■意欲的な新機軸も盛り込まれた,3年ぶりの新作
艦内そのものや艦内の計器,それを操作する乗組員が3Dで描画され,自由にウォークスルーできるようになったのも,「Silent Hunter III」の新しいところ |
ゲームの大枠は前作とほぼ同様で,プレイヤーはドイツ海軍に属するUボートの艦長となって北海や北大西洋,遠くアメリカ沿岸まで出撃する。そして戦闘艦艇の目をかいくぐりつつ,連合国の商船を積荷の戦略物資もろとも海の藻屑にすべく苦闘するのだ。
漫画「沈黙の艦隊」や小説/映画「レッドオクトーバーを追え!」などで描かれる,現代の攻撃型原潜が念頭にある人には分かりづらいと思うが,Uボートの任務は敵国の民間商船を血祭りに上げることであって,映画「眼下の敵」よろしく敵艦艇と真っ向から渡り合うことなどではない。それは端的に言って自殺行為だ。当時のディーゼル潜水艦は"潜ることもできる弱っちい船"にすぎないし,そもそもUボートは艦隊型潜水艦ではない。
正面から制海権を取りに行けない,戦略的劣勢下にあるドイツ海軍が,敵の通商路を脅かして補給と戦争経済にダメージを与えようとしたのがUボート戦なのであるからして,はなから商船狙いの盗っ人戦(いくさ)上等! なのである。
ついでに触れておくと,「潜水艦の敵は潜水艦」という構図が成立するのも,テクノロジーと用兵思想からいってもう少し後年のことになる。WWIIの潜水艦では魚雷の深々度発射なんかできないし,潜行中の潜水艦を狙える魚雷は,連合国が開発した航空機搭載型のみ。ASW(Anti Submarine War。対潜水艦戦)に潜水艦を使うという発想には,まだ合理性がなかった。
話が少々脱線しすぎた。前作と同様のモチーフを扱いながらも,Silent Hunter IIIには新機軸が盛り込まれている。代表的なのは次の二項目だ。
- キャリアモード(フリーキャンペーン)を導入
- 乗組員を再現し,スキルと疲労度が発揮戦力に影響
とりあえず,艦内各所を見てみたところ。プレイ上はとくに必要ないのだが,艦内各部を走るパイプやバルブ,艦内灯の雰囲気などは,本作でなくては味わえないビジュアル要素といえる。いや,Macintosh用のマルチメディアソフトとかは除くが |
■哨戒海域との往復過程や乗組員の疲労も再現
哨戒中に出会った独航船を攻撃。これはいきなりベストポジションに近い位置で捕捉したため,水上で魚雷を発射し,命中させたところ |
敵影も見えない荒天下,ずぶ濡れになりながら3日も4日もしんどい哨戒を続けるとか,だだっ広い大西洋の真ん中を航海し,飛行機が来たときだけ潜るといった長く無為な時間。そして一瞬の攻撃チャンスの後,まるまる2昼夜神経を尖らせて敵の爆雷攻撃をかわし続けるといった,極端な緩急こそが潜水艦戦なのである。
Silent Hunter IIIのキャリアモードでは,港を出て港に戻るまでの戦闘哨戒がそのまま1ミッションになり,帰投と出撃を繰り返す。プレイヤー演ずる一艦長の戦歴をまるごと作っていくのが"キャリア"モードというわけだ。プレイヤーは設定年代とそれに応じた所属部隊=根拠地を設定し,そこで使える潜水艦の種類や装備を選ぶ。艦長ならびに乗組員,そして艦の余命はプレイヤーの腕と運次第だ。
シュノーケルやナクソス(後期型のレーダー波逆探知装置),蛇行魚雷やホーミング魚雷,そして,水中速力が水上速力を上回るという高性能艦XXI型などをいきなり使いたければ,年代設定を大戦後半や末期にすればよいわけだが,ASW技術の進歩は潜水艦のそれをはるかにしのぐ。磁気探知装置やヘッジホッグが跋扈するそこは,Uボート乗りにとって悪夢の時代ではある。
さて,もう一つの新機軸である乗組員について。本作における潜水艦の発揮性能は,ディーゼルエンジン,電動モーター,雷装部,通信室(いや"室"ですらない狭さだが)などなど,セクションごとに再現されており,それらセクションはプレイヤーが兵員を配置することで初めて機能する。十分な人数を割り当てることがまずは重要だが,兵員には機関や兵器,見張りなど専門技能が設定されており,そうしたスペシャリストなら頭数以上の効率を発揮する。
兵員には疲労度のパラメータもあって,半日,一日と勤務に就かせた兵員には疲労が溜まり,十分な働きができなくなっていく。定期的に(ベッドのある)兵員室に移して休ませないと,長期間の哨戒はとても続けられないのだ。敵船団を追尾している最中や,敵の爆雷攻撃を喰らいまくっているときはどうしようもないが,とにかく疲労対策は深刻な課題になる。
この乗組員要素の再現に伴って,ゲームのインタフェースも前作から全面的に変更されている。針路変更にせよ無線発信にせよ,艦長たるプレイヤーの指示は,すべて担当部署の責任者あてになされる。これによって,例えば一定間隔で90度回頭を2回やって素早くUターンするとかいった,より高度な操艦命令が追加されたりもしているのだが,ちょっとBdU(潜水艦隊司令部)に無線連絡を入れようと思っても,通信兵(もしくはその代理)が部署についていないと,まったく実行されない。士官/専門下士官クラスのワークロード管理は致命的に重要だ。
キャリアモードと乗組員,両方に関わってくるのがrenown(名声)のルールだ。キャリアモードでミッションを無事達成したり,敵船を沈めたりした場合,その大きさに応じてrenownのポイントが入る。このポイントは乗組員を採用するときや新型のレーダー,ソナーなど各種装備を導入するとき,さらには新型潜水艦に乗り換えるときにも消費される。
敵のASW装備/戦術が飛躍的な進歩を続け,数的にも劣勢を強いられる(ことがあらかじめ分かっている)Uボート戦において,状況を少しでも改善するためには,獲得したrenownを惜しげもなく使って腕っこきをスカウトし,1日でも早く新装備を手に入れるしかないのである。
■船団攻撃の再現には若干の課題を残す
「Manual targeting system」を有効にしたうえで,兵器係に照準を任せたところ。自動照準より精度が落ちるうえに,任意の目標を選べないなど制限が多い。画面左下に開いてある船の図は,敵艦の識別マニュアル |
魚雷のSalvo(一斉発射)がサポートされたのは,細かい部分だがプレイ感覚として重要な変更点といえる。敵船舶を確実に捉えるための扇状発射設定は前作からサポートされていたわけだが,本当に1アクションで複数の魚雷が発射されるのは,シミュレータとして確実に一歩前進した部分である。
本作の雷撃ルールでさらにすごいのは,照準をすべて手動で行うこともできる点だ。潜望鏡や双眼鏡で見た敵の船影を識別マニュアル(といっても商船は含まれていないが)と見比べてクラスを比定,速度と距離と角度を自分で判断してTDC(Torpedo Data Computer)に入力し,そのとおりの諸元(しょげん)で発射できるのである。ただし,これで実際に魚雷を命中させるには,かなりの慣れが必要で,とくに角度と速度の見極めは難しい。
最初は海図上のプロットと見比べながら,やがて海図なしで見極めがつくよう,修練を積んでみるのも面白いだろう。
初回の雷撃終了後,開き直って大船団の真ん中に陣取ってみたところ。船団の針路に合わせて全力で水中を進むと,護衛艦にはかなりの嫌がらせになる |
意外に思う人もいるかもしれないが,浮上航走のまま船団攻撃に移るのは,実はUボートの常套戦術である。潜水艦はシルエットが小さいので闇夜に発見するのは難しいし,浮上していれば敵のソナーにもまず探知されない。そもそも,潜水艦が浮上したまま攻撃をかけてくるとは敵も予想していなかったので,大戦前半にはかなり効果的な戦術だったのだ。
前作Silent Hunter IIではこのあたりの事情があまり考慮されておらず,船団に肉薄するとほぼ確実に見つかってしまったものだが,本作ではかなりきわどいところまで踏み込めるようになった。潜水艦ゲームではこの"してやったり感"が重要なのである。
護衛艦の間を浮上したまますり抜け,船団の先頭近くに占位(せんい)したら,あとは潜望鏡深度で敵船の通過を待つ。本作ではなぜか敵船舶が異様にカタく,5000〜6000tクラスの輸送船でも沈めるには魚雷を3本くらい当てる必要がある。Uボートが備える発射管は4〜6本しかないので,船団攻撃よりも独航船を狙ったときのほうが割に合う気がするのはどうかと思うが。
それはさておき,とにかく船団のなかで,大型タンカーなどめぼしい目標を見定めて魚雷を撃ち込む。船団のど真ん中に入り込んでしまえばこっちのもので,少々モーター音を立てようとも,周りの船のスクリュー音に紛れて探知できない。
装填された魚雷を撃ち尽くしたら,なるべく護衛艦が手薄な方向に離脱しつつ深く潜航し,次の魚雷を装填する。事前に発射管室に乗組員を多く待機させておき,次発装填に努めさせるべきなのは言うまでもないだろう。敵もナーバスになっているので,次の攻撃チャンスがめぐってくるかどうかは微妙なところだが,例えばXXI型など半自動装填機構を備えた艦なら,再び潜望鏡深度まで浮上して後続艦を狙える。エレクトリック・ボート万歳である。
さて,船団攻撃後にはかなりの確率で駆逐艦に囲まれるのが,Uボート戦の宿命だ。爆雷の効力半径は水圧で縮むため,とにかく深く潜っとけ,というのは本作でも有効なようだ。画面には敵駆逐艦が出す高速スクリュー音の方向がオーソドックスに赤い線で示され,敵が接近してくるのか遠ざかりつつあるのかはソナーマンが教えてくれるので,これらから敵の針路を想像して,攻撃を回避できる方向を割り出す。爆雷は普通,駆逐艦が艦尾から投下するため,とにかく敵が通ったあとに突っ込むのを避けるのが大原則だ。まあ大戦後半になると,投射型爆雷やヘッジホッグが猛威を奮い始めるので,この原則もおぼつかなくなってくるが。
ちなみに爆雷が炸裂した直後は,モーターを全開にするチャンスである。海が静まるまでの間は,雑音が多すぎて敵のソナーが有効に機能しない。炸裂直後に全速力,静まってきたらモーターを止めるという動作を繰り返し,ときどき方向転換を交えながら,少しずつ戦場から遠ざかっていく。
本作における敵駆逐艦の挙動で少々残念なのは,爆雷攻撃の雰囲気があまり出ていない点だ。爆雷は調定深度まで沈んだところで自動的に炸裂する範囲攻撃兵器であって,とにかく敵潜水艦がいそうなところに当てずっぽうで投げ込むものである。船団攻撃後,4隻くらいに囲まれたUボートは,一晩にわたって都合百数十発ほどをやりすごす運命になるハズなのだが,本作における駆逐艦はあまり執念深くない代わりに,割と一発必中な感じの攻撃を繰り出す。そのあたりがどうにも潜水艦戦らしくないのである。
乗組員が再現されているのに当直のルールがないとか,艦内のレコードプレイヤーで当時の歌曲(ええ。Victory MarchやTiperaryは必須ですとも)を流せないとか,所定のパトロールを終えた後BdUに連絡しても,新しい目標はとくに示されないとか,普通の騎士十字章をもらっていないのにいきなり柏葉付きが授与されたりとか,細かい欠点を挙げればきりがないし,総合的に見ればSierra Online往年の名作「Aces of The Deep」にまだ及んでいないとは思う。
だが,それでも本作は潜水艦シムとしてなかなかによく出来ているし,再現内容のオリジナリティは高い。Uボートモチーフの作品としては前作より確実にレベルが上がっており,巡航速度や残燃料,艦の壊れ具合を気にしながらの航海はよい感じだ。
海戦/潜水艦戦に興味があるなら,とりあえず手を出して損のない出来だと筆者は思う。