― レビュー ―
1万円台前半で入手できるnForce4 SLIマザーボード
K8N SLI-FI
Text by 宮崎真一
2005年10月11日

 

K8N SLI-FI
問い合わせ先:エムエスアイコンピュータージャパン
TEL:03-3866-7761

 2005年秋現在,自作PC市場ではAthlon 64,そしてnForce4 SLIチップセット搭載マザーボードの人気が非常に高い。NVIDIA SLI(以下SLI)を使用しないユーザーであっても,将来的なグラフィックス性能のアップグレード余地を考慮し,同チップセットの採用製品を選択するほどである。
 そういった状況でMSIから発表されたのが,「K8N SLI-FI」だ。同社のラインナップには「K8N Diamond」と,その下位モデルに当たる「K8N SLI Platinum」という2種類のnForce4 SLIマザーボードがあるが,K8N SLI Diamondでも実勢価格は1万7000円前後。K8N Diamondは2万5000円近い。これに対し,K8N SLI-Fは1万3000〜4000円で販売される見込みとなっている。コストをあまり掛けたくないがSLIは利用してみたいというライトゲーマーにとって,価格面ではうってつけのマザーボードといえるだろう。

 

 

■いったいどこがコストダウンされているのか

 

 上位モデルのK8N DiamondやK8N SLI Platinumが黒い基板を採用していたのに対し,K8N SLI-FIではMSIの"基本色"である赤に変更され,拡張スロット構成も見直しが図られている。具体的にいえば,上位モデルには1本もなかったPCI Express x1スロットが,K8N SLI-FIでは2本用意されているのだ。実際にPCI Express x1スロットを使用するユーザーがどれほどいるかは疑問が残るところだが,現在,PCI Express x1カードは少しずつではあるものの,その種類を増やしているので,将来的には意味が出てくるかもしれない。

 

アナログマルチチャネルサラウンドに同軸および光デジタル出力を用意しているので,オンボードサウンドしか使わないというゲーマーにとっては十分な実用性を持つ

 サウンド機能としては,上位陣がEAX ADVANCED HDに対応したSound Blaster Live! 24-bit(以下SBLive24)チップを搭載していたのに対し,K8N SLI-FIではAC’97コーデックに替わっている。
 もっとも,SBLive24のEAX ADVANCED HDサポートはソフトウェアレベルで,Sound Blaster Audigy/X-Fiシリーズのようなハードウェア対応が行われるわけではない。ゲームプレイ時のCPU負荷を気にするなら別途サウンドカードを用意すべきという意味で,SBLive24でもAC’97も大差はないのだ。あまりメリットがない割にコストが高く付いていた(と思われる)SBLive24チップが省略されたことは,実質的に大きなマイナスとはなっていない。

 

 CPUへの電源供給を担うVRM(Voltage Regulator Module)部を見てみると,主要部のコンデンサは日本ケミコンのKZGとTaiwan Ostor Corporation(OST)のRLX。さすがに上位モデルと同等とはいかず,コンデンサにおいては明らかにコストダウンが図られている。
 VRMにヒートシンクを搭載していないのを疑問に思う人もいるだろう。最近の3DゲームではCPU負荷が高いものも少なくないからだ。
 このとき生じるVRMの発熱については,「E3 Powercube」という技術によって解決しているという。これはもともとMSIがグラフィックスカード用に開発した技術で,電源回路におけるインダクタ(コイル)に流れる電流値を10倍まで上げられるようにするというもの。電流値を上げるために抵抗を減らすことで,発熱も減らせるというわけである。

 

重要度の高い部位には国産コンデンサが目立つ一方,マザーボード用としてはあまり信頼性の高くない Luxon Electronics(G-LUXON)製品も見える。なお,PCIスロットのうち一本だけオレンジだが,これは専用に電源を確保したもの。MSIは,サウンドカードやキャプチャーカードを差すのに向くとしている

 

ミニカードスロットの物理インタフェースがプライマリのPCI Express x16スロットから離れているので,グラフィックスカードを差した状態では,ミニカードを外そうとすると引っかかってしまう

 SLIへの動作切り替えは,ミニカードの向きを切り替えることで行う。しかし,どういうわけかこのカードの装着する向きが上位モデルから変更されている。そのため,シングル構成からSLI構成へとアップグレードするときは,先に差してあったグラフィックスカードをいったん外さなければミニカードの向きを変更できない。SLI環境の構築自体はそう何度も行うものではないにせよ,ASUSTeK Computerの「A8N-SLI Premium」ではそのレーン数の切り替えをWindows上から行なえるといった工夫が見られるだけに,K8N SLI-FIのこの仕様は残念なところだ。

 

 なお,SLIに関連しては,上位モデルが用意していなかった4ピンの補助電源コネクタが用意されている。消費電力の増加する傾向にあるグラフィックスカードに合わせて,マザーボード側もSLI構成時におけるより多くの電力供給が必要となったということだろう。

 

 

■後発だけにパフォーマンスは良好

 

 正直,現在の市場では前述したA8N-SLI DeluxeがnForce4 SLIマザーボードとしては定番。確かに価格面でメリットがあるとはいえ,後発であるK8N SLI-FIには,"何か"が欲しいところだ。そこで今回は,A8N-SLI Deluxeと直接比較することで,K8N SLI-FIにパフォーマンス面の"何か"があるかを検証してみることにしよう。

 

 テスト環境はに示すとおり。ForceWareから垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくForceWareから8倍(8x)および16倍(16x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「8x AA+16x Anisotropic」と「16x AA+16x Anisotropic」呼ぶことにして話を進める。また,「DOOM 3」のベンチマークはTimedemoを利用。「Far Cry」ではHardwareOCの「Far Cry Benchmark v1.4.1」を用いている。TrackMania Sunriseでは,53秒程度で1周する「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,「Fraps 2.60」を利用して計測した平均フレームレートをスコアとした。

 

 

 まず,「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)で比較してみた。結果はグラフ1,2にまとめたとおりだが,誤差を加味すると,完全に互角といっていいだろう。

 

 

 

 だが,実際のゲームにおけるベンチマークだと少々話が変わってくる。「DOOM 3」(グラフ3,4)では,SLI構成時の8x AA+16x Anisotropicにおける1280×1024ドットという例外があるものの,それ以外ではすべてにおいて,K8N SLI-FIのスコアが良好だ。とくに標準設定では,あらゆる条件で0.5fps以上の差が出ており,わずかだが,誤差ではない違いがあるといえよう。

 

 

 

 「Far Cry」や「TrackMania Sunrise」だと,3DMark05と同じように,誤差程度の差に留まっている(グラフ5〜8)。パフォーマンス面では,特定のタイトルにおいて,若干ながら定番のA8N-SLI Deluxeよりも高いパフォーマンスが期待できる,ということになりそうだ。チップセットが同じだから当たり前といえばそれまでかもしれないが,少なくとも価格分だけ性能が低いということはない。

 

 

 

 

 

 

■よく考えられているチップセットクーラー

 

 ここで,消費電力と各部の温度もチェックしてみよう。OSが起動してから何もせず放置し,30分経過した後を「アイドル時」,3DMark05のリピート実行30分後を「グラフィックス高負荷時」,さらに「午後べんち」のリピート実行30分後を「CPU高負荷時」とする。そして,それぞれにおいてシステム全体の消費電力をワットチェッカーで測るとともに,横河M&Cのデジタル放射温度計「53005」で,チップセットクーラーの温度ならびにSLI構成時のグラフィックスカード間の温度を測定した。なお,温度測定に当たっては,Cooler Master製のスチール製ミドルタワーATXケース「Centurion 530」に組み込んでいる。また,Athlon 64 4000+の標準機能であるCool’n’Quiet(以下CnQ)については,無効/有効の両方でテストした。
 なお,A8N-SLI Deluxeのチップクーラーは,初期ロットと改良版で仕様が異なるが,今回テストに用いたA8N-SLI Deluxeでは改良版を搭載している。

 

 さて,消費電力の検証結果はグラフ9にまとめたとおりだ。K8N SLI-FとA8N-SLI Deluxeではオンボードデバイスの違いがあるため,単純に「値が小さいから省電力」というわけではない。参考程度に留めてもらいたい。

 

 

 続いて,2か所の温度計測結果をグラフ10,11に示すが,チップセットクーラーの冷却能力はA8N-SLI DeluxeよりもK8N SLI-FIのほうが上だ。また,PCI Express x16スロット間は1スロット分しかないため,冷却能力は低めになると想像したが,実際にはSLI動作時でもA8N-SLI Deluxeと温度はほとんど変わらない。
 これには,チップセットクーラーの仕様が関わっていると思われる。両マザーボードのチップセットクーラーを見比べると,K8N SLI-FIはファンの風が全方位に向き吹き出すのに対して,A8N-SLI DeluxeではPCI Express x16スロット側とその反対側のみに風が吹き出る形となっている。K8N SLI-Fでは熱が分散するのに対して,A8N-SLI Deluxeでは“熱い”グラフィックスカードに向けてチップセットからの熱風が吹き出しているのである。この違いが,どうやら今回の結果を生んでいるようだ。

 

 

 

 最後に,一般的なアプリケーションでどういう傾向を示すか,PCMark05の総合スコアで比較してみた(グラフ12)。ほとんど差はないといってよく,ファイルのエンコードや暗号化,圧縮/解凍などにおいて,両マザーボードに性能差はないといっていいだろう。

 

 

 

■リーズナブルなSLIマザーボード

 

 価格が最大の魅力であるK8N SLI-FIだが,安いからとはいって決して手を抜いた製品ではない。SLIセレクタカードの向きなど,使い勝手で問題となる点は残っているものの,十分お買い得だ。SLIがより一層身近なものになるという意味において,本製品の意義は小さくない。