― レビュー ―
L2 2MB版Core 2 Duoのオーバークロックはゲームで意味があるか?
Core 2 Duo E6400/2.13GHz
Core 2 Duo E6300/1.86GHz
Text by 宮崎真一
2006年10月6日

 

 2006年9月29日に掲載した,Core 2 DuoとAthlon 64 X2のテスト記事でも明らかになっているとおり,ゲームにおける高いパフォーマンスを求めてCore 2 Duoへ移行するのであれば,選択肢はCore 2 Duo E6600/2.40GHz以上になる。下位モデルとなるCore 2 Duo E6400/2.13GHzやCore 2 Duo E6300/1.86GHzは,L2キャッシュ容量が上位モデルの半分で,ゲームパフォーマンスにはクロック差以上の大きな違いが生じるからだ。
 ただ,Core 2 Duo E6600の実勢価格は,2006年10月上旬時点で4万円強。Athlon 64シリーズやPentium 4/Dシリーズからの移行コストを考えると,ちょっと高いと感じる人も少なくないと思われる。

 

 そこで考えたいのが,Core 2 Duo下位モデルのオーバークロックである。2006年7月28日のレビュー記事で示したように,Core 2 Extreme X6800/2.93GHzのオーバークロック耐性は高いが,その下位モデルに当たるCore 2 Duo E6400や同E6300でも,同じ傾向を示すことは十分に考えられる。オーバークロックによって,上位モデルを超えるパフォーマンスが得られるのであれば,コスト的にも“おいしい”選択肢になるわけで,試してみる価値はあるだろう。そこで今回は,Core 2 Duoの下位2モデルについて,オーバークロックの可能性を探ってみたいと思う。

 

 なお,お約束の注意事項だが,オーバークロックはメーカーやショップの保証外となる行為であり,オーバークロック設定の結果,CPUやPCに深刻なダメージを負ったとしても,すべては実行した人の自己責任となる。今回の記事を参考にオーバークロックを試みた結果,何か問題が発生したとしても,Intelや販売店はもちろん,筆者や4Gamer編集部も一切の責任を負わないので,この点はくれぐれもご注意を。

 

 

比較的現実的なオーバークロックを実施し
試用したE6400では動作クロック3.43GHzをマーク

 

 さて,オーバークロックに当たっては,マザーボードのBIOSからFSB設定だけを上げていって,限界に達したら今度はCPUコア電圧を上昇させるという,オーソドックスな手法を選択。Core 2 Duo E6400&E6300の定格電圧は1.35Vなので,+10%となる1.485V近辺を“安全ライン”と見た。CPUクーラーはリテールボックス付属のものを利用している。
 安定動作の基準としては,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)と「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)を用い,両ベンチマークテストが完走したら「安定動作した」と判断した。

 

3.43GHz動作のCore 2 Duo E6400を「CPU-Z」でチェック。CPUコア名がAllendale(アレンデール)になっているが,これはConroeのL2キャッシュ削減版に与えられている開発コードネームだ。L2キャッシュ2MB版の下位2モデルは,Conroeではないのである

 以後は,今回試用した個体についての話になるため,すべての個体で同じ結果が出るわけではないということを断ったうえで話を進めると,Core 2 Duo E6400はFSB 429MHz(システムバス1716MHz)×8=3.43GHzで,安定動作。Core 2 Duo E6400の定格FSBクロックは266MHzなので,1.6倍以上に設定できたわけだ。
 一方,FSB 430MHz以上は,コア電圧を高めても安定動作しなかった。後ほど事実関係を確認するが,CPUコア電圧が上昇したことで,CPUの発熱が増えてしまい,クーラーの冷却能力を超えてしまった可能性を指摘できよう。

 

 続いてCore 2 Duo E6300だが,こちらは動作クロックだけのオーバークロックを試みると,FSB 341MHz(システムバス1364MHz)が安定動作の限界。ここでCPUコア電圧を引き上げると,1.4125V設定時に370MHz(システムバス1480MHz)まで引き上げることができた。1.4875Vまで上げていっても状況は変わらなかったので,限界値でもFSB設定は定格クロックの1.4倍弱。Core 2 Duo E6400と比べると,オーバークロック耐性は低い結果になった。

 

Core 2 Duo E6300を,FSB設定341MHzの2.39GHz動作させたところ(左)と,CPUコア電圧を1.4125Vに変更して,2.59GHzで動作させたところ(右)を,それぞれCPU-Zでチェックした結果

 

 要するに,今回試用したCore 2 Duo E6400は俗にいう“アタリ”で,Core 2 Duo E6300が“ハズレ”だったということだろう。別の個体を購入したら,逆の結果になっていた可能性は十分にある。繰り返しになるが,今回の結果はあくまで試用した個体についてのものなので,短絡的に「オーバークロック耐性はCore 2 Duo E6400のほうが上」と判断してしまわないよう,くれぐれも注意してほしい。
 ちなみに今回試用した個体について,CPUの動作クロックやキャッシュ容量,製造工程などと対応した一意の文字列「sSpec」を確認してみると,Core 2 Duo E6400が「SL9S9」,同E6300は「SL9SA」だった。ロットナンバーは前者が「L627A072」,後者は「L626A435」である。

 

 以上を踏まえて,今回はこの個体を用いた検証に入っていきたい。先ほどの検証結果に基づき,以下の3パターンについて,ベンチマークスコアを計測する。

  • Core 2 Duo E6400をCPUコア定格電圧&FSB 429MHzで動作させた状態(以下E6400@3.43GHz)
  • Core 2 Duo E6300をCPUコア電圧1.4125V&FSB 370MHzで動作させた状態(以下E6300@2.59GHz/OV)
  • Core 2 Duo E6300をCPUコア定格電圧&FSB 341MHzで動作させた状態(以下E6300@2.39GHz)

 テスト環境は表1のとおりだ。4Gamerのベンチマークレギュレーション1.1に準拠したテストを行い,オーバークロック設定を行ったCore 2 Duo E6400とCore 2 Duo E6300が,L2キャッシュ4MB版Core 2 Duoに対してメリットを見いだせるかを,主に見ていく。

 

 

 

L2キャッシュ容量による影響があり
オーバークロックの効果はゲームによって異なる

 

 まずは「Quake 4(Version 1.2)の平均フレームレート計測結果から(グラフ1)。Quake 4においては,E6400@3.43GHzが強烈なスコアの伸びを示している。1024×768ドットでは定格クロックに対して50fps以上ものフレームレート向上が見られ,テストした全解像度でCore 2 Extreme X6800をしのぐ。“Core 2 Duo/3.43GHz”のオーバークロック効果は絶大だ。
 一方,Core 2 Duo E6300は,E6300@2.39GHzでもE6300@2.59GHz/OVでも,Core 2 Duo E6600と同じような傾向を示している。

 

 

 「F.E.A.R.」(Version 1.05)における平均フレームレート測定結果をまとめたのが,グラフ2である。
 F.E.A.R.はもともと,L2キャッシュの容量がフレームレートに与える影響が大きいが,E6400@3.43GHzは,動作クロックの高さで押し切り,Core 2 Extreme X6800と互角のスコアを叩き出している。ただし,Core 2 Duo E6600と動作クロックが近いE6300@2.59GHz/OVは,1024×768ドット時に,70MHzというクロックの違い以上のスコア差が出ており,L2キャッシュ容量の違いが影響しているのが見て取れる。

 

 

 次に,レースゲーム「TrackMania Nations ESWC」のスコアをグラフ3で見てみる。
 TrackMania Nations ESWCは,F.E.A.R.におけるスコアの傾向がより強まった印象で,E6400@3.43GHzは,テストしたすべての解像度でCore 2 Extreme X6800のスコアを下回った。また,E6300@2.59GHz/OVは,Core 2 Duo E6600に太刀打ちできないでいる。

 

 

 グラフ4は「Lineage II」のスコアだ。同タイトルは,F.E.A.R.やTrackMania Nations ESWCほどにはL2キャッシュ依存型のスコアにはならないため,こうなると動作クロックで圧倒するE6400@3.43GHzがCore 2 Extreme X6800と互角以上の結果を出している。また,E6300@2.59GHz/OVが,Core 2 Duo E6600を上回るスコアを見せている点にも注目したい。

 

 

 全体的な傾向をつかむべく,3DMark05と3DMark06のスコアを見てみる(グラフ5,6)。両ベンチマークはともに描画負荷が高く,グラフィックスカードがボトルネックとなるため,それほど差は出ないが,どちらかといえば,Quake 4やLineage IIと似た印象を受ける。

 

 

 

 

オーバークロックによって
消費電力が大きく増加

 

 Core 2 Duo E6400でCPUコア電圧変更によるオーバークロックが成功しない理由について,筆者は先に発熱の可能性を指摘したが,この点を実際にチェックしてみたい。
 計測にはワットチェッカーを利用し,システム全体の消費電力を計測する。このとき,Windows起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,できる限りCPUだけに負荷をかけるべくMP3エンコードソフト「午後べんち」を30分連続実行して,最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」とした。アイドル時に関しては,省電力機能「EIST」(Enhanced Intel Speedstep Technology)有効時と無効時でそれぞれスコアを取得している。

 

 測定結果をまとめたのがグラフ7だが,E6400@3.43GHzの消費電力はアイドル時で177W,高負荷時に234W。Core 2 Extreme X6800の高負荷時が175Wなので,オーバークロックによる消費電力上昇は,相当なものだ。
 Core 2 Duo E6300の場合,E6300@2.39GHzは,オーバークロック後の動作クロックがCore 2 Duo E6400とCore 2 Duo E6600の間ということもあり,高負荷時の消費電力は160Wと,ある意味妥当なところに落ち着いている。しかし,コア電圧を1.4125Vに高めたE6300@2.59GHz/OVになると話は別だ。アイドル時にはE6400@3.43GHzを超え,高負荷時にも迫るほどの消費電力となってしまう。
 同一のハードウェア仕様である場合,CPUの消費電力は大まかに,動作クロックとCPUコア電圧の二乗に比例するので,CPUコア電圧の変動は,消費電力に大きく影響する。CPUコア電圧を上げることにより,オーバークロックマージンを増す手法はよく知られているが,このとき消費電力が跳ね上がる点は,気をつけておきたい。

 

 

 グラフ7の状態で,マザーボードに付属するモニタリングソフト「ASUS PC Probe II」からCPU温度を測定した結果がグラフ8である。
 ここで注目したいのは,E6400@3.43GHzのCPU温度が高負荷時に80℃を超えている点で,先に指摘したとおり,リテールクーラーの冷却が追い付いていないと考えられる。CPUコア電圧を上昇させても,これ以上FSBクロックが伸びないのも納得できよう。

 

 

 最後に,一般的なWindowsアプリケーションにおける性能を見る「PCMark05 Build 1.1.0」(以下PCMark05)を,グラフ9にまとめた。PCMark05のスコアも,3DMark05や3DMark06と同様,Quake 4のスコアを強調したような形になっており,一般的なアプリケーションでは,ゲーム以上にオーバークロックの効果が高いことが分かる。なお,テストの詳細結果は表2にまとめたので,興味のある人はリンク先をチェックしてみてほしい。

 

 

 

オーバークロックは非常に魅力的だが
デメリットも理解しておくべき

 

 “アタリ”を引けば,Core 2 Extreme X6800と同等のパフォーマンスを引き出すことさえ期待できるという,L2キャッシュ2MB版Core 2 Duoのオーバークロック耐性には目を見張るものがある。
 F.E.A.R.やTrackMania Nations ESWCのスコアから分かるように,L2キャッシュ容量が上位モデルの半分という,決定的なペナルティは最後まで尾を引く。このため,安定的に同等のパフォーマンスを得られるわけではないが,実勢価格3万円前後のCPUが,同13万円前後のCPUとほぼ同じレベルに化ける可能性があるのは,インパクトが大きい。また,“アタリ”を引けなかった場合でも,Core 2 Duo E6600〜E6700程度のパフォーマンスまで引き上げられる可能性は十分に残されている。

 

 ただし,オーバークロックによってさまざまなペナルティを負うことも,同時に理解しておくべきだ。消費電力が高くなり,Core 2 Duoのメリットの一つが失われるうえ,CPU自体の発熱で,故障する可能性もある。CPUに問題がなくても,マザーボードや電源ユニットが堪えられなくなる場合だってあるのだ。壊れないにしても,長時間のゲームプレイにおいては,予期せぬトラブルの原因になるかもしれない。しかも,どこまでクロックが上がるかは,基本的に運任せとなる。
 そういったリスクに対して自分で責任を取れるならば,L2キャッシュ2MB版Core 2 Duoのオーバークロックは,かなり魅力的な選択肢といえるだろう。

 

タイトル Core 2
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/07/27 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A

(C)2006 Intel Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/c2d_overclock/c2d_overclock.shtml