― 連載 ―

男手一つで娘を育てるゲーム「プリンセスメーカー」。この画面は娘が10歳のときで,誕生日を迎えると娘の姿は変わるが,服を着替えさせるのはお父さんの仕事(?)らしい
 今回はいささか趣向を変えて,キャラクターゲームのマイルストーンとなった作品を紹介してみよう。ガイナックスの「プリンセスメーカー リファイン版」は,1991年に登場した育成ゲーム「プリンセスメーカー」のWindows移植版で,ストーリーやゲームシステムはそのままに,グラフィックスをフルカラーにしてキャラクターボイスを付けた製品だ。
 魔王との闘いで国を救った勇者ことプレイヤーは,次世代の希望を育むべく,10歳の娘を引き取って18歳まで育てるのだが,パラメータの伸ばし方しだいで娘の将来はドラスティックに変わる。14年前には"にわかパパ"を量産した画期的な作品だったわけだが,当時を知らない方,あるいは"リファイン版"の登場を知らなかった方も多いと思われるので,あらためて紹介したい。


娘の疲れを取り,情緒を育てるバカンス。美しい自然の中で生き生きとした笑顔を見せる姿に,心和むひととき……とか書くと美しいが,本作では貴重なイベントシーンである
 娘は10歳の年の3月31日に,プレイヤーのもとにやって来る。この娘にアルバイトや習い事をさせつつ8年間育てるのだが,娘の教育に必要な費用は事実上すべて娘のアルバイトで稼ぎ出さねばならない。救国の英雄なのにそりゃないだろという気もするが,そういう設定なのである。まあ,そんな細かいことを気にするくらいなら,所帯も持たずいきなり養女を持ってしまう主人公の非凡な考え方にこそ,まずツッコミが入るべきであろう。

 閑話休題。娘のその時点の能力値によって行動の選択肢こそ変わるものの,本作には育成途中でのストーリー分岐はない。また,どんな育て方をしても表示される娘の姿は1種類で,年齢に伴って変わるのと,病気中や不良化したときに顔つきが変わる,季節ごとに服を替えられるといった程度。ごくあっさりしたグラフィックス表現である。
 育成を重ね,娘が18歳を迎えた後の4月1日が「運命の日」となる。娘の成長度合いによって,それぞれに異なる人生がエンディングとして語られるのだ。製品名にもあるように,目標はプリンセス,すなわち王子の目に止まって妃になることだが,そう簡単にいかないのがミソ。平凡な結婚をする,武芸の道を選ぶどころか,夜の蝶になってしまう場合すらある。お父さんの責任は重大なのだ。

「プリンセスメーカー リファイン版」における娘さん。魔王を倒して王国を救った英雄たるプレイヤーのところに養女としてやってくる。泣きぼくろがあったりと,今風の萌えキャラとはかなり勝手が違う感じである。年齢は10歳,18歳まで育てる過程でグラフィックスも変わっていく。名前や性格はプレイヤーが決めるのがこのゲームである。(CV:鶴野恭子)

ちなみにこちらが「プリンセスメーカー2リファイン版」の娘さん。お父さんの経歴は前作とほぼ同様だが,おうちにナビゲーターキャラの執事がいたりするので,やや裕福なのかも。こちらの作品だと,娘は天から授かった(降りてきた)という設定で,年齢は同じく10歳,感情表現はかなり豊かになっている。(CV:西村ちなみ)


街に買い物に来たところ。武器や兜,鎧のほかに,ぬいぐるみや本,詩集なども揃っている。娘の状態と伸ばしたい方向に合わせて,相応しいアイテムを買い与えよう
 プレイヤーが行う育成は,次の月に娘に何をさせるか上・中・下旬で三つの行動を選択するのがメイン。ほかに,娘に話しかける,街で買い物をする,王宮に顔を出すといったことも可能だが,これらではゲーム内時間は経過しない。
 アルバイトで選べる職種が典型なのだが,娘が成長するにつれて行動の選択肢は増える。教育項目には武芸・学問・礼法があり,このうち武芸と学問には初級/中級/上級があって,それぞれ費用と効果が異なる。
 そのほかに"武者修行"に出すという選択肢もあるのだが,そもそもプリンセスを目指すゲームに武者修行なる設定が必要なのかどうか。実際"プリンセスメーカー"と銘打ってはいるが,それ以外のエンディングも別に失敗ではないし,例えば「あやしいバイトは一度たりともさせない」とか「バカンスは毎シーズン欠かさず行く」といった独自の教育方針で,違う物語を作り出していけるのが本作の面白みなのである。
 アルバイトも教育も,娘の状態が良くないと失敗することがあり,前者なら収入が得られず,後者では費用だけかかって身につかない。そんな日が増えてきたら娘とバカンスに出かけ,リフレッシュさせるのがよいだろう。
 このゲームでは娘の[評価]パラメータがエンディングを大きく左右するが,秋の収穫祭で催される"武闘会"と"ミス王国コンテスト"で優秀な成績を収めれば,評価は大きく上がる。

スケジュールは10日単位で指定する。日曜日は休みになり,アルバイト料や教育費は日割り計算される。これはすべての職業を選べるようになった16歳以降のアルバイト選択画面だ アルバイトの様子はポップアップウィンドウで表示される。どの能力が伸び,どれが落ちているかは右下に表示されるが,今一つ見づらいのできちんとステータスを確かめるようにしたい 町の外へ武者修行に向かうところ。さまざまな敵に遭遇して危険だが,体力や経験値を伸ばせる,ときに宝箱が見つかる,無事帰って来れば評価が高まるなど稼ぎどころでもある

秋の収穫祭で行われる武闘会の試合画面。ライバル達はそれぞれに手強く,優勝できるかどうかはトーナメントで誰と当たるかに左右される。娘を鍛えておく以外にできることはない ミス王国コンテストのライバル達。審査項目には,色気・プロポーション・気品の3部門に加えて総合優勝があるのだが,実のところ審査員はお金で買収できてしまうのが面白い 「木こり」のアルバイトとバカンス,「休ませる」だけで育ち,運命の日を明日に控えた娘。腕力のみで色気も気品もゼロなのに,父の工作でミス王国コンテスト3連覇の実績も持つ


 育成は「こっちが伸びる代わりに,あっちが落ちる」という選択肢の連続になるのだが,パラメータの足し引きはきちんと非対称なので,目標に合ったローテーションをうまく見出す必要がある。キャラクターゲーム分野が明確な"別モノ"になっていない時代の作品だけあって,プレイバランスはそれなりにシビア,初回のプレイは芳しくない結果に終わることが多いだろう。だが,そこで思い知らされる"父としてのふがいなさ"が再挑戦の動機付けになるわけで,キャラの持つ威力はきっちり生かされている。
 システムをきちんと理解すれば,プリンセスにいたる道はさほど険しくはないので,2度目にはそこそこに評判の良い娘に育ち,3度目か4度目には目指したとおりの結末が得られるだろう。

 育成プロセスそのものを楽しませる要素が少ないのは,現在の目から見るとさすがに弱いところだ。その点,例えば続編の「プリンセスメーカー2」では,さまざまなイベントで目先を変えつつ,エンディングへの伏線を仕込む形へと進化している。
 ともあれ本作が多くの"育てゲー"のルーツになったのは間違いないし,"男手一つで娘を育てる父親"を意図的に演ずるという,すれすれな感性は今にいたるまで個性的だ。当時から女性プレイヤー率の高かった作品であるが,プレイしていた彼女らが果たして本作の微妙な"業の深さ"に思いを致していたかどうか,今更ながら聞いてみたい気がする。
 なお,ガイナックスからはこのほかに「プリンセスメーカー2リファイン版」が発売されており,今年(2005年)3月末にはPlayStation 2用の「プリンセスメーカー4」も登場する。娘達は首を長くして21世紀のお父さん志願者を待っているのである。

前出の娘にはその腕力を見込んでお声がかかった。話はさらに続いて,その非凡な能力に見合った地位に就いたりするのだが,それはプレイしてのお楽しみ リファイン版のセーブデータを読み込ませて作った元祖PC-98版の画面。16色のタイルパターンとフルカラーの違いは歴然たるものだが,こんなことも可能である これは「プリセスメーカー2リファイン版」の画面。基本的なゲームシステムはほぼ同様だが,イベントは多彩になり,エンディングにいたる過程も描かれる


■■小笠原 陽介(フリーライター)■■
PC-98と共に栄え,共に滅んだとニコニコしながら自称するフリーライター兼コラムニスト。キャラクターゲームに造詣はないと言い張るが,この原稿を依頼するや否や,自前のPC-98版「プリンセスメーカー」を発掘してくるあたりからしてタダ者ではない。それにしても,当時のフロッピーがよく生きていたものである。
タイトル プリンセスメーカー リファイン版
開発元 ガイナックス 発売元 サイバーフロント
発売日 2003/03/06 価格 8190円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/XP(+DirectX 6.1以上),CPU:Pentium II/300MHz以上,メインメモリ:128MB以上,HDD空き容量:150MB以上

(C)GAINAX (C)2003 CYBERFRONT