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サスペンス&ホラーアドベンチャーの新作,「Indigo Prophecy」。プレイヤーの取った行動によってインタラクティブにストーリーが変化する,アクション満載のゲームだ |
静かに雪の降り積もる厳寒のマンハッタン。ビルの谷間の簡易食堂「ドクのダイナー」で,奇妙な殺人事件が発生する。殺人者は31歳のコンピュータ技師,ルーカス・ケイン。彼は,たまたま食堂のトイレにいた見ず知らずの男,ジョン・ウィンストンを刺し殺したのだ。しかしそれはルーカスの意思というより,まるで誰かに体を操られているかのような犯行だった。
我に返ったルーカスは,目の前の死体と血まみれの自分を見て慌てふためく。店内では休憩中のマッカーシー巡査がコーヒーを飲んでおり,彼がトイレにやってくる前に死体と凶器を隠し,床の血痕や返り血を洗い流さなければ,大変なことになってしまう……。
という,ショッキングなオープニングで始まるアドベンチャーゲームが,今回紹介する「Indigo Prophecy」だ。中国語に訳すと「藍色予言」となるだろう。違う?
制作はフランスのデベロッパ,Quantic Dreamで,北米でのパブリッシャはAtariが担当している。ちなみに,ヨーロッパでのタイトルは「Fahrenheit」で,欧米ともにPC版のほか,Xbox版とプレイステーション2版が同時リリースされている。
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警察に追われ,町をさ迷う主人公,ルーカス・ケイン。突然,わけの分からない殺人事件に巻き込まれて戸惑う,寡黙で孤独な男。だが,すべて彼の妄想という説も捨てきれない |
それにしても欧州産アドベンチャー,このごろ多いですな。スマッシュヒットした「シベリア」をはじめとして,最近では「Still Life」とか,発売が来年に延びちゃったけど「Dreamfall: The Longest Journey 2」も期待作だ。これは何か,アドベンチャーゲームという表現形式が,ヨーロッパの人の芸術魂を刺激するものがあるのだろうか? それとも,単に予算の都合とかなのか? あるいは,たまたまの私が興味を持ったゲームがそうだっただけなのか? などと謎は尽きないが,基本的にどうでもいいので話を進めよう。
そんなわけで,プレイヤーはまず,ルーカスとなってゲームを始めることになる。いきなり自分が殺人犯とは,かなり珍しいシチュエーションじゃないだろうか。デモ版をプレイした人ならご存じだろうが,彼はよくある「殺人の嫌疑をかけられた無実の人」ではなく,もう,おじさんをブッスリやっちゃったことは100%間違いないので,その点については弁解の余地なしだ。ただ,トランス(忘我)状態に陥ったルーカスにフラッシュバックして,誰かが操っていたように"見えた"ので,「彼は悪くないんじゃないかな」とプレイヤーは思うのである。
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ルーカスとマーカスの少年時代のエピソードが何度かインサートされる。子供のころからルーカスには不思議な力があり,それが事件後も彼が正気を保てた理由だったのだ |
冒頭で「まず」と書いたのは,このゲームはルーカスを含め,もっぱら3人のキャラクターを操作することになるからだ(実はルーカスの兄,マーカス・ケインを操作するシークエンスもあるのだが,ほんの数回だ)。ドタバタあって,ルーカスが首尾よく現場を去ったあと,続いて到着するのが事件を担当するニューヨーク市警の二人組,カーラ・ヴァレンティ刑事とテイラー・マイルズ刑事だ。続くシーンでは,この二人を交互に操作して現場を捜査する。
この,準主役ともいえる女性捜査官カーラは,なかなか魅力的なキャラクターだ。ゲームが進むにつれて分かってくるが,仕事好きで頭脳明晰,スポーツ万能のうえマーシャルアーツの達人でもある彼女は,小柄でエネルギッシュ。思いやりもある。その相棒のひょろりとした男テイラーは,軽い見かけとは異なり,仕事熱心で勘も鋭い。恋人のサマンサ・マローンと同棲しているが,彼女はテイラーが仕事に追われて留守がちなのを面白く思っていない。とはいえ,今のところはまだ平穏なご様子。
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ときどき,このように画面が分割され,同時に何が起きているか把握できる。流行りの「24」や,サスペンス系の映画などでよく使われるテクニックだが,シャープでかっこいい |
捜査中,キャラクターの切り替えはいつでも可能だ。カーラでなくては聞けない会話があったり,テイラーでなければ見つからないものがあったりするので,どちらかが一度調べた場所も,もう一人で再度調べなければならない。このへん,やや面倒な気もするが,すぐ慣れる。個人的になかなか慣れなかったのは,基本操作のほうだ。
このゲーム,インタフェースが基本的にコンシューマ機寄りなので,キーボードとマウスでプレイしようと思うと,かなり面倒だ。「マウスの両ボタン同時押しで前進」なのに「左クリックでカメラ移動」だったり,「矢印キーで左右移動」だったり,ちょっと個性的で,PCゲームに慣れた私にはずいぶん長いこと,ありゃ? ありゃりゃ? だった。
もちろん自分の好きなようにキーをバインドすることも可能だが,ここは素直にダブルスティックのコントローラーを使うのがよろしいかと。そうしてみたところ,アクションシーンなどが格段に楽になった。
「アクション? アドベンチャーでしょ」と思った人も多いはずだ。いないかも知れないが,多いことにしておきたい。なんといっても本作の最大の特徴は,謎をクリアする手段のほとんどがパズルではなく,"アクション"であるところだろう。
最も頻繁に登場するのが,画面に二つのサークルが出現し,その指示に従ってスティックをすばやく倒す(あるいはキーを押す)というもの。これは,格闘シーンや脱出シーンなど"いかにも"な場面だけでなく,「ギターを弾く」とか「会話をする」とか,さほど危機的ではないシーンなどにも登場する。例を挙げれば「ダンスを踊る」シーンでは,このアクションをうまくこなすことで,一緒に踊っていた彼女が感動し,うっしっしな展開になる。逆に失敗すると「またね」と帰ってしまう,といった具合だ。
スティック倒し以外にも,例えば「ヘリコプターのスキッドにぶら下がる」には「R-Lボタン連続押し」など,いくつかのアクションパターンがあり,自慢じゃないが反射神経伝達速度がとびきり遅い私(たぶんカルシウム不足が原因)は,苦労させられっぱなし。で,もちろん失敗すると,やり直しになってしまう。
ゲームのセーブは基本的にチャプターごとにオートで行われるが,どのチャプターも比較的短いし,場合によっては失敗したアクションの直前から再スタートになるので,さほどストレスは感じない(ただし,ライフが減ってしまうこともある)。このあたりもコンシューマゲームっぽいが,この大胆なシンプルアクションの導入が「Indigo Prophecy」を一味違ったゲームにしているのは間違いないだろう。時間制限のあるアドベンチャーは,少なくとも私には新鮮だった。なんでもない会話中にも,いきなりアクションが登場するので,油断も隙もないのだ。結構緊張しますよ。
序盤のストーリー展開は,やや緩慢だ。各個人のバックグラウンド紹介に時間が割かれているし,当然ながら殺人犯が誰なのか,プレイヤーはとっくのとうに「知っている」ので,警察側の捜査には緊張感が欠ける。また3人めのプレイヤーキャラ,テイラーもやや中途半端な印象だ。個人としてはイイ味を出しているのだが,わざわざ操作するほどではない気もする。いっそのこと「追う者と追われる者」,ルーカスとカーラの二人に絞っても良かったかもしれない。
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ルーカスとカーラ,それぞれがそれぞれの謎を追って調査を進めていく。事件当初,なすすべなくうろたえていたルーカスだが,逃亡によって精神的にも肉体的にも次第に変化していく。最も,必ずしも良い方向に変化しているとは言い難いのだが。一方のカーラは,この殺人事件の背後に,何やら不気味な影の存在を感じていくのだ |
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残酷なシーンもしばしば出てくる。グラフィックスを売りにしたアドベンチャーに比べれば背景,キャラクター造形とも普通レベルだが,暗く,ザラついた画面が雰囲気を高める |
さて,捜査が進むに連れ,カーラは不思議な情報を得る。ここ数年,これといった理由もなく行きずりの人間が殺される,といった事件が多発しているのだ。犯人もまた,ごくまともな市民ばかりで,犯行後は全員が自殺するか狂気に陥っている。胸をナイフで三突きという,まるで何かの儀式を思わせるスタイルも共通だ。彼女は,不吉なものを感じざるを得なかった。
という風に,サイコスリラーのような感じでスタートする物語は,中盤以降になるとモダンホラーの様相を呈してくる。ここらへんの展開は見事で,引き込まれる。また,だんだんと詳細が明らかになる主人公ルーカスの人物描写も良い。ある有名なホラー作家が「共感できる登場人物と納得できる動機があれば,読者はどんなストーリーも信じる」というようなことを書いているが(うろ覚え),その通りだと思う。
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お顔はお見せしないほうがよいと思うので後向きだけど,ときどき,謎めいた少女がルーカスの前に姿を見せる。彼女は何者で,敵か味方か? それともこれはルーカスの夢か? |
ルーカスは"孤独"という苦悩を背負った現代人として描かれている。彼は痛々しいほど孤独な人間だ。両親を事故で亡くし,身内といえば兄が一人だけ。ティファニー・ハーパーという恋人と別れたばかりだが,お互いにまだ魅かれ合っている(「だったら別れなきゃいいじゃないか」というのは私の経験不足から来る感想。普通の恋人同士でも,そういうことはしょっちゅう起きるのだろう。たぶんね)。降りやまない雪が寂寥感をさらに高め,プレイヤーは彼の運命が気になって仕方なくなる。
古代文明,謎めいた少女,壮大な予言など,後半にかけて話はどんどんでっかくなり,「ちょっと端折りすぎじゃないの」と思う勢いでストーリーが進んでいく。私は,そんな孤独な彼の運命をどうしても知りたくて,ついついゲームが止められなくなった。果たして敵は誰なのか? 人間なのか,それとも超自然なのか? 超自然の存在だったとしたら,「僕の望みはただ,ほかの人達のように普通の家庭を持ちたいだけ」なーんてこと言っているルーカスに,勝ち目はあるのか? キャラクターが3人ってことは,もしかして一人ぐらいいなくなっちゃうのだろうか?
確かにストーリー展開には,いくつか「?」なところがあるし,肝心の予言の内容もやや月並みという感じがする。アクション主体の割に,操作性の悪さも目についた。それでも本作は久々の傑作アドベンチャーゲームだと思う。音楽やグラフィックスもゲームの内容によくマッチしているし,やっかいなアクションも,慣れればなんてことない(←強がり)。各メディアの評価もなかなか良好のようだし,プレイ中,かなり充実した時間を過ごせた。またもう一度プレイしてみたい気分だ。この手のゲームに目がない,という人はぜひ試していただきたいと思う。蛇足ながら,「日本語版熱烈希望」だなあ,ぼかぁ(※編集部注:日本語版「ファーレンハイト」はプレイステーション2で2005年12月発売予定)。ではまた。