅物で病弱な眼鏡っ娘の中本静という5人。歴代作品のキャラ名には元ネタがあり,卒業ではザ・ドリフターズ,IIはクレージーキャッツ,クロスワールドではやすし・きよし,バケーションではてんぷくトリオ,IIIではちょっとひねって「卒業」という歌を唄った歌手(尾崎・菊池・斉藤・松山・渡辺)となっている。
 キャラクターゲーム黎明期の作品であるためか,個々のキャラにバックストーリーは存在しない。そもそもゲーム全体にストーリーらしいストーリーのない純然たる育成ゲームなのであって,ゲーム内では大まかな性格設定とパラメータ変動に基づくイベントが発生するくらいだ。
 キャラクターデザインは当時ブレイク中だった竹井正樹氏。そして何より驚くべきは,PCがPCM音源機能など持っていなかった1992年にキャラクターボイス付きで登場したことであり,これがヒットに大きく貢献したのは間違いないだろう。
 PC-98シリーズを代表とする当時のPCで,どうやって人の声を再現したのか? これがなんとビープ音の高速オン/オフという,すごいんだかすごくないんだか分からない方法だ。音質はお世辞にもよいとは言えないが,当時はPCから声が出るということ自体,本当に新鮮だったのである。ちなみに復刻版ではこのビープ音ボイスをPCMエミュレートで聞くことになるわけで,今やとうてい思いつかない回り道なわけだが,これはこれで貴重だし,コンシューマ移植以前のオリジナルキャストでプレイできるのは歴代作品のファンにとって重要なポイントかもしれない。

 卒業の"歴史的業績"は数々ある。コンシューマ移植時の新キャストとして当時の人気声優を起用したことは声優ブームの布石ともなり,本作に関連していち早く声優の登場するホールイベントなどが開催されている。オープニング/エンディングに声優による歌を収録したのも恐らく初めての試みだろう。
 また,設定はあるがストーリーはないという本作の構図は,派生作品のよい土壌となった。アンソロジーコミックや小説,OVAやキャラだけを使ったアナザーストーリーなど,後にキャラクターゲームで定番商法となるメディアミックス戦略は,すでに本作で一通り試されているのである。

高城麗子

高飛車でプライドの高いお嬢様。高城コンツェルン令嬢で富と権力をカサに着る強気なタイプで,ワンレン・ソバージュの髪型は当時の流行である。初期の[人気]こそ高くないが,そのほかのパラメータはおしなべて高いので,指導に手間はかからないほうである。(CV:大野由佳/冬馬由美)

新井聖美

何かと教師に反抗する不良娘。くるぶしまでのロングスカート,スカーフなしのセーラー服という80年代風不良スタイルは,現在はもちろんのこと1992年当時でも絶滅危惧種だったハズ。家はバイク屋で趣味はバイクを飛ばすことという設定も,それに輪をかけている。初期の[人気],学力系パラメータともに低いので,手を焼くキャラだ。(CV:林理恵/鶴ひろみ)

志村まみ

ちょっと頭が弱めのミーハー娘。学力系パラメータが致命的に低く,サボりがちなので育成の先が思いやられるが,[人気]は高いので比較的扱いやすいキャラだ。PC-98版/コンシューマ版ともに"高周波系"のボイスが当てられており,インパクトは強い(CV:鉄砲塚葉子/金丸(芳野)日向子)

加藤美夏

熱血体育会系。実家は蕎麦屋で看板娘。小説によると実家の長寿庵の名物メニューは「鴨南蛮マヨネーズ蕎麦」だそうで,正式設定としてクロスワールドにも登場している。体育祭でアンカーに指定すればかなりの確率でトップが取れる。体力以外に秀でた点はないが,初期の[人気]が高いので扱いやすい生徒である(CV:関根明子/嶋方淳子)

中本静

病弱な秀才眼鏡っ娘。初期パラメータでは体力があまりにも低いため,すぐに過労状態になって倒れてしまう。「怪しいアルバイト発覚」イベントのインパクトも有名だが,[人気]が高くかつ上機嫌状態での眼鏡を半分ずらした立ち絵にK.O.された眼鏡っ娘属性のプレイヤーが続出したらしい。ちなみにこのキャラだけボイスキャストに変更がない(CV:久川綾)


生徒の指導は,週の頭と中間に各キャラが出す「これからの予定」を基に,誰のスケジュールを変更するか決める。それにしても,ディスコやら映画鑑賞やら夜遊びやらが満載された予定表を教員に提出してくるとは,実にいい度胸である
 ゲームシステムはいたってシンプル。プレイヤーは教師として生徒のカリキュラムを組み,指導を行うのだが,なぜか全員を同時に指導できないのがミソだ。一週間は前半/後半に分かれるが,それぞれで直接指導できるのは一人だけ,ほかの4人は自主的に作成したスケジュールを実行する。うーん,どういう学校なんだろう?
 直接指導してパラメータを上げても,以降のカリキュラムで元の木阿弥になったりする。プレイヤーはそれにめげず,体育祭などのイベントでよい成績を出す,定期テストの正答率を上げるといったことで[評価]を上げていくのだ。

 とくに[体力]パラメータは一定以下になると過労状態になり,放置すると病気になって学校を休んでしまう。例えば同時に二人が過労気味の場合,どちらかにしか指示を出せず片方が倒れてしまうといった事態が頻発する。中本の体力が絶望的に低いので上げることを優先したら,その間に新井の[品位]が下がって不良化する,高城の品位が上がりすぎてタカビーになるというのがこのゲーム的風景なのだ
 キャラクター間には相性もあり,相性のよいキャラクターが同じ日に同じ課題を実行するとパラメータの上昇にボーナスが付く。教師の側にもパラメータがあり,各キャラとの相性も生じる。
 そして,パラメータの状況と乱数次第で各キャラによろしくないアルバイトや喫煙,同棲などの不祥事が発覚することもあり,評価が下がってしまうこともある。休日に「街に出る」や「追跡」で素行調査を行って突発的な発覚を防ぐのが自衛策だが,何か人としてスレスレな行為のような気もする。

定期試験の様子。試験というよりクイズみたいな問題が10問出され,その結果で成績と評価が決まるのだが,ネタはガミラスやらM78星雲やら…… 清華女子高校には体育祭や演劇祭といったイベントがある。教師はこれらのイベントで生徒に何をやらせるか決めるのだが,実は体育祭ではリレーの出走順の決定,演劇祭では演目とキャストを決めるだけである。それでいながら生徒達の[評価]に大きな影響が出るので,その余地があるかどうかはともかく,熟慮しよう

週末には生徒がハメを外しすぎないか監視できるが,追跡して素行をチェックする教師となると,今のご時世では論点が変わっていそうである 「高城が深夜のキャバレーでアルバイト」発覚。それにしても深夜にそのテのお店に出かけていったほうの,教員としての体面はどうなるのだろう? しっかり指導すれば生徒は無事に卒業し,それぞれの道へ進む。その後10年以上,新作で彼女たちの子供を受け持つハメになるとは,教師本人にも想像できまい


 このようにちょっと妙なところのあるシステムだが,続編の卒業IIでは平日は同じ科目を全員に指導するようになり,席順の設定もあってこれが指導効率と相性に絡むなど,より学校らしい形になっている。
 キャラクターのインパクト付けやストーリー描写の手法について,初代卒業登場時と今とでは隔世の感があり,その"古さ"は今さら言及するまでもないが,前述したキャラクターボイスの件など,歴史的存在として興味深いのはまぎれもない事実だ。
 キャラクターゲームの歴史を作ってきた同シリーズの系譜に連なる新作「卒業 Next Graduation」が,どのような形で時代に斬り込むのか,興味は尽きない。

同梱の「卒業II〜Neo Generation〜」では比較的普通に一斉指導を行うようになった。生徒の席順もポイントで,前席と後席,隣り同士の関係などをうまく調整して,生徒を指導する 同じく卒業IIの授業風景。前席のほうが後席より成績が上がりやすい,隣り合った生徒は仲良くなりやすい(仲が悪いとケンカになりやすい)など,なかなか奥が深い 初代卒業と同様に,卒業IIでも週末には補習などを入れられる。また,週末の予定も指導可能になった。生徒にしてみればずっと先生に指導されっぱなし。ちょっと微妙な気が


■■柿島真治(ライター)■■
古典的なハードSFにも詳しいゲーム&ハードウェアライター。実年齢は担当編集とそれほど開いていないはずなのだが,最近若い人達が先行作品を踏まえずにSFのなんたるかを語るのに出くわして,気まずい思いをすることが多いと嘆く。その彼が「卒業」について語り始めたということは,先生,キャラクターゲームの道も長く険しいと言いたいわけですね?
タイトル 卒業 復刻版
開発元 ワンダーファーム 発売元 IRIコマース&テクノロジー
発売日 2004/07/23 価格 5040円(税込)
 
動作環境 Windows Me/2000/XP,Celeron/500MHz以上(800MHz以上推奨),メモリ 64MB(128MB以上推奨),DirectX 5以降に対応したサウンドカード

(C)ワンダーファーム,TENKY,JHV (C)IRIコマース&テクノロジー