― レビュー ―
Monolith Productionsが贈る殴打系アクションホラー
Condemned: Criminal Origins
Text by 松本隆一
2006年6月30日

 

■意外な拾い物! 雰囲気抜群のサイコホラー

 

「F.E.A.R.」で我々の度肝を抜いたMonolith Productionsが,こっそり作っていたのが(?),この「Condemned: Criminal Origins」である。タイトルの意味は「死刑囚」もしくは「有罪を宣告された者」。無実の罪を着せられたFBI捜査官が,嫌疑を晴らすために単身,鉄パイプや角材だけを頼りに,暗く狭いところを歩き回る。果たして,ごく正常な人間が連続殺人犯になってしまう理由とは?

 実を言うと,この「Condemned: Criminal Origins」は,もともとXbox 360用だったということもあって,私のアンテナにさっぱり引っかかってこないタイトルの一つだった。ちなみに,昔から私のアンテナにはタイヤとか長靴とか,ろくなものが引っかかってこないと言われているが,そんなことは余計なお世話である。
 ところが,2005年3月末日,世界の各ゲームサイトに本作のPC版デモがアップされ(4Gamerのデモ版記事は「こちら」),つれづれなるままにプレイしてみたところ,これが非常に魅力的かつナイスな一品。まさに,うれしい誤算というやつだ。昔から私の人生は誤算だらけと言われているが,そんなことは余計なお世話である。こういう誤算なら大歓迎というわけで,さっそく購入してプレイしてみたのである。

 

 本作は,連続殺人犯を追うFBI捜査官イーサン・トーマスを主人公とするアクションゲーム。……うーむ。ちょっとばかり“またか”感の強い設定ではある。正確に数えてみたわけではないが,最近,けっこう多いような気がする話。たまには,盗癖のあるリスを追いかけるリスハンター,などという設定のゲームをやってみたい,とはやっぱり思わないので,これでいいのである。
 彼は,連続犯罪を専門で追いかけるSCU(Serial Criminal Unit。実在するのかは不明)のメンバーであり,実はそれはトーマスが「過去にあった事件のビジョンを見ることができる」という珍しい特技を持っているからだ。なんとなく,どこかで聞いた特技である。そういえば画面の感じも,とあるゲームによく似ているなあ。

 

 ……などと意味なくすっとぼけてみたが,もちろん似ているのは,2005年登場の傑作FPS「F.E.A.R.」であり,なぜかというと,同作を制作したMonolith Productionがこの「Condemned」を制作しているからだ。びっくりしました? しかも,欧米でのパブリッシャはSEGA。本誌の連載,AccessAccepted第74回「日本のゲーム企業『第3の海外進出』」に詳しいが,日本の企業ながら日本市場をあんまり考えない商品展開の流れがあり,本作もその一つというわけである。うーむ,日本語版を期待する私としては,ちょっと複雑な気持ち。

 

 というわけで,おそらく同一のグラフィックスエンジンを使用しているのであろう,画面の雰囲気は「F.E.A.R.」そっくりだ。また,主人公がプレイヤーにとって迷惑千万な千里眼能力を持っているところも,よく似ている。不意にザラついた白黒画面が挿入され,プレイヤーを驚かせるところなど,「F.E.A.R.」のナイトメア・シークエンスとほとんど同じ趣向。
 もっと言っちゃえば,「どうしてプレイヤーキャラである主人公が,こんな能力を持っているのか?」というあたりがゲームのミソの一つになっている点も,よく似ている。いや,同じだからって悪いことはミジンコほどもない。むしろ「F.E.A.R.」のファンである私としては,あのクオリティの高い画面で,また恐怖体験が出来るのかと思うと,まさに願ったりかなったりといえよう(強がり)。ああ,怖い怖い。いひひ。

 

主人公,イーサン・トーマス。職業,FBI捜査官。年齢不詳ながら,顔つきからしてたぶん中年だ。連続殺人犯を追い詰める天賦の能力がある。その理由は……言えない 容疑者。この男を追ってゲームは進んでいく。やがて,彼が次々殺しているのは“連続殺人犯”であるらしいことが分かってくる。この謎めいた男の正体は? 彼の目的は? 鑑識のローサ。トーマスの無実を信じて,証拠の分析など,いろいろと協力してくれる。途中までは電話による会話のみだが,やがて直接会って,意外な話を聞かせる

 

地下道,地下鉄の駅,廃墟となったデパート,図書館など,まがまがしい地下世界を巡るトーマスの旅は続く。ご覧のように,グラフィックスのレベルはかなり上等。暗いけど 襲ってくるのはモンスターではなく,文明から脱落したような地下世界の住人達。トーマスだけでなく,住民同士でもかなり殴りあうので,隠れて見ているほうが得策な場合も 突然,画面がざらついたモノクロになり,かつて起きたことや,近い将来に起きることが見える。「F.E.A.R.」でプレイヤーの肝を冷やした「ナイトメア・シークエンス」と同じ

 

 

■なぜ,普通の人間が連続殺人犯になってしまうのか?

 

UVライト,レーザーライト,ガス・スペクトロメータなどなど,数々のガジェットを使って証拠を集め,犯人を追うトーマス。やや面倒そうだが,ツールを使うべきところでは指示が出るし,それ以外の場所ではそもそも取り出せないので,迷うことはない。で,その証拠の品を撮影すると,鑑識のローサが分析してくれるというダンドリになっている

 物語はこうして始まる。
 ある日,トーマスは連続殺人事件の調査のため現場に赴く。かつては優秀な逮捕歴を誇った彼だが,最近,トーマスの扱う事件は軒並み迷宮入りしており,あまり面白い状況ではない。今日の事件は「マッチメイカー」として知られる犯人がやったものだ。手持ちのハイテクツールで調べてみると,犯人は右手の人差し指が欠けていることが分かる。これがマッチメイカーの特徴なのだ。調査が一通り終わると,事件を担当する市警のディッキンソン刑事が,死体を発見したベイカー巡査に向かって大声を出す。

 

「おい,ベイカー,ここは現場だぞ。タバコはやめろ」
「私は吸いません」
「くそ! ドアの向こうに誰かいるぞ!」

 

 かくして,二人の警官は屋外通路から容疑者を追い,トーマスは容疑者によって落とされた配電盤のヒューズを直すため,一人で地下に向かう。察しの良い人ならすぐにお分かりのように,一人になったトーマスは黄色いレインコートを着た容疑者に襲われ,銃を奪われてしまう。そしてその銃で,二人の警官は射殺され,FBIはトーマスが犯人だとして逮捕しようとする。彼は,自分の無実を証明するため,たった一人で容疑者を追いかけなくてはならない。というのが,オープニングの概要だ。

 

 主人公は黄色いレインコートの男を追って,廃墟となったビルや,地下道や,うち捨てられた地下鉄の駅を歩き回る。しかし,ゲームの背景となる都市は,「なんでこんなになってるの?」と思えるくらい荒んだ場所ばかりだ。まるで,核戦争でも起きて人類が絶滅した後の世界である。廃デパートはともかく,図書館まで荒廃しているのはどういうことなのだろう?
 しかも襲いかかってくるのは,モンスターではないけど,ほとんどモンスター同然のホームレス(いいのだろうか?)とか,変なお薬ですっかりダメになってしまった人々(いいのかしら?)とか,かなり殺伐としたゲーム世界。ついでながら,主人公トーマスもまた若いイケメンのエリート捜査官などではなく,むしろ,ずんぐりむっくりの冴えない中年男で,突然事件の容疑者にされ,取り乱しつつも事件の謎を追うところが,妙にリアルだ。やはり中年はいい。違うかしら?

 

 「F.E.A.R.」ばりの恐怖の演出は,さすが堂に入ったもの。夜中に一人でプレイしていると,確実にトイレに行くのが辛くなるだろう。相変わらず光と影の演出は秀逸で,地下鉄駅の構内や,図書館など,普段なんでもないはずの場所が,何が潜んでいるか分からない恐ろしい場所に変身してしまう。しかも,最初は普通の人間の容疑者を追っているはずが,次第に,なにやら相手が異形の者に変わっていくところが,妙に恐ろしい。
 これ以上詳しいことは言えないが,本作のテーマは「なぜ,普通の人間が連続殺人犯になってしまうのか?」すわなち「Criminal Origins」(犯罪の起源)というところにあり,なかなか深遠なのだ。

 

レーザーライトで浮かび上がった現像液を撮影する。誰かが,ここで盗撮した写真を現像していたのだ。しかも,その写真にはトーマスの姿が。誰が何のためにそんなことを? ガス・スペクトロメータは,死体から発生するガスを探知できるので,被害者の場所を特定したり,オブジェクトを見つけたりするときに有効だ。強い反応の方向に進め 電話中は武器を持てないので,やや不安。背後にあるマネキンが不気味な雰囲気を醸し出す。「マネキン」と「死んだ鳥」が,このゲームの重大なモチーフになっている

 

そこら中にあるものを武器として使えるが,一度に一つしか持てないのが悩みの種。落ちている武器の性能は,写真のように「今持っている武器」との比較で表示される 火器類はごくたまにしか登場せず,拾っても弾が尽きればそれっきりで,あとは台尻で殴るしかない。その割に銃の画像が多いのは,単に筆者の嗜好ゆえだったり オノで扉を破ったり,シャベルで配線を切ったりと,それぞれの局面に応じて必要な道具が変わってくる。そういった道具を見つけることがパズルの要素になっている

 

 

■「撃ち合い」ではなく「殴り合い」の一人称視点アクション

 

戦闘は要するに,殴り合い。一人称視点のため相手との距離感が難しく,敵AIの出来も良いため,苦戦は必至だ。中には銃を持った敵までおり,手に負えない。この殴り合い,最初はかなり新鮮だが,ゲームが進むにつれ次第に単調に感じてくるのは仕方がないところか。プレイ時間はそれほど長くなく,リプレイ性にやや乏しいのが残念だ

 銃を奪われたトーマスが戦いに使う武器は,そこらへんにある「鉄パイプ」や「角材」といった鈍器である。銃器類もたまに手に入るが,弾数が極めて限られており,また,弾薬がマップ内に落ちていることもないので,使用は非常に限定的というか一時的。戦闘は主に,オノやハンマー,弾切れの銃のグリップ,さらにはロッカーの扉(ロッカーから引っぺがす)などを使った殴り合いになるのだ。すなわち,この「Condemned」は一人称視点のゲームとしては珍しい,殴打系アクションというわけだ。

 

 戦闘も,したがって独特なものになる。左クリックで打撃,右クリックで防御になるが,トーマスが武器を振り下ろすまでにはちょっとしたタイムラグがあるし,当て損なってもタイムロスがある。したがって,攻撃と防御を要領よく使いこなすことが重要になる。
 何発か殴って敵がへたり込むと,キックでとどめを刺したり,キーの組み合わせで敵の首を折ったりといったフィニッシュムーブが用意されているほか,敵がつかみかかってきたら,マウスを左右に振って逃れるなど,FPSらしからぬ格闘的なアクション要素が豊富にある。

 

 こちらの打撃がうまく決まると,敵が隙を見せるので,そこをさらに打ち込む,というのが必勝パターンであるが,このタイミングがなかなか難しい。複雑なキーさばきを要求されるうえ,一人称視点で敵との距離を測るのは,なかなか困難だ。
 行動もまた限定的で,「ダック」(かがみ姿勢)も「ジャンプ」もないため,普通のFPSなら簡単に飛び越えられるような障害物でも,ぐるりと迂回しなければならない。移動速度もかなりもっさりした印象だ。
 しかも「F.E.A.R.」ゆずりの敵AIはかなり優秀で,出現はスクリプトによるが,それ以降は独自の判断で移動,攻撃してくるのでやっかいだ。殴ってくると見せかけてフェイントをかけたり,ぐるっと背後に回ってきたりするうえ,銃を持っている場合もあり,戦闘はかなり難しくなる。スニーク要素はほとんどなく,敵はほぼ100%こちらを発見して攻撃してくる。
 といった具合に,非常にクセのある戦闘ではあるのだが,「恐怖ゲー」という意味において,実によく出来ている。あまり面白くなさそうに書いてしまった気はするが,ゲームとしても面白くないわけでもないので,気になる人はデモ版を試してみるのがいいだろう。

 

相手がへたり込むと,四つのパターンから“トドメの刺しかた”を選べる。ふっふっふ。どうしてくれよう。などとゆっくり選んでいると,相手が復活するので注意が必要だ トーマスの持つ最も有効な武器はティーザーガン。電撃で相手を一瞬麻痺させられるが,リチャージに時間がかかるし,距離があると届かない。使いどころが重要 闇の奥に進む連れ,相手はどんどん人間離れしてくる。廃墟となったデパートに巣食うのは,こんなやつら。マネキンの真似をして立っており,動き出すとかなりびっくりする

 

トーマスのイメージにしばしば出現する,不気味な怪物。敵は人間だけだと思っていたのに,どうやらそうとばかりも言い切れない雰囲気になってくるストーリー展開は巧み 銃弾の最大装填数はオートマチックで9発,リボルバーで6発,ポンプアクションのショットガンで5発,ダブルバレルのショットガンで2発。威力は今並べた順で強くなる 無実の罪を着せられたトーマスは,その汚名を晴らすことができるか? 謎の怪物の正体は? 暗くて狭くて怖くてもっさりしているが,この雰囲気が好きな人にはお勧め

 

 パズル的要素はそれほどないが,マップのルートは複雑に入り組んでおり,またどこもよく似た景色なので,生まれつき極端な方向音痴の私は何度も迷子になった。
 閉ざされたドアを開けるのにオノやシャベル,ハンマーなど,それぞれ専用の道具が必要になるケースがあり,それを探して歩き回るという要素もある。ただ,「ゲームの進行上,そこをどうしても開けなければならない」という局面は少なく,その場合はすぐそばに必要な道具が置いてあるので,オブジェクトを集める気がなければ,無視して進んでもかまわない。

 

 オブジェクトについてだが,マップの途中には,ゲームのモチーフの一つになっている「死んだ鳥」と「メタルプレート」があり,拾った数によって,コンセプトアートなどがアンロックされていく。とはいえ,これといった美女が出てくるわけでもなく,むさくて凶暴そうな男ばかり出てくる本作にとって,正直さほどのご褒美とは思えず,リプレイの動機づけとしてはやや弱い感じがする。

 

 というわけで,この「Condemned: Criminal Origins」は,テーマといいゲームシステムといい,「銃をぶっ放してスカッとしたいぜ!」という人には,あまりオススメできない。とはいえ,「F.E.A.R.」ゆずりのハイクオリティなグラフィックスによる,光と影の表現はムード満点。ずんぐりした中年男が,鉄パイプを抱えてビクビクおどおどしながら暗闇を進んでいくという図式も,なかなかグッとくるものがある。
 暗い穴ぼこがあると「入ってみたい」と思うのは,人間の根源的な欲求であろう。ストーリーも興味深く,また,恐怖を煽る演出は見逃せない。全体としてやや小粒な印象は免れないが,この手の話に目がない,という人は遊んで損はないと思う。ぜひどうぞ。

 

 

タイトル Condemned: Criminal Origins
開発元 Monolith Productions 発売元 SEGA of America
発売日 2006/04/11 価格 39.99ドル
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/2GHz以上[2.40GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上[768MB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 6200またはRadeon 9500以上[GeForce 6800またはRadeon 9800以上推奨]

SEGA is registered in the U.S. Patent and Trademark Office. SEGA and the SEGA logo are either registered trademarks or trademarks of SEGA CORPORATION or its affiliates. All rights reserved. Condemned: Criminal Origins is a trademark of Warner Bros. Entertainment Inc. 2005. All rights reserved.

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