― レビュー ―
ゲーマーのためのデュアルコアCPU購入ガイド,2006年秋版
Core 2 Duo
Athlon 64 X2
Text by 宮崎真一
2006年9月29日

 

Socket939版Athlon 64 X2のリテールボックス

 発売以来,IntelのCore 2 Duoシリーズが人気を集めているが,その陰に,もう一つの人気CPUシリーズが誕生している。それが,Socket939版のAthlon 64 X2シリーズである。
 その理由は,一にも二にも価格改定だ。Core 2 Duoの攻勢に対抗するためと思われるが,AMDはAthlon 64 X2シリーズの大幅な値下げに踏み切っており,2006年9月下旬時点の実勢価格は,Socket939版最上位のAthlon 64 X2 4800+/2.4GHzでも4万円以下。Athlon 64 X2 3800+/2GHzなら,2万円以下で販売されている例すらある。

 

 Socket939プラットフォームが登場してかなりの時間が経っていること,そして「ゲームをするならAthlon 64」という定説があったことも手伝って,ゲーマーのなかには,Socket939プラットフォームのユーザーが少なくない。実際,4Gamerが2006年夏に行ったアンケートでも,Athlon 64ユーザーはかなりの数に上っていた。
 そのようなSocket939ユーザーにとって,マザーボードを交換することなく,CPUを乗せ換えるだけで性能向上が図れるAthlon 64 X2は,かなり魅力的な存在だ。そこで今回は,現時点でSocket939プラットフォーム,とくにAthlon 64 4000+以下のシングルコアCPUを利用しているような人にとって,いまゲームにおける性能向上を狙うに当たり,どのCPUを購入するのが正しいのかを,考えてみたいと思う。プラットフォームごとCore 2 Duoに移行すべきなのか,マザーボードやメインメモリ(PC3200 DDR SDRAM)はそのまま,CPUだけ交換するのがお得なのかをチェックする,とも換言できよう。

 

Core 2 Duoのリテールボックス

 今回のテスト環境は表1のとおりだ。プラットフォームの違いにより,マザーボードやメインメモリが異なるものの,それ以外は極力環境が揃うようにしている。
 ただ,機材調達の都合により,Athlon 64 4800+,4400+はAthlon 64 FX-60からの倍率変更,Athlon 64 X2 4200+と3800+は,Athlon 64 X2 4600+の倍率変更によって擬似的に実現した点は,あらかじめお断りしておく。
 4Gamerのベンチマークレギュレーションは1.1を利用。できる限り純粋にCPU性能を比較するため,3D描画負荷が高くなる高負荷設定は行わず,標準設定のみでテストを行った。なお,シングルコアCPUの代表として,Athlon 64 4000+/2.4GHzのスコアも計測する。

 

 

 

まだまだデュアルコアCPUのメリットは少なく
シングルスレッドだと「X2 4800+≒4000+≒E6300」

 

 さっそく,実際のゲームを用いたベンチマークテスト結果を見てみよう。まずグラフ1は,「Quake 4」(Version 1.2)における平均フレームレートである。
 Quake 4はマルチスレッドに最適化されたゲームの代表例だが,実クロックで400MHz遅く,1コア当たりのL2キャッシュ容量も半分のAthlon 64 X2 3800+/2GHzが,Athlon 64 4000+/2.4GHzより約20fpsもスコアが高いことに始まり,デュアルコアCPUのスコアが軒並み高い。
 デュアルコアCPU同士の比較では,Athlon 64 X2 3800+/2GHzがCore 2 Duo E6300/1.86GHzとほぼ同等という結果。Athlon 64 X2 4600+/2.4GHzで,Core 2 Duo E6400/2.13GHzとほぼ同じスコアとなっているのが分かる。L2キャッシュ容量4MBのCore 2 Duo E6600と同E6700は,集団から完全に抜け出している印象だ。

 

 

 続いて「F.E.A.R.」(Version 1.05)における平均フレームレートを,グラフ2で見てみよう。
 F.E.A.R.はマルチスレッドに最適化されていないこともあって,Quake 4とはずいぶん趣が異なるのが分かる。とくに,Athlon 64 4000+/2.4GHzが,コアの数以外同じ仕様のAthlon 64 X2 4800+/2.4GHzとほぼ同じスコアになっている点に注目したい。クロックが低かったり,L2キャッシュ容量が半分だったりする,モデルナンバー4600+以下のAthlon 64 X2は,軒並みAthlon 64 4000+/2.4GHzの後塵を拝しており,デュアルコアのメリットはF.E.A.R.において感じられない。

 

 F.E.A.R.の特徴としては,L2キャッシュ容量がフレームレートを左右しやすい点が挙げられる。それは同じ動作クロックのAthlon 64 X2 4800/2.4GHzとAthlon 64 X2 4600/2.4GHzで,L2キャッシュ容量の違いによってスコアに差が出ていることから明らかだが,同じ理由によって,“1コア当たり1MB”のAthlon 64 X2 4800+/2.4GHzよりも,“共有2MB”のCore 2 Duo E6300/1.86GHzのほうが,スコアで(わずかだが)上回っているのは興味深い。
 また,Core 2 Duoシリーズ間でチェックすると,Core 2 Duo E6700/2.66GHzとCore 2 Duo E6600/2.40GHzの間にはほとんど差がないのに対し,Core 2 Duo E6600/2.40GHzとCore 2 Duo E6400/2.13GHzの間にはかなりの開きがある。L2キャッシュ容量2MBと4MBの違いも,かなり大きいというわけだ。

 

 

 「TrackMania Nations ESWCは,F.E.A.R.と似た傾向を示している(グラフ3)。ForceWareのマルチスレッド最適化は,描画負荷の軽いときにより有効ということもあって,TrackMania Nations ESWCではわずかながらデュアルコアCPUのメリットがあるようで,実際,1024×768ドット設定時にはAthlon 64 X2 4800/2.4GHzがAthlon 64 4000+/2.4GHzよりも若干高いスコアを出している。とはいえ,その値がCore 2 Duo E6300より低いというのも,F.E.A.R.と同じである。

 

 

 「Lineage II」だと,様相はやや異なってくる(グラフ4)。
 Lineage IIも,F.E.A.R.やTrackMania Nations ESWCと同様,L2キャッシュ容量がスコアを左右するのは,Athlon 64 X2におけるスコアの並びから把握できる。だが同時に,MMORPGということもあって,描画用の頂点データ以外にも,読み出す必要のあるデータ量はかなり多くなり,いきおいL2キャッシュではまかないきれなくなるケースが出てくる。すると,メモリコントローラの性能が効いてくるようで,F.E.A.R.やTrackMania Nations ESWCで互角の勝負を演じていたAthlon 64 X2 4800+/2.4GHzとCore 2 Duo E6300/1.86GHzに,前者有利の傾向が見えてきた。これは,メモリコントローラをCPUに内蔵するAthlon 64シリーズの優位性が出た結果といえるだろう。

 

 

 続いて,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)で,傾向をチェックしてみよう。グラフ5がその結果だが,とにかく描画負荷が高く,かつ扱われるデータ量も多い3DMark05では,Lineage IIの1280×1024ドットに似た傾向を示しているのが分かる。

 

 

 グラフ6は「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)の結果である。マルチスレッドへの最適化が進んだ3DMark06だが,それ以上に扱うデータ量の多くなっているのが,同じ動作クロックのAthlon 64 X2 4800+&4600+,そしてAthlon 64 X2 4400+&4200+でスコアが変わらないあたりから見て取れる。全体の傾向はQuake 4に似た印象だ。

 

 

 

Core 2 DuoではL2キャッシュ容量が
消費電力を大きく左右

 

 ひととおりパフォーマンスの検証が済んだところで,消費電力のチェックに移っていきたい。
 計測にはワットチェッカーを利用。Windows起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,できる限りCPUだけに負荷をかけるべく,MP3エンコードソフト「午後べんち」を30分間連続実行し,最も消費電力が高かった時点を「高負荷時」とした。
 ここで注意してほしいのは,先に述べたとおり,Athlon 64 X2に関しては,倍率変更によって当該モデルナンバー相当に設定していることだ。このため,モデルナンバー4600+以外のAthlon 64 X2のスコアに関しては,必ずしも実際の製品を反映しているとは限らない。とくに,4800+と4400+に関しては,ベースとなるのがTDP(熱設計消費電力)でAthlon 64 X2より高いAthlon 64 FX-60なので,かなりの違いが生じる可能性を否定できない。そこで,今回はこれらのスコアを参考程度とし,グラフ内では灰色で示している。
 さらにいえば,Athlon 64 FX-60は,省電力機能「Cool’n’Quiet」(以下CnQ)有効時の最低動作クロックが1.2GHzとなり,Athlon 64 X2 4800+/2.4GHzとAthlon 64 X2 4400+/2.2GHzのCnQ有効時最低動作クロックである1GHzとは異なる。このため,両CPUに関しては,CnQ有効時のスコアをN/Aとしたので,この点もあらかじめご了承を。

 

 ……これだけ前置きが入ると,グラフ7において,Core 2 DuoシリーズとAthlon 64 X2シリーズ間で消費電力を比較することに意味はほとんどなくなってしまう。
 ただ,Core 2 Duoシリーズに注目すると,興味深い点に気づく。それは,高負荷時において,L2キャッシュ容量4MBのモデルと,同2MBのモデルで,消費電力にかなりの違いが出ていることだ。L2キャッシュの消費電力が,システム全体の消費電力に対してそれなりのウエイトを占めていると見ていいだろう。

 

 

 なお,グラフ8はアイドル時と高負荷時のそれぞれにおけるCPU温度を,マザーボード付属のモニタリングツール「PC Probe II」で測定したもの。Core 2 Duo,Athlon 64 X2ともに,リテールパッケージに付属のクーラーを用いているので,ここでも両者の比較に意味はあまりないが,CPUシリーズごとに見れば,いずれもグラフ7を反映したスコアになっているのが分かる。

 

 

 最後に,せっかくCPUを揃えたので,参考までにゲーム以外の性能もチェックしてみよう。グラフ9は,PCアプリケーションの総合ベンチマークテストである「PCMark05 Build 1.1.0」の結果だ。グラフの傾向としては,Quake 4とLineage IIの中間,といったところだろうか。なお,テストの詳細結果については別途表2にまとめておいたので,興味のある人はリンク先をチェックしてみてほしい。

 

 

 

絶対性能重視ならL2 4MB版Core 2 Duoで決まり
Core 2 Duo下位モデルよりはAthlon 64 X2

 

 Socket939版のCPU,例えばAthlon 64 3500+/2.2GHzやAthlon 64 3200+/2GHzなどのユーザーにとって,Athlon 64 X2シリーズを導入するに当たってすべきことは,基本的にCPUの購入だけだ。一方,Core 2 Duoシリーズへ移行するとなると,最低限マザーボードとメインメモリの購入が必要。メインメモリ容量を512MB×2に絞ったところで,どんなに少なく見積もってもプラス3万円程度の移行コストはかかる。

 

Core 2 Duo E6600/2.40GHz

 では,どうすべきか。
 とにもかくにもゲームにおけるパフォーマンスの向上を狙ってCPUを買い換えるのであれば,選択肢はCore 2 Duo E6600/2.40GHz以上しかない。今回はあくまでSocket939プラットフォームのユーザーを対象にしているが,「Core 2 Duo E6600/2.40GHzしかない」という意味では,Pentium 4クラスのCPUを使っている人にも当てはまるはずだ。

 

 だが,Socket939ユーザーが,移行コストも重視するのであれば,現時点で使っているCPUに応じて,選択肢は変わってくる。
 まず,Athlon 64 3200+/2GHzかそれ以下のCPUを使っているユーザーだが,「コアの数以外の仕様が同じAthlon 64 X2 4800+とAthlon 64 4000+に,Quake 4以外では劇的な違いはない」という結果からして,同じくコアの数以外の仕様が同じAthlon 64 X2 3800+とAthlon 64 3200+の関係も同じと見るのが妥当だ。これを踏まえて,Athlon 64 X2 3800+のスコアから判断するに,3〜4万円投資して,Athlon 64 X2 4600+や同4800+に移行するというのは,悪い選択ではない。CPUを乗せ換えるだけで,多くのゲームにおいて一定のパフォーマンス向上が見込めるうえ,マルチスレッド対応ゲームや一般アプリケーション実行時にはさらに大きな効果を期待できるわけで,この移行は十分に現実的といえる。

 

 次にAthlon 64 3500+〜4000+のユーザーだが,Quake 4(やPCMark05)から分かるように,マルチスレッド環境への移行は業界のトレンドなので,AMDがSocket AM2へ完全移行してしまう前に,安価になったSocket939版のデュアルコアCPUを手に入れておくというのは十分にアリだ。ただ,現実的な話として,現時点でゲームにおいてはそれほどのパフォーマンス向上を期待できないのも確か。コストを最重要視するのであれば,ここは敢えて“待ち”を決め込むというのも,間違った選択ではない。

 

 いずれにせよ注意すべきは――ゲーマーにとって最も重要なPCの安定動作を考え,定格動作を行う限り――Socket939プラットフォームのユーザーにとって,2006年秋時点で意味のある選択肢は,Core 2 Duo E6600/2.40GHz以上か,Athlon 64 X2 4600+/2.4GHz以上であるということだ。
 また,先ほども述べたとおり,Socket939版Athlon 64は,いずれ市場から消えゆく運命にある。決断は早いほうがいいだろう。

 

タイトル Core 2
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/07/27 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A

(C)2006 Intel Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/c2d_and_x2-939/c2d_and_x2-939.shtml