■ジレンマと卓越したバランス感覚からなる都市建設シム
タイトル画面。残念ながら対人戦は想定されていないらしく,マルチプレイモードはない |
「メディーバル ローズ」は,中世ヨーロッパを背景に,都市を建設して自国を富ませ,必要に応じて軍隊を組織して外敵に備えたり放逐したりする,箱庭系のRTSである。ゲームにはシナリオとキャンペーンが用意されているが,キャンペーンといっても前のシナリオの何かを引き継ぐような内容ではない。
「都市の建設」において,マップ上にいわゆる「グリッド」が存在しないというのが,本作の大きな特徴だ。このため,建物はかなり自由に配置可能である。例えば田畑は多角形の頂点を設定して範囲を指定することで建設されるので,ぎりぎりの土地にぎりぎりの果樹園が建てられたりもする。そしてそれがまたヨーロッパの風景らしいマップを作っていく。
本作の都市建設には,いくつかの二律背反が仕込まれていて,これがゲームを非常に面白くしている。
最初にプレイヤーが直面する二律背反は,労働人口と食料供給の問題である。本作ではその規模に見合った食料供給がなければ,人口が瞬く間に減っていく。一方で,食料を供給してくれる生産施設(ありていにいって畑や果樹園)を稼動させて食料を得るためには,労働人口が必須になる。都市に居住区(つまりRTSにおける「家」)を増やせば,人口それ自体は簡単に増大するが,その人口を支える食料供給を確保しなければ都市は発展しない。
この最も基本的な二律背反の上に,資金という問題が被さってくる。本作において,新たな施設を建築(あるいは修理)するために必要となる資源は,基本的に金のみ。だがこの金は,「家」からの税収を通じてしか得られない。
家にはレベルがあり,1レベルごとに10人ずつ収容数が増していく。低レベルの家は税収も極めて小さいため,質より量でいこうとすると,永遠の資金難に苦しみ,結果,永遠に質を追求できなくなっていくのだ。
キャンペーンのシナリオ選択画面。地図上のオブジェクトを選んでシナリオを選択。雰囲気を掴みやすい | シナリオの難度はかなり細かく設定できる。最初は父にパラサイトしておいたほうが何かと無難 | 最初は意外とつまずくので,とりあえずはチュートリアルで試行錯誤してみるのがいいだろう |
グリッドの存在しない,3Dならではの自由に配置可能なゲームシステムが本作の最大の特徴。曲線の道路や多角形の畑など,見た目にも自然な街作りが楽しめる |
■気がつけばそこはまさに中世都市
家の様子。右側に赤→緑色のインジケータとして表示されているのが満足度。左から食料,水,安全,安らぎ,衛生,楽しさ。衛生レベルがこの家のレベルの成長を妨げている |
そして,その家に住む人の満足度は,それらの要件のうち,もっとも充足度の低い数値で決まる。よって,どれほど水と食料が満ち足りていて治安が良く,信仰が保障されエンターテイメント性に富んだ環境であっても,非衛生的であれば,住人の満足度は低いまま,家のグレードは上がらないのだ。
一方,住人の満足度を高めるための施設は,必ずしも良い方向にばかり機能するわけではない。例えば「牧草地」や「鍛冶場」などは,食糧生産や技術開発において大変に有益あるいは必須だが,前者は匂い,後者は騒音のため,近隣の住人の生活満足度は下がる。また「魔女の家」のように,近隣の衛生状態を改善する一方,近隣住民の信仰に悪影響を与えたりするタイプの施設もある。
さらに,「鍛冶屋」や「魔女の家」といった特殊な施設は,維持コストがかかる。きちんと都市計画を練って効率的な配置を行わないと,家のランクは上がらず(=収入は増えず),施設の維持コストだけは持っていかれるという最悪の状態にもなりかねない。統治者の悩みは絶えないのである。
以上のことを踏まえて,このゲームを遊び込んでいくと,一つの「最適に思える解答」が見えてくる。まず,技術レベルを高めるが領内に存在さえしていればいい建物は,町の中心から離れた僻地に配置する。良い効果を広範囲に及ぼすが,近隣には悪影響をもたらす施設も,町の外れに置くようにする(代表例は衛生状態を向上させる「貧民の墓地」)。一方,町の中心の周囲には円形に家を配置し,また町の中央にはその周辺に安らぎを与える「十字架」「彫像」「泉」などを配置する(「泉」は水源でもある)。そして余剰地には小さな「果樹園」「ブドウ畑」(これらは食料供給源となるだけでなく,生活環境を改善する)を展開し,「医者」や「教会」も配する。
ここまで出来たら,この「街のコア」を城壁で囲む。城壁で囲むと外敵の攻撃に耐えやすいだけでなく,住人の安心感が高まる効果がある。もし新天地へと手を伸ばせず,限られた土地の中でのさらなる発展を望むのなら,資金と食料供給のフローを確認したうえで,城壁の外に,城壁を取り囲むように家を並べ,さらにこれを城壁で囲む。
ご存じの人はご存じの通り,これはウィーンの都市計画に限りなく近い。美しく計画された環状都市は,面積に比して極めて高い効率で収益を上げていくことになる――そしてそれでも土地が足りなければ,最初に建てた城壁を壊して空いたスペースに家を建てていくことになるあたり,実にそのものである。
その一方で,環状都市以外にも手があることは分かってくる。最も簡単に作れるのが,教会や医者といった生活環境改善施設を中心に,置ける範囲にみっしりとしかし乱雑に家を置いていくことだ。もちろんこれらは城壁で囲われることになるが,出来上がる都市はナチュラル・ボーンな迷路になる。スペインに行けば,このような都市にはいくらでもお目にかかれるだろう。
まずはポーズをかけて,街をじっくりデザインし,ポーズ解除して一気に建築できるのが便利 | とりあえず街が完成したところ。条件の良い家はここから数レベル分,一気に急成長を遂げる | コンパクトな都市の周辺に,円形に耕作地を確保したケース。緑や紫の線は領地の境界線だ |
城壁で街を取り囲めば,外敵からの襲撃にも強固に持ち堪えられる。住民の安心度を増すという効果もある | 食料の確保にはさまざまな手段が用意されている。多角的に収穫しないと,自然災害などで大打撃を被る | 技術が上がれば,より広範囲に高い効果をもたらす施設を建てられるようになり住民の満足度も高まる |
■芸術点も評価したい箱庭ゲーム
基本的に戦闘は見守るのみで,軍隊を戦術的に機動させる必要はない。RTSが苦手でも大丈夫 |
戦争は軍隊ユニットの越境によって行われる。敵勢力との国境を越えて軍を進めるとカウントが始まり,これが0になると戦争に突入。戦闘が始まると敵味方の軍事ユニットは自動的に行動を開始し,どちらかが全滅するまで戦闘が続けられる。
基本的には,カウントが0になる前に敵国の防衛力を上回るほど自分の軍隊を用意(つまり敵の領地内に配置)できれば,戦争には自動的に勝利できる。ただし防衛側は城壁や塔などの防御施設を用意している場合があり,地形や配置も多少は影響するため,単純に軍事ユニットの数だけでは勝敗を計れない仕組みだ。また移動はさせられないが,バリスタや投石機などの兵器も登場する。
軍隊の規模は都市人口に依存するため,「軍隊だけを先鋭化して敵を序盤のラッシュで攻め落とす」といったプレイングはあまり有効とはいえない。また戦闘のギミック的にも,プレイヤーにできることは極めて少ない。基本的には,戦略的視座から国力を高め,勝つべくして勝つ横綱相撲が望ましいといえる。
さて,ここからはいくつか苦言を。まず,軍隊の操作性が悪い(そもそも軍隊がどうこうというゲームではないことは十分承知しているが……)。軍隊を選択したり移動させたり合流させたりするときの操作性には,改善の余地が大いにあるように思われる。
また,グリッドを廃したマップも一長一短で,不要な施設を壊して,新しい建物を建てようとすると,微妙に「あたり判定」が重なって建築できなかったりすることもままある。ここらへん,グリッドフリーにするのであれば,必要なスペースが空いてさえいれば建築可能な方向に建物が吸着してくれる,といった機能があるとありがたかった。
キャンペーンの難度が若干高いため,初めは苦労するかもしれないが,慣れてくると自分の好きな都市を見本にデザインをするといった楽しみ方も可能になる。シナリオをクリアしたときの充実感は非常に高いので,箱庭系が好きな人であれば要チェックといえるだろう。
食料の収支。年1回しか収穫がない作物もあるので,1年トータルで見てプラスでも油断は禁物 | シナリオ開始前画面のTIPSはランダム表示なので,このシナリオ向けのTIPSとは限らない。要注意 | 急峻な斜面の果樹園はドイツのワイナリーを連想させる風景だ。自然とこのような光景になる |