― レビュー ―
技術の概念とリアルタイムシステムで新たな境地を開いた「信長の野望」
信長の野望・革新
Text by 岩尾ゴワス
2005年6月21日

 

■3D一枚マップで,より戦国の息吹が感じられるように

 

3Dの一枚マップで表現された戦国時代の日本。筆者のPCは,CPU Athlon XP 2500+,メモリ 768MB,グラフィックスカード GeForce4 Ti 4200と決して自慢できる環境ではないが,高画質表示でもストレスなくプレイできた
 「信長の野望・革新」は,歴史ストラテジーの定番である"信長の野望シリーズ"の最新作である。戦国時代の日本を舞台に,織田信長や武田信玄,上杉謙信,徳川家康などといった戦国武将達が,日本の統一を目指して戦う。
 今作ならではの特徴としては,まずなんといっても,日本を3Dの一枚マップで表現したことが挙げられる。……といってもピンと来ないかもしれないが,つまり同じマップ上に全大名家が存在しているのだ。シリーズに詳しい人ならば,シリーズ7作目の「将星録」と11作目の「天下創世」を足したような感じといえば分かってもらえるだろうか。各大名家が同じ3Dマップ上で,それぞれ別々に内政を行ったり軍隊を派遣していたりするわけで,「同じ土俵で戦っている」ということが目に見えて分かる。
 なお内政も合戦も,このマップ上でリアルタイムで進行しており(コマンド選択時は時間が止まる),支城を建設している隣で大規模な合戦が起きていたりなど,箱庭日本の醍醐味を従来作以上に感じられるようになった。大げさに言えば,より戦国時代の息吹を感じられるようになった,というところか。

 もう少し具体的にゲームの流れを説明しよう。コマンド自体は従来作とあまり変わりがなく,「内政」「人材」「軍事」「計略」などといった親コマンドと,それぞれの下にある子コマンド(内政ならば,「建設」「技術」「改築」など)で,ほぼすべての命令を出せる。
 ただ,本作はターン制ではなくリアルタイム制を採用しているので,コマンドをいつでも出せるのが,従来作とはずいぶん違う点だろう。またほとんどのコマンドは,城などの拠点ごとに,そこにいる武将に対して与えるので,その拠点にに一人でも"仕事をしていない武将がいる"必要がある。
 たとえるなら,三國志シリーズの「VII」「VIII」および「X」の,城主以上の立場と似ている。つまり,手の空いている武将にさまざまな命令を与えて,命令を与えられる武将がいなくなったら(もしくはもう満足だと判断したら)時間を進め,また誰かが戻ってきたら時間を止めて命令を出し……の繰り返しでゲームが進行していく。
 面白いのは,例えば「内政」コマンドの「建設」で,"水田"を自国の領土内に1ブロック分作るとして,どの武将に頼んでも,その成果は同じであること。水田1ブロックは,誰が作っても同じ量の兵糧を生み出すのだ。
 では内政の値が高い武将を起用する必要性はないかというと,とんでもない,大いにある。内政の高い武将ほど,早く作業を終えるのだ。内政コマンドでは,一つの作業に最大3人の武将をあてられるので,内政の低い武将が一人だと300日くらいかかる作業でも,内政が高い武将3人で取りかかれば,30日もかからずに終わったりする。すべてがリアルタイムで進行する本作においては,この開発スピードが重要になる。内政の高い武将は,従来作に比べて,より価値が高まったといえる。

 もちろん今作でも,武闘派武将には合戦という重要な仕事がある。合戦も内政と同じで,手の空いている武将に"コマンド"として出陣先を指定することで行う。例えば,××城経由で××城へ向え,という指示を出すわけだ。一つの部隊は,3人までの武将で編成できる。ただし出せる部隊の総数に限度はなく,一つの大名家で,20〜30もの大軍勢を同時に操ることも可能だ。
 これがなかなか壮観で,ゲームの終盤には,3Dで描かれた日本地図上を,数多くの部隊が雪崩のごとく進軍している様子が見られる。敵大名家は従来作にはないくらいアグレッシブで,放っておくとどんどん合戦を行い領土を拡大していくので,何度かプレイしていればいずれは100万もの軍勢が入り乱れる,とてつもない規模の合戦まで目にできるだろう

 細かい話もしておくと,放っておけばどんどん時間が進むため,従来作に比べてゲームのテンポが良いというのも好印象。いつでも好きなときに時間を止められるとはいえ,じっくり腰を据えて,眉間に皺を寄せながらプレイするタイプのゲームではなくなっているので,信長の野望ビギナーにも,比較的取っつきやすいかもしれない。

 

戦国日本を統一するのが本作の目的。内政で金銭/兵糧を増やし,敵国に部隊を送り込んで城を奪っていく 3D表示の日本地図上で展開される開拓作業。せっせと内政すると寂しかった領内も活気づいた雰囲気に! 戦略モードで指示を出し,進行モードで動きをチェック。戦略/進行の切り替えはSpaceバーでも可能

 

金銭/兵糧バーの横に"僧侶"の表示があるときは,外交で停戦や捕虜武将の返還を実行するチャンス! 仮想シナリオでは,戦国時代の有名大名が総登場する。九州の大名になっている柴田勝家の姿が笑える 武将は新たに作ることもできる。大名武将を変更すれば,新武将を大名にしてのプレイが可能だ

 

 

■技術・技術・技術! 技術革新なくして栄光なし!


仮想シナリオの上杉家で技術獲得を目指していった例。上杉謙信,柿崎景家,長尾為景という騎馬適性Sレベルの武将が3人いるので,「拍車」や「赤備」といった最高クラスの技術も開発できる
 何かと新要素に富んだ信長の野望・革新だが,3D一枚マップと同じくらいゲームのプレイフィールに影響を与えているのが,「技術革新」の概念を追加した部分だ。
 技術とは,"足軽" "騎馬" "弓" "鉄砲" "兵器" "水軍" "築城" "内政"の8項目に各11種類ずつ用意された施設/戦法など(を使用するための技術)のことで,獲得すればするほどゲームを優位に進められる。

 技術は,最初から自由に獲得できるものではなく,大名家に属する武将の「適性」によって獲得傾向が異なってくる。
 適性にはS,A,B,C,Dの5段階があり,獲得したい技術が要求する段階の適性(例えば「牧場」なら"騎馬"が"C")を持つ武将が3人揃って,初めて「開発」できる。例えば織田家や鈴木家は,鉄砲適性がS,Aレベルの武将が多いので鉄砲技術を獲得しやすく,同様に武田家や上杉家の場合は騎馬技術を獲得しやすいといった具合だ。
 もちろん,ゲームが進んで適性の高い武将がバランス良く揃ってくると,それだけ技術の獲得幅は広がってくる。

 この新システムの導入によって,武将が"使える/使えない"のポイントとして,適性が大きくクローズアップされることになったのだ。
 とくにSレベル所持者の少ない水軍系では,児玉就方,来島通康,松浦隆信といった従来シリーズではザコ扱いだった武将が輝いてくる。逆に,多少能力が高くても,S・Aレベルの適性を持たない武将は,少なくとも技術開発ではあまり使えない。堀秀政や秋山信友あたりは,ドサ周りで地方開発をヨロシクという感じだ。

 なお,新規技術を獲得する場合,それぞれの系統に応じた「学舎」を領内に建設する必要がある。
 先ほども挙げた,軍馬を得るために必要な「牧場」の技術を開発するには"騎馬学舎"が二つ以上いるし,「鉄甲船」を作るには"水軍学舎"が40以上も必要だ。これらの必要学舎数は,領内でのトータル数となるので,八つの拠点に五つずつ学舎を作っても,一つの拠点に40の学舎を作ってもOKである。ゲームの序盤に学舎を集中建設することは難しいが,領地が広がっていったら学舎だけを専門に建てる拠点を持つのも手だろう(管理がラクだし)。

 

ゲーム開始時に保有する技術は大名家によってまちまち。シナリオ1では「弓学舎」しか持たない阿蘇家のような大名家があるかと思えば,今川家のように「弓騎馬」という超先進技術を持つ大名家もある。ちなみにシナリオ4の織田家は,ゲーム開始時からこれだけの技術を持つ。シナリオ4で織田家と戦うことの困難さが十分に予想できる

 

先進技術の獲得には,Sレベル適性の持ち主が必須。可児吉長くらい偏った能力の武将でも存在価値は高い シナリオ3の開始時でも水軍適性Sレベルの所持武将は少ない。「鉄甲船」獲得の最有力候補は毛利家だ 大名家によっては,条件次第で「三河魂」や「一領具足」「軍神」などの固有技術を獲得できる

 


■リアルさよりもゲーム性を追求したシステムが好印象


溢れかえる家宝(アイテム)の数々。従来作の流れを汲んでいるので仕方がないとはいえ,いささか食傷気味の感も。本作の特徴を考えると,武将の適性レベルを向上させる家宝だけで良かったのではないだろうか?
 また,筆者が個人的に気に入っている要素として,「外交僧」「仮想シナリオ」についても触れておこう。
 外交僧とは,その名のとおり殺伐とした戦国時代に安全を約束された仲裁役の僧侶で,この外交僧を仲立ちとする取り引きは,必ず履行しなければならない。例えば攻められてピンチなときでも,外交僧を相手に送れば問答無用で停戦できるのだ。また,敵に捕らえられた武将を取り返したいときにも,外交僧は役立ってくれる。
 もう一つの仮想シナリオとは,有名武将が総登場するシナリオのことで,(パワーアップキットでの追加や会員専用データを除くと)同シリーズで初めて採用された。このシナリオでは,伊達政宗や真田幸村など"後れてきた英雄"達が最初から登場しているだけでなく,戦国初期に活躍した北条早雲や大田道灌,尼子経久などといった大名でもプレイできるのだ。柴田勝家や明智光秀などが配置の都合で九州や四国の大名になっているのは,まぁご愛嬌というところか。
 また,まだ発売日前であるためサーバーが用意されておらず確認できなかったが,インターネットに接続できる環境があれば,「ネットジョイ」(NETJOY)と呼ばれる機能を利用できる点も特筆しておくべきだろう。
 発売日の時点では,"×年×月までに,××家を滅亡させろ"など特定の目的の達成を目指す「チャレンジモード」と,全国のプレイヤーがクリアしたデータからプレイ傾向をチェックできる「プレイヤー統計データ」という二つのコンテンツが用意される予定。どちらにせよ,(パワーアップキットのリリースを待たずとも)全国統一以外に信長の野望を楽しめる道を示した点で意義が大きい。

 このように魅力的な要素が満載となっている信長の野望・革新だが,いくつか残念に思う部分もあった。
 例えば技術は,自家で新技術を開発する以外に,同盟相手との交渉で得られることも本作の魅力的な要素となっている。ところが序盤だと,肝心の同盟が一家としかできないので(条件によって増える),せっかくの技術交渉があまり活発に行えないのだ。
 本作を実際にプレイするまでは,紀伊の鈴木家あたりは鉄砲技術転がしによる「技術立国」を果たせるものと思ってワクワクしていたのだが,実際はそうではなかったので,ガッカリしてしまった。外交で技術流入を活発にできるCivilizationシリーズほどではなくても,もう少しこのあたりの縛りは緩めてもよかったのではないかと思う。

 ほかにも武将能力のインフレというか,個々の武将がどれも似たりよったりで個性が感じられない点もやや不満だった。適性という目新しい要素はあるが,"統率" "武勇" "知略" "政治"といった基本能力がよっぽど低くないかぎり「使えネー」という気分に陥ることもなく,どうにも中途半端感が強い。
 これには,登場武将数や,能力を上げるアイテムの数が増えすぎたことが悪影響を与えているような気がする。あと,いくら高価なアイテムでも,ふた桁もパラメータが上がるのは,ちょっと悩ましいところだ。同じコーエーの"三國志シリーズ"は,登場武将が増えている割に,このあたりの個性付けで成功しているだけに,残念である。

 とは言いながらも……,全体としては好印象である。一枚マップやセミオートの戦闘など,人気の高い「三國志IX」(およびそのパワーアップキット)の良い部分をうまく持ってきており,また技術についても武力では獲得できないなど,(史実を忠実に再現するのではなく)"ゲーム"と割り切った作りとなっているのが,功を奏している。上記のような些末な部分で気になることはあるものの,本作の目指した方向性(ゲーム性)は,評価できる。
 おそらく,バランス面などでさらに多少の調整を入れれば,本作はなかなかの名作となるのではないだろうか。何十万ものとてつもない軍勢が,一枚マップの上でぶつかり合うダイナミックさは,それがリアルかどうかはともかく,ゲームとして非常に魅力的であるのは真実である。

 最後に,筆者が最も嬉しく感じた部分を一つ挙げておきたい。それは,ショートカットキーの活用がゲーム進行をスムースにしてくれる点だ。三國志シリーズを含め,同社の最近のゲームはマウスクリックの連打を強制するモノが非常に多く,ちょっとゲームをやり込めば腱鞘炎になるのではないかと危惧することすらあったほどだった。
 しかし本作は,画面のスクロールやカメラの回転,指示を与える拠点の選択などをキーボードでも行える。本作に関する各種情報を見てみたが,この点について言及した記事はほとんどなかったので,筆者は強く訴えておきたい。「やっぱりキーボードとマウスを併用した操作は快適だぞ!」と。

 

同盟期間は一律5年とし,破棄すると重大なペナルティがあるという割り切り感は良い。ただし同盟相手としか技術交流ができない点は足かせだ。技術転がしで一時代を築けるくらいの自由度が欲しかった 武将の基礎能力のMAXは120。そのためか武将能力がインフレを起こしている気がして違和感がある

 

上級/全国モードでプレイしていたのだが,上杉謙信が強すぎることもあり,序盤から積極的に攻めていたら楽に領土を拡大できた。手応えを感じるには,多少スロースタートのほうが良さそうだ。なお,途中でプレイをCPUに任せたら,あれよあれよという間に統一してしまった。従来作では"ダラダラ"していたから,AIが進化しているのは確かのようだ

 

タイトル 信長の野望・革新
開発元 コーエー 発売元 コーエー
発売日 2005/06/22 価格 1万1340円(税込),プレミアムBOXは1万3440円(税込)
 
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/1GHz以上(Pentium4/1.7GHz以上推奨),メモリ 256MB以上(512MB以上推奨),HDD空き容量 3GB以上,VRAM 32MB以上,DirectX 9.0c以降,常時接続環境必須(1Mbps以上推奨)

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